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第六話 冒険者って面倒くさそう

 ピピピピピ、と鳴り響くアラームの音に、俺は携帯へと手を伸ばしてその音を止める。


「ふぁ…、あ…。」

「おはようっす、シュン。」

「ん、おはようさん…。」


 結局、夜の見張りは俺が先に起きていて、途中でアイルを起こして交代した。


 大体何時間くらいで交代するのかを聞いてみたら、四時間程度で良いというので、一応携帯のアラームをセットしておいたのだ。

 俺は持ってた本を読みながら、欠伸をしつつ時間が過ぎるのを待つ。あ、勿論ちゃんと眼鏡で辺りの確認はしていたからな。


 時折見回しては読書を続けていると、ピッタリ四時間後にタイマーが鳴りだした。その時、アイルが直ぐにバッと起きて辺りをキョロキョロしだすから、ちょっと笑ってしまった。


 音の正体を簡単に説明した後、俺も流石に眠くなってたのだろう。ちょっと考え込んだりはしたが、横になってからは割とすぐに寝付けたと思う。



 そうして再び四時間にセットしたアラームに起こされ、未だ覚醒しない頭で寝ぼけ眼を手でこする。


「ほら、顔洗うっすよ。」

「ん、さんきゅー…。」


 アイルが差し出した急須みたいな魔道具を顔に向けて傾ければ、中からバシャバシャと水が流れる。服が濡れるのも構わずに顔…と言うか、体ごと洗い流し、軽く頭を振って水分を飛ばす。鞄の中からタオルを取り出して顔を拭いたら、凄い不思議そうな表情で首を傾げていた。


 どうしたのかと尋ねてみれば、何で魔法で乾かさないのかと言われ、なるほど…と思った。そう言えば、生活魔法として使われるって、書いてたな。

 俺は服を魔法で乾かしつつ、アイルに魔道具を返す。


 あー、ゆっくりお風呂入りてぇな…。




 昨日は夕食の後、アイルにこの世界のお金について聞いた。銅貨、銀貨、金貨に大小があって、十枚で次の硬貨にいくそうだ。小銅貨十枚で大銅貨一枚、大銀貨十枚で小金貨一枚、と言うように。

 更には、気の遠くなるような金額らしいが大金貨百枚で白金貨一枚になるそうだ。


 ただ、この硬貨はほぼ出回ることがなく、かなり特別な硬貨らしい。大きい商談でも、普通は大金貨を何百枚と積んでいくそうだ。何か記念硬貨っぽいな。


 一応アイルから実際の硬貨も見せてもらったが、俺が持ってるのとは全然違う。やはり、俺の財布の中身は使い物にならなそうだった。




 軽くストレッチを済ませ、しっかりと覚醒した頭で考えるのは、昨夜の事だ。現代日本で不自由無く過ごしていた俺は、正直初めての夜営にちょっとワクワクしていた。

 でも、それは最初だけで、すぐに後悔することになる。


 辺りを見回し、火が消えないように時折枝を焚火に投げ入れながらの野営は、かなりキツかった。

 …いや、実際は野営じゃなくて交代した後のことだけど。起きてる間はまだ良かったんだが、交代していざ寝るぞって時に問題が発覚した。


 別に潔癖症だったり、虫が大の苦手とかじゃない。それでも、野宿の様に外で寝るのには想像以上に抵抗があった。持ってきてたローブをグルグルと巻いて、できるだけ外気に触れないように眠る様は、アイルから見ればかなり不思議に映っただろうな。

 けど、俺からしたら女の子が布一枚で地面に横になって寝る方が信じられなかった。


 …まあ、眠ってしまえばどうって事なかったんだけど。これが公園のベンチの上とかだったら、もうちょいマシだったかもしれない。

 にしても、俺の常識が通用しなさすぎる。これも慣れねえといけねえのかなぁ…。



 準備を済ませたら、辺りを確認しつつ町へと進んでいく。しかしまあ、昨日の野営の時もそうだったが、町へ向かってる時に眼鏡へ魔力を流しても、全然反応が映らない。

 あの屋敷から出たばかりの時はまだチラホラ反応があったのに、昨日のホーンラビット以降、いくら確認しても全く表示されなかった。

 やっぱり、町に近いと魔物が減るのか?


