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第5章 6 ジェシカの故郷

1


 その後・・・・私の訴えとグレイの進言が功を成したのか、ジェイソンは極刑を免れ、刑がぐっと軽くなり3年間の懲役刑と決まった。

私がその事を知らされたのは里帰りをする当日の朝、駅まで見送りに来てくれたレオとウィルからだった。



「ジェシカ、色々ありがとうな。お前のお陰でジェイソンは極刑を免れたよ。なのにあいつ、ちっともお前に感謝していないんだぜ。」


ウィルが面白くなさそうにしている。


「別に感謝して貰うために刑を軽くして貰ったわけじゃ無いからそんな事いいよ。」

私は苦笑しながら言った。


「でもなあ・・・幾ら何でも3年の懲役刑なんて軽すぎるぜ。何て言ったってあいつはジェシカを一度死なせたんだぞ?」


レオが言うと、マリウスもそれに賛同した。


「ええ、全くあの男は外見もさることがながら、性格も怖ろしく醜く歪んだ男です。あのような男は社会に出ても迷惑をかけるだけの存在です。本来であれば極刑の罰を与るべきだったのに・・・お嬢様の温情で刑を免れるとは。あのような男は流刑島へ送って一生島から出られぬように閉じ込めておくべき悪しき存在だと私は思います。全く、何て忌々しい・・・。」


マリウスはペラペラと恐ろしい事を一気に喋り、私とレオ、ウィルは思わず背筋が寒くなった。

余程、ジェイソンよりもマリウスの方が恐ろしい・・・。この男こそ、切れると何をしでかすか分かったものでは無い。それをアラン王子達は気付いているのだろうか?


「おい、ジェシカ・・・やっぱりお前の下僕って恐ろしい男だな。俺・・・こんな男相手に喧嘩売ろうとしてたのか・・・。脅迫状出さなくて本当に良かったよ。」


ウィルが私の耳元でボソリと呟いた。うんうん、私も本当にそう思うよっ!



そこへアラン王子がグレイとルークを引き連れてやってきた。


「ジェシカ、これから国へ帰るのだろう?」


アラン王子はマリウス達には目もくれず、真っすぐに私に向かって歩いてくると手を取った。アラン王子の背後には荷物を持たされたグレイにルーク、そして一緒にやってきた5人の騎士達もいる。・・・結局あの騎士達が話をしている姿は見たことが無かったなあ・・・。


「は、はい。今から国へ帰ります。」


するとアラン王子はとんでもない事を言って来た。


「ジェシカ、マリウスと2人きりで旅をするのはあまりに危険過ぎる。どうだ?この俺を一緒にお前の国へ連れて行く気は無いか?俺がお前をマリウスの魔の手から守ってやるぞ?それに、ジェシカの両親にも挨拶をしたいしな。」


はあっ?!いきなり何を言い出すの?アラン王子は・・っ!しかし私が声を発する前に反応したのはマリウスだった。

マリウスはアラン王子から引き剥がすように私を奪うと、自分の背後に隠しながら言った。


「アラン王子、朝から何を寝ぼけた事を仰っているのですか?どうやら睡眠不足と見受けられます。その分ですとまだ頭が起きていられないご様子ですね。悪い事は申しません。今からまたお泊りのホテルへ戻られて休まれてはいかがでしょうか?その間に私はお嬢様を連れて国へ戻りますので。」 マリウスは顔色一つ変えずに、一気に喋った。

それを聞かされたアラン王子は見る見るうちに怒りで顔を真っ赤にし、全身を震わせている。グレイやルークだけでなく、その場に居た全員が凍り付いた。


うっわっ!マリウス・・・相手は王子様だよ?しかも大国の、いずれは国王になられるお方なんだよ?それを分かっていて、そんな口を聞くわけ?!そこまで言えば侮辱罪で訴えられるんじゃないの?!


「マ、マリウス・・・貴様・・・ッ!よくも、この俺をそこまで馬鹿にしたな・・・?!」


アラン王子が右手を宙に向けると、そこからバチバチと光る弾が出現した。

え?え?ちょっと待ってよっ!今ここで魔法弾を使うつもりなの?冗談じゃないっ!

マリウスに謝らせようと思い、私はマリウスを振り返ると、そこで私は再び驚く事になる。な・何でマリウスも魔法弾を出現させているわけ?!

