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第11章 1 彼等の心変わり

1


清々しい朝、私は1人自室にこもってオリハルコンを眺めながら、昨夜の出来事を思い出していた。本日は特別休暇の日となっている。

それにしても何かがおかしい。確かに昨夜はシチュエーションこそ違ったものの、アラン王子とソフィーを引き合わせる事に成功した。最もその出会いは最悪だったけれども・・・。その上、気になるのはアメリアとソフィーの関係だ。2人の様子はまるで厳しい上下係があるようだった。ナターシャの名前があの場で出てきたのも気になる。

可愛そうなナターシャはソフィーに何らかの弱みを握られ、利用されてしまったのだろうか?

それにしても今回の件は本当に謎だらけである。特に気になるのがアメリアだ。

初めて会った時には学生服を着ていたし、私に妙なメモを渡してきた。夢の中にも表れてアドバイス?をおくってきたし。

でも一番不思議だったのは図書館で会った時だ。彼女は以前私と会った時の記憶がすっぽり抜け落ちていただけでなく、会話の途中で突然苦しみだして、『記憶の書き換え』と言う妙な言葉を口走り、意識を無くしてしまった。

更にアメリアに対して謎は続く。あのアラン王子ですら、美少女のソフィーよりもアメリアに強く惹かれた様に見えたのも不思議だ。いくらソフィーがアメリアに手を上げたからと言って、美しいヒロインのソフィーよりも、こんな言い方をしては何だか、ぱっとしない外見の、しかも初めて会ったアメリアにまるで一目惚れしてしまった様に見えた。

明らかに私の書いた小説とは大きくズレを生じている。

もう私のキャパシティは一杯だ。こんな時、誰かに相談出来たら・・・。私の周りには沢山の人が集まってくれているが、いつも何処かで寂しさを感じていた。やっぱり私はこの世界の人間では無いのだ。・・・帰りたい。元の世界に、あの懐かしい日本に・・・。


その時、私はふと昨夜のソフィーとアメリアの会話を思い出した。

そういえば、何故アメリアはアラン王子があの場に現れる事を知っていたのだろう?その事実を知っているのは、私意外にあり得ないのに・・。

そうだ、そもそもアメリア自体が謎に包まれているのである。

「アメリアに会いに行こう。」

私は椅子から立ち上がると部屋を出て、学院の図書館へと向った。他にアメリアがいそうな場所を私は知らなかったからだ。



「え?今日は図書館お休みなの?」

図書館の入り口に貼り出された『休館日』の貼り紙を見て私は、愕然としてしまった。

そうか、今日は学院が休みだから図書館も休みなのか。それなら今日はどうやって休暇を過ごそうかな?

学生の大半はセント・レイズシティへ遊びに行ったようだ。今日は珍しく男性陣達が私の前に現れないので静かだし。

特にあの鬱陶しい生徒会が姿を表さないのは何よりだ。そしてアラン王子・・・。ひょっとしたらアメリアとデートをしているのかもしれない。結局アラン王子が恋に落ちたのはあの様子だとアメリアだったのかもしれない。結果はどうあれ、アラン王子とアメリアの幸せを祈りたいと思う。


「そうだ。町へ行って美味しいお酒でも買って来ようかな?」

美味しいお酒を数本買って、自室でお酒を楽しもう。

私はそのまま自室には戻らずに、門へと向った・・・。


「何処でお酒買おうかな~。」 

人で賑わうマルシェをブラブラ歩いていると、突然声をかけられた。


「ジェシカッ!」


振り向くと、こちらへ走ってくるグレイ。


「ああ、良かった。まさかこんな所でジェシカに逢えるなんて!」


嬉しそうに笑うグレイ。


「グレイも町に来ていたの?それじゃルークも来てるのね。」 


すると何故かムッとするグレイ。


「確かにあいつも一緒に町へ来ているけど、いつでもルークとセットにされるのは心外なんだけど。」


え?何か気に障るような事を言ってしまっただろうか?とりあえずよく分からないけど大人の女性としてここは一応謝っておくことにしよう。


「そう、ごめんね。ただ珍しくアラン王子達とも一緒では無いと思っただけだから。」


「いや・・・。実はその事に関してなんだけど・・・。」


何故か言いにくそうに口籠るグレイ。


「どうしたの?何かあったの?」


「じ、実は・・・聞いてくれよ、ジェシカッ!アラン王子が・・・昨夜初めて出会ったアメリアとか言う女の娘とデートでこの町に来てるんだよ。それで俺とルークは護衛の為についてきてるんだ。」


