表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/206

第7章 2 突然のプロポーズ 

1


 ドミニク公爵との見合い?が済んで、サンルームへ出た時に、ミアが慌てて私に向かって駆けてくる姿が見えた。


「ああ!ジェシカお嬢様っ!お見合いが終わったのですね?!」


「うん・・・まあ、お見合いと言うか?顔合わせ?らしきものは一応終わったけど・・・。」


「それは丁度良かったですっ!お願いします!ジェシカお嬢様を尋ねていらしたアラン王子と名乗る方が・・・キャアッ!」


 その時、突然マリウスとアラン王子が目の前に現れた。どうやら転移魔法を使ってこの部屋へとやってきたらしいが、心臓に悪い事この上ない。

おまけにアラン王子は興奮しまくっている。


「ジェシカッ!!」


「キャアッ!な、何ですか?アラン王子?」


突然ガシイッと私の両肩を掴むと言った。


「マリウスに聞いたのだが、お前今日は見合いだったって言うのは本当なのか?!」


くっ・・・!マリウスめ・・・。何故アラン王子に余計な話を・・・。私はマリウスを恨めしそうに見たが、肝心のマリウスは知らんぷりをして視線を合わそうとしない。


「どうなのだ?!早く答えろっ!」


アラン王子は興奮のあまり、私をガクガク揺さぶる。目、目が回る・・・。


「そ、そうですっ!たった今お見合いというか、顔合わせを済ませた所ですっ!は、離してください。目が回りますからっ!」


私が叫ぶとようやくアラン王子は私を離したが、興奮収まらぬのか、荒い息を吐いている。


「どういう事だ?!何故俺に黙って見合いなどした!」


アラン王子は突然意味の分からないことを言い出した。


「はい?何故お見合いするのにアラン王子に報告をする義務があるのですか?と言うか、そもそも昨夜突然父からお見合いをするように言われたのです。私の意思でお見合いをしたわけではありませんよ?」


「見合いをするのに俺に報告する義務は無い・・・だと?」


アラン王子は私の言葉に相当ショックを受けたのか、大きくよろめくとカウチソファに、ドサリと座り込み、まるで魂が抜けてしまったかのようになり果ててしまった。


私はマリウスをキッと睨み付けると言った。

「マリウスッ!どうしてアラン王子に私がお見合いした事を話したりしたの!と言うか、それよりも何故アラン王子からの手紙を私に渡さなかったのよ?!」


「そんなのは簡単な事です。アラン王子の手紙をお嬢様に渡したくは無かったからですよ。」


「はあ?」

私が呆れた声を出すと、アラン王子も反応した。


「おいっ!マリウスッ!お前だったのか?ジェシカに送った手紙を勝手に盗んでいたのは?!」


「嫌ですねえ。盗むなどとは人聞きの悪い・・・ただお預かりしていただけですよ。何せお嬢様は昨日まで体調を崩されてお休みされていたのですから。」


「何?!それは本当の話か、ジェシカ?」


アラン王子は私に向き直るとじっと見つめた。


「確かに・・・良く見ればジェシカ・・。随分やつれてしまったじゃないか。大丈夫だったのか?」


アラン王子が私の両頬に手を添えると、マリウスがその手をはたき落す。


「馴れ馴れしくお嬢様に触れないで頂けますか?アラン王子。」


「マリウスッ!貴様・・・ッ!」


激しい睨みあいをする2人。


 その時、突然廊下がバタバタと騒がしくなり、サンルームへ飛び込んできた人物達がいた。

現れたのは父、母、それにメイドのミアだった。

どうやらいつの間にかミアが彼等を連れて来たようだ。


「ジェ、ジェシカッ!」


父が私を呼ぶと、何故か素早くアラン王子が父の前に立つと言った。


「初めまして。俺はトレント王国の王太子、アラン・ゴールドリックと申します。この度はジェシカ嬢に大切なお話があり、この城へ参りました。」


「ええ、ええ。先程貴方の父であらせられます国王陛下から直々に親書を頂きました。その内容に大変驚いております。」


父は汗を拭きながら言った。え?その内容とは?一体何が書かれていたのよ?!


「本当に、まさか王太子様自らが私達のジェシカを・・・!」


母もかなり興奮しまくっている。何だか非常に嫌な予感がする・・・っ!

