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第7章 4 名探偵になれるのは?

1


「え・・・・と・・?不当な扱いってどういう意味かな・・?」


不思議そうに言うジョセフ先生。うっ!確かに突然そんな事を言われたら誰だって面食らうかもしれない。まさか先生の生活があまりに貧しそうで切迫した状態に置かれているように見えたからなどと失礼な話など出来る訳が無い。

「そ、それは・・・。」

答えに窮する私。そんな私の様子を見たジョセフ先生はクスリと笑うと言った。


「それじゃ、病院へ行こうか?」




 セント・レイズ総合病院は町の中心部にあった。ジョセフ先生の家から路面電車を乗り継ぎ、到着した私はその病院が思っていた以上に小さかったので少々驚いてしまった。どうも日本に住んでいた時の感覚が抜けられないのかもしれない。

3階建ての建物が4棟並んでいる総合病院はこの規模の町にしてみれば大きい方・・・なのかな?


「どうかしたの?」


私が病院の入り口でボ~ッと立っているのを見たジョセフ先生が声をかけてきた。

「あ、あの。私実は病院を見ること自体・・お恥ずかしいながら初めてなのですが規模的には大きい方なのかな~と思いまして。」


「うん、そうだね。確かに大きい方だと思うよ。診療所と魔法薬師の治療院で大体殆どの病院や怪我は事足りるからね。でもここに運び込まれたと言う事は・・・余程彼の怪我の具合は酷かったのかもしれないね。」


神妙そうな面持ちで言うジョセフ先生。どうしよう、ますますライアンの事が心配になってきた。そんな私の不安を感じ取ったのか、先生が言った。


「まあ、ここにいてもしょうがないから取り合えず病院で彼の面会を出来るか聞いてみる事にしようか?」


 病院側はジョセフ先生がセント・レイズ学院の関係者だと分かると、すぐにお見舞いを承諾してくれた。私も付き添いでと言う事で快諾してもらえたので面会の許可が下りたので安堵した。

病室は205号室で今朝がた、ライアンの意識が戻ったらしい。看護師?のような女性に案内されて私達は205号室の前に着いた。




コンコン。


女性がドアをノックする。


「はい・・・。」


ドアの奥から弱々しい返事が返ってきた。あの声は・・ライアンだ。


「シュタイナーさん、セント・レイズ学院の方々がお見舞いにいらしてますよ。お通ししてよろしいですか?」


そうか、ライアンのファミリーネームはシュタイナーというのか。


「え?セント・レイズ学院から・・・?」


明らかに戸惑った様子の声が聞こえてくる。でもそれはそうだろう。きっとライアンの中では誰が面会に来ているか等恐らく想像もついていないのだろうから。


「あ、はい。どうぞ・・・。」


一瞬躊躇した後ライアンの返事があったので、先にジョセフ先生が病室へ入って行き、私が後から続いた。


「!ジェシカ・・・ッ!」


ライアンからは明らかに驚愕の表情が見て取れた。私が来ているとは思いもしなかったのだろう。彼は身体の至る所を包帯で巻かれ、まだあまり顔色が良くなさそうだった。


「ライアンさん。良かった・・・意識が戻って・・。」

不覚にも私は嬉しさと安堵で涙が滲んでしまい、咄嗟に手で拭った。


「ジェシカ・・・。そんなに俺の事心配してくれていたのか・・?」


動揺しているのか、言葉を詰まらせながら話すライアン。


「何言ってるの。当たり前じゃないですか?だってライアンさんが怪我をした原因を作ったのは私なんですよ。心配して当然じゃないですか?もし怪我が重すぎて死んでしまったりしたらどうしようって、ずっとずっと不安に思っていたんだからね。」