「全然魔物の気配がないな。」

「今じゃこれが普通っすよ。たまに現れても食べれそうにない魔物だったり、強すぎて倒せなかったり。昨日は本当に運が良かったっす。」

「ふーん、そうなのか。」


 思わず口に出た言葉だったが、アイルは普通に返答をくれた。眼鏡に反応があったらアイルに伝えてみるのもいいかと思ってたけど、もし強い魔物だったら俺は戦えないし危険すぎるか。


「このペースなら夕方前には着きそうっすね。」

「お、マジか。途中で休憩挟んでも?」

「まあ、それでも今日中には着くっす。」


 出発してから休み休み魔法を発動してるが、やはり足だけなら意外と持つらしい。

 気分が悪くならないうちに地面に降りて回復がてら歩き、また魔法で空を飛ぶ。町への道のりを着々と進んで行くにつれ、俺はどんどん緊張してきた。



 アイルが言うには、人間であればそこまで酷い目には合わないらしい。アストの町に住民以外のヒトはおらず、アイツ等以降に旅人も訪れたことがないそうだ。


 アイルは自分と一緒だから大丈夫だとは言うが、一度他所の人間が自分達の縄張り(シマ)を荒らしてると考えれば、俺がやって来るのは余り歓迎されることではないだろう。


 アイルの言う通り、最低限の話が聞けたら、さっさと町を出て行った方が良さそうだな。


「そう言えば、冒険者ってどういうのなんだ?」

「…本当にシュンは貴族みたいっすね。冒険者も知らないなんて。いや、貴族でも普通は冒険者くらい知ってるはずっすけど。」

「あー、名前で何となく分かるけど、実際はどういう人達で何してんのかなーって。」


 その字面でこの世界を冒険してる人達だってのは分かるけど、いまいちどういう職業か分かんねえんだよな。

 映画とかにある、古代遺跡を探索するトレジャーハンターみたいな感じ?それとも、ゲームのモンスター退治するヒトみたいな感じ?


「冒険者っていうのは、一言で言えば国に認められた何でも屋っすね。冒険者ギルドに寄せられた依頼を受けてこなす、ただそれだけ。依頼には色々あるっすけど、それぞれに応じたランクがあって、受けることのできる依頼が変わるっす。最初は漆黒(しっこく)級から始まって、次に白磁(はくじ)、それから藤黄(とうおう)赤丹(あかに)青藍(せいらん)紫苑(しおん)級と六つのランクに分けられてて、幾つもの依頼を達成する事によってギルドからの信頼を得て、ランクを上げられるようになるっす。」


 アイルの説明によれば、駆け出しの半人前が漆黒級、やっと一人前の新人が白磁級、冒険者として慣れてきたのが藤黄級、指名依頼もあるベテラン冒険者が赤丹級、大ベテランで貴族にも顔が利く青藍級、王様にだって会えちゃう伝説の勇者クラスが紫苑級らしい。

 これはゲームとかにある方が近そうだ。


「ふーん、結構あんだな。」


 色によって分けられてんのか。そういや昔、社会の授業で何か似たようなこと習ったような気がすんな。


「実力の無い冒険者が報酬目当てで高難易度の依頼を受け、結果失敗したり最悪死亡することが昔は多かったそうっす。だから、余計な失敗や死亡を防ぐ為にランクを設けるようになったそうっすよ。かなり手間も増えるし、って。」

「確かに、後処理とか面倒だよな。」


 すんなりいくはずのモンでも、ミスっちまえば余計な手間がかかる様になる。たまになら兎も角、頻繁に起こる様なら予め対策を立てた方がいいだろう。


「場合によっては一攫千金も狙えるけど、堅実にも過ごせる冒険者業は、この国では一般職っすよ。…まあ、最低限の強さは必要っすけど。」


 堅実に過ごす冒険者って何だろうか。ゲームとかだと、冒険者の依頼って魔物退治とか、護衛依頼とかの危なそうなイメージなんだけど。


 いまいちピンとこないでいると、アイルが説明してくれた。薬草や鉱物とかの採取依頼に、孤児院の子供達の世話役、町中の掃除だったりと雑用みたいなものまで、安全な仕事も結構あるらしい。


