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20.熱砂の国へ

 



 レイズさんは会議室のテーブルに大陸の地図を広げると、(リア)とジュウロウに向けて話し始めた。



「……さて、二人は"ラーヴァ"という国は知っているだろうか?」

「ラーヴァですか?ええ、知識としては。現地に行ったことは無いですが」

(ジュウロウ)も冒険者稼業で何回か行った事はあるが、あの国(ラーヴァ)について詳しいって程ではないな」




 "ラーヴァ"


 大陸南部、過去の大戦による魔力異常を原因とした異常気象により、熱砂の砂丘が広がる地域に存在する砂漠国家の一つである。

 過酷な環境ではあるが、良質な鉱物資源が多く産出されることから、経済的には非常に豊かな国でもある。




「まあ、潤ってるのは富裕層の人間だけで、下層民の方々は中々酷い生活をしているみたいですけどねぇ」



 フゥリィが僕達の知っていた知識に、国の実情を付け加えると、レイズさんは話を続けた。



「その"ラーヴァ"の上層部に"ヴォーデン"と繋がりを持っている人間がいる。現地では既に我々(フェンリル)の諜報員が潜入していたのだが、どうも荒事になりそうな流れらしくてな」

「成程。その諜報員への増援として、俺達を暴力担当として派遣するってところか?」

「まあ、そんなところだ。"ヴォーデンの使徒"の動きも確認されていないし、君達の初任務としては妥当な難易度だろう」



 ……試金石か。

 暗に『この程度の任務をこなせない人間は不要』と言われているのを察して、僕は軽く溜息を吐いた。



「さて、それでは作戦内容を詰めていくぞ。ラーヴァまでの移動手段。現地諜報員との合流方法。緊急時の対応。リアの日焼け対策(スキンケア)。他にも頭に叩き込まなければいけない事が山ほど有るからな」

「今なにか変なのが混じってませんでしたか?」

「混じってない。フゥリィ」

「はい、レイズ部長」



 レイズさんがフゥリィに目線で合図を送ると、狐目の彼は何処から取り出したのか、分厚い書類を僕とジュウロウに配る。座学嫌いなジュウロウがげんなりした顔を浮かべるのを見て、僕は小さく苦笑を浮かべるのだった。




 **********




 ―――そして、(リア)とジュウロウは道中で砂賊に襲撃される等、幾つかのトラブルを挟みながらも、ラーヴァの首都へと到着していた。



「くぁ~~……やっぱキツイなあ、この暑さは」

「ああ、僕も知識としては知っていたが、ここまで過酷な環境だったとは……日射が凄まじいから、幻視のイヤリングも火傷しそうで付けられないし、長耳を見られない様に気を付けないと……」



 僕は外套のフードを深く被り直して、耳の先を隠すと、ジュウロウとこれからの行動について相互確認を行った。



「諜報員との待ち合わせは夜。二番通りの三日月亭という酒場で合流する手筈だけど、それまでどうする?」

「まずは宿だな。んで、夜まで部屋で大人しくしてればいい。諜報員から状況を聞くまでは変に動かない方がいいだろう」

「賛成。砂上船で全身砂塗れだから、少しは身綺麗にしておきたいしね」



 意見がまとまると、ジュウロウが以前にラーヴァへ訪れた際に利用したという宿へと二人で向かう。



「二人部屋を頼む。それと、身体を洗いたいんだが」

「裏庭の井戸を使いな。使用料は宿泊とは別料金で銀貨1枚。浴布(タオル)は銅貨1枚」



 ジュウロウは料金を受付に支払うと、部屋の鍵とタオルが入った木桶を受け取った。

 用意された部屋に入ると、僕は外套を脱ぎ捨てて木桶と浴布(タオル)を手に取る。



「それじゃあ、先に水浴びしてきてもいいかな?実は髪に砂が絡みついて、さっきから気になっていたんだ」

「……いや、待て。お前どこ行くつもりだ?」

「ん?裏庭の井戸を使っていいと受付で言われたじゃないか?」



 ジュウロウは僕の言葉を聞くと、深く溜息を吐いた。もしかして先に水浴びをしたかったのだろうか?別に順番を譲るのはやぶさかではないが……



「……俺が桶に水を汲んでくるから、部屋で身体を洗うのじゃ駄目か?」

「何故そんな事を?それに、この長髪だと桶に溜めた水で洗うのは少し難しいから、出来れば井戸を使わせてもらいたいんだが…………ああ、大丈夫だよ。身体を洗ってる間は、幻視のイヤリングを付けておけば、誰かに耳を見られてもエルフだとバレる心配は無いから」

「いや、そうじゃねえよ。……あんまり言いたかねえが、今のお前は"女"なんだぞ」



 ジュウロウの発言に、彼が何を気にしているのか理解した僕は、半目で彼を睨み付けた。



「ジュウロウ……そういう気遣いは正直、少し気持ち悪いぞ」

「きっ、きも……!?」



 何やらショックを受けているジュウロウを尻目に、僕は幻視のイヤリングを身に着けて水浴びの準備を進める。



「それに、別に気にする程の事じゃないだろう?こういった宿に泊まる女性の旅人は、誰かに肌を見られることを気にするような気質ではないだろうし、他の客にとっても女性冒険者の水浴びなんて別段珍しい光景でも無いだろう?」

「いや、それは、そうなんだが……」



 いまいち歯切れの悪い返事をするジュウロウに、僕は溜息を一つ吐くと、彼の胸を軽く小突いた。



「他の人間ならともかく、"以前の僕"を知っている君が、僕を女扱いするのは止してくれないか?……それとも、まさか君はそういう目(・・・・・)で僕を見ているのか?」

「そんな訳ねえだろっ!……まあ、俺が悪かったよ。お前が"そういう扱い"をされるのが嫌だって事ぐらい、考えりゃ分かるだろうに、要らん気を回しちまった」

「あー……いや。僕の方こそすまない。少し神経質になっていたかもしれないな」



 思いがけず、ジュウロウに真面目に謝罪されてしまったことに僕は鼻白むと、部屋に置かれた鏡に映る自分を見つめる。


 そこには聖騎士()だった頃の面影など、欠片も残っていない少女(自分)が映っていた。



「……はぁ、確かに。こんなナリ(・・・・・)じゃあ、女扱いするなと言っても難しいか」



 鏡に映った自分に向けて、僕は苦笑いを浮かべる。


 鏡の向こうに居る少女は、その可憐な容姿に似合わない、疲れた様な笑顔を僕に向けていた。




やっとプロローグに帰ってきました。

次回更新は9/23の12:00頃予定です。

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