グレイは余程今の状況に驚いているのか、早口で一気にまくしたてた。ふ~ん、やはりアラン王子はアメリアを選んだのか。早速デートに誘うなんて、やはり俺様王子だな。


「そうなんだ、それじゃ2人の中が上手くいく事を祈らないとね。」


私はにっこり笑って言うとグレイは首を傾げた。


「ジェシカ・・・やけに落ち着いているな・・。アラン王子はあんなにもジェシカにぞっこんだったのに。アラン王子が急に別の女性に夢中になって、何とも思わないのか?」


「どうして?だって2人が幸せそうにしているなら、それは祝福してあげる事じゃ無いの。それとも・・・ひょっとしてアラン王子がアメリアに失礼な態度でも取っているの?」


その時、グレイの眉がピクリと動いた。


「おい、ちょっと待てよ、ジェシカ。どうしてアラン王子がデートしている相手がアメリアと言う名前の女性だって知ってるんだ?」


あ、まずい・・・。口が滑って余計な事を言ってしまった。でも隠していても仕方が無いか。


「実はね、私アメリアとは以前から知り合いなのよ。彼女この学院の図書館司書を務めているの。」

余計な事は話さずに簡単に説明する。


「ふ~ん・・そうなのか・・。でもアラン王子がアメリアとデートしている話を聞いても驚かなかったよな。」


「うん、だって昨夜2人が出会って恋に落ちる瞬間を見たから・・・。」

そこまで言って、私は何やら余計な事を口走ってしまった気がして、慌てて口を閉じた。


けれどもグレイはそれを見逃さない。


「待てよ、そう言えばジェシカ。昨夜の件だけど、誰かに見つけられたのか?一体どんな仮装をしていたんだよ?」


「そうだね・・。もう終わった事だし、正直に話すね。実はね・・メイドとして昨夜はパーティー会場にいたの。そしてマリウスには私そっくりに仮装させてアラン王子を誘って貰ったのよ。マリウスとアラン王子が会場の庭に出た時にアラン王子はアメリアと出会って・・・。そして、私はその様子を陰から見ていたという訳。」

重要な部分はかなり省いているが、この説明で納得してくれるだろう。


「ジェシカ・・・そこまでして、俺達との賭けに勝ちたかったのか・・・?」


何故か傷付いた顔をするグレイ。その顔を見て、こちらも罪悪感を感じてしまう。

そこで必死に言い訳をした。

「ご、ごめんね・・・っ!どうしてもアラン王子と生徒会長にだけは賭けに勝ちたかったから・・・!ただ、それだけの事だからね?」


「まあ、別にいいけどな・・・。それにしてもやっぱりジェシカは変わってるな。普通王子に言い寄られたら、大抵の女性は絶対王子から離れようとはしないのに。」


グレイは腕組みしながら言う。


「あのね、私は身分には興味ないの。俺様王子はお断り。だから今回の件はすごく嬉しいんだからね。だってやっとアラン王子が私に対して興味を無くしてくれたんだから。」


「まあ・・俺とルークにとっても嬉しい話だけどな。」


若干顔を赤らめながら言うグレイ。


「あ!ねえ、そう言えばルークはどうしたの?」


「あ!いけねっ!実はアラン王子に飲み物を買って来るように頼まれていたんだっ!悪い、ジェシカッ!俺、そろそろ行かなくちゃ!。」

そう言うと、慌ただしく駆けて行くグレイ。折角の休暇なのに、アラン王子にこき使われて、気の毒な2人だ・・・。私は心底彼等に同情する。

さて、アラン王子の状況もはっきり分かったし、美味しいお酒を探す為に町を探索しようかな?