 本当に何でも屋だな、冒険者って。


「まあ、安全な依頼はその分昇級への影響も少ないし、報酬も高いわけじゃ無いっすから。日々の小銭稼ぎくらいにしかならないっすけど、それでも割と人気はあるっす。」

「アイルも冒険者なんだよな?ランクは何なんだ?」

「……アタシは白磁っす。」

「って事は、新人冒険者なのか。」


 まだ若いし、なったばっかりって感じか?でも、凄い表情が不機嫌な感じに変わったけど…。


「獣人は良い依頼とか余り受けられないし、昇級に関しても色々と査定が入るから、難しいっす。力だけで上がれる藤黄すら、中々なれないんすよ。」

「……んだよ、それ。」


 そこまで差別されんのかよ、獣人って。ちょっと見た目が違うだけで、本人は何もしてないのに…。


 自分と重なって思わず顔を顰めてたら、アイルの表情が苦笑いに変わった。


「まあ、よくある事っすよ。ソロだと特に。変に反発するより、大人しく受け入れて自分自身を見てもらうしか無いんす。下手に反感買って、自分のせいで他の獣人の皆に迷惑かけるのは嫌っすから。」


 そう言って諦めた表情で笑うアイルに、俺はイライラとした気持ちを抑える。俺が怒ったってどうしようもない事だ。アイルが何も言わないなら、俺も何も言わない。


 この世界の普通が分からない以上、下手にアレコレ口出して大事になるのは避けるべきである。カチコミなんて行けるタマじゃない俺は、出来れば普通に暮らしたいのだ。


 …ただ、その気持ちは少しだけ俺にも分かる。一度でも手を出してしまえば、向こうが悪くても家があんなのだから…なんて言われるのは目に見えてるからな。

 それが嫌で俺は一度だって喧嘩なんかせず、絡まれても逃げてきたんだ。逃げることで汚名を被んのは俺だけだし。

 自分のせいで関係ない家のことまで言われるのは、スッゲー嫌だ。


 ……まあ、結局我慢できなくって、その結果があの家出だけどな。陰口やら居心地悪い視線やらは、どれだけ慣れたって嫌な気分にはなるもんだ。



「ま、冒険者についてはそんなもんっすね。他に聞きたい事は?」

「…その冒険者ギルドってのは?」

「元々は民間でやってたらしいんすけど、冒険者の数が増えてからは殆どの国が主導で行ってるっす。この国は、遠方のギルド同士でも会話ができるアーティファクトによって各地との連絡も直ぐ取れるから、何か起きてもすぐに対処が出来るそうっすよ。」

「へー、電話みたいなのがあるのか。」

「…デンワ?って言うのは分からないけど、王族が持ってるアーティファクトの一つらしいっす。それを使って、いつでもどこでも近況が分かる様になってるって。」


 電話がアーティファクトになんのか。つまり、これって遠くの奴等と連絡を取りたくても、直ぐには繋がらないってことだよな。


 ギルド間以外はどうやって遠くの奴と連絡を取るのか聞いてみたら、魔物や魔道具を使った郵送になるらしい。まあ、それなりにお金も時間も掛かるようだが。

 やっぱ、直ぐに連絡をとるのは難しいみたいだな。


「冒険者ギルドでは依頼の受付以外に、新規の冒険者登録、素材の買取やアイテムの鑑定、パーティーメンバーの斡旋等、結構色んな事が出来るっす。まあ、勿論メインは依頼関係だし、冒険者登録以外は最低限ギルドで済ませられるって程度っすけど。」

「ふーん、ギルドも大変なんだな。」

「まあ、ギルドがあるような大きい町なら、依頼と登録以外は基本どこでも出来るっすよ。酒場なんかで気の合った人同士でパーティー組んだり、ギルドでの買取は何でも買い取ってくれるけど基本値段は一律っすから、商店に直接持って行った方がいい場合もある。ただ、その場合は売れる物が限られるから、一長一短っすね。」

「なるほど…。」


 思ってたよりも、ギルドって色々できんだな。常に人も一定数いるそうで、長居すると厄介ごとに巻き込まれそうだ…。


「因みに、その冒険者登録ってのは誰でも出来んの?」

「一応種族による制限はないっすけど、年齢制限はあるっすね。成人してないと試験に受けられないっす。」

「試験?」


 へー、冒険者って試験があるのか。やっぱ、危険な依頼があるからか?


