表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/68

24.地の底へ

 



 (リア)とジュウロウ、そしてガロガロの3人を乗せた馬が、夜の砂漠を駆ける。



「大丈夫なのか?今のペースだと追い付かれるまで、そう時間は無いぞ?」



 僕達を先導するガロガロに向けて、ジュウロウが声を上げる。その言葉にガロガロは背後―――僕達を追いかける鉄の巨人に目をやる。

 その動作は決して機敏では無いが、単純に一歩の大きさが違い過ぎる。ジュウロウの言う通り、このままでは遠からず追い付かれてしまうだろう。



「問題無いわ。あと数分もすれば目的地よ」



 ガロガロの言葉を裏付けるように、前方に小さく目印(・・)である双子岩の姿が確認出来た。



「おっ、アレか。それじゃ、さっさと終わらせてリアにまともな服を着せてやるとするか」

「……同感だが、流石にデリカシーに欠けるぞジュウロウ」




 **********




「―――分からんな。あいつ等は何がしたいんだ?遮蔽物が有る市街地に逃げ込むでも無しに、ダラダラと砂漠を走っているぞ」



 遠見の魔術で巨人兵(ムスペル)の視界をジャックしたフェルグが、リア達の不可解な行動に呟く。



「そもそも、何故さっさと巨人兵(ムスペル)を魔術で吹っ飛ばさないんだ?さっきは随分と加減した(・・・・)攻撃をしていたようだが……なあ、ヴィパル君。君なら何か知っているんじゃないのかい?」

「……さてな。知っていたとしても、君に話す理由は無いな」



 フェルグに水を向けられた黒猫(ヴィパル)はすげなく返事をする。尤も、思い当たる節は有っても、明確な答えはヴィパル自身も持ってはいなかったのだが。



「つれないねえ。……まあ、いいさ。思っていたよりも楽しめそうな展開になってきたしな」



 巨人兵(ムスペル)の視界を覗き見るフェルグの声に喜悦の色が混ざる。その視界には巨人に追いつかれ、交戦を始めるリア達の姿が映し出されていた。




 **********




「クソッ!斬鉄なんざ何回もやらせんなってぇの!すげえ疲れんだぞこれ!」



 ジュウロウが悪態を吐きながら、巨人に刀を振り下ろす。銀閃をなぞるように巨人の装甲の一部が斬り落とされるが、やはり大したダメージにはなっていないのか、巨人はジュウロウに構わず、(リア)へと手を伸ばしてくる。



「<(スタイン)>!」



 ガロガロの声が響くと同時に、大地からせり上がった岩盤が巨人の腕を弾き飛ばした。



「リアちゃん!北西に約300歩!双子岩を背にして!」

「了解!」



 ガロガロの声に応じて、僕は指定された地点へと馬を走らせる。巨人は僕を追いかけようとするが、ジュウロウとガロガロがそれを妨害する。



「オラッ!(リア)のケツばっか追いかけてねえで、こっちも相手しろよっ!」

「あ~~もうっ!こんなの諜報員の仕事じゃないわよっ!<(スタイン)>!」



 僅かではあるが、進軍を遅らせるジュウロウとガロガロを完全に無視して、巨人は僕を追いかける。やはりアレに高度な思考回路は備わっていないようだ。恐らくは『僕』という目的にのみ、愚直なまでに固執しているように見える。


 ―――だから、こんな露骨なまでの誘いにも何の疑いも無く乗ってしまう。



「すぅ―――」



 目印(・・)である双子岩を背にして、僕は魔力弾を生成する為に精神を集中する。



「―――ァッ……ぐぅ……!」



 瞬間、全身に痺れるような快感が走る。視界が白く染まりそうな熱に、掲げた片腕が震える。



「……オォ、あああァァッ!!」



 今にも暴発しそうな光弾を押さえつけるように、僕は魔力弾を構えた片腕に、もう片方の腕で皮膚が裂けるほどに爪を突き立てた。



「僕は王国が誇る剣――聖騎士だッ!なめるなァァッ!!」



 叫びと共に、強大な魔力が籠められた光弾を目前に迫った巨人へと解き放つ。魔力弾が鋼の巨躯に着弾した瞬間、鳴り響く轟音。巨人が衝撃にたたらを踏み、後ずさった瞬間にそれ(・・)は起きた。



「……ジュウロウが斬り落とした指先。僕の射撃が着弾した時の軽すぎる(・・・・)衝撃音。お前の中身の大半は空洞(・・)だとガロガロが予測していたが……正解だったみたいだね」



 巨人の足元が沈む(・・)

 そこは表面上は只の砂地だが、その正体はラーヴァの住人や旅人を何人も飲み込んだ巨大な流砂であった。ガロガロの先導によって、巨人は自らを呑み込む奈落へと誘いこまれていたのだ。



「それでも、普通ならお前を呑み込むには足りないだろうが……幾ら何でもジュウロウ達を甘く見過ぎだよ」



 鎧の関節部、ジュウロウが切り裂いた装甲の穴、ガロガロや僕の射撃により破損した装甲の隙間。

 僕という標的の為に、無視していた巨人の損傷個所に、水分を含んだ泥が勢いよく流れ込んでいく。中身の有る(・・・・・)人間でさえ対応を誤れば呑み込む流砂だ。中身が空っぽならば、底なし沼へ堕ちる速度も比べ物にならないだろう。



「はぁ……レイズさん。初仕事なのにちょっとハード過ぎやしないですかね……」



 苦笑交じりに、そんな愚痴を小さく呟くと、僕は未だに流砂から抜け出そうと藻掻く巨人の頭部に、駄目押しの魔力弾を放った。着弾の衝撃に、致命的にバランスを崩した巨人の全身が流砂に吞み込まれるのを確認すると、僕は深い溜息を吐いて地面に座り込むのだった。




次回更新は9/27の12:00頃予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