私の言葉を聞いて何故かみるみる頬が赤くなるライアン。


「あの・・・君達2人はもしかして恋人同士だったのかい?それに君は僕に天体観測のスケッチを持ってきた学生さんだよね?」


おずおずと声をかけてきたのはジョセフ先生。


「「は?」」


2人ではもる。


「あ、そ・それは・・・。」


何か言いかけるライアンよりも前に私が返事をした。


「いいえ、違いますよ。彼は私を無実の罪を晴らしてくれた生徒会の恩人なのです。」


「無実の罪・・・?」


ますます訳が分からないと首を傾げるジョセフ先生に私はこれまでの経緯を全て先生に説明する事となった・・・。





「そうだったんだ。随分大変な目に遭ったんだね。」


気遣うように言うジョセフ先生。


「でも、ここにいるライアンさんやマリウスのスケッチブック、それにアラン王子が私達の為に奔走してくれたから無実が証明されたんです。本当に皆さんに感謝ですよ。」

そして私はライアンに向き直って質問した。

「ねえ、ライアンさん。一体その怪我は誰にやられたんですか?」


「いや・・実はそれが分からないんだよ・・・。」


「分からないってどういう事ですか?」


「ああ、実はあの日心当たりのある生徒会の連中2人を体育館へ呼び出したんだけど、そこへ向かう途中でいきなり背後から魔法弾を打たれて・・後は倒れた所を何度も何度も俺が気を失うまで攻撃が続いて、それきりさ。」


ライアンは溜息をついた。


「実は生徒会長が今犯人に仕立て上げられているのですが・・・。」

私の話にライアンは驚いたように目を見開いた。


「生徒会長が?いやまさか。それは絶対にないな。あの日俺は体育館へ向かう途中で焼却炉でゴミを燃やしている生徒会長に会ったんだ。こんな所で何をしているのかを尋ねると、他の役員達に不要になった書類を焼却処分するように言われたから、今それをやっている所だと話していたからな。」


そうか、やはりあの生徒会長は他の生徒会員達のパシリ扱いを受けていたのか。

恐らく役職だけは立派なポストについているが、あくまでそれは肩書だけ。実権は何一つ握っていないお飾り生徒会長だったと言う訳だ。その事に気が付いていないとは哀れな・・・。


「他に何か生徒会長では無いと断言できる証拠はあるのかい?」


黙って聞いていたジョセフ先生が質問した。


「ええ、ありますよ。だって相手は2人いたんですから。正体は見ていないけれども魔法攻撃が左右から飛んできたので俺を襲った相手は2人組に間違いは無いです。」


「そうすると君が犯人を見ていないのなら、何か生徒会長が犯人ではないという証拠を見つけないとならないね・・・。」


真剣に考え込むジョセフ先生。でも私的には生徒会長は色々と人間的に欠陥が生じているので、自分の日頃の行動を顧みる為に暫くは謹慎処分を受け続けて貰いたいのが本音なのだが(おまけに煩わしい)、そんな事ライアンやジョセフ先生の前では絶対に言えない。


 その時病室にあった鳩時計が鳴り、午後4時を知らせた。


「あ、ごめんなさい。ライアンさん。私そろそろ学院に戻らないと・・・。」

病院が用意してくれた椅子から立ち上ると私は言った。


「そうだね、それじゃ僕も御暇しようかな。」


ジョセフ先生も立ち上がる。


「あ、ああ。ごめん、悪かったな。わざわざお見舞いに来てくれて・・・その、嬉しかった。」


少し照れながら言うライアン。私は少し笑うと言った。


「ライアンさん、今度の休暇の時にまたお見舞いに来ますね。お大事にして下さい。」

そして病室を出てから私は気が付いた。しまった!お見舞いの品を何一つ持って来るのを忘れていた・・・。

 


 病院を出た私達はまた路面電車を乗り継ぎ、ジョセフ先生の家へと向かった。そのまま真っすぐ学院へ戻ろうとした私は何故再度先生の家へ戻るのか理由を尋ねたのだが、先生の答えは着いてからのお楽しみという事だった。


 辺りはすっかり夕暮れになっている。市街地から離れた先生の自宅は小高い丘の上にあり街灯も無く、点在した家々と木々が黒いシルエットとなって月明かりに照らされ、まるで影絵のように見えた。背景には輝く星々。まるで昔子供の頃に見た影絵「銀河鉄道の夜」を少しだけ思い出させた。


「どうかな?この景色。」


背後でジョセフ先生の声が聞こえる。振り向いた私はジョセフ先生が子供の様に無邪気な笑顔で美しい風景に見惚れているのが見て取れた。


「君に、この景色を見せてあげたかったんだ。何故僕がこんな場所に住んでいるのか不思議がっていたからね。・・・僕は確かに臨時教員なんて立場にいるけど、学院側からは満足のいく給料をもらっているし、他の教員達は立派な部屋に住んでいる人もいるよ。でも僕はここの景色が好きだから、ここに住んでいるんだ。その事を君には知っておいて貰いたくなってね・・・。」


