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第10章 3 波乱の仮装ダンスパーティー開幕

1


いよいよ本日は私の運命を決める?仮装ダンスパーティーの開催。

ここは匿名で借りた特別準備室である。私とマリウスは誰にも見つからないように別々にこの部屋にやってきた。最もこの部屋は今では殆ど使われる事の無い旧校舎を改装した部屋なので滅多に学生が足を踏み入れる事は無い。


私とマリウスの準備は余念が無かった。パーティーは18時から始まるが今の時刻は15時。早目に準備と打ち合わせをする事にしたのだ。私の衣装は真っ黒のワンピースに白いエプロン、頭にはホワイトブリムを被る。そして変装の為のメガネに、何故かマリウスから髪の毛をお団子に結い上げたシルバーのカツラを手渡されたのだ。


「ねえ・・・。マリウス、念の為に聞くけど、何故カツラがシルバーなのかな?」

マリウスにシルバーのカツラを渡された時、私は尋ねた。


「ええ?お嬢様。それを私に訊ねるのですか?そんなのは当然では無いですか。私の髪の毛の色がシルバーだからです。フフフ・・・。お揃いですね、お嬢様。」


ゾワゾワッ!またしてもマリウスが何やら気色悪い事を言ってきたが、ここは聞こえなかったフリをしておこう。


「ねえ、マリウスはどんな仮装をする事にしたの?」

私は興味津々に尋ねた。実はエマ達からもどんな仮装をするのか聞いていなかったのだ。


「はい・・・私がエマ様達にジェシカお嬢様に変装する話をしたところ、この衣装を勧められて・・・。」


マリウスが私に見せてきたのはまるでアゲハ蝶の様な模様が描かれたドレスであった。しかもご丁寧に肩から指先にかけて広げると蝶の羽の様なマントまでついている。

さらにマリウスは付属品ですと言ってアイマスクも見せてきた。一応、仮装ダンスパーティーでは、顔全体を隠す仮面は禁止されているが、目元を隠すアイマスクのみなら着用可となっているのだ。やはりこれもアゲハ蝶の様な柄になっている。

「こ、これは・・・。」


「はい、アゲハ蝶のドレスです。エマ様達のジェシカお嬢様のイメージは、どうもこの様なイメージらしく・・・。」


マリウスの言葉に私は苦笑するしか無かった。そうなのか。アゲハ蝶のイメージなんて、まるでキャバ嬢みたいだ。確かにこの外見ではその様に見られても仕方が無いか・・・。


「このアイマスクを着ければ誰か殆ど分からなくなりそうね。」

私は言った。ただ、メイドの姿をした私に注目されては意味が無いので、ある程度はマリウスを私に見えるように変装させなければ意味が無い。

何故ならマリウスにはもう一つ、重要な役割があるからだ。それはアラン王子をソフィーに引き合わせる事。

マリウスはそもそもソフィーの顔を知らない。ストロベリーブロンドの色をした髪色だとは説明してあるが、たったそれだけでソフィーの事を分るはずもない。

なのでソフィーが現れたら、私がマリウスに伝え、マリウスがアラン王子を誘導?して2人に運命的な出会いを与える・・・これが私の考え出したシナリオだ。

しかし、マリウスは私がソフィーの事を話すと、表情を曇らせた。


「お嬢様・・・本当にアラン王子とソフィー様を引き合わせて、良いのでしょうか・・・?何だか嫌な予感がするのです。」


でも本来の小説ではソフィーとアラン王子が中心でなければならないのだ。そして私は悪女のポジションで・・・。ただ、今の私は友人もいるし、私の味方になってくれそうな男性達もいる。だから、恐らく大丈夫・・・だと思いたい。