そして私は再びブラブラ町を歩き・・・・彼を見つけた―。




2



え・・・?あそこにいるのはマリウス・・?一体何をしているのだろう。

マリウスはマント姿にフードを被った怪しげな格好をしている。まるで人目を避けるように辺りを見回しながら、足早に歩いて行くのが見えた。


最近のマリウスはとにかく怪しい。この間の夜に男性を締めあげていたのも気になる。あの時のマリウスはまるで別人の様だった。

一体何処へ行くのだろう・・・?気になった私はこっそりマリウスの後をついて行くことにした。


セント・レイズシティは道があちこちに張り巡らされ、複雑な作りをしている上、町の景観を保つためか、似たような建物ばかりの店や家々が多い。

そんな中をマリウスは迷うことなく歩いてゆく。それにしてもなんて早さだろう。今にも見失ってしまいそうだ。


「!」

突然マリウスが走り出し、右の角を曲がってしまった。私も走って追いかけようとしたが、あのマリウスの事だ。路地で待ち伏せをしているとも限らない。私は慎重に右の角に近づき、曲がってみると・・・案の定、マリウスの姿は消え失せていた。

辺りをキョロキョロしてみても、ここは広い路地で大勢の人々が行き交っている。私は完全にマリウスを見失ってしまった。

そして・・・ついでに言うと迷子になってしまったのだ。


「はあ・・・。」

私は手近なベンチに腰を下ろすとため息をついた。なんてことだろう。この年齢になってまさか自分が迷子になってしまうとは。一体今自分が何処にいるのかもさっぱり分からない。

「これからどうしようかな・・・。」

そう思っていると、急にお腹が空いてきた。

「取りあえず、どこかでお昼ご飯を食べようかな。」

ベンチから立ち上がると、私は町をブラブラと歩き始めた。暫く歩いていると美味しそうな匂いが漂ってきた。私はその匂いに吸い寄せられるように近づいてみると、そこは屋台通りだった。綺麗に舗装された両側に所狭しと様々な屋台が並んでいる。よく見ると学院の生徒たちも食事を楽しんでいる。そうか、この人たちに帰り道を教えてもらえば良いか。

途端に気が楽になった私は、今日のお昼はここで食べることにした。さて、何を食べようかな・・・。


「あ・・・これ、すごく美味しそう!」

それはまるで日本にあるお好み焼きによく似ていた。お好み焼きは大好きだったので、今日のお昼はこれを食べる事にしよう。


「すみません、これを1つ下さい。」

店主の若い男性に頼んだ。


「はい、お一つだね。おや・・?君、よく見るとすごい美人だな~。よし、特別にまけて大きめに焼いてあげるよ!」

言うと、お店のお兄さんは鉄板に具材を混ぜた生地を大胆に乗せて、ジュウジュウと焼き始める。ああ・・・なんて美味しそうな匂いなんだろう・・。

「あの、この料理の名前を教えて下さい。」

私はお好み焼きに似た料理が気になったので尋ねてみた。


「ああ、これは『ラフト』って名前なんだ。気に入ったなら贔屓にしてくると嬉しいな。」


お店のお兄さんは紙皿に焼きあがったラフトを乗せてくれて、私はお金を支払い屋台通りにある空いてるテーブル席に着席すると、熱々の食事を頂く事にした。

その時だ。


「あんた、ジェシカ・リッジウェイじゃないか?」


突然私の視界が暗くなり、見上げるとガラの悪そうな4人組の男性が私をぐるりと囲むように立っていた。全員知らない若者ばかりだ。


「はい。そうですけど・・・あなた方は誰ですか?」


「けっ、誰ですかだってよ。」

「まあ俺たちの事なんかあんたには分からないだろうなあ?」

「偶然あんたに会えて良かったよ。探す手間が省けた。」


最期の1人は意味深な発言をし、他の3人の男達から余計な事を言うなと咎めれていた。もしかして彼等は私を探していたのだろうか・・・?何だか嫌な予感がする。


「どうだい、ちょっと俺達と遊ばないか?」


いきなり腕を掴まれ、グイと立たされたので私は思わず食べかけのラフトを地面に落としてしまった。


「あ・・・!私のラフトが・・っ!」


「そんなの位、俺達に付き合えば幾らでも買ってやるよ。」


男が図々しく私の肩に腕を絡めて来る。

身の危険を感じた私は周囲にいる人々を見つめたが、皆誰もが関わりたく無いのか、視線を逸らしてしまう。

そ、そんな・・・。どうして今日に限って私は1人で町へ来てしまったのだろう。後悔しても、もう遅い。


「さあ、俺達と楽しい遊びをしに行こうぜ。」


下卑た笑いをする男達。無理やり立たされると腕を引っ張られ強引に歩かされる。

どうしよう、どうすれば彼等から逃げられる―?

