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第6章 4 謹慎部屋にて  

1


 私達は今、指導員によって謹慎処分を受ける部屋へと連行されている。


あの後、生徒会長は私達に対する不当な処分や、自分をないがしろにした生徒会役員たちに不平不満をぶちまけていたが・・・結局最終的には、何と彼等から魔法によって気絶させられ(この展開には流石の私も驚いた)、その間に連れ出されてしまったと言う訳だ。勿論私達もこのまま大人しく連行されるつもりは無かったのだが、抵抗すると余計に処分が重くなると言われて、渋々従う事になってしまった。


「いいか、これからお前たちが謹慎処分にされる部屋は魔法を使えないように魔力が封印されている部屋となっている。そしてお前たちの指につけたリングだが・・。」


歩きながら説明する指導員は不敵な笑みを浮かべると言葉を続けた。


「そのリングを付けられたものは、処分期間中は部屋から1歩も出る事が出来なくなっている。勿論、外側の人間からは出入りは自由だがな・・・。ま、せいぜい2日間大人しくしている事だ。最も・・・・お前たちの無実が証明出来るとは思えないがな?」


「き、貴様・・・!」


 ルークはギリギリと悔しそうに歯ぎしりしているし、マリウスも今迄見たことも無いほどの仏頂面をしている。でも私だって2人と同じ気持ちだ。あんな稚拙な出まかせを、生徒会役員達が信じるなんてあり得ない。何かが裏に絶対隠されているに違いない。けれど今の私達にはどうする事も出来ないのが現状。早く、ジョセフ講師が学院に戻り、あのスケッチブックを見て私達の無実を証明してくれない限りは・・!



「さあ、お前たちが閉じ込められる部屋に着いた。リッジウェイ、お前は一番手前側の部屋だ。その隣がグラント、そしてハンター、お前だ。」


指導員は指で各々が入れられる部屋を指さした。


「何故、グレイに引き続き、俺まで謹慎部屋に・・・。」


ルークは余程ショックを受けているのか、何やらブツブツ呟いている。


「お嬢様、私達お隣同士ですね。」


「ええ、そうね。」


何故か笑顔で私に話しかけて来るマリウス。どうして貴方はそんな風に笑っていられるのよ。私達、これから2日間無実の罪でここに閉じ込められてしまうのよ?ああ、せめて授業のノートだけでも・・・?


「あの、すみません。」

私は指導員の方を向いた。


「何だ?リッジウェイ。」


「この謹慎部屋って・・・確か30分間は面会可能なのですよね?」


「ああ、よく知っているな。」


そりゃそうよ。だってグレイの面会に一度来ているもの。

「あの、謹慎処分を受けている間の授業のノートを友人にお願いしたいのですが・・伝えて頂けないでしょうか?」


「ほう?流石は学年1位の才女だな?まあ、いいだろう。では友人の名を教えろ。」


とことん上から目線の指導員。なにやら無性に腹が立つが、ここはぐっと怒りを抑えて冷静に。

「エマ・フォスターと言う名前の女生徒ですが、お頼み出来ますか?」


「ほう?お前は男に媚ばかり売る女だと思っていたが、同性の友人が一応いたのだな?」


とことん、嫌みな言い方だ。もしかすると喧嘩を吹っかけているのだろうか?


「あ、でしたら私にもお願いします。」


「俺も頼む。」


私に便乗してノートを頼むマリウスとルーク。うん、やはり彼等は真面目な優等生だからね。


「ああ、分かった、分かった。全く・・・図々しい奴らだ。」


うん、聞こえない聞こえない・・・。と言うか、聞く耳を持ってはいけない。こんな奴の相手をいちいちしていたらこちらの身が持たないしね。


「では、お前達中へ入れ。」


指導員の命令?に仕方なく従い、私達は各々与えられた部屋へ足を踏み入れた。


「では、これからお前たちを48時間この部屋で監禁する事になった。脱出など不可能であるから、決しておかしな真似をしないようにな!」


そしてドアは閉ざされた・・・。



 閉じ込められた私は部屋の中をグルリと見渡した。広さは約10畳位だろうか?