マリウスも何かを感じたのだろう。眉を潜めて難しい顔をしている。

一方のアラン王子はご機嫌だ。


「そうか、なら早速・・・。」


アラン王子が言いかけた時、そこへアリオスさんが飛び込んできた。


「お取込み中の所、失礼致します。フリッツ王太子からたった今連絡が入り、ジェシカお嬢様を城へ連れてくるようにとの事です。もう迎えの車が到着しております。」


「な、何だって?!フリッツが?一体ジェシカに何の用事があるというのだ?!」


アラン王子は焦っているし、マリウスはイライラしながら爪を噛んでいる。

一方の両親は慌てふためいて右往左往している。


「一体、何なのよ・・。」

訳が全く分からない私はポツリと呟くのだった・・・・。




「フリッツ王太子様からの御達しではジェシカお嬢様を御1人で城へ寄こすようにとの事でした。」


「何だって?!一体どういう事なんだ?俺はフリッツから何も聞かされていないぞ!第一俺は今フリッツの城に、滞在中の身だ!その俺を差し置いてジェシカだけ寄こせとは納得いくはず無いだろう?!」


アリオスさんの言葉に、アラン王子は納得がいかないのか喚いた。


「しかし、そのように駄々を捏ねられても・・・先方からそのように仰られましたので・・・。」


アリオスさんの言葉にアラン王子は益々激怒した。


「なっ・・・!駄々を捏ねるだと?!俺がいつそのような真似をしたっ!」


う~ん・・・流石はアリオスさん。やはりマリウスのお父さんなんだと改めて感じさせられた。言い方に何となく毒を感じるものなあ・・・。

 

「何をしているのですか、ジェシカッ!もう着替えはいいので、すぐに迎えの車に乗りなさいッ!」


私は母に背中をおされるように車の所まで連れて行かれた。


「お嬢様ッ!」


「ジェシカッ!」


マリウスとアラン王子が同時に私の名前を呼んだが、私にはどうする事も出来なかった・・・。


「ジェシカ・リッジウェイ様でいらっしゃいますね?」


城の前に待機していた運転手は恭しく私に挨拶をした。

「は、はい。私がジェシカですが。」


「フリッツ王太子様がお待ちです。どうぞお車にお乗り下さい。」


ドアを開けられ、私は車に乗り込むとドアが閉められ、車は出発した。

城の入口では恨めしそうな目でこちらを睨んでいるマリウスとアラン王子。

そして両親が心配そうにこちらを見つめていた。


 はあ・・・。勘弁してよ・・・。私は溜息をついた。

一体フリッツ王太子が何故私を呼んだのかさっぱり理解出来ない。大体私とフリッツ王太子は一度も会った事が無く、面識が無い。そんな私をどうして・・・?

ひょっとするとこの間フリッツ王太子が主催したダンスパーティーに参加した令嬢達が全員呼ばれたのだろうか?そう言えば、確かあのパーティーはフリッツ王太子の花嫁選びが目的だと言っていたし・・・。


 それにしても今頃リッジウェイ家では大騒ぎになっているのではないかと思うと憂鬱で堪らなかった・・・。よりにもよってあの場にアラン王子が居合わせたと言うのは最悪のタイミングだと言える。



「こちらでお待ち下さい。」


 私が城に着くと、黒の燕尾服を着た男性が部屋へと案内した。てっきり私はこの間パーティへ招待された令嬢達全員が集められるのかと思っていたのに、どうやら呼び出されたのは私1人きりのようだった。

広さが30畳ほどの部屋・・・ここは執務室だろうか?

まるで家具自体が立派な芸術作品のような美しい作りに思わず目を奪われ、キョロキョロしていると、奥の扉がカチャリと開けられ、1人の若い男性が部屋の中へと入って来て、私に話しかけて来た。



「やっと再会出来たな。ジェシカ・リッジウェイ。」


「え・・・あ、貴方は・・・?」

私の前に現れたのは、青い髪に金の瞳の男性・・・私がダンスパーティーの夜に出会った青年だった。戸惑っている私に青年は語りかけて来た。


「そう言えば、自己紹介をしていなかったな。俺の名前はフリッツ・アイオーン。ヨルギア大陸、リマ王国の第一王位継承者だ。よろしく、ジェシカ?」


「こ、これは・・・ま、まさかフリッツ王太子様だとは知らず、とんだ失態を・・・っ!」

私はさっと頭を下げた。ああ!思い出すだけで恥ずかしい。いくら知らなかったとは言え、仮にも王子様の前で、ドレスをたくし上げて塀を乗り越えたり、ハイヒールを脱ぎ棄てて飛び降りたり・・・。

まさか、王太子の目の前で無礼な態度を取った為に不敬罪に問われて、呼び出されてしまったのだろうか・・・?!