恐怖で声が出ない私は半ば引きずられるように強引に歩かされ、廃墟へ連れて行かれるといきなり地面に突き飛ばされた。


「うっ!」

痛みで呻く私を取り囲むように、ニヤニヤしながら囲む若者達。


その時だ。


「いけませんねえ。私の大事な主に不埒な真似を働こうとする輩がいるなんて・・。」


そこへ現れたのはマリウスだった。え・・・?どうしてこの場所が分かったの?

考える間もなくマリウスは物凄い速さで4人の男達に突進して行くと、次々と素手で彼等を一撃で倒して行く。強い、強すぎる。まるで男達は相手にならなかった。


気が付いてみると4人全員が床に転がり、呻いていた。

マリウスはそのうちの1人、私を突き飛ばした男の襟首を掴んで無理やり起こすと言った。


「さあ・・・貴方は何処の骨を折られたいですか・・?私の大切なお嬢様を傷つけようとしたのです。まさかこの程度で済むと思っていないでしょうね・・?」


そう言うマリウスは狂気をはらんだ表情を見せていた。


「よ、よせ、やめてくれ!た・・助けてくれっ!お、俺達はただ・・頼まれただけなんだっ!」


「頼まれた?一体誰に?」


マリウスの眉がピクリと動く。


「そ・・・それだけは・・言えないっ・・頼む・・勘弁してくれよ・・。」

襟首を掴まれた男は情けない顔で懇願する。


「・・・どうやらやはり骨を折られたいようですね・・・。では右腕を折りましょうか?」


恐ろしいほど冷酷な声で言うマリウス。聞いているこちらまで背筋が寒くなるようだ。


「ヒイイイイッ!!」

絶叫する男。


「マリウスッ!!やめてっ!!」

私はマリウスを背後から抱きしめて、必死で止めた。


「お・・お嬢様・・?何故、止めるのですか?}


心底不思議そうに言うマリウス。一体彼はどうしてしまったのだろう?もっと穏やかな人間だと思っていたのに、ライアンが話した冬の休暇辺りの会話から徐々にマリウスはおかしくなっていったように感じる。

「とにかく、やめてっ!私は何とも無かったのだから!お願いだから彼等を傷つけないでっ!」


「お嬢様、彼等はお嬢様を傷物にしようとしたのですよ?何故彼等をかばうのですか?!」


マリウスが感情的になって言う。私も負けじと言い返す。

「だって、彼等の話を聞いたでしょう?頼まれただけだって。それに誰に頼まれたのか話せない事情があるなら、もういいわ。だから彼等を許してあげてよっ!」


マリウスは私に言われて、襟首を掴んでいた男の首元から力を緩める。

男は苦しそうに咳き込んで床に崩れ落ちた。


「大丈夫?」

私が声をかけると、咳き込みながら頷く男性。他の3名も腰を抜かしてしまったかの如く、座り込んでいる。

そこで私は彼等に言った。


「貴方達、早くマリウスの気が変わらないうちにここから立ち去って!」

すると彼等は立ち上がると、逃げるように慌てて廃墟を飛び出して行った。

後に残されたのは私とマリウス。


「お嬢様、何故私を止めたのですか?」


恨めしそうに言うマリウス。


「彼らを許せば、また同じことをするかもしれませんよ?それでも構わないのですか?お嬢様は。」


う~ん・・・。何と言えばマリウスを納得させる事が出来るのだろう?

よし、こうなったら・・。


「だって私は大切なマリウスに誰かを傷つけるような真似をして欲しくないのよ。」

そう言って潤んだ瞳でマリウスを見上げてみる。

ゾワゾワッ!う~気持ち悪いっ気持ち悪いっ!寒気がする!何故私がこんなマリウス相手に演技をしなければならないのだ?これではまるで何かの罰ゲームだ。

ん?それよりも・・・何故マリウスは私の居場所が分かったのだろうか?