「冒険者になるには、成人済みのヒトでギルドの試験に受からないと、なれないっす。試験には面接と実技があって、ならず者や犯罪者とかはなれないし、最低限の力が無いと駄目っす。更に、試験に受かったら登録料を払い、講習を受けなきゃいけないんすよ。」

「うわ、かなり本格的じゃん。スッゲーがっつりした試験。」


 何かこう…就活と言うか、資格の試験と言うか…。思ってたより、面倒そう。


「当たり前っすよ。冒険者は国に身分を証明してもらってるんすから。そう簡単になれるものじゃない。」

「へ?国?」

「冒険者になれば、大体の町や国への通行料や入場料は免除されるし、お店によっては割引や優待なんかのサービスもあるっす。」


 冒険者向けの宿屋や食事処、装備品なんかを扱う店がその良い例だそうだ。

 マジで資格じゃん。ってか、公務員っぽい。俺の家とは大分かけ離れた職業だわ。


「ギルド証は身分を証明するには一番で、何よりも信頼される。発行元が国っすからね。細かい規約なんかもあるし、ランクによって違いは出るけど、五年〜十年位で更新も必要っす。」

「……そんだけ凄い職なのに、差別はあるんだな。」

「こればっかりは、どうにもならないっす。国中のギルド職員を把握するなんて無理だし、裁量なんかも町で一任されてるのが殆どっすから。」


 まあ、そうだよな。警察官になった奴全員が全く罪を犯さないとか有り得ないし、そういう奴等はどこにでもいる。


「冒険者になってしまえば、更新期間が来るまでは割と好き勝手出来るんすよ。…アイツ等みたいに。」


 そう言えば、町長は冒険者を連れてるって言ってたな。一度でも悪さを働くとヤバそうだけど、意外と抜け道とかあるのか?


「ギルドと言っても、闇が全く無いわけじゃないっすからね。賄賂やツテなんかの噂もあるんすよ。」

「後ろめたい事もある、ってか…。」


 うーん、話を聞いてると、冒険者にあまり良いイメージ湧かねえな。身分証なんかのくだりはスゲーって思ったのに。

 あ、でも、アイルだって冒険者なんだよなぁ。気に食わないのは組織の方か。


「ま、アタシ等にはどうしようもないから、殆ど関係ないんすけどね。ほら、他に聞きたいことは?」

「俺には登録すら無理そうだし、それもそうだな。んじゃ、そうだな……。」



 冒険者関連の話を終え、その後も俺はアイルから色々と話を聞いた。聞きたいことは最低限聞けたと思うし、ちょっと俺と常識が違いすぎるけど、何とか慣れるしかないだろう。


 アストの町から馬車で一週間ほどかかるが、ラージルの町というかなり大きな町があるそうで、アイルはそこに俺を案内してくれるようだ。

 町までは着いていけないが、アイルの家で詳しい道のりを教えてくれるらしい。


 大きい町ってのはそれだけで面倒だが、別に他所の縄張り(シマ)を荒らしたい訳じゃないから出来るだけ事は穏便に済ましたい。

 ただ、正直お金に関して不安が募る。俺の持ち物で金になるもんなんて無いし、働くったって子供にできる仕事があるのだろうか。

 アイルの様子を見ても、普通の高校生である俺に冒険者はなれそうにない。ってか、危険な事とかやりたくねえし。

 ただでさえ家の事があって喧嘩すらしたことないのに、魔物とかいう危ないモンに自ら近付こうなんて、考えたくもないわ。


「シュン、どうかしたんすか?」

「あー、大きい町だと金も結構かかんのかなぁって。」

「アタシがラージルの町にいたのは冒険者になるための短い間だったけど、アストの町よりはマシだったっす。……まあ、獣人だからってのもあるし、アストの町の現状も問題あるから、あまり当てにはならないっすけど。」

「んー、そうか…。」


 アイルの表情がまた少し曇ったけど、直ぐに戻った。どうにも問題は根深そうだが、こういうのは変に絡むと余計拗れる未来しか見えない。あまり深くは聞かないようにして、話題を別のものに変えよう。


