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悩める王子

駄目だ、俺はまたしてもやってしまった。折角一度は愛想をつかされたジェシカに許しを得て、ようやくまた2人で会ってくれる事になったのに・・・!



 あの時、一緒にセント・レイズシティに出掛けた時はとても楽しかった。

以前のジェシカは俺の前では固い表情しか見せたことが無かったのに、その日の彼女は表情も柔らかく、時折俺に笑顔を見せてくれた。

2人で手を繋いで町を歩いている時は、まるで恋人同士のデートを楽しんでいるかのような錯覚すら覚えてしまった。

 時折、ジェシカの口からアメリアの事が出てきた時には嫉妬してくれてるのでは無いかと密かに胸を躍らせる自分がいたのも事実だ。でも実際はそんな事でジェシカが尋ねたわけでは無い事位、十分承知していたのだが・・。

 

 初めて女性を別宅に連れて行った時は、家臣達におどろかれてしまったな。

ジェシカが婚約者だと思われてしまっていたが・・・本当にそうだったらどんなにか良かったのに。

ジェシカが俺の別宅を見て、驚いたり感嘆している姿は本当に可愛らしかった。

挙句に自分みたいなものを招き入れて良かったのかと尋ねた時は本当に驚いてしまった。ジェシカは自分の身分がどれだけ高いのか、全く無自覚なのだろうか?

2人きりで話がしたいと言われた時は胸が躍るほど嬉しかったのに、聞かれたのはアメリアの事だった。ああ・・・俺が一番触れて欲しくない内容だったのに。

 けれどもジェシカは俺に意外な事を言って来た。彼女に抗ってはいけない雰囲気を感じなかったかとか、甘い香りがしなかったか・・・等。しかし、言われてみればそんな事があったかもしれない。ただ、あの時は何故かアメリアを見つめた途端、頭がぼんやりしてしまったのは確かだ。まるで自分の身体が自分の物では無くなって制御がきかなくなったかのような・・・。


 その後、ジェシカに手を握られ、学院を辞めないでくれと懇願された時は天にも昇るような幸せな気持ちだった。そうか、ジェシカはそれ程俺にこの学院に残って欲しいのか?

どうしてこの俺が学院を辞めたいと思うのだ?ジェシカがいると言うのに。

その事を話すとジェシカは父親を説得するように俺に要求してきた。

あそこまで真剣な目で言われると、やはり勘違いしてしまうのも無理は無い。



 屋敷を出た後は、ちょっとした問題が起こった。

妙な男がジェシカを引き渡せと言った来るのだから、正直驚いた。貴様・・・よくもこの俺の前で大事な女を引き渡せ等と・・!この言葉に俺は怒りに燃えた。

男は炎の魔法をぶつけてきたが、相手が悪かったな。俺は防御魔法が得意なのだ。

素早くシールドの魔法をかけ、相手の魔法を打ち返してやる。そして脅す為に目の前で爆発させてやった。

取り逃がしてしまったのは失敗したが、ジェシカが無事ならそれでいい。

しかしジェシカが気になる。普通なら自分が襲われればもっと怯えてもいいはずなのに、意外と平然としていた。ひょっとすると以前にも襲われた経験があるのだろうか・・?


 ジェシカに初めてプレゼントとしてネックレスを贈ったあの時の事は忘れない。

真剣に商品を見つめているジェシカの横顔はずっと見ていたい位だった。

ジェシカには青が似合いそうだな・・そう考えていると、ジェシカも同じ色を希望して来たのだから、あれはすごい偶然だった。

今すぐ、俺の手で彼女の首にネックレスをつけてやりたい・・・。

だから店主が包むか聞いてきた時、即座に俺は断りを入れた。

ジェシカにネックレスを付ける為に、背後に回った時だ。髪の毛のいい香りにウェーブのかかった長い髪、ほっそりとしたうなじ・・思わず抱きしめたくなるのを我慢して俺はネックレスを付けてやった。

店員が手鏡を持ってジェシカに見せた時、俺は心臓の鼓動が一段と早くなった。

鏡の中のジェシカは俺の顔を見つめている。頬はうっすらと赤く染まり、明らかに照れているでは無いか・・・!ジェシカは俺を・・・意識してくれている・・?

