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22.巨人

 



 煌びやかな装飾で溢れた悪趣味な寝室。


 そこでは一人の男―――この屋敷の主であるヤハクが、二人の美女に向かって喚き叫んでいた。



「ひっ……ひぃっ……!ガ、ガロガロッ!何をしているっ!早くワシを助けろっ!?」

「あらあら、浮気ですかヤハク様?つい先日までは、あんなに(ガロガロ)を可愛がってくださったのに……私、少し妬いてしまいそうです」

「はぁ!?な、何をふざけているっ!?いいから早くこの(リア)を捕らえろっ!?」



 自らの側近であった筈の(ガロガロ)の豹変に、ヤハクは全く状況を掴めずにいた。全裸で縛られて床に転がっているヤハクを愉しげに見つめるガロガロに、もう一人の美女が抗議するように溜息を吐く。



「……それで、仕事は終わったんですか?」



 ヤハクを縛り付けた下手人である妖艶な下着を身に着けた少女―――(リア)はガロガロを半目で睨み付けるも、彼女はどこ吹く風と言った様子で微笑みを浮かべている。



「ええ、貴方が時間を稼いでくれたおかげでバッチリ。それじゃ、撤収しましょうか」



 ガロガロが片手に持ってヒラヒラと弄ぶ書類を見て、ヤハクの顔から血の気が引いた。



「き、貴様……それは……!?」

「ヤハク様。私、今日限りでお暇をいただこうと思います。こちら退職金代わりに頂いていきますね?」



 密輸、横領、ラーヴァ国家機密の漏洩等々……ヤハクがヴォーデンと繋がって私腹を肥やしていた証拠の数々である。これが表に出れば、この男は終わりだろう。ひとまず、目当ての物を入手出来たのは結構なのだが……



「……僕とジュウロウは荒事担当のつもりだったんですが、何でこんな事に……」



 金細工があしらわれた煽情的な薄手の下着を身に着けた自分の姿に、僕は深い溜息を吐いた。ヤハクの"尋問"を受ける為にガロガロによって着させられたのだ。尤も、尋問とやらが始まる前にヤハクは僕の手でこの有様になったのだが。



「ごめんなさいね。本当は私が適当に相手して時間を稼いでいる間に、二人に動いてもらおうと思ってたんだけど……そこのデブ(ヤハク)から直々にリアちゃんが指名されちゃったんだもの」



 ガロガロがそんな事を言いながら、僕に外套と剣を手渡してきた。



「……僕の服は?」

「申し訳ないけど、ゆっくり着替えてる時間も無いのよねぇ。とりあえずそれで我慢してちょうだい」



 僕は溜息を吐きながら外套を厳重に着込んだ。こんなあちこちが透けている下着姿なんて、ジュウロウには死んでも見られたくない。



「ガ、ガロガロォッ!ワシにこんな真似をして、ただで済むと……!」

「よっと」

「カッ……」



 ガロガロは未だに床で気炎を吐くヤハクに歩み寄ると、その首筋を軽く押さえて彼の意識を刈り取った。



「さて、脱出しましょうか。これ(書類)を入手するのに何人かノしちゃってるから、ぼやぼやしてるとヤハクの私兵達にバレて面倒なことになるわ」

「了解。脱出後の経路は?」

「市街地に隠してある地下施設で、フェンリルと協力関係にあるラーヴァ上層部の人間と落ち合う手筈になっているわ。そこでこの書類を渡してヤハクを告発してもらう」



 ガロガロが話しながら寝室の扉を開けると、通路の先からヤハクの私兵が此方へ駆け寄ってきた。僅かに身を沈めて構えようとする僕を、ガロガロが片手を上げて制止する。



「ガロガロ様?その女は先程の……。何か有ったのですか?」



 成程。どうやら向こうはまだ事態を把握していないようだ。ガロガロはヤハクの側近としての表情を作ると、私兵の男に向き直る。



「この女を取り返しに賊が侵入してきたようだ。ヤハク様に危険が及ばぬよう、こいつは隔離して敵への人質にする。お前はここでヤハク様を警護しろ。私が指示するまで誰も部屋に入れるなよ」

「は、はいっ!了解しました!」



 ガロガロは男に出任せの命令を下すと、僕を連れて足早にその場を後にする。兵士からある程度離れたところで、僕は小声で彼女に話しかける。



「ジュウロウは?」

「彼には外で脱出ルートを確保してもらってるわ。早く合流して―――」




 ―――衝撃。


 ガロガロの言葉が終わる前に、激しい轟音と振動が屋敷を襲った。



「ッ!?な、何が……」

「ガロガロ!伏せてっ!」



 動揺するガロガロを尻目に、嫌な気配を感じた僕は彼女の身体を強引に床へと引き倒す。次の瞬間、屋敷の壁を粉砕しながら"何か"が僕達の頭上を薙ぎ払った。



「―――ッ!すまない、助かった」

「いえ、それよりも……"アレ"は何ですか?」



 壁に穿たれた大穴から見えた外の景色。そこに佇む巨大な異形に僕は息を飲む。


 ヤハクの屋敷を優に超える鋼の巨躯。それは例えるならプレートアーマーで全身を覆った巨人の騎士の様であった。その威容を視認したガロガロが体勢を整えながら呟く。



「……分からないわ。少なくともヤハクの戦力に、あんな化物は居なかった筈よ」

「成程。でも、味方って感じでは無さそうですね……」



 巨人の頭部―――巨大なバケツの様なグレートヘルムから、紅く光る眼光が僕達を捉えると、巨人はその豪腕を再び振り上げた。




次回更新は9/25の12:00頃予定です。

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