でも、もしマリウスの予感が当たったら?その時は・・・逃げるしか無い。

その為にも今から逃亡する為の準備はしておくべきだろう。でもあの夢通りなら私は逃げれない。


「お嬢様?どうされたのですか?」


急に黙り込んだ私を見てマリウスが心配そうに声をかけてきた。

「大丈夫、何でも無いから。それじゃ、まず私から着替えてくるね。」

私はメイド服を抱えると、カーテンで仕切られた隣の部屋へと移動する。


「はい。それにしても仮にも名門リッジウェイ家のお嬢様がメイドの格好をするなんて・・・。」


マリウスの嘆く声が聞こえてくる。ふん、余計なお世話よ。元々私はドレスを着たい等の願望は無いのだから。

まず黒の長袖ワンピースに袖を通す。このワンピースはスカート丈がくるぶしまであるロング丈のプリンセスラインのワンピースである。日本人の私にとってはこれだけで十分素敵だと思うのだけれど・・・?そしてフリル袖の長いエプロンを着用してみる。おおっ!我ながら似合ってるかも・・・。鏡の前でクルリと回ってみる。うん!すごくいい!

でもこの姿では単にメイドの服を着ただけに過ぎない。私だとバレバレだ。

そこで自分の髪の毛を纏めて縛ると、マリウスが用意したシルバーのカツラを被る。すると一気に雰囲気が変わった。更にメガネをつけ・・・実はこのメガネはマジックアイテムでこのメガネを装着すると瞳の色が変化するのだ。私はこのメガネで自分の瞳の色を青色に変える事にした。

「どう?マリウス。」

カーテンを開けて出てくるとマリウスはポカンとした顔で見て、やがて頬を真っ赤に染めると言った。


「お、お嬢様・・・お美しい・・・何てお似合いなんでしょう・・・っ!素敵すぎです。どうか私に『ほらっ!さっさと飲物を選びなさいよ、このグズッ!』と言いつけて下さい!」


メイドの格好しただけで、またマリウスのMのスイッチが入っちゃったよ。いや、今はそんな事をしている場合では無い。

「そんな事よりもどう?まだ私だとばれちゃうかな?」


「ええと・・・そうですね。お嬢様は美し過ぎるので、メイドには見えないオーラを発していますね。う~ん・・・そうだ!まずその口もとのホクロを化粧で隠して、ソバカスを描いてみてはどうでしょうか?私が試してますよ。」

マリウスの提案に私も乗ることにした。

「そうね、マリウス。お願い。」


「はい、お任せ下さい。ではお嬢様、少しの間、目を閉じて頂けますか?」


言われた私は素直に目を閉じる。

マリウスが私の顎を掴み・・・いつまでもたっても化粧をされる気配が無い。

「?」

何だろう、目を開けて私は心臓が止まる程驚いた。何と眼前に同じく目を閉じたマリウスが私にキスしようとしているでは無いか!

「キャアアアアッ!!な、何しようとしてるのよ!馬鹿、変態!」

私は大声で叫び、2m程一気に後退った。


「あ、申し訳ございません。ついこの間のお嬢様との口づけの余韻が・・・。」

マリウスは悪気が無さそうに言う。こ、この男は・・・っ!ひょっとすると、私が今一緒にいて、貞操の危機を感じる相手はマリウスなのかもしれない。


紆余曲折あったが、マリウスのアイデアでほくろを消し、ソバカスを付けた私は何処から見ても、私だと気付かれないだろう。

さて、次はいよいよマリウスの番だ。


「では、お嬢様。薬を全て飲みますね。」 


マリウスは女性化するドリンクの蓋を開けると、一気に飲み干した。固唾を飲んで見守る私。すると徐々にマリウスの身体に変化が起き始めた。まず身長が縮み、身体が丸みを帯びて、ほっそりしてくる。髪の毛は肩先迄伸びて瞳は大きくなり、唇はふっくらとピンク色に染っている。

まさにそこにいるのは絶世の美女だ。マリウスのあまりの美しさに思わず私は見惚れてしまった。


「いかがでしょうか?お嬢様。」

頬を染めて、私を見つめるマリウス。か、可愛すぎ・・・こんなに可愛いのだから、わざわざ私の姿に変装する必要は無いのではないだろうか・・・?




2



コホン・・・。 

私は咳払いした。

「そ、それじゃマリウス、カーテンの奥でこのドレスに着替えて来てね。」


するとマリウスからとんでも無い台詞が飛び出してきた。

「お嬢様・・・申し訳ございませんが、着替えるのを手伝って頂け無いでしょうか・・・?」


はい・・・?今何と言った?私の聞き間違いではないだろうか?