 …俺も家の事を聞かれるとうんざりするし、何も知らないのにアレコレ言われるとイライラするからな。こういうのは、当事者でもなけりゃ下手に突くのは止めた方がいいんだ。


「あ、そろそろ休憩すっか。もうお昼くらいだろ。」

「そうっすね。シュンもずっと魔法使ってるし、ちょっと休憩するっす。」


 話題替えのついでの、そろそろ腹減ったなーとアイルに休憩を申し出る。携帯を見れば13時を過ぎてて、そりゃ腹が減るわと、一人で納得した。


 程よく辺りを見回せる場所へと腰を下ろし、俺とアイルは昼飯の用意を始めた。

 アイルは辺りを歩いて、食べられる植物がないか探している。焚火用の枝を集め終えた俺は、鞄から夢にまで見たカップ麺を取り出すと、戻ってきたアイルに声をかけた。


「おかえりー。なあ、今からお湯って沸かせるか?」

「ただいまっす。えっと、お湯っすか?勿論……あっ、今は無理っす。」

「えっ…?」


 へ…?マジかよ…、やっとカップ麺が食えると思ったのに…!


「火もつけられるし水も用意はできるけど、沸かすための道具がそう言えば無かったっす。お湯を使うつもりもなかったし、鍋は荷物になるから…。」

「そうか…。」


 一体、いつになったら俺はカップ麺が食えるんだ…。


「ま、町に着けば幾らでもお湯なんて用意できるっすよ!」


 あまりにもガッカリとする様子の俺に、アイルは慰める様にしてワタワタと手を動かす。いや、ちょっとショックが大きかったんだ。昨日の話で今日食えると思ってたから…。

 …でも、そうだな。町に着けば食えるんなら、もう少し我慢しよう。大丈夫だ、一生食えないわけじゃない…!


「えっと、ほら…!向こうにスーベリーの実がなってたっす!甘酸っぱくて美味しいっすよ!」

「…すまん、アイル、大丈夫だ。…じゃあ、また肉を焼こう。竈門じゃなくても炙ればいいし、それなら出来るよな?」

「それなら直ぐに用意できるっす!」


 ホッと息を吐き、俺が拾い集めた小枝を一箇所に纏めたアイルは、火の魔法を唱えた。


「《火の魔素よ(カフラム)》。」


 焚火の準備が整うと、アイルは肉を串に刺して、炙るために地面へブッ刺した。

 串というか、綺麗に洗って魔法で削った枝だけどな。正直、衛生面とか気にならないでもないが、昨日もやった事だし、諦めよう。


 焼くお肉は勿論俺のから。アイルはやっぱり自分の肉を食べようとしないから、俺の分を分ける。


 アイルが採ってきた木の実をポリポリ食べてる横で、一人肉を食うこの居心地の悪さよ。アイルが気にしなくても、俺は気になる。


 たった一匹でも二人なら多い量だが、町の人間と分けるなら足りなくなるだろう。俺の分はまだまだあるし、二人で少し食ったくらいじゃ無くならない。


 あ、俺も町で売って少しくらいはお金に変えておいた方がいいか。


「んー、お肉…美味しい…!」


 取り敢えず、アイルが幸せそうに食べてる姿が可愛いので、良しとしよう。実際美味いし。ぶっちゃけ、最初の惨状がアレなだけに、少しでもいいから癒されたい。女の子と二人きりなんて、まず有り得ない状況なんだし。



 そうして幸せそうな表情を眺めつつも肉を食べ終わり、俺達は再び動き出した。


 腹一杯に食べたわけではないが、空腹は収まったし、充分だろう。早く町に行きたかったし、カップ麺が食べたかった。


 魔法も結構慣れてきたのか、二時間くらいぶっ続けても平気になって、更にスピードが上がる。

 いつの間にか現れた微妙な獣道を辿り、俺とアイルはどんどん進んで行く。暫くして、目の前に大きな物が見えたところでアイルの動きがピタリと止まった。


「シュン、着いたっすよ。」

「おぉ…!」


 アイルの案内でやっと辿り着いたその町は、俺が思ってるよりも普通の外観だった。休憩は入れたが飛ぶスピードも早くなってた様で、夕方くらいには何とか着いた。

 明るい内に着いたおかげか、町からはいくつもの煙が立ち上がっている。思わず、他に人がいるんだなぁ…と、実感できるくらいには。


 そうして内心ドキドキしつつも、俺は先を行くアイルの後を着いていくのだった。

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