ゆっくり語る先生の口調は聞いていると穏やかな気持ちにさせてくれる。だから私は答えた。


「はい、確かに教授の仰る通りここは素敵な場所ですね・・・。」

と―。




2


「ごめんね。すっかり引き留めてしまってこんな遅い時間になってしまって。」


 私達は今セント・レイズ学院へ続く門の前に立っていた。

時刻は夜の8時になろうとしている。

ジョセフ先生は何度も私に謝罪した。結局この日の夜はジョセフ先生のご自宅で先生手作りの夕食をご馳走になってしまったのだ。

先生が作ってくれた料理は、野菜たっぷりのミネストローネ、ハーブの効いた鶏肉の香草焼き、チーズたっぷりのピザ・・どれも素晴らしい味だった。

 先生、男性なのに女子力高すぎです!この世界では貴族が普通にいるので自分たちで料理をしない女性が大勢るけれども、もし日本だったら先生はきっと女性達からモテまくって大変だったのではないだろうか?普段は牛乳瓶のような分厚い眼鏡のせいであまり表情が分からないが、眼鏡を取ると物凄く童顔でさながら日本の若手アイドルにでもなれるのではないだろうか?

 私が冗談めかして、先生と結婚できる女性はきっと幸せになれるでしょうねと言った時の何故か寂しげに笑った先生の顔が気にはなったのだが・・・。


「それじゃ、門を開くね。」


先生は門に向けて指輪をかざすと、途端に門が神々しく光り輝き、ゆっくりと開きだした。

「ハワード先生、本日は色々お世話になりました。」

お辞儀をするとジョセフ先生は言った。


「堅苦しいのは苦手だから僕の事は名前で呼んで貰えた方がいいかな?」


ごめんなさい、既に私の心の中では名前の先生呼びをしておりました。

「はい、分かりました。ジョセフ先生。」


「うん、その方がいいな。あ、それで考えたんだけど僕の方でシュタイナー君を襲った人物が誰なのか探ってみようかと思うんだ。犯人が見つからない事には生徒会長だって謹慎処分をうけたままになるし、それではあまりに彼が気の毒だからね。」


「ええ・・。そうですね・・。」

曖昧に返事をする私。いや、先生。そんな事考えなくていいですよ?私的には出来れば生徒会長には数か月は謹慎処分扱いをされていて欲しい位なのですから。只でさえ厄介なアラン王子やマリウスで手一杯なのに・・けれどそんな事絶対に口に出してはいけない。

「では、私の方でも探してみる事にしますね。」

心にも思っていない事を口に出すが、ジョセフ先生1人にお任せするのは悪いので、お手伝いするしか無いか・・・。


 私は開いた門の中へはいり、頭を下げた。ジョセフ先生は門が閉まるまで、そこにいて手を振っていてくれた。

やがて門が完全に閉じ、先生の姿も、町も見えなくなったので私は踵を返して寮へ戻る事にした。

女子寮の玄関を入り、寮母室の前を通り過ぎた時に室内が真っ暗でいつも刺々しい態度で私を見る寮母の姿が見えない事が気がかりだったが、今朝見たあの雰囲気では彼女に何かあったに違ない。


 私は部屋に戻ると、すぐにシャワーを浴びた。今日も色々な出来事があった為、身も心もヘトヘトだ。それにしてもマリウス達が合宿から戻って来てからは、色々な事件が起こり過ぎて、まともに授業に出れていないような気がする。このままではまずい。絶対明日から授業に毎回きちんと出席して単位を落さないようにしなくては・・。