グレイやルーク、騎士達もどうしようもできないのかオロオロしているばかりだ。


「面白い・・・覚悟は出来てるか、マリウス?」


「ええ。その台詞、そっくりそのまま貴方にお返しいたしますよ、アラン王子。」


駅には大勢の人々が鉄道に乗る為に来ていた。まずい・・・、こんな人混みの中でそんな危険な魔法弾を使うなんて・・・っ!


私はアラン王子の前に飛び出してマリウスの方を見ると言った。

「やめて!マリウスッ」


「お、お嬢様・・・?何故止めるのですか?最初に魔法弾を出現させたのはアラン王子ではありませんかっ!」


「だけどっ!それはマリウスがあまりにアラン王子に対して失礼な事を言ったからでしょう?あんな言い方をされれば誰だって・・・っ!」


「ジェシカ・・・お前、自ら俺の前に身体を投げ出してマリウスを止めようとしているのか?魔法も使えないか弱いお前が・・・。」


私はチラリとアラン王子を振り返ると、何やら酷く感動している様子のアラン王子がそこにいた。

いいえっ!そんなではありません。ただ私はこんな場所で争いごとをして、騒ぎを起こしたくなかっただけです!


「え、ええ・・・。まあ、そんな所です。」

私は曖昧に答えるとアラン王子に向き直った。


「アラン王子、マリウスに変わりまして私が代わりに謝罪致します。どうかお許しください。そして、先程のアラン王子の提案ですが・・。申し訳ございませんが今回はお断りさせて下さい。」

私は頭を下げた。


それを聞いたマリウスがフフッと小さく笑ったのを私は聞き漏らさなかった。

一方のアラン王子は相当ショックを受けている様子で、しつこく食い下がって来る。


「何故だ?!俺はどうしてもお前の国へ一緒に行き、是非ジェシカのご両親に挨拶をさせて貰いたいのだ!頼む!この通りだっ!」


言うとアラン王子は何と私に頭を下げて来た!

すると・・・


「おいっ!それはどういう意味だよ?!だったら俺だってジェシカに付いて行くぞ!」


ウィルが大声で喚きだした。


「ボス、抜け駆けはいけませんぜ。なら俺だって行きますよ。」


レオまでおかしなことを言い始めた。


「アラン王子、当然俺達も付いて行きますよ!」


グレイが言うと、ルークは黙って頷いている。そして、そんな彼等をオロオロしながら見守っている5人の騎士達・・・。

もう辺りは凄い事になっている。


「ああ、もう煩くて溜まりませんね。こうなったら致しかたありません。」


マリウスは私達の荷物すべてを自分の足元に引き寄せ、さらにグイッと私の肩を掴み抱き寄せると言った。


「それでは、皆さま。ご機嫌よう。来年また学院でお会い致しましょう。」


「え?何をするつもりなの?マリウス。」


そしてマリウスは口の中で何やら聞いたことも無い呪文を唱え始め・・・。


それに気づいたアラン王子が焦った様子で叫んだ。


「ま、待てっ!マリウスッ!」


しかし、次の瞬間―

呪文が完成したのか、私はマリウスに抱きかかえられたままアラン王子達の姿が一瞬で消えるのを見た。



 次に私が目にした光景は今迄一度も見たことが無い場所だった。

広大な土地にはのどかな田園風景が広がっている。そして遠くの方に巨大な城が建っているのが見えた。あれはまさか・・・?


「ねえ、マリウス。あの城はもしかして・・・。」


マリウスを振り返ると、驚いた。何と、あのマリウスが地面に倒れて荒い息を吐いていたのだ。しかも顔色は真っ青でまるで死人の様だった。


「どうしたの?マリウスッ!ねえ、マリウスッ!しっかりしてっ!」

私は必死で揺さぶったが、マリウスが返事をする事は無かった―。




2


 マリウスは幾ら声をかけても返事をしない。こんなマリウスを見るのは初めてだ。

どうしよう?私にはここが何処なのかさっぱり分からない。あの城まで行けば何かわかるかもしれないが、歩けばかなり遠い場所にあると言う事は嫌でも分かる。

意識を無くした状態のマリウスを1人残して助けを呼びに行くわけには行かない。

誰か、誰か・・・通りかからないだろうか・・?