 しかし、フリッツ王太子はクスクス笑うと言った。


「いや、あの日の夜程楽しかった事は今まで一度も無かった。本当にお前のお陰で刺激的な夜を過ごす事が出来た。」


そしてフリッツ王太子は急に真面目な顔になると言った。


「俺があのパーティーを開催したのは何故か知っているだろう?」


「ええ・・・。結婚相手を探す為だと伺っておりますが・・・?」

最も私は家の名誉を守る為だけに参加したんだけどね。


 すると、突然フリッツ王太子は私に歩み寄ると、右手を取って私に跪いた。

え?えええっ?!い、一体何?!


フリッツ王太子は私を見上げると言った。


「ジェシカ・リッジウェイ。俺は貴女が気に入った。貴女さえよければ、どうか私と結婚して頂けないだろうか?」


そしてフリッツ王太子は私の手の甲に口付けしてきた―。




2


え?今何て言ったの?結婚して欲しいと言われた気がしたけど・・・?

フリッツ王太子は熱のこもった目で私を見つめ、右手を未だに握りしめている。


「あの~。」


「何だ?」


「そろそろ手を離して・・・頂けないでしょうか?」


「ああ、すまなかったな。」


フリッツ王太子は手を離すと立ち上がり、私を見下ろした


「それで、どうなのだ?返事を聞かせてくれないか?」


はい?!

「あ、あの、今ですか?!」


「ああ、駄目なのか?」


「い、いくら何でもそんな大事な事をこの場で返事をするのは・・・そ、それに私とフリッツ王太子様はお互いの事、殆ど何も知りませんよね?!」

仮にも相手はこの国の王太子。ごめんなさい、貴方とは結婚する事は出来ませんなんておいそれと断ることなど出来るはずが無い。。

な、何とか今はこの場を回避しなければ・・・っ!


「そうか、それでは今からお互いの事を知り合えば良いのだな?では始めに互いの趣味についてでも話をしようか?」


フリッツ王太子は私の手を引いてソファに座らせると、自身も隣に座った。


「あ、あの!何故私なのですか?あの日は大勢の令嬢達が集まっていましたよね?私よりずっと品があって美しい女性達が居たと思いますけど?」

お願い、何とか諦めて!


「いや、お前以上に魅力的な女性はいなかったな。では、俺の方から自分の事を話そうか?」


だ、だから私の言いたい事はそんな事では無くて・・・。


その時。

コンコン

ドアをノックする音が聞こえた。


「何だ?今取り込み中なんだが?」


フリッツ王太子は眉をしかめてドア越しに言うと、外から声が聞こえた。


「何だとは何だ。随分自分勝手だな?お前の方から俺を呼び出しておいて。」


ん?何だかあの声には聞き覚えがあるような・・・?


「ああ、そう言えば、そうだったな。悪かった、中へ入ってくれ。」


フリッツ王太子が言うと、ドアがカチャリと開けられ、青年が入ってきた。

私はその青年を見て、驚きのあまり目を見開いた。

一方の青年も驚いた様に私を見つめる。


「ジェシカ・・・何故ここに・・・?フリッツと知り合いだったのか?」


「ドミニク公爵様・・・。」

私は彼の名前を口にした。



「何だ?お前とジェシカは知り合いだったのか?」


何も事情を知らないフリッツ王太子がドミニク公爵に尋ねた。


「知り合いも何も・・・ジェシカは俺の見合い相手だが?つい先程会ったばかりだ。」


「何だって?」


フリッツ王太子の顔が曇った。


「ジェシカ、今の話は本当なのか?」


「は、はい・・・。本当です・・・。」

う、何だか迫力があって怖いんですけど・・・。


「それより俺の方こそ聞きたいのだが?何故お前がジェシカと一緒にいるのだ?」


ドミニク公爵は眉をひそめると言った。

ああ、何だか非常に嫌な予感しかしない。何故私はいつもトラブルに巻き込まれるのだろう?もう帰りたい・・。うう・・・久しぶりに胃が痛くなってきた。


「ああ、俺はこの間のダンスパーティーで偶然ジェシカと知り合って、気に入ってしまったのだ。だからつい先程結婚を申し込んだところだ。」


フリッツ王太子は挑戦的な笑みを浮かべると言った。

ああ~っ!!言っちゃったよっ!


