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18.聖剣

 



 ―――王都中心部。



 華美ではないが、質実剛健な造りの中に、厳かな重厚さを感じさせる神殿めいた雰囲気の宮殿―――王国最強の戦闘集団である聖騎士団の本部にて、聖騎士団の中でも最上位に属するといっても過言ではない二人の人間が、作戦室で密談を交わしていた。



「……分かっている。ガルステン達の件―――例の重要物資とやらが強奪された件はどう考えても何かがおかしい。上の動きが鈍すぎる」



 一人は机に肘をつき、元々の険しい顔つきから、更に眉間に皺を寄せて凶相を深くする禿頭の男―――聖騎士団の長。序列第五位(・・)、団長アルヴィズである。既に齢50歳を越えた中年ながら、その筋肉で膨れ上がった肉体は未だ衰えを感じさせない。



「そもそもの護送任務を指示した武官は襲撃事件と同時に王国から失踪(・・)こちら(聖騎士団)でも事件を調査をさせろと言っても機密保持を名目に有無を言わさず突っぱねてくる。大臣共が用意した調査機関は逆に我々(聖騎士団)に疑いをかけてくる始末だ。腹立たしい」

「……リアルドは違う」



 アルヴィズの言葉に、作戦室の壁に寄りかかった女性―――序列第一位(・・)。王国……否、恐らく現時点での世界最強の女騎士。"聖剣"が短く答えた。

 屋内にも関わらず、彼女専用の白銀のフルプレートアーマーを身に着け、グレートヘルムで顔まで隠したその姿は、あまりにも奇異ではあったが、アルヴィズはそれに気にした様子を見せずに、彼女の言葉に答える。



「分かっている。俺だってリアルドの奴が裏切り者だとは思っていない。……アレはそんな器用な男ではない」

「うん。リアルドは結構ぶきっちょ」

「……だが、襲撃現場で唯一遺体が確認されなかったリアルドは、我々に責任をおっ被せたい連中にとっては格好の標的だ。だからこそ、他の誰よりも早く俺達の手でリアルドを保護しなければならん」

「だんちょーはリアルドが生きてると思ってるのか?」

「当たり前だ」



 襲撃現場のガルステン達の遺体は簡素ではあったが、整えられて弔われていた。あんなことするのは(リアルド)ぐらいしか考えられない。そして、こちらに合流しないのは何か事情が有っての事なのだろう。そういった考えが二人の間で成立する程度に、アルヴィズと"聖剣"はリアルドという若者を買っていた。



ジューロー(ジュウロウ)と連絡を取ってみるか?あの子ならリアルドの事、何か知ってるかも」

「いや、逆だ。少なくとも今はこちらから奴にコンタクトは取らない方がいい」

「だんちょー、まだジューローと喧嘩した事を怒ってるのか?いい大人なんだから、ちゃんと仲直りした方がいい」

「違うわ阿呆」



 見当違いな事を口走る少女に、アルヴィズは溜息を吐く。



「現在、ほぼ確実に俺やお前のような聖騎士団の上位者は、例の調査機関にマークされている。迂闊に動けばあっという間に有る事無い事をでっち上げられるぞ。元聖騎士とはいえ、今はただの冒険者の人間と接触なんてすれば、それこそ王城の古狸どもに付け入られる」

「それじゃあ、どうする?」

「俺の伝手で信用出来る外部の人間を秘密裏に動かしている。調査機関の目が聖騎士団に向いている内に、彼等に出来る限り情報を集めてもらう。俺達が本格的に動くのはそれからだ」

「うん、分かった」



 アルヴィズの言葉に納得したのか、"聖剣"は話は終わりとばかりに作戦室を後にしようとするが、ふと思い出したように振り返る。



「だんちょー、私も何か手伝うか?」

「……お前は何もするな。動いて欲しい時は俺が指示を出す。いいか?絶対に勝手に動くなよ?絶対だぞ?」



 "聖剣"の言葉に、アルヴィズは胃痛を感じながら繰り返し少女に言い聞かせた。

 "聖剣"は聖騎士序列第一位という実力に反して、何の役職も持たない平団員である。その理由は彼女が"世界最強"という能力でようやく釣り合いが取れる程のトラブルメーカー体質だからだ。本来であれば、政治的な判断が求められる事もある聖騎士団に、こんな爆弾を抱えていたくはないのだが……とある政治的な事情から、逆に彼女を聖騎士団に抱え込まなければいけなくなったというのは、何とも皮肉な事である。アルヴィズは、そんな少女の運用について、日夜頭を悩ませているのだった。



「……まあ、本人に悪意が無いのだけが救いか。いや、逆にたちが悪いのか?」

「だんちょー、何か言ったか?」

「独り言だ。とりあえず、お前は通常任務に戻れ」

「うん。……あっ、その前にそこのペンを借りてもいいか?」



 アルヴィズが了承する前に、"聖剣"が机に置かれていたペンを手に取ると、作戦室の窓を開けた。



「おい、何を―――」

「えいっ」



 次の瞬間、空気が破裂するような音と突風の様な風切り音を響かせて、"聖剣"が手に持ったペンを窓から上空に向かって投げ放った。ペンは中空で黒い"何か"を貫通すると、そのまま空の彼方へと消えていった。



「よし」

「よくねぇよ。お前何をした」

「ここ最近、使い魔みたいなのが本部の周りをウロチョロしてるのが気になってて、見つける度に潰しているんだ。……ああ、大丈夫。"眼"で見たけどリアルタイムで術者と繋がってるタイプじゃないから、誰がやったかは分からない筈だ」



 少女がグレートヘルムから覗く金瞳を指差しながら、あっけらかんと言い放つ。その様子にアルヴィズは眉間に皺を寄せて深く溜息を吐くと、少女に告げた。



「……とりあえず備品代は給料から引いとくぞ」

「そんな」




次回更新は9/21の12:00頃予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] >いいか?絶対に勝手に動くなよ?絶対だぞ? あかん、それフラグやだんちょー。 (・∀・)
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