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02.親友との再会

 



 とある都市のスラム街の奥深く。

 悪漢(ひし)めく廃墟の中で、輝く白銀の鎧を纏った騎士が剣を手に駆ける。その視線の先には、周辺地域で暴れまわっていた犯罪組織―――その悪漢達の頭目である巨漢が戦斧を構えて、騎士を迎え撃とうとしていた。



「―――ハアァッ!!」



 巨漢が振り下ろした戦斧を紙一重で躱すと、騎士の短い裂帛の声と共に、銀閃が駆けた。



「ぐ、ぎああっ!?」



 閃光の様な剣閃が悪漢達の頭目を切り裂く。胸から血を流した巨漢が戦斧を取り落とし、地に膝を突いた。



「お、おのれ……聖騎士め。この"百人斬り"のドガが、貴様みたいな若造なんぞに……」

「勝負ありです。大人しく投降してください。奪った数を誇るような人間に、僕は負けるつもりはありません」



 頭目が敗れ、趨勢が決したと見ると、周囲で兵士達と交戦していた悪漢達も、次々と武器を投げ出してこちらに投降してきた。どうやら戦いはこれで決着のようだ。



「リアルド殿!お見事です!」



 同じく周囲で悪漢達と交戦していた兵士達の一人が、白銀の騎士へと興奮した様子で駆け寄る。"リアルド"と呼ばれた白銀の騎士は、周囲を見回して戦闘が終わったことを確認すると、その兜を外して外気に素顔を晒した。


 兜の下から現れた素顔は、この大陸では一般的な金髪碧眼の青年のそれだった。

 少し幼さを感じさせる柔和な顔つきは戦士というよりは、商会の若旦那とでも言われた方が納得出来そうな穏やかな顔立ちであった。



「―――ふぅ、お疲れ様です。こちらの負傷者の数は?」

「ハッ!軽傷を負ったものは数名おりますが、こちらの被害はほぼ皆無です。リアルド殿が"百人斬り"のドガを単騎で抑えてくれたおかげです!」

「いえ、僕がドガに専念出来るように、周囲の手下達を皆さんが抑えてくれていたからこそです。ありがとうございます」

「は、はいっ!……あ、あのっ!"聖騎士"と同じ戦場に立てた事、私の一生の誇りでありますっ!」



 こちらに敬礼する兵士がリアルドに向ける視線は、英雄に憧れる少年のそれだった。自分よりも年上の相手にその様に扱われることに、若干の居心地の悪さを感じつつも、リアルドは微笑みを浮かべて兵士達を労った。




 **********




 ―――"聖騎士団"



 過酷な訓練を耐え抜いた、最強の戦士のみが入団を許されるという王国が誇る最精鋭部隊である。


 その構成人数は、僅か百名足らずと非常に小規模ではあるが、そこに所属する"聖騎士"達は一人一人が一騎当千の強者であり、王国の"武"の象徴でもあった。


 リアルドはその比類なき剣才を認められ、聖騎士団に15歳という異例の若さで入団を許された麒麟児であった。


 下町の―――それも孤児院出身である彼を『卑しい成り上がりの貧民』として嫌う人間も少なくはなかったが、それ以上に生まれのハンデを物ともせずに、聖騎士として選ばれた彼をカリスマ的存在として見る人間は多い。品行方正で身分に関わらず誰に対しても平等に接する姿勢から、特に平民出の兵士達からの人望は凄まじいものがあった。






「……ふぅ、さてと。お先に失礼しますね」

「おう、お疲れリアルド」



 詰所にて任務完了の報告を終えたリアルドは、宵闇に急かされるように足早にとある場所へと向かう。向かう先は、彼が生まれ育った下町の一角にある酒場である。脇目も振らずに詰所を後にする様子に、同僚からは恋人との逢瀬かと勘繰られたが、残念ながらそんな色気のある話ではない。久しぶりに街へ帰ってきた古い腐れ縁と会うだけだ。



「おや、リアルドじゃないか。こんな時間に来るなんて珍しい。今日はもう仕事は終わりかい?」

「こんばんは、女将さん。アイツ(・・・)と待ち合わせなんだけど、もう来てるかな?」



 笑顔でリアルドを出迎えてくれた恰幅の良い女将さんが、豪快に笑いながら奥のテーブルを指差した。



「あの根無し草なら昼からそこで呑んでるよ。……まさかとは思うが念の為、うちはツケはやってないって言っといておくれ」

「その時は僕がアイツを衛兵に突き出すんで、任せておいてください」

「流石にそりゃあ可哀想だ。金が無かったら皿洗いで勘弁しといてやるよ!」

「ふふ、伝えておきますね」



 リアルドは女将に礼を言うと、彼女が指差したテーブルへと向かう。すると、席に座っていた男がリアルドの顔を見るなり、ニヤリと悪童めいた笑みを浮かべた。その姿は子供の頃から何も変わっていなくて、リアルドは思わず苦笑してしまう。



「よう、リアルド。……少し痩せたか?聖騎士なんてやってるからだぞ?」

「そういう君は変わらないね"ジュウロウ"。……いや、聖騎士をやっていた時よりも生き生きとしているぐらいかな?」

「おうよ、冒険者はいいぞぉリアルド。昼から酒呑んで酔っ払えるなんて、聖騎士団に居た頃だったらありえないからな」



 彼の名は"ジュウロウ"。


 この大陸では珍しい黒髪黒瞳を持つ青年で、リアルドと同じ孤児院出身の幼馴染。そして、彼の元同僚―――聖騎士団の一員だった男だ。





次回更新は9/13の21:00頃予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ジュウロウ...黒髪黒目...もしや日本人!?
2022/01/03 22:55 退会済み
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[一言] ジュウロウ...黒髪黒目...もしや日本人!?
2022/01/03 21:35 退会済み
管理
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