「何?結婚を申し込んだだと?ジェシカ、本当なのか?」


ドミニク公爵は私から視線を逸らさずに尋ねてきた。


「は、はい・・・本当です・・。」

思わず俯いて返事をすると、突然ドミニク公爵は私に歩み寄ると、両手で私の頬に触れると自分の方を向かせた。


「ジェシカ、俺の目を見て話せと言っただろう?」

至近距離でドミニク公爵と見つめ合う形になる。彼の瞳には戸惑った私の顔が映っている。


「おい、あまりジェシカに触れるな。」


フリッツ王太子がドミニク公爵の肩に手を置く。

何だか段々険悪なムードになってきた2人。


「あ、あの・・・。お2人共落ち着いて下さい。」

しかし、2人は返事をせずに睨み合っている。どうしよう、このままでは・・・。


その時、ドアが勢いよく開け放たれた。


「ジェシカッ!!」


「お嬢様っ!!」


「マリウス?!アラン王子?!」

嘘でしょう?また余計なトラブルが・・・っ!


「ジェシカ!迎えに来たぞっ!さあ、俺と一緒にトレント王国へ行こう。」


アラン王子は私の両肩を掴むと言った。


「は?な、何故ですか?!」

いきなり何を言ってるのだ?この俺様王子は。


「何を言っておられるのですか?アラン王子。どうやら昼間から寝ぼけていらっしゃるようですね?さあ、お嬢様、私と一緒に邸宅へ帰りましょう。」


マリウスはアラン王子の手を払いのけると、私の肩を抱き寄せて言った。


「マリウス・・・貴様はまた王子の俺に対して・・・っ!」


アラン王子が憎々し気にマリウスを睨み付ける。


「何だ、アラン。お前・・・もう帰って来たのか?」


溜息をつきながらフリッツ王太子が言うと、アラン王子が激怒した。


「フリッツ!お前・・・俺は言ったよな?!ジェシカは俺の愛する女性だから絶対に手を出すなとっ!」


その言葉を聞いて私は仰天した。まさか、こんな一種即発な雰囲気の中でそのような爆弾発言をするとは思いもしなかった。

「ええ?!ア、アラン王子っ?!」


「な・・・何だって?!」


アラン王子の言葉を聞いて、真っ先に反応したのはドミニク公爵だった。

するとアラン王子はドミニク公爵に気が付くとズカズカと近寄り、言った。


「お前が、ジェシカの見合い相手なのか?」


「あ、ああ。そうだ。」


「俺はトレント王国の王太子、アラン・ゴールドリックだ。ジェシカとは同じ学院に通っている。いいか、良く聞け。俺はジェシカを愛している。リッジウェイ家宛ての父からの書簡が本日彼女の家に届いているのだ。アラン・ゴールドリックはジェシカ・リッジウェイを花嫁として望む―と。」


「な・・・何ですって?!」


「何だと?」


私より先に反応したのがマリウスとドミニク公爵だった。2人が先にアラン王子の言葉に反応した為、私は出遅れてしまった。と言うか、正直あまりにも突然の事で今の状況が全く理解出来なくなっていた。


「ジェシカ。」


アラン王子が私の方を振り向き、名前を呼ばれてようやく私は我に返った。

「は、はい!」


「ジェシカ、見合いなんか断れ。お前は俺の気持ちをとうに知っているのだろう?俺が愛する女性はジェシカ只一人だ。どうか俺と結婚してくれ。」


「アラン王子・・・。」

ここで普通の女性ならおそらくはポ~ッとなってしまうだろう。何せ相手はイケメン王子様なのだから。しかし、私の場合はそうはいかない。何故ならアラン王子はこの私の作った物語のメインヒーローだ。そして私は悪女のジェシカ。今ここで私を断罪したドミニク公爵が登場したと言う事は、あの悪夢通りの未来を辿るのはほぼ間違いない。