「ねえ、マリウス。どうして貴方は私の居場所が分かったの?」


「フフフ・・・そんなのは簡単ですよ。この間お嬢様にキスした時にマーキングさせて頂いたのです。でも徐々に効果が薄れて来ていたので、探すのに少々手間がかかってしまいました。なので、もう一度キスしてマーキングすれば・・。」


言いながら私に顔を近づけて来るマリウス。


「ふ・ざ・け・ないでよ~ッ!!」

私はマリウスの両頬をつねると言った。


「ひ、ひらい(痛い)・・・。」


「何がマーキングよ?何がもう一度キスしてよっ!私は猫じゃ無いし、マーキングされる言われも無いわ!この年中発情期のドスケベ男がっ!これ以上私に妙な真似をしようものなら猫の餌を食べさせるからねっ!・・・。」


案の定、嬉しそうに身体を震わせて私を見つめるマリウスの姿がそこにあった・・。


ああ、誰かにマリウスを押し付けたいっ!何て不幸な私・・・。




3



今、私とマリウスはランチを食べに最近流行りのカフェに来ている。窓際の日差しの差す席でランチを楽しむ私。

この店のお勧めはスクランブルエッグのホットサンドイッチ。その美味しさに私はすっかりご機嫌で食事をしている。 

そんな私をマリウスは幸せそうに眺め・・って、これではまるで仲睦まじ気にカップルがデートをしているようでは無いか!

結局、この日はマリウスと町で休暇を過ごす事になってしまった・・・のだが。


食後のホットカフェオレを飲みながら、私はマリウスの様子を観察した。先程の変貌ぶりと言い、最初に街角で見かけたあの奇妙なマント姿のマリウスは一体どうしてしまったのだろう。今のマリウスの服装はセーターの上にジャケットを羽織り、デニムのボトムス姿だ。


「どうしたのですか?お嬢様?」


私があまりにジロジロ見つめてくるのが気になったのか、マリウスが尋ねてきた。

「あの・・・ね。聞きたい事があるのだけど・・・。」


「はい、何でしょう?」


「どうしてマント姿で町を歩いていたの?」


そこで一瞬マリウスの身体が固まる。あれ?何だか顔色が変わったような気がする・・。


「何の話ですか?」


「だから、今日私を助けに来てくれる前に奇妙なマント姿でこの町を歩いていたでしょう?おまけに急に走り出すといなくなてしまったし。」


「いいえ。私はそんな恰好をして町を歩いて等いませんよ。」


有無を言わさないような言い方である。


「え・・・?でも・・?」


「お嬢様の見間違いではありませんか?」


更に質問するのを防ぐようにマリウスは早口で言う。絶対にマリウスは何かを隠している。そしてそれを私に知られたくは無いようだ・・・?一体何故そこまでして嘘をつくのだろうか・・・?


「そんな事よりもお嬢様っ!今何が起こっているのかご存知なのですか?!」


突然ググッと身を乗り出して私に問いかけて来るマリウス。

「え・・・?何が起こっているかって・・?一体何の事?」

マリウスは何を言いたいのだろう?私にはさっぱり分からない。

コホンと咳ばらいをするとマリウスは言った。


「お嬢様・・・今朝、何か異変を感じませんでしたか?」


「異変・・・?」

はて?何の事だろう?私は首を傾げた。するとマリウスは溜息をつくと言った。


「今日に限って、アラン王子は愚か、生徒会長やノア先輩、そしてダニエル先輩がお嬢様を誘いに来なかったのはおかしいと思いませんか?」


あ~確かに、言われてみればそうだ。今朝は妙に私の周りが静かだった。だからこそ私は1人で町へ出て、妙な4人組の男に絡まれてしまったんだっけ。マリウスには感謝しなくちゃね。


「そう言えばそうだったね?」

思い出したように言う私。


「いいですか?彼等は・・・。」


言いかけたマリウスを私は制した。

「いい、マリウス。何が起こっているのか分かったから。」

私は窓の外の景色を眺めながら言った。


「?」

マリウスも私の視線の先を追い驚愕するような声を上げた。

「な・・・?!」


窓の外では一人の女性を巡る修羅場が町中で起こっていた。その中心にいるのはアメリア。そして彼女を取り囲むように騒ぎを起こしているのがアラン王子、生徒会長、ノア先輩にダニエル先輩だった。彼等は人目を気にする様子も無くヒートアップしている。