「ごめんね、マリウス。もう一度言ってくれる?」


「はい、ジェシカお嬢様。どうか私の着替えを手伝って頂けますか?」

美少女マリウスは真顔で私に言う。


着替え・・・着替えを手伝う・・・?!

「ちょ、ちょっと待ってよ!私が手伝える訳ないでしょう?!何とか自分で着替えてよ!」

大袈裟に手を振りながら断る私。しかし、マリウスは困った顔で私に懇願する。


「けれど、そのような事を言われても私は女性のドレスは愚か、下着すら着たことが無いのです。何やらエマ様達が、<コルセット>なる物が必要だと言われて購入してみたのですが、このコルセットすらつけ方が分かりません。」


た、確かに今は可憐な美少女へと変貌を遂げているマリウスではあるが、所詮は仮の姿。しかも後数時間もすれば男性へと戻るのである。そんなマリウスにコルセットの付け方など分かるはずも無く、エマ達もそこまで教えてはいなかったのであろう。

し、仕方が無い・・・。


「マリウス・・・そのコルセット、取り合えず私に見せて・・・くれる?」


「はい、分かりました。こちらです。」


マリウスが差し出してきたコルセットをまじまじと見つめる。うん、確かにブラックのコルセットだ。デザインは・・・ほっ。良かった・・・。バックで紐を結ぶタイプか。これなら・・・何とか手伝ってあげられるかもしれない。


「マリウス。取り合えず下の服はそのままで、上半身の服を全て脱いだら、このコルセットと頭から被って、私を呼んでくれる?その際、必ず背中を向けていてよ!」

ここだけは念を押して置く。


「はい・・・分かりました。」


マリウスは着替えを全て持つと、カーテンの奥へと消えて行った。ふう・・。それにしても、仮装ダンスパーティーの時間まで2時間を切ったのだが、色々あって既に疲れ切ってしまった。ああ・・・もうパーティーなど出ないで、寮の自室でゴロゴロして過ごしたい物である。

等と考えていると、中からマリウスの声が聞こえてきた。


「お嬢様・・・取り合えず着替えて見ましたが・・・。」


「分かったわ。それじゃカーテンを開けるから、いい?マリウス。絶対背中を向けているのよ?私の方を見ないでよ?」


「はい、分かりましたが・・・けれども何故ですか?」


マリウスの不思議そうな声が聞こえてくる。私だって、何故自分でそう思うのかと問い詰められても上手く理由が答えられない。けれども・・・今は女性の姿をしていても所詮、マリウスは男性。心は男性の着替えを手伝うのは何となく気がひけてしまうのだ。


「そ、それじゃ・・・カーテンを開けるわね。」

シャーッ。

カーテンを開けると、そこには背中を向けたマリウス(女性)の姿があった。真っ白な背中に細くくびれた腰・・・。やだ!どう見ても女じゃない!

「じゃあ、背中に・・ついているリボンで・・結んでいくから・・・ね。」


「はい、よろしくお願いします。」


素直にお礼を言うマリウス。私は震える手でコルセットの紐を縛り上げていく。

「は・・はい、出来たわ。後は・・ドレスを着たら声をかけてね。」


「ええ?!こんな複雑なドレスを自分1人で着ろと言うのですか?!」

何とも情けない声を上げるマリウス。


「だ、大丈夫よ!ほら、このドレスの構造をよく見て!この蝶の羽、良く見たらマントになってるじゃないの!だから先にこのドレスを頭から被って、脇の紐・・・は、私がまた縛ってあげるから、ね?その後、このマントを被ればオッケーよ!」

