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第2章 4 女の熱い友情

1


私が引き受けたので3人の女子学生は大喜びした。そしてグレイ・ルークを巻き込みつつ、計6人でソフィーとアラン王子の説得を明日、決行することにした。

でもその前に・・・。

「貴女方の恋人って人達に会って話を聞いておきたいのだけど。」

私が尋ねるとたちまち顔を曇らせる彼女達。


「それが、いくらお願いしても聞き入れてくれないんです。」

クレアが言う。


「もう私と話す事なんか何も無いって・・・。」

ミリアは涙目だ。


「わ・・私なんか、接近禁止令が出されたんですう~っ!」

とうとう泣き出してしまったハンナ。


あ~これは駄目だ・・・。もう彼等はすっかりソフィーの虜になっているよ。

例え、彼等と会えたとしても恐らく私達の説得に等応じないだろう。

でもどうしてソフィーに心変わりしてしまったのかは聞いておきたい。

だけどきっと彼女達には耐えられない話になってしまうのだろうな・・・。

仕方が無い。

「それじゃ、彼等の名前だけでも教えて頂けますか。そうしたらグレイとルークが話を付けてここに呼び出してくれますから。」

それを聞いて途端に顔色が変わる2人。


「「ええ!俺達が?!」」


うんうん、今日も綺麗にハモる2人。本当にグレイとルークは一心同体なんだなあ・・・。


「お願い。グレイ、ルーク。」

手を組んで、上目遣いに2人を見る私。


「ジェシカの頼みなら、し・仕方無いか・・。」

グレイは頭を掻きながら言う。


「ああ、これも人助けだ。」

ルークも腕組みをしながら引き受けてくれた。

私達は3人から男子学生の名前を聞きだした。


「その3人は今どうしてるんだ?寮にいるのか?」


ルークは女子学生達に質問した。あれ、確かに言われてみれば私の知る限り、アラン王子と生徒会長、そしてノア先輩にダニエル先輩しかソフィーの周りで見ていない。


「ええ・・・多分帰省するのは明後日なので寮にいると思うのですが・・先程もお話した通り、私達は彼等と暫く会えていないんです。」


ハンナは悲し気に言った。


「まあ、こうしていても仕方が無いからな。よし、俺達で取り合えず男子寮へ探しに行って見る事にしよう。」


グレイとルークが彼等の名前と外見の特徴を聞きだし、準男爵家専用の男子寮へ向かった後、私は彼女達に尋ねた。

「ところで、今日ソフィーさんはどうしているのか知っていますか?」


「ええと・・・確かセント・レイズシティにアラン王子とお芝居を見に行くって話していました。」

「あんな大きな声でこれ見よがしに言うのですから、余程自慢したいのでしょうね。」

「本当に酷いわ・・・。人の恋人を奪っておいて、平気でアラン王子とデートを楽しむなんて。」


 3人は口々に文句を言い合っている。でもなあ・・・心変わりしてしまった相手は、もう諦めるべきだと思うのだけど。人の心なんて他人がどうこう出来る訳じゃ無いし。逆にあまりしつこいとかえって相手から逃げられてしまいそうな気がする。


 本来の私ならこんな面倒な話に首を突っ込みたくはない。けれどもあまりにもしつこく食いついてくるし、断ろうものなら後で恨みを買いそうで怖かったのもある。

それにどうせ私は今度の冬の休暇で帰省した時に隙をついて誰も知らない遠くの地へ逃亡計画を立てているので、もう学院に戻る事も無く、アラン王子やソフィーと顔を合わす事も今回で最後になるだろうから引き受けたのである。


「とりあえず彼等がここに来たら、私とグレイ、ルークで話をしてみるので貴女方はその時は別の場所で待っていて頂けますか?」

・・と、私は提案してみたのだが・・。


「どうしてですか?!」

「何故なんですの、ジェシカ様?」

「私も彼にお会いしたいんです!」


3人の男爵令嬢は駄々を捏ねるばかり。あ~あ・・やっぱり予想通りの反応だ。

「でも貴女方が顔ををあわせれば冷静に話し合いが出来ないと思うのですけど・・・?」

私の言葉に彼女たちは顔を見合わせた。


「た、確かにそうかもしれませんね。」

「仰る通り、冷静でいられる自信はありません。」

「話がまとまってから会ったほうが良いかもしれませんね。」


 こうして3人の令嬢たちは私の説得に応じたのである。そこで一旦彼女達には女子寮に戻って貰って、私はグレイとルークの帰りを待つ。

無事に連れて来れるのかなあ・・?