だからこそ、私は早急に今の生活から逃げ出さなければならない。

故に絶対にアラン王子と結婚等はあり得るはずがない。


 私が返事に窮していると、素早くマリウスが割り込んできた。


「勝手な事ばかり言わないで頂けますか?アラン王子。お嬢様はどなたにも渡しません。私だけの大切なお方なのですから。」


マリウスまで!一体何を言い出すのよ!お願いだからこれ以上揉め事を増やさないで下さい。


「そうか・・・そういう事か・・・。」


フリッツ王太子はククク・・・と面白そうに笑った。


「ジェシカ・リッジウェイが悪女と呼ばれるのはこういう由縁があったのか。次々と男の心を虜にする・・・。成程、これでは悪女と呼ばれても仕方あるまい。」


えええっ!そ、そんな解釈をしてしまうの?!

「フ・フリッツ王太子様っ!な、何て事言うのですか・・・・?!」


「ああ・・・俺もそう思う。」


ポツリとドミニク公爵が言った。


「ドミニク公爵様まで?!」


一方、アラン王子とマリウスは激しく火花を散らし、2人だけの?世界に浸っている。


「だけど、その分だとジェシカ・・・・。まだ俺にもこの勝負、参加する余地はありそうだな?お前はどうするんだ?ドミニク。ジェシカは単にお前にとっての親から勧められた見合い相手で終わるか?」


フリッツ王太子は面白そうにドミニク公爵に言う。


「俺は・・・。」


ドミニク公爵は私をじっと見つめると言った。


「ジェシカとなら・・・・この先、新しい自分を見つける事が出来る気がする・・。」


何故か意味深な事を言う。


「ドミニク公爵・・・。」


「ジェシカ、来学期から・・・・よろしくな。」


そして私を見て笑みを浮かべた。


その後-


結局、このままでは埒が明かないとして何とか私は彼等を説得し、一旦保留にする事に決め、解散する事となった。




 そしてマリウスとの帰路、私は思った。

このままではまずい・・・。何とかここから逃げる方法を考えないと―。





3


両親の待つ邸宅へ帰宅後は質問の嵐だった。お見合いはどうだったか、アラン王子とはいつから付き合っていたのか、フリッツ王太子の要件は何だったのか・・等々。

それらの、質問を適当にあしらい私は部屋にこもってしまった。

1人で色々じっくり今後の自分の身の振り方を考えたかったからだ。

マリウスがしきりに私と話たい素振りを見せていたが、それもシャットアウトした。


「ふう・・・。これからどうしよう。」

こんな事になるなら家に帰って来ないほうが良かったかもしれない。学院に1人残り、マリウスのマーキングも切れてるので逃亡する事だって可能だったはずだ。

でもウィル達に攫われて、一度は死んでしまった私。

となると絶対に1人で寮に残るなんてどのみち許される事では無かっただろう。


 私は学院から持ち帰ったトランクケースから隠しておいた財布を取り出した。この中には1千万円は下らない現金が入っている。


「これだけあれば1年位は逃亡生活をおくれるかな・・・?」 


 問題はいつ荷物を持ってここを立ち去るか。この分だとアラン王子やフリッツ王太子が連絡を入れてくるか、最悪家にやってくるかもしれない。一度でも監視が付けば、もう逃げ出すチャンスは無いだろう。