 そして私は翌朝になって、寮母が学院をクビになり、さらにナターシャが停学処分を受けて自宅に戻された事実を知るのだった―。


 朝、いつものように目覚まし時計で目が覚めた私は朝食をとりにホールへ降りていくと何故か女生徒達が大騒ぎしていた。全員が私を見ると凄い勢いで詰め寄って来た。


「ねえ、聞きました?寮母さんの話。」


「ジェシカ様たちを罪に陥れる為に嘘の証言をしてそれがバレてクビにされたそうですよ?」


「そんなの当然ですよね?首席で入学され、しかも名門リッジウェイ家の出自、更にはアラン王子様のお気に入りの女性なのですから!」


「でも寮母の話では全てナターシャ様の指示によるものだったと自白したらしいですね?」


「それでナターシャ様が停学に・・?」


「自業自得ですよね?ジェシカ様。」


 皆が皆、大勢で私を取り囲んで次から次へと話をしてくるので、大変な騒ぎになっている。

けれど・・・ナターシャが停学処分になっていたのか・・。道理で姿を見かけ無かったわけだ。


「ジェシカさん!」


大勢の女生徒の中から私を呼ぶのはエマだ。他にリリス、シャーロット、クロエも一緒だ。


「あ、皆さんおはようございます。」


私が挨拶すると、クロエが言った。


「ジェシカ様の席、取ってあるので皆さんで一緒に朝食を食べましょう?」


勿論、断る訳も無く私は快く返事をした。


「ええ、私も是非皆さんと一緒に朝食を食べたいわ。」


 1つのテーブルに5人で座り、ナターシャと寮母の事を色々聞く事が出来た。

話によると、寮母は昨日の朝すぐに学院長に呼ばれ、私が手引きしてルークとマリウスがナターシャの入浴の覗き見と下着を盗んだ嘘の証言としてナターシャの片棒を担いだと言う事で厳しく注意され、挙句に学生達から不当に賄賂を受け取り、自分が可愛がっている女子学生達が自室に恋人を部屋に招き入れていたのを見逃していた事、さらには学生達の留守中に部屋に侵入し、貴金属のアクセサリーを盗んでいた事等・・罪状を読み上げればきりがないほど罪を犯していたというから驚きだ。

 それらが一度に明るみに出され、その日のうちに解雇されてしまたという。

しかも噂によると誰かから密告があったそうだが、その人物の名前は伏せられているらしい。


「でもあの寮母は、こう言っては何だけどすごくいけすかない人物だったから丁度良かったわ。」


リリスがスープを飲みながら言う。


「本当にそうね。私いつもあの寮母室の前を通る時、何て言われていたと思う?


『もっとゆっくり廊下を歩いて下さい、貴女が歩くと床が揺れて困ります。』って言われていたんですよ!』」


トーストに蜂蜜を塗りながら憤慨したように言うシャーロット。


「そうね・・・でも貴女は確かにもう少し痩せてみれば、もっと魅力的に見えるんじゃないかしら?」


クロエが苦笑しながら言った。


「それで、ナターシャさんのほうですけど・・・。」


 エマが口を開いてナターシャの事を語りだした。ナターシャの家、ハミルトン家は由緒正しい家柄であり、厳しい両親の元で育てられたらしい。そんな彼女は常日頃から家を出たいと考えていたそうだが、17歳の誕生日を迎えた日に突然力に目覚め、この学院に両親の反対を押し切って入学してきたそうだ。何故そこまで彼女がこの学院に入学を強く希望来したかと言うと、彼女には15歳の時から25歳年の離れた婚約者(日本で言えば犯罪に当たるのでは??)がおり、ナターシャが20歳になった時に結婚しなくてはならない約束が両家の間で結ばれていたそうだ。彼女は当然その結婚を激しく嫌がり、この学院で恋人を見つけて、ゆくゆくは結婚をと考えていたらしい。


「でも今回の事で停学処分になってしまったので、恐らくナターシャさんはもうこの学院に戻って来れないかもしれませんね。良くても婚約者との時期を早めた結婚か、悪ければ廃嫡され、家を追い出されてしまう事になるかもしれませんね・・。」


エマがため息をつきながら言った。その場に居た全員がエマの話を黙って聞いていたのは言うまでもない。


多分全員がこう思っていたのではないだろうか?


エマは一体何者なのだろうか・・・と?


 けれど、ナターシャにそのような複雑な事情があるとはちっとも知らなかった。彼女が不幸な運命に転落してしまったのはやはりソフィーが原因だったのではないだろうか・・・。私の書いた小説のヒロインとはまるで真逆のタイプに見える。


でも、ナターシャは憧れのノア先輩に抱かれたのだから、少しは幸せを感じる事が出来たのではないか・・・と私は思いたい―。




3



「はあ~・・・・。」

私は何度目かのため息をついていた。


「どうしたんだ、ジェシカ?具合でも悪いのか?」


私の右腕をがっしり掴んだアラン王子が言う。


「君たちがあまりにしつこいからジェシカがうんざりしているんじゃないかな?」


左腕を絡ませているダニエル先輩がアラン王子を睨み付けるように言った。


「お二人とも、ジェシカお嬢様を放して頂けませんか?お嬢様の隣を歩いて良いのは下僕である私だけなのですけど?」


背の高いマリウスの声が頭の上から聞こえてくる。


「僕は先輩だぞ?いい加減に僕の女神に馴れ馴れしくするな!」


無理矢理ダニエル先輩の腕から私を引き離そうとするノア先輩。


「何するんだ!大体君が一番危険人物なんだ!」


必死で抵抗するダニエル先輩。


痛い痛い!私の腕が変な方向に曲がってる!