私はドレスをあちこち見ながら、必死でマリウスを説得した。


「分かりました・・・。では試してまいりますね・・・。」

マリウスは再びドレスを抱えるとすごすごとカーテンの奥へ消えて行った。


「ふう・・・・。」


溜息をついて、椅子に崩れるように座ると天井を仰ぎ見た。全く・・何故こんな面倒臭い事になってしまったのだろう・・・。


「お嬢様、着てみました。どうでしょうか?」


マリウスが若干興奮気味にカーテン奥から出てきた。その衣装は本当に今のマリウスに良く似合っていた。


「おお~っ!凄い!何てよく似あっているの!まるでマリウスの為に作られたドレス見たいじゃ無いの!」

私は心から感心して拍手をするが、当の本人はあまり嬉しくなさそうである。


「そんな風に褒められても、何故か複雑な気分ですよ・・・。」


そういうものなのだろうか?本当にすごくよく似合っているのに。


「お嬢様、きちんとドレスを着る事が出来ているか確認して頂けますか?」


マリウスがお願いするので、私は前後左右をくまなく調べる。うん、大丈夫みたいだ。

「平気よ、何の問題も無く着こなせているわ。はい、後はこのマントを羽織って・・・。」

私はマリウスの背後に回り、マントを被せようとして・・・いきなり前を向いたマリウスが振り向き、突然強く抱きしめられた。


「ち、ちょっと!!な、何するのよ、マリウス!」


「ジェシカお嬢様・・・私は今女性です。なので女性同士なら構いませんよね?」


そう言うと、私を抱きしめたままグググッと顔を近づけて来る。な、何を考えているのよ、コイツはッ!!


「は、放しなさいってば!」

何とかマリウスを押しのけようとしても、同じ女性なのに信じられない位に力が強い。しかもよく見れば身長だって私よりは高い。う・・・っ!流石元々は男だ。しかしこれでは身長でアラン王子にバレてしまうのでは?等と今マリウスに襲われかけているのに違う事を考えている自分がいる。


「おや?どうしたのですか?お嬢様。今私と2人きりなのに・・・もしや別の男性の事を考えたりしていませんか?」


言いながら、尚も私に迫って来るマリウス。な、何なの?!マリウスって本当はこんなキャラだったわけ?!

「い・・いい加減にしなさいよ!ふざけないで!今、こんな事している場合じゃ無いの分かってるでしょう?!」

マリウスの腕から逃れようともがきつつ、必死で叫ぶ私。


「それでは無事仮装ダンスパーティーでジェシカお嬢様を守り抜き、アラン王子をソフィー様と引き合わせる事が出来れば構わないのですよね?」


マリウスは私を強く抱きしめたまま、耳元で悪魔のように囁く。


「そ、そうね!本当にそんな事が出来ればね!」


気付けば私は解放してもらいたい一心で捨て鉢な気持ちで叫んでいた。

はっ!し、しまった・・・・。


するとマリウスは私の身体を放し、笑みを浮かべると言った。


「ではお嬢様、私がお役目をきちんと務め上げた暁には・・・先程言った約束、必ず守って頂きますよ?」


ヒイイッ!こ、怖い・・・またマリウスが得体の知れない人物へと変貌してしまった。最近のマリウスは絶対におかしい!まるで何かに操られているようだ。大体こんなキャラじゃ無かったでしょう?!貴方は!

ジェシカに虐められ、踏みつけられるのが好きだったはずなのに・・・もしかしてMのスイッチが入り過ぎて、とうとうおかしくなってしまったのだろうか?

それにしてもどう転んでもこれでは私には悲惨な結末しか残されていないではないか。アラン王子達の誰かに捕まれば、その男性とクリスマスを過ごし、結婚を前提?としたお付き合いをしなければならない。もし、この相手がアラン王子や生徒会長だとしたら私の人生は終わりだ。

かと言って、マリウスの手助けで私が仮装パーティーの時間を逃げ切り、尚且つ、ソフィーとアラン王子をマリウスが上手く引き合わせる事が出来たなら、私を自分の好きにするとでも言うのだろうか?

私はつくづく思った。 

ああ、本当にこのまま逃げたい・・・・と。





3



「ねえ、マリウス。髪の毛はどうするの?まさかそのままでパーティーに出るの?」 

流石に シルバーの髪色では私に似せるのは難しいのではないだろうか?