私は当たりをキョロキョロ見渡すと、300m程先だろうか・・・そこに小さな家が建っているのが見えた。

そうだっ!あそこに誰かいるかもしれないっ!


「マリウス、ごめんね。誰か人を呼んでくるから少しだけ待っててね。」

よく見ると私達の周りには荷物が置いてある。ひょっとするとマリウスは荷物ごと、この場所に転移魔法でも使ったのだろうか・・・?

トランクを開けて、中からコートを取り出し、マリウスが寒くないようにコートをかけると、その家に向かって駆け足で急いだ。



 その家はレンガで作られた小さな家で、煙突からは煙が出ているのが見える。家の裏手には厩舎があるのか、馬の鳴き声が聞こえている。


「すみませんっ!どなたかいらっしゃいませんかっ?!」

私はドンドンとドアをノックした。

すると、中から声が聞こえて来た。

「何だよ・・・飯時に煩いなあ・・・。」

言いながらドアを開けたのは、私と同じような栗毛色の髪の若い男性だった。私を見下ろしたその青年は途端に目を見開いた。


「ヒッ!あ、貴女は・・・ジェシカお嬢様っ?!な・な・何故このような場所に・・・?!」

この青年は私を知っている・・?だけど何故怯えた様子で私を見ているのだろうか?でも、そんな事今はどうだっていい。それよりマリウスの方が先だ。


「すみませんっ!お食事中だったのですね?そんな時間に突然お邪魔してしまい、申し訳ありません。実は一緒にいる連れが意識を無くして道端で倒れているんですっ!どうか、お力を貸して頂けないでしょうか?」


そして深々と頭を下げる。


「え・・・?」

青年の戸惑った声が聞こえる。私が頭を上げると、その青年は呆気に取られたように私を見ている。何かおかしなことを言ってしまっただろうか・・?


「あの・・・・・貴女はジェシカ・・お嬢様・・・ですよね?」

青年は頭をポリポリ掻きながら言った。


「はい、そうですけど?」


「い、いや・・・あまりにも雰囲気が変わったと言うか・・・。」


ああ!もうそんな話はどうでもいい!

「お願いですから、助けてくださいっ!このままだとマリウスが・・・っ。」


「え、ええっ?!マリウス様がご一緒なのですか?!」


青年はさらに驚く。なんと、この目の前の男性は私の事だけではなく、マリウスの事も知っているなんて。

そこまで考えていると青年が動いた。


「どちらです?マリウス様はどちらにいらっしゃるのですか?!」

壁にかけてある上着を掴んで、着こむと青年は家から出て来ると言った。


「あ、あの向こうの道端に倒れて・・・。」

私が着た方向を指さすと、青年は家の裏手に回ると1頭の馬を連れて戻って来た。


「ジェシカお嬢様、私は先にマリウス様の元へ参りますので申し訳ありませんが、お嬢様は後から来て頂いても宜しいでしょうか?」


「は、はい。私は大丈夫です・・・。」

返事をすると、青年は馬にまたがり掛け声を上げて馬を走らせると私がやって来た道を駆けて行った。

私はその後を追いながら思った。

え・・?私も前か後ろに乗せてくれても良いのに・・・と。


 私が先程の場所へ到着したころには、青年は馬に荷物をくくりつけ、マリウスを馬の背にもたれさせていた。

そして青年はヒラリと馬にまたがると言った。


「ジェシカお嬢様。俺は一足先にマリウス様を連れて城へ行きますので、ジェシカ嬢様は後からお越しください。」


そう言い残すと、また馬を走らせて行ってしまった・・・。

「なんだ、また私は歩かないといけないんだ。」

フウ、溜息をつきながら私は言った。

それにしても・・・あの城、この場所からひょっとすると物凄く遠いんじゃないの?!でも仕方が無いか。マリウスが優先だもんね・・・。

そして私はのどかな田園地帯をトボトボ歩き始めた。


 少し歩いてゆくと、そこは果樹農園なのだろうか、数人の男女が枝の剪定作業を行っているのが見えた。


「こんにちは。」

私は通り過ぎる時彼等に挨拶をすると、何人かがこちらを振り向き、悲鳴を上げた。


「ヒ、ヒイッ!ジェ、ジェシカお嬢様っ!お・お・お戻りになられたのですね?!」


中年の女性が怯えたように私に挨拶を返してくる。

他の作業員たちも一斉に私に帽子を取って深々と挨拶をしてくるが、何故だかみんな小刻みに震えているように見える。ひょっとすると・・・ジェシカって嫌われてるのかな?