だから俺はジェシカにほほ笑む。するとさっと視線を逸らす彼女。

か、可愛すぎる・・・っ!

やはり俺にはジェシカしかいない。他の誰かなんか考えられない。

だから・・・チャンスを見計らって、はっきり愛を告げるのだ―!


 ジェシカが美味しい食べ物が食べられると言って連れて行ってくれた屋台。

ここで少々嫌な思いをした。

屋台の男が何故か妙にジェシカに馴れ馴れしい。やめろ、俺のジェシカに笑いながら話しかけるな!それに何故か親し気に話すジェシカも気に入らない。この俺の目の前で他の男と仲良くしないでくれっ!

俺の態度が気になったのか、俺を屋台の席へと押しやるジェシカ。くっ!何だと言うのだ?それにしても改めて感じた。俺はこんなにも嫉妬深い男だったのだろうかと・・・。

ジェシカの勧めた「ラフト」は確かに美味しかった。あの軽薄そうな男・・・料理の腕前だけは良さそうだ。



 その後も二人で町を歩き、気が付けば辺りはすっかり暗くなり、ランタンで照らされた町は幻想的な光景へと変わっていた。

俺はそっと隣に立つジェシカを見た。

「綺麗・・・。」

ジェシカは白い息を吐きながら目を輝かせて呟いた。

よし!今が一番最高の雰囲気だ。ここで、俺はジェシカに愛を告げよう。

ジェシカを愛している、俺と将来を誓って欲しいと・・・。


 

 しかし・・・そこへアメリアと、あのピンクの髪の忌々しい女が現れ・・俺の頭に霞みがかかった。駄目だ、理性が消えて行く・・・。


気が付いてみると俺はアメリアを抱きしめ、ジェシカに告げていた。


一時の迷いでお前を選ぼうとしていたなんて、俺はどうかしていたのだろうな。と―


ジェシカは真っ青な顔で唇を噛んでいたが、俺に告げた。


アメリアさんとお幸せに。


そして背中を向けて去って行く。

嫌だ、駄目だ、行かないでくれジェシカッ!心の中では叫んでいるのに身体は言う事を聞かない。どうしうて俺はこんな女を抱きしめているのだ?なぜ振り払えないのだ・・・?

そして俺は意識まで持って行かれてしまった。




「聞いていらっしゃいますか?アラン王子。」


グレイの問いかけに俺は慌てて顔を上げた。

「あ、ああ。すまん。もう一度話してくれ。」


グレイは小さなため息をつくと言った。


「アラン王子、もうジェシカの事は諦めた方が良いです。・・・手遅れですよ。残酷な言い方かもしれませんが、彼女の中では完全にアラン王子は切られていますよ。」


淡々と告げるグレイ。

やはりそうだろうな・・・・大方予想は付いていたので、思ったほどショックは無かった。だが、気になるのはグレイの態度だ。昨日、ジェシカの事を頼んだ時には大喜びで引き受けて出て行ったのに、今はまるで地獄にでも突き落とされたかのような酷い顔色をしている。しかも具合が悪いのか、時々頭を押さえている。


「おい、グレイ。随分と具合が悪そうだな?それに顔色も悪い。一体昨夜何があったのだ?」


すると何故か突然、肩を震わせて下を向いてしまうグレイ。

俺は黙ってグレイの話を待つ。

やがて顔を上げるとグレイは言った。


「アラン王子・・・俺、ついにやってしまいました・・・!もう俺も終わりです・・・・。完全にジェシカに嫌われてしまったに決まっています・・。」


そしてますます悲惨な顔つきを浮かべる。


「何?何をやってしまったんだ?俺に話せ、グレイ!」

何故だ?非常に嫌な予感がする―!


「・・・俺は・・昨夜、ジェシカとお酒を飲み・・・かなり深酒をしてしまいました・・。挙げ句に酔った勢いでジェシカにキスをし、押し倒してしまったんですっ!!」



な、何だってーっ?!

俺はその場で固まり、動けなくなってしまった・・・。

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