私が3杯目のコーヒーを飲み終えた頃、ようやくグレイとルークがカフェに戻って来た。後ろには見慣れない3人の学生が付いてきている。

やがて彼等は私のいるテーブルへとやって来た。

「お待ちしておりました。皆さん。」

私は椅子から立ち上がって言った。


「げっ!ジェシカ・・・リッジウェイ・・・。」


1人の男子学生が私を見ると顔色を変えた。何だろう?失礼な学生だ。


「は、初めまして・・・。」


一番気の弱そうな学生は丁寧に頭を下げて来る。


「で、俺達に何の用だ?」


う~ん・・。この男も随分な態度を取るなあ。私的には彼氏にするにはあまりお勧めしないタイプだ。


「ほら、お前達。いいから座れよ。」


3人の男子学生はグレイに椅子を勧められ、しぶしぶ座った。グレイもルークも椅子に座り、全員が席についたのを見計らって私は話を始めた。


「あの、本日こちらへ来て頂いたのはミリアさん、ハンナさん、クレアさんにお願いされたからなんです。どうしてもあなた方ともう一度恋人関係に戻りたいそうなんです。・・どうでしょう?考え直す気持ちはありますか?」


3人の男子学生は互いに顔を見合わせ・・・言った。


「は?考え直す気などあるはずがないだろう?」

「そうだ、俺が好きな相手はソフィーただ1人だからな。」

「俺達はもうやり直す気は全く無いと伝えておいてくれよ。」


口々に身勝手な事を言いだす。はあ・・・やっぱり彼女たちがこの場にいなくて正解だった。


「全く、あんな女の何処がいいんだ?」


今迄黙っていたルークが口を開いた。


「そうだな、俺にもさっぱり理解出来ない。お前達・・一体どんな付き合いをしていたんだ?」


「彼女の事を知りもしないで、勝手な事を言うな!いいか?ソフィーは凄く優しい女性なんだぞ。」


男子学生Aが言う。(面倒だから名前は尋ねていなかった)


「ほう、例えば?」


グレイが横から口を挟んできた。


「いいだろう、教えてやる。彼女はな、病弱な妹の為に自分で編んだ編み物を週末に町へ売りに行ってるんだぞ?そのお金を治療費として実家に送金しているそうなんだ。でも、それでも足りないので何とかして欲しいと俺に頼んできた。だから俺はそんな健気な彼女の為にお金を渡した・・・。その時の彼女は目に涙を浮かべて喜んでいたよ。俺は彼女のいじらしさに心打たれた。」


「俺だって、夕日の中、たった1人で泣いている彼女を見かけ、なぜ泣いてるか声をかけた事があったんだ。その時、ソフィーは言った。1人きりの弟を学校へ入れてあげたいけど、我が家にはそんなお金は無いから自分がこの学院をやめて働こうと思うと聞かされたんだ。だからあまりにも気の毒に思ってお金を渡してるぞ?あんなに澄んだ瞳でそんな事聞かされたら大抵の男なら参ってしまうな。それに俺は妹の話なんか聞いたことが無いぞ。」


男子学生Bが言う。うん?何だか話の雲行きが怪しくなってきた気がする。


「嘘だっ!彼女は一人っ子だと聞いてるぞ?貧しい生活だけど、両親が借金をしてまで自分をこの学院に入学させてくれたから、少しでも早く借金を返済する為に、お金を貸して貰えないかと俺は頼まれたんだ。」


 男子学生CはA、Bを順番に見ながら言った。

あ、もう駄目だ。完全にカモにされている事に彼等はまだ気が付かないのだろうか?

私はグレイとルークの様子を伺った。2人も白けた目で彼等を見つめている。


 普通に考えてみれば、自分たちが貢がされていると気付くはずなのに、その事を全く自覚していない。

これもやはり催眠暗示的なものなのだろうか?


