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10.抗う者達

 



「リア!おい、返事しろ!」



 ジュウロウは青白い顔で気を失っている少女(リア)の頬を軽く叩く。しかし、彼女は苦しそうに浅い呼吸を繰り返すだけで、ジュウロウに反応を返すことは無かった。



「クソッ、他の追手が来ないとも限らないんだ。こんな所で立ち往生してられるかよ」



 リアを狙って襲撃してきた黒衣の男(ユーグ)は撃退したが、奴の仲間が増援で来ないとも限らない。一刻も早くこの場を離れるべきだ。幸い、奴が死んだ瞬間に周囲を覆っていた異常―――ジュウロウ達を閉じ込めていたエルフ封じの結界とやらは解かれていた。"色"を取り戻した世界で、ジュウロウは僅かに呟く。



「……アレ(・・)は何だったんだ?」



 リアが気を失う直前、彼女の掌から放たれた光芒がユーグを消し飛ばした光景が目に焼き付いて離れない。


 かけがえのない親友は、一体ナニモノになってしまったのだ?




「……違うだろ、馬鹿野郎。女になろうが、エルフになろうが、こいつは大切な親友で……家族だ」




 ジュウロウは、一瞬でも親友に抱いてしまった"畏れ"を恥じるように顔を(しか)めた。とにかく、今はこの場を離れよう。馬を失ったのは痛いが、目的地である自由都市まではあと少しだ。徒歩でも数時間で辿り着けるだろう。



「よっ、と………うお、軽っ」



 苦しそうに喘ぐリアを、ジュウロウが背中に担ぐ。その華奢な身体のあまりの軽さに、ジュウロウは僅かにバランスを崩しそうになってしまう。



「うぅっ……」

「リア、悪いが少しだけ辛抱してくれよ。……って、聞こえてねえか」



 肩越しにリアの吐息が頬に当たる感触に、若干気まずいものを感じながらもジュウロウは歩き出した。既に日は沈み、宵闇が周囲を満たしている。野生の獣程度ならばともかく、野盗に襲われたら、今のリアを庇いながら戦うのは少々厄介だ。



「……なあ、リア。ガキの頃にも似たような事があったの覚えてるか」



 ジュウロウは歩きながら背中で眠るリアに語り掛ける。



「孤児院の裏手にあった森の中で迷子になった俺を、お前が探しに来てくれてさ。野良犬に囲まれて泣きべそかいてる俺をお前が助けてくれたっけ。泣き疲れて寝ちまった俺を、お前がおぶってくれてさ。今だから言えるけど、あの時からお前は俺の憧れのヒーローなんだぜ」



 リアの返事はない。ジュウロウも彼女が聞いていないと分かってるからこそ、こんな思い出話をしていたので気にしなかった。



「だから、今度は俺が守ってやるよ」



 ジュウロウが前方の闇を睨む。

 すると、闇の中から音もなく黒い外套で身を包んだ男達が姿を現した。



「よう、さっきも似たような格好の男が居たけど流行ってんの?その黒服」



 ジュウロウは挑発めいた軽口を叩くも、相手に反応は無かった。

 男達は無言で目配せをすると、ジュウロウ達を囲むように動く。どうやらユーグと違い、問答無用でこちらを制圧するつもりらしい。



(5人か……逃げ切れるか……?)



 目の前の一人を切り伏せて、一気に包囲を抜け出す。リアを何処かに隠して身軽になれれば、まだ勝ちの目はある。ジュウロウはそう考えると、駆け出す為に僅かに姿勢を低くしたのだが―――





「ジュウロウさーん。上手く避けてくださいね~」

「!?」





 前方から聞こえた風切り音に、ジュウロウは咄嗟に地に伏せると身体を回転させて、背中のリアを庇うように彼女の上に覆いかぶさった。


 次の瞬間、飛んできた矢の雨が黒衣の男達をハリネズミにした。

 突然の事態に唖然としていると、前から歩いてきた男はそんなジュウロウの表情を見て、楽し気に口元を歪めた。



「どーも。危ないところでしたねぇ、ジュウロウさん?」

「……情報屋、こんな所で何してやがる」

「命の恩人に向かって随分じゃないですか。まあ気にしてませんけど」



 部下らしき数人の弓兵達を従えてジュウロウの前に現れたのは、彼が贔屓にしている狐目の情報屋だった。


 ……タイミングが良すぎる。


 黒衣の男達を殲滅した情報屋ではあるが、敵の敵は味方……なんて単純に考えられる程ジュウロウは楽観的ではない。

 ジュウロウが目の前の細身の男が敵なのか味方なのか、見極めようと眼差しを鋭くすると、狐目の情報屋は芝居がかった態度で両手を上に掲げた。



「そんな怖い顔しないでくださいよ。私とジュウロウさんの仲じゃないですか?」

「お前がタダの情報屋だったならな。……随分と物騒なお友達を連れてるじゃないか。俺が警戒するのも仕方ないと思わないか?」



 警戒を解こうとしないジュウロウを見て、情報屋は溜息を吐くと、弓兵達を後ろに下がらせた。



「まあ、お気持ちは分かりますが、ここは長年の付き合いの私を信用して付いて来てくれませんかね?……大丈夫だとは思いますが、また"ヴォーデンの使徒"が来たら私達では歯が立ちませんので」



 "ヴォーデンの使徒"


 ジュウロウ達を襲撃したあの男(ユーグ)が何度か名乗っていた肩書だ。何故、目の前の男(情報屋)がその名を知っているのか。



「……情報屋。お前は一体、何者なんだ?」



 ジュウロウの口から零れたシンプルな疑問に、情報屋は細いつり目を愉快そうに歪めて答えた。



「私達は"フェンリル"。貴方達を襲った集団―――"ヴォーデン"に対抗する組織です。……まあ、簡単に言うと正義の味方って奴です」

「……ちょー胡散臭え」



 ジュウロウの率直な感想が宵闇に溶けていった。




次回更新は9/16の21:00頃予定です。

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