 私は時計をちらりと見た。

午後6時・・・もうすぐ夕食の時間だが、今日はあれこれ尋ねられるのが嫌だったので食欲が無いからと言って断ってある。


「はあ・・・。」


何度目かのため息をついた時、誰かが私の名前を呼ぶ気配を感じた。


「ジェシカ・・・。」


「え?」

慌てて振り向くと、私の部屋の床に直径1m程の光り輝くサークルが浮かびあがり、そこから人の姿が現れた。

その人物は・・・。

「ドミニク公爵様っ?!」


「すまなかった。突然お前の部屋に現れるような真似をして・・・。」


「あ、い、いえ。確かに驚きはしましたが・・・一体どうされたのですか?」


「実は・・・昼間の件で話たい事があって・・・。」 


何故か言葉を濁すドミニク公爵。


「分かりました・・・。ここではまずいので、場所を変えませんか?」


「そうだな。何処が良い?」


「あの、もし宜しければ王都に行きませんか?私あまり王都の事知らないんです。出来ればカフェみたいな場所へ行きたいです。」


それを言うと、ドミニク公爵は妙な顔をした。

「ドミニク公爵様・・・?どうかしましたか?」


「い、いや。俺と出掛けても良いのかと思って。」


「どういう意味ですか?」


「いや、何でも無い・・・。では行こうか?」


「はい。」


後ほど私は公爵が自分と一緒に出掛けるのを何故渋ったのかを知る事となるのだった・・・。



私が防寒着を着ると、公爵が側に来てパチンと指を鳴らした。

すると、途端に私達の足元に風が舞起こり、周囲の景色が一瞬で消え、目の前の風景は王都の町並に変わっていた。


「ドミニク公爵様も素晴らしく魔力が強いお方なのですね。」

私は感心した。

公爵はそれには答えず、ただ口元に笑みを浮かべた。


「何処の店に入りたい?」


2人で並んで歩きながら公爵は尋ねてきた。

「何処でも構いません。ドミニク公爵様が決めて下さい。」


「そうか・・・?なら、あの店が良いかな・・・?」


公爵は歩きながら思案しているようだった。そして連れて来られた店はフロアが2階まで及ぶ大きなカフェだった。

その店はお洒落なカフェで夜はアルコールも飲めるようになっているらしく、店内に入ると、アルコールを楽しむ人々で埋め尽くされていた。


「ここは食事が美味しい事で有名な店だ。ジェシカは食事は済ませたのか?」


空いてる席に座ると公爵が尋ねて来た。


「いえ。実は今夜は食事は取っていません。」


「そうか、なら良かった。一緒に食事をしようか?実は俺もまだなんだ。」


公爵はメニュー表を渡しながら言った。


「それはいいですね。うわあ・・・カフェなのにメニューが豊富ですね。それに夜用のメニューもあるみたいですよ。」


「夜はアルコールも出すから、メニューを変えているんだ。」


公爵はメニュー表を少しだけ見ると、テーブルの上に置いた。


「公爵様、もう決まったのですか?」


「ああ、俺に気にせずにゆっくり選ぶと良い。アルコールが飲みたいなら、頼んでも構わないぞ。」


「アルコール・・・ですか。」

どうもアルコールと言われると、アラン王子との一夜を思い出してしまう。正体を無くす程酔ってしまい、あんな事になってしまうとは・・。なのであれ以来、なるべくアルコールを外で飲まないようにしてきたのだ。まあ、この間のパーティーではグラス1杯程度は飲んでしまったけれども。


「ん?アルコールは飲まないのか。だったらソフトドリンクにしておけばいい。」


「公爵様はどうされるのですか?」


「俺は・・・アルコールは好きだから飲もうかと思っている。」


「では、私も少しだけなら・・・。」


こうして私は久々に大好きなカクテルとチーズフォンデュを注文し、公爵はワインとピザを注文した。



「それで、私に話したい事があると仰っていましたが・・・どのようなお話ですか?」

私はカクテルとおつまみのチーズフォンデュを口にしながら尋ねた。


「実は・・・今回の見合いの話についてなんだ・・・。ジェシカにはっきり確認したい事がある。本当は・・・俺との見合いの話、乗り気では無かっただろう?」


「え?」

いきなり確信を付いた話で私は思わず持っていたグラスを取り落しそうになった。


「な、何故そう思ったのですか?」


「そんなのは見て分かるさ。」


公爵は自虐的に笑ってワインを口に運んでいる。


「そ、それは私なんかがお見合い相手では気の毒だなって思った次第で・・・。現に私はこの国では悪女として有名だったみたいですから。」

何とか言い訳を頭の中で考えながら私は言葉を発する。


「ああ、そうだな。確かにジェシカ・リッジウェイはこの国の界隈では悪女として有名だった。」


「そうですか・・・。」


「だからこそ、ジェシカの両親も俺の両親も俺が見合い相手に妥当だと思ったんだろうな。」


「・・・。」

私は何とも言えずに黙っていると、公爵は言った。


「どうして欲しい?」


「え?」


「俺から、今回の見合いの話・・・断ってやろうか?ジェシカはそれが望みなんだろう?そうすれば俺に気兼ねなくフリッツかもう1人の王子を選ぶことが出来るからな。」


私は慌てた。

「ちょ、ちょっと待って下さい。何故ここでアラン王子とフリッツ王太子のお2人が出てくるのですか?あの方達は全く関係無いですよ?」

ドミニク公爵は大きな勘違いをしているようだ。私がお見合いを断って欲しいと思っているのは、彼が夢の中で私に処刑を言い渡した人物だからだ。私が誰も選ばないのは、近い将来誰も私の事を知らない大陸へ行き、あの時見た悪夢が現実になる前に逃げるつもりだから・・・。決して個人的にドミニク公爵が嫌だからと言ってるわけでは無い。