グレイとルーク、そしてアメリアは困ったように彼等を宥めている。どうやらグレイとルークを除いた全員で彼女を取り合っているようだ。


「ふ~ん・・・。」

私は頬杖をつきながら、窓の外で展開されている恐らく?痴話喧嘩を眺めている。そんな私を見て、憤っているのはマリウスだ。



「一体、何なのですか?彼等の移り身の早さはッ!あれだけお嬢様に夢中だったと思えば、今度は手のひらを返したかのように別の女性に言い寄るなんて・・・っ!でも私的にはお嬢様に纏わりつくお邪魔虫が減って、嬉しい限りですけどね。」


ねえ、マリウス。怒るか喜ぶかどちらかにしたら?でも確かに不思議である。悪女の私がモテる事自体、おかしな出来事ではあったのだが、何故この小説のヒロインであるソフィーではなく、アメリアが物語の中心人物達に突然好意を寄せられるようになったのであろう?あまりにもイレギュラーな出来事ばかり起きるので最近の私はこの世界について考える事を止めてしまっていた。


「確かに、不思議だよねえ・・・。」


私がぽつんと呟いた独り言を別の意味に解釈したのか、マリウスも首を縦に振り、言う。


「ええ!彼等の移り気の早さが不思議でなりませんっ!」


「まあ、いいじゃないのマリウス。私達はここで高みの見物でもしていない?」

私は若干の悪戯心を起こし、誰がアメリアを独り占め出来るのか見届ける事にした。


「まあ、お嬢様がそう仰るのなら・・・。」


マリウスも溜息をつくと、私達は彼等から見つかりにくい場所の席に移動して様子を伺う事にした。お~皆揉めてる、揉めてる。特に俺様ぶりを発揮しているのがアラン王子に生徒会長だ。

あ~あ・・・・。あんな強引な態度ではアメリアに引かれてしまうんじゃないの?

ノア先輩とダニエル先輩は互いをけん制し合っているようだし・・・。あの場にいて一番気の毒なのはグレイとルークだ。どうも彼等はアメリアには興味が無いようだしね・・。我儘王子様のお守も大変だね。




「皆の会話が聞こえれば面白いんだけどな・・・。」

私がポツリと呟くと、マリウスが白けた様子で言った。


「お嬢様・・何か楽しんでいませんか?」


「うううん、べっつに~。」

私が楽しそうに彼等の様子を伺っているのを見ていたマリウスはやがて言った。


「それにしても安心しました。」


「え?安心って何が?」


「お嬢様が急に彼等が心変わりされてしまった事に対して傷ついていない様子だったので。」


マリウスは口元に笑みを浮かべると言った。


「傷つく・・・?」

一体マリウスは何を言い出すのだろう。元々私はこの小説の悪女なのだ。そしてジェシカは自分から意中の男性に言い寄る事すらあれど、作中でモテた試しは一度も無い。それは全てジェシカが高飛車な女だったからだ。けれども彼女は決して誰かに意地悪な態度を取った事等は無かった。

全てはソフィーに嫉妬した女生徒達がジェシカがやったようにみせかけ、様々な罪を彼女に擦り付け、最終的には魔界の門を開いてしまう大罪さえ、ジェシカに押し付け、そこから彼女が悪女へと転落していくのである。

だからこそ、私はジェシカとは全く違う生き方をしようと決めたのだ。

学院生活の4年間を元の世界に戻る方法を探しつつ、波風立てぬように静かに暮らし、最終的にもし日本に帰れなかった場合は誰も私を知らない国へ移り住んで、ひっそりと暮して行こうと決めていたのだから。

これ等の事を一気に頭の中で考えて、黙り込んでしまった私をマリウスは心配そうに声をかけてきた。


「どうされましたか?お嬢様?やはり・・・傷ついてらっしゃるのですね。分かりました!今から私があの現場に乗り込んで、彼等に制裁を加えてきます!相手は6人いますが・・・何、不意打ちを食らわせればどうってことはありません。まずは背後から彼等の半径20m以内に近付き、そこから爆風の魔法を起こして目くらましをしたところ、1人1人確実に・・・。」


「ストップッ!マリウスッ!お願いだからそれ以上過激な発言をしないでっ!」

私はテーブルをバンバン叩いてマリウスを制した。

ああ・・・やっぱり最近のマリウスはおかしい。何か妙な物でも拾い食いしたのではないだろうか?これならまだ単なるM男だけの方がましだった・・・。








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