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28.祝杯

 



「それじゃあ。初任務の成功を祝して―――」

「かんぱーいっ!」



 自由都市の一角に佇む、とある酒場にて。

 (リア)とジュウロウは、ラーヴァでの初任務を終えて祝杯をあげていた。



「くぁ~~~っ!やっぱり仕事が終わった後のコレ()は最高だな!」

「あっ、この揚げ物美味しい。家で作るのより風味が良いけど、粉が違うのかな……?」



 ジュウロウに案内されてやってきた酒場の料理に僕は舌鼓を打つ。大衆的な酒場ではあったが、長年ここ(自由都市)で暮らしていたジュウロウが薦めるだけあって、酒も料理も値段に見合わない程にレベルが高く、隠れた穴場のようだ。



「……ジュウロウ、ペースが速くないか?」

「固い事言うなよ。レイズも当分は仕事を回さないって言ってたし、少しぐらい羽目を外してもいいだろ。リアこそもっと飲めよ。ここは果実酒も結構イケるぞ?」



 軽快なペースでジョッキを空けていくジュウロウに僕は小言を零すが、ジュウロウは気にせず自分と僕の分の酒を通りがかったウェイトレスに注文する。……まあ、彼の言う事にも一理有る。思いがけず困難な任務となったラーヴァでの巨人討伐を無事に果たしたのだ。少しぐらいは羽を伸ばしても罰は当たらないだろう。



「……というかお前、その服装は何なの?」

「ん?何処か変だったかい?」

「……いや、似合ってるけど。むしろ似合ってるのが問題なんだよ。何だそのドレスは。舞踏会でも行くつもりだったのか?」



 ジュウロウが手に持ったフォークでリアの胸元を指す。

 今の彼女は、黒を基調としたシックな装いの簡素なドレスを纏っていた。見る人によっては何処かの令嬢とその護衛というような風体にも見えるかもしれない。



「仕方ないだろう。女性の私服なんて、レイズさんから貰った服しか持ってないんだよ。あの人の趣味なのか、こういう感じ(・・・・・・)の服装しかないんだ」

「ラーヴァに行く時に着ていた旅装束でいいじゃねえか」

「自由都市での顔見知りも増えてるんだ。男ならともかく、ギルドの女性職員が冒険者みたいな服を着てウロウロしてたら悪目立ちするだろう。フェンリルの情報工作で(エルフ)に関する話が不必要に外へ流れることは無い筈だけど……変に話題の種になりたくない」

「……今も相当目立ってるけどな。ちっとは今の自分のツラの良さを考慮してくれ」

「……それはもう僕にはどうしようもないだろう。仮面でも付けろって言うのかい?」



 店内に入ってから、周囲の―――特に男性からのチクチクと肌を刺すような視線は感じていた。尤もそういった視線の主は、ジュウロウがひと睨みすると、そそくさと視線を逸らすのだが。

 以前にも似た様な状況になった時、僕も同じ様に無遠慮な視線を送り付ける相手を睨み付けたことが有ったが、その時は全く効果が無かった。むしろ睨まれた相手は何故か喜んでいたような気もする。



「うぅむ……」



 何だろう。威厳が足りないのだろうか。僕と同じ顔をした彼女―――ユグドラシルの眼光は、美しさの中に底冷えするような恐ろしさを感じさせるものだったのに。そんな事を考えながら、僕は向かいに座っているジュウロウへと視線を向ける。



「……急にどうした。腹でも痛いのか?」

「いや、睨み付けているんだが。どうだろう、怖い感じに見えるか?」

「顔芸やっているようにしか見えねえよ。アホみたいだから止めとけ」



 ジュウロウはそう言いながら、そっぽを向くと酒の入ったジョッキを呷った。僕も間抜け面と評された渋面を解いてジョッキを口に運ぼうとしたが、視界に映った見覚えのある男性の姿に動きを止める。



「よっ、ジュウロウにリアちゃん。久しぶりだね」

「ジッパさん。お久しぶりです」

「おうジッパ。まだ生きてたみたいだな」



 ジュウロウの同期の冒険者であるという(ジッパ)とは、僕もギルドで何回か軽く話したことがある共通の知り合いだ。軽く挨拶を交わすと、彼は僕達の近くの席に腰かけて店員に注文を通した。



「いや~、ここしばらくリアちゃんの顔が見れなくて寂しかったんだぜ。ジュウロウの依頼に同行してたんだって?専属職員ってのは大変なんだねえ」

「ふふ、それはご心配をおかけしました。ジッパさんもご健勝のようで何よりです」



 ジッパさんにニッコリと微笑む僕を見て、ジュウロウが何とも言えない顔を浮かべる。……言いたい事が有るならハッキリ言ってくれ。



(……いや、何というか随分と手慣れたな。お前)

(……この身体(女性)に変えられて何ヶ月経ったと思ってるんだ。流石に慣れるし、色々と弁えないと無駄に角が立つだろう)

(言ってる事は分かるが、親友が男のあしらい方に慣れていく様を見せられるのは複雑だわ……)

(蹴るぞジュウロウ)



 ひそひそと話をする僕達を見て、ジッパさんがテーブルに置かれた酒に口も付けずに怪訝な顔を向けてくる。



「……あ~、前にも聞いたんだけど、お前達って一緒に暮らしてるんだよな?」

「ああ、そうだが?」

「そんで、二人は幼馴染で専属職員で、今日は……依頼が終わった打ち上げとか?」

「ええ、そうなんです」

「ほうほう。こんな夜中に男女が二人きりで。リアちゃんはそんな(めか)し込んだ格好で。……ジュウロウ。今日のリアちゃんの格好どう思う?」

「ん?ああ、まあ似合ってるんじゃねえの。無駄にツラだけは良いからな」



「やっぱりお前ら恋人でしょ?」

「「違うが???」」




次回更新は10/1の19:00頃予定です。

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