「それで・・・ソフィーさんから何か見返りみたいな事はありましたか?」

ダメもとで彼等に尋ねてみる事にした。

すると男子学生Bが応える。


「デートの約束をして貰えた。」


「俺も」


「俺もだ・・・。」


「それで、実際にデートをして貰えたのでしょうか?」


「「「・・・。」」」


3人とも私の質問に一様に黙ってしまう。やっぱりね・・・。


「いいですか?あなた方はソフィーさんにお金を取られただけでなく、デートの約束をしても、一度も実現しないどころか、完全に騙されてるじゃないですか。第一、何故もっと早く互いの彼女に関する情報を共有していなかったのですか?」


「う・・・。」

「そ、それは・・・。」

「何だか気が引けて・・。」


やっぱり間違い無い。恐らく彼等は何らかの術をかけられているに違いない。


するとルークが言った。


「いいか、俺達は完全にあの女を疑っている。明日そいつに話を付けてくるつもりだから、もう一度良く考え直す事だな。」


「ああ、大体嘘をついて金を巻き上げるなんて普通の令嬢には出来ない行為だな。」


グレイは冷ややかな目付きで言った。



 その後、彼等はスゴスコと重そうな足取りで私達の前から去って行った。

そして私達は明日のアラン王子の予定をグレイとルークに確認してもらい、ソフィーとアラン王子が合流した時に2人の前に現れて話し合いをしようと決め、解散した。


 明日、うまく事が運べば良いのだが・・・。




2


私は女子寮にある談話室にクレア・ミリア・ハンナを呼んで4人で丸テーブルを囲んで座っていた。

「結論から言いますと、貴女方の元彼はソフィーさんに騙されてお金を貢がされていました。彼女は言葉巧みに3人に全く違う内容の嘘を言っていたみたいです。」

私は彼女達に見聞きして来た事を話した。


全くソフィーもどこか抜けていると思う。どうせ嘘をつくなら全員共通の嘘を言っておかなければすぐにばれてしまうと気が付かなかったのだろうか?


「え?!そうだったのですか?」


ハンナが椅子から立ち上った。


「そんな・・・私だって何も買って貰った事が無いのに・・・っ!」


クレアは悔しそうに両手を握りしめている。


「許せないわ・・・。ソフィーさん。」


おおっ!ミリアの目が怒りに燃えている。


「それで、どうしますか?明日私はソフィーさんとアラン王子に会って、貴女方の元彼を返して貰うように頼みますか?」

私の提案に3人はお互いの目を見つめ、頷きあうと私の方を向いてミリアが言った。


「お願い致します。ジェシカ・リッジウェイ様。私達、どうしてもソフィーさんから恋人を取り戻したいのです。どうか力になって下さい!」


真剣な目で見つめて来る。仕方が無いか・・・。そこで私は言った。

「分かりました、ソフィーさんとアラン王子の前で貴女方の考えを伝えますが・・・仮にうまくいかなかった場合、後は貴女方で何とかして下さいね。それでもよろしければ引き受けますよ。」


「「「はい、構いませんっ!」」」


3人は同時に同じ返事をした。

こうして私は乗り気では無いまま、引き受ける事が決定となってしまった。

あ~あ・・・。お金をだまし取られるような男なんかもう必要無いと言って貰えることを期待していたのに・・・。



 翌朝、臨時で雇われている女子寮の寮母さんからグレイとルークからのメッセージメモを受け取った。


朝9時、門の前で待つ。

グレイ

ルーク


僅か3行だけの短いメッセージを呼んだ私はメモをポケットへしまうと朝食を取りにホールへ降りて行った。



 今朝は久しぶりに友人達と一緒に朝食を食べている。エマ、リリス、シャーロット、クロエは明日帰省する話で盛り上がっているのを私は静かに聞いていた。

彼女達とこうして学院生活をするのも今日が最後になるのだと思うと目頭が熱くなってきた。


「ど、どうしたんですか?ジェシカさんっ!」


エマの声に私は驚いて彼女を振り向いた。他の3人も皆私に注目している。


「え?ど、どうしたんですか?皆さん。」


「どうもこうも・・・。ジェシカさん、泣いているん・・・ですか?」


リリスは心配そうに言った。

え?私が泣いている?慌てて頬を押さえると、確かに涙を伝った後がある。

「あ・・・じ、実はもうすぐ里帰りだと思うと、嬉しくてつい・・・。」

咄嗟に私は笑って胡麻化す。

それを聞いた友人たちは安堵したのか、次々と自分達の国の故郷自慢で話が盛り上がったのだった。



「ジェシカ、まずい事になった。」


門の前で会った私に開口一番ルークが言った。


「まずい事って?」


「ああ、今日一緒に出掛けるのはアラン王子とソフィーの二人きりじゃない。生徒会長、ダニエル先輩、それにノア先輩も一緒だ。」


グレイは早口で喋った。そうか、人数が増えると説得しにくくなるな・・・。

でもグレイとルークがいれば・・。

「ま、まあ何とかなるでしょう?貴方達だって一緒なわけだし・・・。」

すると何故か顔を曇らせる2人。え?何その表情は。何だか嫌な予感がしてきた。

ま、まさか・・・。


「すまん、ジェシカ。俺達今日都合がつかなくなってしまったんだ。」


ルークが頭を下げてきた。ええええっ?!何で?!