「ね、ねえ!あの、腕が痛いんですけど・・・!」


「お前達2人ともジェシカから離れろ!痛がっているじゃないか!」


アラン王子が怒鳴る。やめて~!耳元で喚かないでよ!


「お嬢様から離れるのは貴方達の方では無いですか?!」


珍しくマリウスが憤慨している。


「マリウス!お前もだ!」


色白のノア先輩が顔を赤く染めて怒鳴っている・・・。


一方、グレイとルークはアラン王子と私の荷物持ちをさせられている。


「どうして俺達が・・・。」


ルークが言う。


「ジェシカ・・・もうお前を諦めなくちゃならないのか・・?


まるで不幸のどん底にでも落ちたかのように暗い声でブツブツ呟いているグレイ。


 これではいくら生徒会長がいないからと言ってもノア先輩が加わってきたので元も子もない。あ~っ!もういい加減にして欲しい!

ねえ、皆さんには周囲の視線が気にならないのですか?こう見えても私の内面はれっきとした日本人。日本人という者は人の目を誰よりも気にしてしまう民族なのですよ?ほら、見てよ、あそこの女生徒達。物凄い嫉妬の目で私を睨んでるじゃ無いの。それに向こうの男子学生達は呆れた目でこちらを見てるのよ?これ以上私は周囲の好奇心に満ちた視線や、敵意に満ちた視線に耐えうる事は出来ないのよ!

 なのに彼等は私の意見などまるきり無視して勝手に騒ぎを起こしてる。喧嘩するなら私を解放してグレイとルークを除く皆でやり合って下さいと言ってやりたい。

大体、以前アラン王子の提案で交代で私を警護するという話になったはずでは・・?交代・・・?私はそこで気が付いた。


「アラン王子!」

私は隣にいるアラン王子に向き直った。


「何だ?ジェシカ。そうか、ついに俺を選んでくれるのか?よし、ならこいつらの事は無視して2人で一緒に教室へ行こう。」


そして無理やり私の腕からダニエル先輩を引き剥がそうとするアラン王子。けれども放してなるものかとダニエル先輩は抵抗する。腕が痛い痛い・・・。


「あの!腕が痛いって言ってるじゃ無いですか!」


その時、ぱっと手を放したのはダニエル先輩。


「ご、ごめん!ジェシカ!」


「フフン、ついに手を放したな?ダニエル?」


先輩を呼び捨てにするんじゃないってば!満足げに言うアラン王子に私は我慢の限界だ。

「いいえ!手を放して頂くのはアラン王子の方です!」

もうこの人が王子だろうが何だろうが知ったこっちゃない。大体この人は予知夢の中でソフィーの話を信じ、私を罪人にした人物の張本人なのだから。おまけに私が腕を痛がってるのに手を放さなかったなんてとんでもない男だ。さすが俺様王子。


「ええ?!何故だ?ジェシカ?いいか?よく考えろ?俺は一国の王子なんだぞ?普通に考えれば貴族よりも王族を選ぶのは当然だろう?」


ああ、もう嫌になってしまう。おあいにく様、私は日本人です。格差恋愛などお断りです。大体貴方は王子様。黙っていたって色々な女性が本来なら言い寄って来るのでは?それが連日のように私の後ばかり追いかけていると皆に軽蔑されますよ?

「アラン王子・・・元はと言えば、アラン王子が言い出したことなのですよね?私が静かに学院生活を送れるようにする為、私の付き添いを当番制にすると言い出したのは。」

アラン王子を除く他の皆は黙って私とアラン王子の様子を見守っている。

「とにかく、私は静かに学院生活を送りたいんです。授業も真面目に受けたいですし、今謹慎室に閉じ込められている生徒会長も気がかりです。それに私やマリウス、ルークを助けようとして怪我を負った生徒会役員のライアンという方の怪我の具合も心配で頭が一杯なのです。私の事を思って下さるなら少し配慮して頂けないでしょうか?」

・・言ってやった。ついに・・・。大国の王子様だからあまり失礼な事は言えないが、私の言いたい事が伝わっただろうか?遠回しに私には構わないで、一人にさせてくれと伝えたかったのだけど・・・。

 全員水を打ったかのように静まり返っている。あれ・・・どうしたのかな・・?