「大丈夫ですよ、お嬢様。ちゃんとカツラを用意してありますから。」


マリウスは持参してきたカバンから、私の髪の毛そっくりのカツラを取り出し、被ってみた。おおっ、それだけで雰囲気がガラリと変わる。後は・・・そうそう。私と同じ場所にほくろを書かなくては。

「それじゃ、マリウス。お化粧をした後、ほくろを書くからね。」

私はまず自分が普段している軽いメイクをした後、私に似せる為に眉をいじったり、目元や口元の化粧を施していく。

そして最期に口元にほくろを付け・・・改めてマリウスをじっくり見る。

こ、これは・・・す、凄い!よく似ている。私ってもしかしたらメイクアップアーティストの才能があったりして?!

「ねえねえ、見て。マリウス!どう?私に似ていると思わない?」

私はマリウスを鏡の前に連れて行き、立たせてみせた。


「本当ですね!まるでお嬢様です!」

当の本人も興奮を隠せずに驚いている。


「でも、ちょっと残念だな~。」


「何が残念なのですか?」


不思議そうに尋ねるマリウス。

「だってそうじゃない。さっきの素のままのマリウスの方が美女だったのに、わざわざ私に似せる姿にメイクしちゃったから・・・。」

するとマリウスが顔色を変えて言った。


「何を仰るのですか、お嬢様!お嬢様は本当に美しい方です!御自分でその魅力に気付かれていないのですか?!」


真剣な顔で私の両手をガシッと握ると言った。マリウスの指はホッソリとしており、吸い付くような瑞々しさである。

うっ・・・手まで完全に女性のソレじゃないの。

「わ、分かったわ。そ、それじゃ今度は髪型を変えて、アクセサリーもしてみようかな?」


 

 それからまたしばらくの間、私はマリウスを完璧な女性にする為に奮闘するのだった・・・。



 時刻は17:15分


メイド姿になった私は一足先にパーティー会場に紛れ込む事にした。

「いい、マリウス。もしアラン王子がやってきたらさりげ無く近寄るのよ。それでもし他の人達だったら、見つからないように場所を移動してね。アラン王子と合流していなければ、定期的に私とパーティー会場のガーデンで落ち合うわよ。そしてここからが重要だから良く聞いてね。」

私はマリウスをじっと見つめると言った。


「は、はい。」


マリウスは真剣な表情で私の話を聞いている。


「パーティー会場にソフィーは行くけれども、恐らく意地悪をされて、閉め出されてしまうと思うの。」


「ええっ?!それはお気の毒ですね。」


マリウスは同情の表情を浮かべる。


「そうなの、そして可愛そうなソフィーは裏庭からパーティー会場の様子を伺っている。そこへ現れるのがアラン王子よ!」


「はあ・・・。」


「アラン王子とソフィーはそこで一瞬にして恋に落ちると言う訳。」


「なる程・・・。」


「そこで2人の恋のキューピットになるのが、私に変装したマリウス、貴方よ!」

いささか演技めいた身振り手振りで話す私を徐々に白けた目で見てくるマリウス。


「でもそんなにうまくいくでしょうか・・・?私の目から見てもアラン王子はお嬢様に夢中ですよ?今更他の女性に興味を持つとは思えませんが・・・。」


 疑わし気に言うマリウス。でも私はこの小説の作者、若干小説とシチュエーションは違うものの恐らくこの後の展開は同じはず。

「大丈夫だってば(多分)マリウスは堂々とアラン王子をソフィーの元へ連れて行けば、アラン王子はソフィーに釘付け、途端に甘いムードに包まれる2人。そしてマリウスはそっと見つめ合う2人を残してさり気なくその場を立ち去れば任務完了よ。」


「分かりました・・・。」


 疑わし気な目で返事をするマリウス。でもこれで全てが丸く収まるはずよ。きっとアラン王子を連れて来てくれた私をソフィーは感謝し、恨みを買う事も無くなり、卒業までの4年間の学生生活を安泰に過ごす事が出来るはず・・・・。


「マリウス、頑張ってね。私の為に!」

最期にとどめの一押しをする。


「は、はい!お嬢様の為にも・・・そして自分の為にも頑張ります!」


 マリウスのやる気を出させ、私は一足先にバーティ―会場へと足を運んだ。

いざ、戦い?の場へ!