「う、嘘だよね?どうして?」


「実はアラン王子が全く荷造りの準備をしていなかった事が今朝になって分かったんだ。いくら俺達が国に帰る準備は済んでいるのかと尋ねても、大丈夫だとの一点張りだったから安心しきっていたんだ。それなのに、今朝になって・・・。」


グレイはその時の事を思い出したのか、怒りを押し殺すように震えている。


「何一つ手付かずだったことが発覚して、今日1日かけて俺達でやらなくてはならなくなった。それなのに当のご本人はソフィーとデートだと言ってるんだから呆れる話だ。」

 

ルークは憎悪の混じった声色で言う。


うわっ!今の言い方がアラン王子の耳に入ってたら大事ですよ?!

 冷静そうに話しているルークではあったが、全身が震えている。

そ、そんな・・・。私1人で彼等と対峙しなくてはならないのか?かと言ってマリウスにだけは絶対に頼みたくはない。あんなデンジャラスな男が出てきた日にはその場が戦場と化してしまうだろう。

そうだ、エマ達に頼んでみようか・・・。思い立った私はグレイとルークに言った。

「少しだけここで待っていてくれる?エマさん達に一緒に付いてきて貰えないか頼んでくるから。」


「それはいい考えだな。じゃあ待っているから行って来いよ。」


グレイに促され、私は急いで女子寮へ戻った。;それから約20分後。

これからデートだと言うリリスを除き、全員がグレイとルークの待つ門へとついてきてくれた。


「お待たせ、グレイ、ルーク。」


「おう、良かったな。ついてきて貰えて。」


ルークが声をかけてきた。


「全く、本当にそのソフィーって女は最低ですね!」


エマが憤慨したように言った。うん、確かに酷い話だよね。でもそれより私が気になるのはエマが手にしている長さ30cm程の木の棒の方だ。

「あの、エマさん。手にしているそれは一体・・・?」


するとにっこり微笑むエマ。

「ええ、これは自分の魔力を何倍も高めてくれる魔力の込められた樫の木のステッキです。どうしても私達の説得に応じないのであれば、実力行使する迄です。」


エッ?冗談だよね?私はエマをじっと見つめる。あ、駄目だ。この目はマジだ。

シャーロットは・・・?彼女は何故か黒猫を抱えている。はて?この学院はペット不可のはずだけど。

すると私の視線に気がついのかシャーロットは言った。

「この黒猫は私の魔力で生み出した使い魔なの。今は猫の姿だけど、変幻自在に姿を変える事が出来るんです。頼もしいでしょう?」


おおっ!シャーロットはそれほど迄に魔力の腕前が凄かったのか。

しかし何故使い魔を連れてきたのだろう?


「ジェシカさん、私達に任せて下さいね。」


クロエは全身を覆い尽くすローブを羽織っている。そして手には何故か大きな本を持っていた。

「クロエさん、その姿は?」

すると彼女は言った。


「私は召喚獣をいくつか呼び出す事が出来るようになったんです。このローブは召喚獣に命令を下しやすいんですよ。」


ま、まさかエマ達はアラン王子達と戦うつもりなのだろうか・・・?

見るとグレイとルークは顔面が引きつっている。


「と、とりあえずアラン王子達は何処へ行ったのか教えてくれる?」

2人の話では彼等は広場の雪のパレードが開催されているので、そこに行ったらしい。


「そうなのね・・・。ふふふ。腕がなるわ。」

不敵な笑みを浮べるクロエ。な、何故か黒いオーラが見えてるよ?!


「ジェシカさん、いざとなったら私達が貴女の盾になるので思う存分言ってやってくださいね?」


エマは私の両手をしっかり握りしめる。


「さあ、私の可愛い使い魔ちゃん。思い切り暴れる時は近いわよ?」


物騒な台詞を言いながら黒猫の背中を撫でるシャーロット。

こ、怖いよ・・・。どうしちゃったの?3人共。

こうして不吉な予感を抱えつつ、私達はグレイとルークに見送られ、セント・レイズシティのパレード会場へと向かうのだった・・・。


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