簡易机に椅子、そしてベッドが置かれている。私は取りあえずベッドの上に寝転んでみる。うん、寝心地は悪くない。

次に備え付けのバス・トイレ・シャワールームを覗いて見る。

おお、中々良いじゃ無いの。まるで日本のビジネスホテルみたいな感じだ。

床にはカーペットが敷かれているし、ワードローブには個々の部屋の謹慎処分が決まってから持ち込まれた私の私物の服や本が置かれている。

まあ、少し退屈な休暇だと思って過ごせばよいか・・・。

どのみち、ナターシャや寮母がいる寮に戻りにくかった私にとっては謹慎部屋に入れられた方が丁度良かったのかもしれない。

 そしてする事が何も無くなった私は・・・取り合えず眠る事にした。

 

 どの位眠っていただろうか・・・ドンドンドンドンッ!

ドアを激しくノックする音が聞こえてくる。


「おい!ジェシカ・リッジウェイ!面会だ!早く出て来い!」


すると今度は


「おい!貴様!ジェシカに対して何て口の利き方なのだ!」


ヒエッ!あ、あの声は・・・・。

慌ててドアを開ける私。そして目の前に現れたのは指導員を羽交い絞めにしたアラン王子だったのだ。



「アラン王子、何もありませんがお茶をどうぞ。」


私はカップに紅茶を注ぎ、椅子に座るアラン王子に勧めた。しかし・・。


「いや!お茶など、どうでもいい!お前が罪を犯して謹慎部屋へ閉じ込められてしまったと聞かされた時の俺の気持ちが分かるか?!どれ程お前を心配し、心を痛めた事か・・・!!」


そしてどさくさに紛れて私をガバッと抱きしめる生徒会長。ち、ちょっと!何するのよ!

そして私の気持ちなどお構いなしにギュウギュウに抱きしめて来るアラン王子。

く、くるし・・


「あ、アラン王子!く、苦しいですからっ!早く離れて下さいっ!」

私が必死で腕の中でもがくと、ようやく私が苦しんでいる事に気付いた様子でアラン王子は私から離れた。


「す、すまなかった。つい我を忘れて。」


「い、いえ・・・。」

私は顔を青ざめさせながら、何とか返事をする。それにしても凄い力だ。危うく締め殺されてしまうのではないだろうかと思う位に。


「ジェシカ?どうだ?こんな所へ入れられて何か不自由してないか?必要な物があったらどんなものでも持ってこさせるぞ?何、俺は王子だ。出来ない事等何一つない。」


あ~出たわ。俺様王子っぷりが。いや、そんな事よりまずは私達の濡れ衣を晴らす為の動きを何か頼みたいくらいだ。

そこで私はある一つの事に気が付いた。


「あの、アラン王子。私の親友エマはどうされたか何かご存知ですか?」


「ああ。あのエマか?」


「はい、そのエマです。」


「彼女なら来ないぞ。」


「え?何故ですか?」


「何故なら・・・。」


フッフッフッと笑いながら、アラン王子が何処からかノートを取り出す。


「さあ、受け取れ!エマからノートを借りてきた!お前が頼んだのだろう?今日の授業のノートを借りたいと!」


何故か大袈裟な素振りで私にノートを渡すアラン王子。はい、確かにノートを頼みましたが・・・アラン王子。何故貴方が?よし、尋ねてみよう。


「あの・・・私はエマにノートを頼んだのですが・・・何故アラン王子がこれをお持ちになったのですか?」


「何、簡単な事だ。俺がエマからノートを借りてきたのだ。指導員からエマのノートをジェシカが借りたいと言う話を耳にしてな、放課後お前の元に届けようとしていたエマからノートを借りて、届けに参上したのだ。どうだ?嬉しいだろう?この俺に会えて・・。」


「はあ・・・まあ・・。」

私は曖昧な返事をするのが精一杯だった。





2



 取り合えず30分間と言う面会時間が終わり、アラン王子は退室した・・・というか、強制的に指導員達の手により退室させられた。

それにしてもあの暴れっぷりは凄かった。俺は王子だ、もっと居させろと言うわ、挙句にこの俺を追い出すのなら学院への寄付金の援助を打ち切るだのと脅迫し・・・結局私は生徒会役員達に泣きつかれ、アラン王子を退室させる事に成功したのだ。