 会場は色とりどりのカラフルな仮装をした学生達で賑わっていた。私はそんな中を飲み物を持ったお盆を持ってせわしなく働いている。


「おーい!こっちにシャンパンを頼む!」

「私にはワインを頂戴。」

「そこのメイドさん!ローストビーフが無くなってしまったから追加を頼む!」


等々・・・目の回るような忙しさだ。


私は一生懸命働きながら会場の様子を伺った。うん?あれは・・・もしかして生徒会長か?真っ黒な軍服に身をつつみ、黒いサングラスをした怪しさ100%の男性・・・おまけに腰には何故かクルクル巻かれた黒い鞭を付けている。うん、あんな怪しい物を腰に装着している段階で生徒会長断定確実だな。辺りをキョロキョロ見回している所をみると、恐らく私を探しているのだろう。

ふふん、どう?さっきから何度も生徒会長の目の前を通り過ぎているけれど、ちっとも気が付いていない様ね。

 おや?きっとあの2人はグレイとルークだ。あの恰好は・・・もしかして海賊の恰好でもしているのだろうか?アイパッチに海賊が被るような三角帽子、だぼだぼのズボンにだぼだぼの真っ白なシャツ・・・。う~ん・・・いくら仮装ダンスパーティとは言え、もう少し素敵な仮装を思いつかなかったのだろうか?正直言ってあのような衣装でダンスに誘われた女性が受けてくれるとは思えない。彼等もキョロキョロしていると言う事は、恐らく私を探しているのだろう。でも、ごめんね。グレイ、ルーク。今回ばかりは私はこの賭けに負ける訳にはいかないのよ。全力で逃げ切らせて頂きます!

 おや?入り口付近で黄色い歓声が上がった・・・おおっ!あれはノア先輩とダニエル先輩だ。何故よりにもよって学園中の注目を浴びる2人が揃ってパーティー会場に現れたのだろう?あれ・・・よく見ると2人とも互いに睨みあってけん制し合っているようにも見えるなあ。えっと、2人の衣装は・・・あ!見事に被ってる。あれはドラキュラ伯爵の仮装に違いない!

 2人は女性たちの誘いを見事に無視し、周囲をキョロキョロしている。やはり彼等も私を探しているようだ。でも、まさかこの私がメイドとして会場に紛れてるとは思っても居ない様だ。


 そう言えば、ライアンの姿が見えない。彼は一体どこにいるのだろう・・・。

その時、見覚えのある男性がボーイとして働いている姿が見えた。

あ!あれは・・・ま、まずいっ・・・!ライアンだ。ライアンがボーイとして働いている・・・。

何てことだ。まさか彼までが私と同じ考えでパーティー会場に紛れ込んでいたのだろう。これは非常にピンチだ、一応変装はしているものの万一の為になるべくライアンからは距離を置いて仕事をしていよう。

 そんな事より、マリウスだ。マリウスは一体何処に・・・?

私はキョロキョロと辺りを探していると、中庭に見覚えのあるストベリーブロンドの髪の女性の後姿を見つけた。

間違いない・・・!あれはソフィーだ。

でも・・何か様子がおかしい。誰かと話をしているようだ・・・。

私はそろそろと中庭へ近づき、柱の陰に隠れて様子を伺う事にした。



「全く・・・!どうしてこんなにも貴女は使えないのよっ!」


ソフィーがヒステリックに叫んでいる。


「お、落ち着いて下さい。ソフィーさん。」


女性が必死で宥めているのが聞こえた。え?誰かと一緒にいるの?


「折角ナターシャの弱みを握っていいなりにさせようとしたのに、計画がことごとく失敗するなんて・・・っ!もっと貴女がうまく立ち回らなかったからでしょう?!」


一体ソフィーは誰と話をしているのだろう・・・?少しだけ柱から顔を覗かせて私は息を飲んだ。

その相手はアメリアだったのだ。

え?何故彼女がここに?それに記憶喪失では無かったの?ナターシャの弱みを握ったって・・・一体どういう事・・?