でも、公爵にはそう思われてはいない様だった。

このまま勘違いされていては非常にまずい・・・。


 私はカクテルを飲みながら、公爵に何と釈明すれば良いのかを考えていた時、ふいに公爵が立ち上り、私に声をかけた。


「店を出よう。」


上着を掴むと言った。


「え?突然どうしたのですか?」

急な事で私は驚いて尋ねた。


「あいつ等・・・。」


公爵はチラリと数メートル先に座っている4人の男性達を見た。彼等はいずれも身なりの良い恰好をしている所を見ると、恐らく貴族では無いだろうか?

彼等は全員ドミニク公爵を何処か軽蔑したような視線でチラチラと見ている。


「あの・・彼等は・・・・」


私の返事を待たずに公爵は私に上着を着せると、手を繋ぎ、カウンターでお金を払うと足早に歩きだす。

そんな私達の後を彼等が追って来た。


「!あの人達・・・追いかけてきますよ?!」


「ああ、分かっている。」


公爵は何処へ向かっているのか、歩き続け、手を繋がれた私は必死で後を追う。


やがて人の姿が見えない公園へ来ると、公爵は足を止めた。

「一体、俺達に何の用事だ?」


え?いつの間にか囲まれている?!私は無意識にドミニク公爵の背中に縋りついていた。


「いや、悪魔と言われているドミニク公爵が珍しく女を連れているから、少し興味があってな~。」


「そうそう、しかも偉く美人を連れているからなあ?」


「ひょっとして、悪魔と呼ばれているその男に何か脅迫でもされて一緒にいるのかと思って、俺達は君を助けに来たのさ。」


「そんな不気味な男の所にいないで、俺達の所へ来いよ。」


全員が下卑た笑いでこちらを見ている。私は彼等がドミニク公爵に対して酷い言葉を投げつける彼等を許せなかった。


「い・・いい加減にしてください!ドミニク公爵様が悪魔?不気味な男ですって?少なくとも私はそんな風には思いません!公爵様の漆黒の髪も、オッドアイの瞳も・・・とても美しいと思っていますっ!」


「ジェ、ジェシカ・・・。お前は・・・。」

ドミニク公爵の瞳に初めて動揺する色が見て取れた。


「いいから、そこの女、こっちへ来いよっ!」


「おい!女には絶対魔法弾は当てるなよ?!奴にだけ当てるんだっ!」


見ると4人全員が両手を前にかざし、魔法弾を作り上げていた。


「撃てっ!!」


1人の男の掛け声で男達は一斉に魔法弾を投げつけた!


パチン!


ドミニク公爵は指を鳴らす。そして・・・・彼等の手の中で魔法弾は弾け飛んだ。

途端に激しい悲鳴を上げて、地面にのたうち回る彼等。どうやら彼等は爆発に巻き込まれて、火傷を負ってしまったようだった。


 こうして勝負は一瞬でついてしまった。

その後、私達は公園で若者たちが火傷をして倒れていると病院に通報をし、公園を後にした。



「今夜は・・すまなかった。お前を妙な事に巻き込んでしまって。」


帰る道すがら、公爵はポツリと言った。


「俺に関わると、色々な厄介ごとに巻き込まれてしまうって事が分かっただろう?まあ仕方が無いんだけどな。この黒髪と左右の瞳の色が違うって事で化け物扱いされて・・・。そんな俺だから悪女と呼ばれた俺の見合い相手としてジェシカがぴったりだと思ったんだろうな?」


そして悲しそうに笑った。この人は・・・何て寂しい人なのだろう。いずれは私を断罪する相手でも、幸せになって欲しいと願わずにはいられない。

だから私は言った。

「ドミニク公爵様、貴方は化け物などではありません。先程も申し上げましたが、公爵様の黒髪も・・・左右の色が違う宝石のような瞳も・・とても綺麗です。」


「そうか・・・ありがとう・・。」


公爵はこの時初めて優しく微笑んだ。月明かりに照らされた輝くような黒髪は、本当に美しいと私は思うのだった―。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