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17.ギルド職員リアちゃん

 



「おっ、ジュウロウじゃん。何か久しぶりだな」

「……ん、ジッパか。まあ、ここ最近ちょっと色々有ってな」



 冒険者ギルドの待合広場で軽食をつまんでいたジュウロウに、一人の(ジッパ)が話しかける。(ジッパ)は中規模の依頼で何度かジュウロウとパーティーを組んだ事のある狼級冒険者である。



「聞いたぜ。翼竜級になったんだって?なんつーか意外だな。そういうしがらみの多そうな立ち位置は嫌ってそうだったのに」

「あ~……色々有ったんだよ。本当に色々とな」

「めんどくさいからって説明を端折んなよ。パーティーも組んだ事のある相手に冷たいもんだぜ」



 ジッパは話もそこそこに依頼の張り出された掲示板へ向かう。……が、目ぼしい依頼が無かったのか、再びジュウロウの対面の席に座った。



「今日は空振りだな。なあ、暇なら飲みに行かないかジュウロウ?」

「悪いな。今はオーナー様から今日の動きについて指示待ち中なんだ」

「あ~、翼竜級はそういうのがあるんだっけ?めんどくせえ立場だな」



 翼竜級冒険者は、彼らのパトロンである契約主からの指示が有るまで、各々が所属する冒険者ギルドでの待機が命じられている。契約主から自由行動の許可が出て、初めて自分の意志での依頼の受諾が可能となるのだ。無論、契約主に不利益が出るような依頼に関しては、契約主が翼竜級冒険者に斡旋しないようにギルドに通達している為、通常の冒険者と比べて選択の幅は大きく狭まっている。



「まあ、窮屈ではあるが、仕事が有ろうと無かろうと一定の給金は保証されてるし、翼竜級もそう悪いもんでもないさ」

「やだやだ、自由が身上の冒険者が宮仕えみたいな事を言いやがって―――んっ?」



 ジュウロウとジッパがそんな益体も無い会話を続けていると、受付の奥から一人の少女が現れた。




 腰まで届く流れるような美しく光沢のある金髪。


 柔らかさと瑞々しさを感じさせる陶器のように白い肌。


 触れれば壊れてしまいそうな、繊細な芸術品の様に華奢な身体。




 少女の眩いばかりの美貌にジッパのみならず、ギルド内の冒険者たちが俄かに色めき立った。



「うわっ……すげえ美人。あんな娘、ここの職員に居たか?」

「あー……いや、アレは……」

「おっ、こっち来るぞ……!」



 少女はジュウロウ達の前までやって来ると、可憐な容貌に薄く笑みを浮かべてジュウロウに深くお辞儀をする。



「……ジュウロウ様(・・・・・・)、レイズ氏からの御連絡です。『一週間後にギルドへ使いを送るので、それまでは自由に動いて構わない』との事です」

「ブフッ」

「………ッ」



 少女の言葉を受けて、ジュウロウが小さく震えながら俯く。その様子を見て、少女の美貌が僅かに引き攣ったのだが、幸か不幸かそれに気付く者は居なかった。

 ジッパは未だに細かく痙攣している(ジュウロウ)の様子を怪訝に思いつつも、目の前の美しい少女に関心を向ける。



「おいジュウロウ。このクッソ美少女は誰なんだよ?友達なら俺に紹介しろ。恋人なら一発殴らせろ」

「ま、待ってくれ……ツ、ツボに……」



 ぷるぷると震えて使い物にならない様子のジュウロウを見かねたのか、少女はジッパに向けて軽くお辞儀をすると、自己紹介をした。



「初めまして。申し遅れましたが、()、ジュウロウ様の専属職員のリアと申します。主な仕事はジュウロウ様のサポートとなりますので、他の冒険者の方々とはあまりお話する機会が無いかもしれませんが、今後ともよろしくお願いいたします」



 少女(リア)はそう告げると、見る者全てが溜息を吐くような可憐な微笑みをジッパに向けるのだった。



「プッ」

「………ッ」



 そんな少女の何が可笑しいのか、再び小さく吹き出したジュウロウの爪先を、少女の細い足がグリグリと踏みつけていることに気づく者は居なかった。




 **********




「きったねぇぞジュウロウ!翼竜級冒険者は皆こんな美人が手取り足取りサポートしてくれんのかよ!?」

「さあな、他の翼竜級の事なんて知らねえよ。それよりもリア、向こうからの指令が無いなら、何か適当な依頼を回してくれよ」



 (リア)は目の前の騒がしい様子に苦笑を浮かべながら、手元の資料からジュウロウに回せる依頼を提示する。



「……薬草の採取。迷い猫の捜索。畑を荒らすスライムの駆除。どれも駆け出しが小遣い稼ぎにやるような依頼ばっかじゃねえか」

「他の依頼は自由都市を離れなければいけない長期のものばかりですので。現在、ジュウロウ様が受注出来る依頼はこれだけなんです」

「……あのさあ、その気色悪い話し方どうにかならねえのか?俺から笑いを取ろうとしてるようにしか見えねえぞ」

「き、きしょ……!し、仕方ないだろう!一応、僕は職員で、君は冒険者なんだから!公私の区別をだな……!」



 ジュウロウの物言いに思わず声を荒げてしまった僕を、ジュウロウと相席していた冒険者が怪訝そうな顔で見つめた。



「えっ、何?本当にどういう関係なの?まさか、マジで恋人―――」

「違いますっ!」

「ったく、どいつもこいつも似た様な事言いやがって……こいつ(リア)はただの幼馴染だよ」

「いや、ただの幼馴染にしては距離が近いような……まあ、いいや。俺はジッパ。ジュウロウの同期で狼級冒険者。よろしくね、リアちゃん」



 ジッパと名乗る男はニッコリと笑みを浮かべて片手を差し出してきた。僕も気を取り直して彼の手を握る。



「……こほん。お見苦しい所をお見せしてしまいましたね。私、リアと申します。改めてよろしくお願いいたします」

「あはは、そんな堅苦しくしなくてもいいよ。さっきみたいにリアちゃんの素で接してくれた方が、俺は嬉しいな」

「いえ、そういう訳には……」



 ジッパの言葉に苦笑する僕に、ジュウロウが横槍を入れてくる。



「お前は昔から堅すぎるんだよ。他の奴にはともかく、俺は気にしないし、ジッパもこう言ってんだから普通にしとけって」

「……僕が堅いんじゃなくて、ジュウロウが緩すぎるんだよ。もういい歳なんだから、締めるところはちゃんとだな……」

「あーはいはい、分かった分かった。それよりも今日の飯はどうする?俺は適当な依頼も無いし、外で日が暮れるまでトレーニングでもするつもりだけど」

「……ん、それじゃあ今日は僕が作るから一緒に食べようか。商店で食材も補充したいから、定時になったら顔を出してくれるかい?買い物に付き合ってくれ」

「おう、りょーかい」



 ……ハッ。気を付けているつもりなのに、また素で話してしまった。

 自戒の念を込めて、自分の緩い口元をムニムニとしていると、ジッパが半目で僕とジュウロウを見つめていた。



「……えっ、なに今の会話。……もしかして、ジュウロウとリアちゃんって一緒に暮らしてるの?」

「おう、まあ色々と事情が有ってな」

「ええ、少し事情がありまして」




「………………もう一回確認するけど、お前らってどういう関係?」



 ジッパの言葉に、僕とジュウロウはキョトンとお互いの顔を見やると、口を揃えて告げた。



「「ただの幼馴染」」

「嘘でしょ~~~」




次回更新は9/20の12:00頃予定です。

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