私はさらに身を乗り出そうとして・・・・突然背後から誰かに肩を掴まれた―。




4



「!」 

この時、私は両手で咄嗟に口を押えて悲鳴が飛び出るのを防いだ。我ながらよくやったと思う。

それにしても本当に心臓が止まる一歩手前だった。一体誰が私をこんなに驚かせたのだろうと思って振り向くと、そこに立っていたのは何とジョセフ先生だったのだ。

私があまりに驚いた表情をしたのだろう。肩に手を置いたまま先生が困惑した表情を浮かべている。

私は人差し指を唇に当てて、先生に静かにしててもらうようにジェスチャーを送ると、先生も理解してくれたのか、黙って頷く。


その時だ。


「あら?何だか人の気配がしない?」


ソフィーの声が聞こえた。


「さあ・・?私は何も感じませんでしたけど?」


アメリアが答えている。


「ふ~ん。そう?気のせいかしら?兎に角・・・ナターシャがいなくなってしまったのは痛手だったわ。折角利用価値のある駒を手中に収める事が出来たと思っていたのに・・・。あら、何よ?その顔は?何か言いたい事でもありそうね?」


「い、いえ・・・。」


「何よ、煮え切らない態度ね!言いたい事があるならはっきり言いなさいよ!」


徐々にヒステリックになってくるソフィーの声。


「そ、それなら言わせて貰いますが・・・ソフィーさんはあまりに色々な人を利用して傷つけていると思います。無関係の人まで病院送りにしてしまったじゃないですか。」


もしかするとアメリアはライアンの事を言っているのではないだろうか?


「何よ!煩いわね!私に指図する気?!」


「い、いえ・・・。そんな指図なんて・・。」


今にも消えいりそうなアメリアの声が聞こえる。


「そんな事よりも、ここで待っていれば貴女が言う通り、アラン王子が来てくれるのよね?その為にわざわざこんなボロボロの仮装までしてきたのよ?」


え?どういう意味?アメリアはここで待っていればアラン王子がやってくるという事を事前に知っていると言うの?


「え、ええ・・・。多分・・ですけど。アラン王子がここに必ず来ると言う確約は出来ません。」


「な、何ですって?!」


苛立つソフィーが気になり、私はそっと柱から頭を出して2人の様子を伺った。何故かジョセフ先生も私と同じ真似をしている。


「あの時は、はっきりアラン王子が来るって答えたじゃ無いの?貴女・・私を馬鹿にする気なの?!こんな恥ずかしい衣装まで着てきたと言うのに・・っ!!」


およそ、ヒロインらしからぬ台詞を吐いたソフィー。

その直後、私は見た。


パンッ!!

ソフィーが右手を高々と上げてアメリアの頬を強く打ったのだ。


「ッ!」

私は思わずその場に飛び出そうとした時、アラン王子の刺すような声を聞いた。


「おい・・そこの女・・。一体その女性に何をしたのだ?」


見ると、そこにはアラン王子が険しい顔でソフィーを睨むように立っていたのだ。

そしてその背後には私に変装したマリウスが立っている。

おおっ!マリウス!アラン王子をソフィーの所へ連れて来てくれたのね?しかし・・

タイミング悪すぎっ!!

何で、よりにもよってソフィーがアメリアに手を上げた瞬間にアラン王子を現場に連れてきちゃってるわけ?!これではアラン王子がソフィーに幻滅してしまうかもしれないじゃないの。


「あ・・・アラン王子様・・・わ、私は・・・。」


ソフィーはすっかりうろたえている。それはそうだろう。この物語のヒーローに自分が手を上げる姿をばっちり見られてしまったのだから。


アメリアはと言えば、余程強く叩かれたのか、真っ赤に腫れた頬を手で押さえて俯いている。

アラン王子は目に涙を溜め、縋るように見つめるソフィーの脇をすり抜け、頬を赤く腫らしたアメリアの元へ近づき、ハンカチをそっと渡すと言った。


「君、大丈夫か?このハンカチを濡らして冷やしたほうが良い。」


「そ、そんな!王子様のハンカチを借りるなんて・・・。」


アメリアはフルフルと首を振ったが、アラン王子は優し気に笑うと言った。


「いや、そんな事気にする必要は無い。なら俺が一緒に行こう。向こうの噴水でハンカチを濡らして冷やしてくれば良いのだから。」


そして、なんと驚く事にアメリアの肩を抱いて、ゆっくりと園庭を後にしたのだった。

こ、このシチュエーションは私が物語で描いた小説の中と同じだ。

でも何故・・・?ここのシーンは本来はヒロイン、ソフィーのはずだったのに。

ヒロインの役割がアメリアにとって代わっている。

これは一体どういう事なのだろうか・・?

