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1.迎えに来たヘリコプター

ここは日本列島の南西の端に、ぽつぽつと浮かぶ島の一つ、緑島みどりじま

その名の通り、島の大部分をしめる森には、一年中、濃い緑の葉が茂っています。

ふと足を止めれば、普通の図鑑ではお目にかかれないような 珍しい虫に出くわすこともしばしばです。

今は秋の終わりの十一月、本州ではコートを羽織る人もいるといいますが、島の住民の多くは、いまだに半袖で過ごしていました。

そんな島の、ある夕暮れ時のこと…


バッ バッ バッ バッ ・・ ・・

低いとどろきが、赤がね色の空を震わせました。

夜を過ごそうと、木々の茂みにとまっていた鳥たちが、驚いたように飛び立ちました。

ヘリコプターです。役場のある本島の方からやってきた白い機体は、入り江の奥まで進み、ゆっくりと降りていきました。

挿絵(By みてみん)


「あれ」

本島の小学校から、渡し船で帰ってきたばかりの五年生のカイトは、目を見張りました。ヘリコプターが降りていったのは、父さんの診療所のあたりだったのです。

もしや、患者さんのことで、急用ができたのかもしれません。それか、めずらしいお客さんが来たのか…。

「とにかく、急がなくちゃ」

肩かけバッグを小脇に抱えたカイトは、桟橋を渡り、軒先に魚やイカの干してある家々の前を走っていきました。


「カイト、そんなに急いでどないした」

いつも診療所に、パンと牛乳を届けてくれる高木ばあちゃんとすれちがいました。

「診療所にヘリコプターが来たんだ」

「先生様の所に、はりこぶた…そりゃ、よいこって」

高木ばあちゃんは、薄茶色の長い髪の少年を見送りながら、ぼそぼそとつぶやきました。


「ふう、やっぱり」

カイトが息を切らしながら診療所に来てみれば、横の空き地に、ヘリコプターが降りていました。

ローターの回転は弱まっているようですが、目を開けていられないほどの強い風が吹きつけてきます。白い機体には、赤い十字の病院のマークが描かれています。

白衣をひらめかせた父さんが、朱色の服を着た操縦士と話をしています。

腕を組み、何やら難しそうな顔をしていますが、『了解!』とばかりに手をあげ、玄関に小走りにやってきました。


「カイト、いいところに帰ってきた。これから父さん、隣の湯吹島ゆぶきじままで行かなくてはならなくなった」

隣とはいえ、湯吹島までは、船で一時間もかかります。島民はほとんどがお年寄りで、そこから小学校に通っている子どもはいません。


「どうしたの、病気の人?」

「そうなんだ。島の人が、みな病気になってしまったらしい。あそこには診療所はないだろ。だから、父さんが行かないといけないんだ」

「ぼくは? 留守番?」

「残念だけど、これは仕事だからな。それに、おまえのような子どもが行ったら、病気が移ってしまうかもしれない」


診療所に入った父さんは、あたふたと準備を始めました。

往診用のスーツケースに、薬やら注射器やらをいっぱい詰め込んでいます。

「じゃあ、いってくるよ。おかしな病気でなければ、明日の夕方にはもどれると思う」

ケースのふたを閉めて振り返りました。

「九州の大きな病院から、応援の先生達が来ることになっているから、父さんはそれまでの間つなぎってわけさ。冷蔵庫に朝のシチューの残りがあるから、夕飯はそれを食べてな」

「それはいいんだけど」

カイトは何やら胸騒ぎがしました。

『湯吹島の島民は五十人たらず。とはいえ、皆が病気になってしまうなんて。父さんは大丈夫なのだろうか…』

「心配するなよ。かりにも僕は医者だからな。寂しかったら、母さんに会いにいってもいいぞ」

そう耳元でささやき、父さんは待機しているヘリコプターに走っていきました。


「いってらっしゃーい」

カイトが大きく手を振る先、白い機体は、まぶしく輝く夕日のなかに消えていきました。


「けど、会いにいってもいいなんて…母さんは、呼んでも来てくれないことばかりなのに」

カイトは空を見上げたまま、小さくつぶやきました。




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