他にも城に行く間に何人も道行く人々にすれ違ったが、全員が怯えた表情でこちらを見て挨拶をしてくる。


 ジェシカ・・・貴女、いったいどれだけここの人々に嫌われてるのよ・・・・。

でも、もう間違いない。ここはジェシカの故郷なのだ。

最初に助けを求めた男性は私の事を知っていたし、マリウスの事も・・・。

ああ、それにしても視線が痛い・・・。

私は何度目かのため息をつきながら城へと向かうのだった。


 もうすぐ城に辿り着くと言う時に、前方からクラシックカーがこちらへ向かって来るのが見えた。

それはとても古めかしいレトロカーで、私はその車を見て感動してしまった。

うわあ・・・まるで写真で見たことのある19世紀頃に走っていた蒸気自動車みたい・・。


 そして車は私の傍で止まると、中から超絶イケメンロマンスグレーのおじさまが車から降りて来ると、私の前に跪きいた。


え?だ・誰?この人は・・・

ジェシカの記憶が無い私にはさっぱりこの人物が誰なのか分からない。


「お帰りなさいませ。ジェシカお嬢様。」


そして、顔を上げたその人物はマリウスによく似ていた。



「あ、あの・・・。」

私が戸惑いながら声をかけると、男性は顔に笑みを浮かべると言った。


「ああ、そう言えばジェシカお嬢様は記憶喪失になっておられたのですよね?マリウスから話は聞いておりました。どうでしょう?私を見ても何も思い出されないでしょうか?」


男性はニコリとほほ笑むが、生憎私にはちっとも分からない。・・・まあ分からなくて当然なのだが。

「すみません・・・何も覚えていません。」


私の言葉に男性は驚きの表情を浮かべた。

「これはなんと・・・記憶喪失になった為に性格まで変わってしまわれたという、マリウスの話はやはり本当の様ですね。」


男性は立ち上がると言った。

「それでは再度自己紹介させて頂きます。私はリッジウェイ家に代々お仕えする筆頭執事、アリオス・グラントと申します。マリウスの父であり、幼い頃のジェシカお嬢様の教育係も務めておりました。


「マリウスの・・・?」

やはりそうだったのか。一目見た時から特徴的な銀の髪、印象的な緑色の宝石のような瞳・・。


「お嬢様、旦那様と奥様、そしてアダム様がお待ちです。さあ、すぐに邸宅へ参りましょう。」


私はアリオスさんの差し出された手を自然にとり、車に乗り込むとアリオスさんも車に乗り込み、エンジンをかけて車は走り出した。



「ジェシカお嬢様、この度はとんだ災難でしたね。マリウスから聞いております。冬期休暇に入ってすぐにジェシカお嬢様は何者かに誘拐され、あまつさえ弓矢に撃たれて瀕死の傷を負ったと。あの知らせを受けた時にはどれだけ皆さまが心配されたか・・・・。でもお命が助かり、本当に良かったです。それにしても情けないのはマリウスです。あれだけ常日頃から鍛錬を積み、ジェシカお嬢様を命がけでお守りするように幼い頃より言い含めておいたのに・・・。しかも今は魔力の枯渇で意識を失い、ジェシカお嬢様に助けて頂くなど・・・言語道断の話です。マリウスの目が覚めたら、もう一度強く言っておかなければ・・・。」


「いいえ、それは違います。」

私はアリオスさんの言葉を遮った。


「今回の件、悪いのは私の方なんです。マリウスに非はありません。だから、どうかマリウスを咎めないで頂けませんか?」


私が言うとアリオスさんは信じられないとでも言わんばかりの目つきで私を見ると言った。


「・・・本当に驚きです。ジェシカお嬢様は記憶喪失になられてからはマリウスの言う通り、まるで別人のようになられましたね。」


アリオスさんの言葉に私は思わずドキリとした。


「そ、そうでしょうか?」



「ええ、本当に。これでしたら先方の方もさぞかしお気に召されると思いますよ。」


「え?」

アリオスさんは何やら意味深な事を言う。

そして後程私は衝撃的な事実を知る事となるのだった・・・。



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