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アラン王子の悪友

 ジェシカがマリウスと姿を消して早、5日が経過しようとしている。

かく言う俺も、あの後はすぐに自分の国へ飛行船に乗って帰ってきた。


 窓の外を眺めつつ、本日何度目かのため息をつく。

ジェシカに会いたい・・・。これから約1ヶ月もの間、ジェシカに会えない日々が続くなど耐え難い苦痛だ。いかにジェシカの存在が俺にとってかけがえの無い存在となっていたのか、改めて思い知らされた。


「アラン王子、今少しお時間よろしいですか?」


ドアがノックされ、ルークの声がした。


「ああ、入れ。」  

するとルークは白い封筒を手に持っている。


「アラン王子、ジェシカの住む国が何処か分かりましたよ。」


「本当か?!ジェシカは何処にいるのだ?」


「はい、ここより西にありますヨルギア大陸のリマ王国にいます。」


「ヨルギア大陸・・・?そういえば、あの国はフリッツのいる国じゃないか?!」


フリッツは俺の遠縁にあたる2歳年上の王子で、まだ幼い頃はよく互いに行き来していた仲だ。今も手紙のやり取りは欠かさない。


「それで、先程フリッツ王子から手紙が届いた所なので、お持ちしました。」 


俺はルークから手紙をひったくるように奪うと、すぐに開封して目を通した。


そして読み終えると言った。


「ルークッ!俺は、今すぐヨルギア大陸に向かうっ!すぐに出立の準備を始めてくれっ!」


「え?ええ~っ?!」


ルークの叫び声が辺りに響き渡った・・・。

こうして俺は、周囲の反対を押し切って、再び転移魔法で約4000k離れたヨルギア大陸へ2日かけて転移したのだった・・・。



「ハハハ・・・それにしてもアランが共の者を一人も付けずにこの国へやってくるとは驚きだな?」


2歳年上のフリッツは俺を出迎えると愉快そうに笑った。


「ああ。どうしても緊急の用が出来たからな。」


「ふん・・緊急の用?俺はただもうすぐ俺が始めて参加するウィンターパーティーを開催すると手紙に書いただけだが?」


「その内容が問題だ。この王都に住む独身貴族全員を呼んだらしいな?お前の事だ。周りから結婚を急かされ、このパーティーに招待した適当な独身女性を見つけて、妃に選ぶつもりだろう?」


「それの何処が問題なんだ?」

 

フリッツは首を傾げた。


「どうせ妃に選ぶなら爵位が高い相手を選ぶ事になる。恐らく伯爵家以上の・・・公爵家とかな。」


「うん、まあそうなるだろうな?」


「問題はそこだ。フリッツ、リッジウェイ家の令嬢だけは選ばせない。彼女は俺のものだ。」


「リッジウェイ家・・・?ああ・・・そういえば、噂は聞いた事があるな。なんでもとんでもない悪女で、見合い相手からは次々と断わられ、昨年は婚約破棄されたそうだな?彼女を気に入らない女性達から噂で聞いたぞ?何だ、アランはそんな悪女と名高い女に興味があるのか?そもそも何故その女の事を知ってるのだ?」


俺はフリッツの言葉が全く信用出来なかった。ジェシカが悪女だと?そのせいで婚約破棄されていた?嘘だ!そんな噂信じられるはずが無いっ!これはきっとジェシカに嫉妬した女どもが流した音も葉もない噂に決まっている。

「ジェシカは・・・俺の通っているセント・レイズ学院のクラスメイトで、俺の愛する女性だ・・・。」


それを聞いたフリッツは目を見開いて、俺に言った。


「愛する女性だって?!ア、アラン・・・お前、本気で言ってるのか?!」


「ああ、本気だ。だから俺はここに来たんだ。ジェシカに会う為に・・・そしてお前にジェシカを渡さない為にな。」


フリッツは唖然とした顔で俺を見ていたが、やがて可笑しくてたまらないと言わんばかりに大声で笑い始めた。


「こ、これは面白い・・・っ!い、いいだろう。お前も、パーティーに国賓として参加しろよ。是非とも一度、俺にもその女を紹介してくれ。」


「手を・・・出すなよ?」

俺が睨みを利かすと、フリッツは肩をすくめた。



 こうして俺は急遽、国賓としてパーティーに出席する事になったのだ・・・。



「どうだ?アラン。お前のお目当ての女は見つかったか?」


ダンスが始まり、着飾った令嬢、令息達が優雅に踊っている。

フリッツと俺は壇上の高い位置から彼等を見渡していた。

ジェシカに付けたマーキングの効果が薄れてしまったのか、少しもジェシカの気配を感じられない。

「いや・・・見つからない。もしや来ていないのでは・・?」


「いや、来ているようだぞ?受付は済ませてあったからな。」


何処か嬉しそうにフリッツは俺を見ながら言った。


「そ、それよりお前は踊らないのか?元はお前の結婚相手を見つける為のパーティーだろう?ほら、見てみろ。女性達がお前をさっきからチラチラ見ているだろう?お前の誘いを皆待ってるんだ。」


「いや、それよりお前の想い人の方が興味あるな。それに注目を浴びてるのは俺だけじゃない。お前だって令嬢達から熱い視線を送られているぞ?どうだ?アラン。お前が熱を上げている悪女より、彼女達の方がお前の将来を俺は安心して見守る事が出来るがな?」


全く嫌な奴だ・・・。その時、パーティー会場の隅の方で騒ぎが起こった。


「何だ?騒がしいな。うん?あれは何だ?女の取り合いか?」


フリッツの見た先を俺も見て驚きで息を飲んだ。

いた!ジェシカだ―。


今迄見た事もないドレス姿に化粧を施し、緩く巻き上げた髪・・・その姿は周辺の女達の群を抜いて美しかった。


「何だ?女の取り合いか?おや・・・物凄い美女だな?一体あれは誰だ?まあ、あれ程の女なら争いが起きても無理は無い・・・か。」


「ジェシカだ・・・。」


「え?」


「間違いない!あれはジェシカだ。」

3人の男に取り囲まれ、その内の1人はジェシカの腕をにぎりしめている。ジェシカは困惑した表情を浮かべていた。

やめろ!ジェシカに近づくな!

気が付くと、俺は彼等に向かって歩いていた。


「お、おい、アラン?何処へ行くんだっ?!」

俺はフリッツが止めるのも聞かず、

ジェシカの側へと歩み寄っていく。


近付くに連れ、男達はジェシカを巡って争っているのがよく分かった。

くそっ!あいつ等・・・!よくも俺のジェシカを・・・。

心の中で毒づいていると、俺は1人の女がグラスを持って、何かジェシカに喚いている姿を見た。


そして、その女がジェシカに向かっていきなりグラスを投げつけたのだ!

ジェシカッ!

俺は急いでジェシカの前に飛び出し、グラスを腕で受け止めた。


バシャッ!

水が俺の身体にかかり、グラスは床に落ちて派手な音を立てて、粉々に砕け散った。


「ジェシカ・・・大丈夫だったか?

俺は振り返ると言った。


「アラン王子・・・。」


ジェシカは俺を見つめて、信じられないと言わんばかりに声を震わせて名前を呼んでくれた。

その姿は、とても美しかった―。



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