「そうか・・・。」


最初に口火をきったのはやはり俺様王子アラン。


「ジェシカ・・・お前の言いたい事はよく伝わった・・。」


え?嘘?本当に?


「よし、ならお前が俺達の中から誰か1人選べ!やはり選ぶ権利があるのはジェシカ、お前だ!さあ、今すぐ俺達の中から相手を選ぶのだ!」


 勝手に仕切って勝手に盛り上がっていらっしゃる。他の全員は何か言いたそうにしているが、アラン王子の言う事は最もな事だとでも納得しているようだ。あの~その選択肢の中に誰も選ばないという選択はないのでしょうか・・・


「そうだね・・・確かにアラン王子の言う通りかもね。」


ダニエル先輩、納得してしまうのですか?


「お嬢様がそれで良ければ・・。」


ねえ、マリウス!私それで良いなんて一言も言ってませんけど?!


「君は僕の女神なんだから必ず僕を選んでくれると信じているよ?」


ノア先輩・・女神と呼ぶのほんとに勘弁して下さい。


「「ジェシカ・・・。」」


 まるで捨てられた猫のように縋る目で私を見つめるグレイとルーク。うっ・・・!そんな目で見られると・・・。こんなでは誰かを選んでも酷く恨まれそうな気がする。本当に誰も選ばないという選択肢を設けて欲しい・・・ん?

そこで私はある考えが浮かんだ。

「あの、皆さん。少しよろしいですか?」

私の言葉に一斉に注目する12個の目。私は続けた。

「実は、私は今生徒会長に濡れ衣を着せ、ライアンさんを傷つけて病院送りにした人物を探しています。ライアンさんの話から恐らく襲撃犯は2名いるそうなんです。その犯人を特定出来た人とだけ、一緒に過ごしてもいいかなと思っています。」


「何だ、そんな事かい?分かったよ。ジェシカの為に僕が必ず犯人を特定してあげるね。」


ダニエル先輩は私の両手をギュッと握りしめ、目をキラキラさせる。

おお~さすがはダニエル先輩。優しさが違う。


「お嬢様、それなら私にお任せください。こう見えて私は推理小説も好きなので、謎解きは得意中の得意なのですから。その代わり無事に犯人を見つけたら・・・またいつものアレをお願いしますね。」


ゾワゾワゾワッ!背中に鳥肌が立つ。何よマリウス。いつものアレって一体何なのよ?気になる!気になるけど・・・こんな大勢の前では聞けない!


「ジェシカ、こう見えて僕は聞き込みは得意中の得意だよ?ただし女性に限るんだけどね。でも絶対ジェシカにとって良い情報を持って来るよ。」


ノア先輩・・・そんなに女性に対してお得意なら、どうぞその方々の所へ行って差し上げたら如何ですか?


「「ジェシカ、俺達頑張るから。期待していていいよな?」」


いつの間にか双子のように息ぴったりなグレイとルーク。私的にはこの2人に一番頑張って欲しいかな・・・。


只1人、違っていたのはアラン王子だ。


「おい、ジェシカ!お前、そう言って本当は誰とも付き合わないつもりなんじゃないだろうな?!」


ギックーンッ!!く、なんて勘の鋭いアラン王子なのだ。思わず心の中で舌打ちする私。でも、その考えは当たらずとも遠からず。私はせめて彼等が真犯人を見つけ出すまではエマ達と女子だけの穏やかな学院生活を送りたいだけなのだ。それにアカシックレコードの事も彼等が一緒では調べる事すら出来やしない。

「い、いいえ。そんな事はありませんよ。ほ、ほら私は私で犯人捜しをするつもりなので、ここは皆さんで誰が一番早く犯人を見つけられるか競争しましょうよ。」

 6人はこうして私の提案を受け入れる事になった。

誰が一番最初にライアンを襲った人物を特定できるか?戦いの火ぶたはついに切って落とされた。さあ、名探偵は一体誰になることやら・・・。

最期にダニエル先輩の発言が波紋を呼ぶ。


「ねえ、ジェシカ。ところでライアンって君にとって何者なの?」


ダニエル先輩・・勘弁して下さい。





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