一方の私に変装したマリウスはいつの間に姿を消していたようで、庭の中に立っていたのはみすぼらしい衣装を着て、悔しそうにしているソフィー1人だった。




「それにしても・・あのソフィーという女生徒には驚いたね。」


 ここは仮装ダンスパーティーが行われているバルコニーである。私とジョセフ先生は大きな柱の陰に隠れるように話をしていた。


「はい、本当に驚きました。でも、もっと驚いたのはジョセフ先生に対してです。よくここまで変装した私を見抜きましたね。」


私が言うと先生はアハハと笑いながら言った。


「それは分かるよ、僕にはリッジウェイさんがどんな姿をしていたってね。だって君は僕にとっては特別な女性だもの。」


またまたジョセフ先生はこちらが赤面してしまうような台詞を自然に言う。

思わず私は顔が赤くなってしまった。


「でも、どうしてそんな恰好をしているんだい?折角の年に一度の仮装ダンスパーティーだったのに。」


「ええ、まあ色々ありまして・・・・。」

私はこれまでの経緯を全てジョセフ先生に話すと、先生は驚いたように話を聞いていた。


「それじゃ、アラン王子を中庭へと連れて来たのはマジックアイテムを飲んだマリウス・グラント君だったんだね?」


「ええ・・・そうなんです。」


「そうだったのか、でも本当に君に良く似ていたね。あれではアラン王子もさぞかし勘違いしただろうね。」


楽しそうに話すジョセフ先生。


「ええ、マリウスはよくやってくれたと思いますよ。彼には感謝しています。ちょっと話は違う方向に流れてしまいましたけどね?でも・・あれからマリウスの姿が見えないけれど・・・大丈夫なのか心配です。」


「う~ん・・・。そろそろ魔法薬の効果も切れる頃だから、ひょっとすると衣装を着替えに行ったんじゃないかな?でもジェシカさん、どっちにしろ賭けはもう無効だから何も心配しなくていいよ。」


ジョセフ先生は笑顔で言った。


「え?それはどういう意味ですか?」


「何故なら、もうすぐ仮装ダンスパーティは終わるって事。それに君を見つけたのは賭けに参加していなかったこの僕だから、今回の賭けはもう無効だよ。」


あ!そうか!確かに賭けの内容は、誰が最も早く仮装した私を見つける事が出来るのかを争っていたんだ。そして私を見つけ出したのはジョセフ先生。そして先生は賭けに参加していなかったのだから・・・。


「じゃあ、私・・・賭けに勝ったって事にしていいんでしょうか・・・?」

ジョセフ先生を見上げて言った。


「うん、それでいいんじゃないかな?」


「良かった~。私、本当にこの賭けが決まってしまった時、どうしようかと思い悩んでいたんですよ。でも先生のお陰で助かりました。感謝の気持ちで一杯です。ありがとうございました!」

そして先生に頭を下げた。


「そんな、お礼なんていらないよ。それより僕も謝らないといけないね。突然肩を掴んで君を驚かせてしまって・・・。ごめんね、リッジウェイさん。」


その時だ―


ドーンッ!ドーンッ!

大きな花火が上がった。


「うわあ・・・綺麗・・!」

私はその大きな花火を見て思わず口に出していた。


「ああ、仮装ダンスパーティーが終わったんだね。この花火がパーティーの終わりを告げているんだよ。」


ジョセフ先生は大きな打ち上げ花火を見ながら言った。


「綺麗ですね・・・。」

私はバルコニーのテラスに手を置いて、美しい花火を眺めて言った。


「うん、本当に綺麗だね。」


ジョセフ先生は優しく微笑んだ。



 気が付けばいつの間にか大勢の学生達もワラワラとバルコニーに集まり、夜空に咲く花火を誰もが堪能しているのだった―。



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