あ~疲れた・・・。


「本でも読んでようかな・・・。」

私は私物の本を取り出し、パラパラとめくっていると再びドアをノックする音が聞こえた。


「ジェシカ・リッジウェイ、またお前に面会だ。」


うんざりしたかのような指導員の声に私はドアを開けると、そこにいたのはエマ、リリス、シャーロット、クロエ。そして彼女の後ろに立っていたのはグレイだった。


「「「「「ジェシカさん(様)!」」」」」

全員が一斉に私の名前を呼び、私に飛びついてきた。


「ジェシカさん・・・!私、絶対にジェシカさんがナターシャさんにあのような事をしたなんて信じていませんからね!」


エマが必死になって言う。


「そうです!そんな真似をしてジェシカ様に何の得があると言うのですか?言いがかりも酷いですよ!」


クロエはかなり憤慨している。


「ジェシカ様・・・。謹慎されている間は暇だと思い、私刺繍セットを持ってきたんです・・。よろしければ使って下さい・・。」


半分べそをかいたようにシャーロットが私に刺繍セットを手渡した。


「私は本を持ってきたんです。確かジェシカ様はファンタジー小説と恋愛小説がお好きでしたよね?」


リリスは抱えていた本を私に手渡してきた。


私はすっかり感動してしまった。だってあんな事があったから皆私の事を軽蔑してしまったのでは無いかと恐れていたからだ。

「皆さん・・・本当にありがとう。私の事信じてくれるのね・・・?」


「当たり前じゃ無いですか!だって私達親友ですよね?」


エマがぎゅっと手を握ってきたので私も握り返す。


「クラスの皆だって噂してますよ。全部ナターシャさんが仕組んだ罠なんじゃないかって。」


リリスの言葉に私は驚いた。


「え?その話、本当に?」


「ええ、それにほら、マリウス様とルーク様の私物の鞄からナターシャさんの下着が出てきたと言ってましたけど・・・。あれ、明らかに生徒会役員の人達が探すフリをしている時、こっそり入れたんじゃないかって言ってますよ。だってその瞬間を見ていた生徒がいるらしいですから。」


クロエがここだけの話だが・・・と言わんばかりに小声で説明した。


そうか、やはりこれは全て仕組まれた罠だったのだ。誰が仕組んだのかは一目瞭然。

ソフィーとナターシャの仕業に決まっている。そしておそらく寮母も。


「ナターシャさんは・・今どうしているの?」

不意に私は彼女の事が気になり質問してみた。


「実は・・・前以上に厄介な事になっていて・・・。」


リリスがポツリポツリと話し出した。

私達がナターシャの風呂場をマリウスとルークに覗かせ、その上下着すら盗んだと言う話はあっという間に寮の中で広がった。しかし、これは私に嫉妬したナターシャの仕組んだ罠で、口裏を合わせたのは寮母だという噂も広まった。結果、前以上に女生徒達はナターシャの存在を徹底的に無視するようになったと言う。それだけでなく、寮母の話にも耳を貸さなくなり、誰も彼女の言う事に従う者は無く、寮母は今ノイローゼ気味になってしまったらしい。


「いい気味ですよ!私達のジェシカさんをこんな処罰に追い込んだ張本人たちですから!」


おっとりした外見とは裏腹に中々強い発言をするシャーロット。


その時。


「あ、あの~俺も一応いるんですけど・・・。」


グレイが遠慮がちに手を上げた。


「あ、そう言えば忘れてました。私達グレイ様と一緒にこちらへ来ていたんですよね。」


クロエがしれっと言う。


「そ、そんな・・・元はと言えば俺から先に言い出したことなのに・・。」

グレイが情けない声を出す。


「心配してくれていたのね。来てくれてありがとう、グレイ。」

私が笑顔で言うと、グレイは顔を赤らめて言った。


「い、いや・・・それは気になって当然だろう?だって俺は・・・。」


「ルークが心配で来たのよネ?」

うん、そうだ。グレイは仲間想いで、しかも王子に忠実な真面目人間だ。ルークの様子を見るついでに私の所へも来たのだろう。


「え・・・?」


 私の言葉に一瞬嫌そうな顔をするグレイ。はて・・?何かおかしなことを言ってしまっただろうか?


「ほら、ジェシカ様もああ言ってる事だし、早くルーク様の所へ行ってあげたらどうですか?」


 エマに促されて、渋々部屋を出るグレイ。そして残りの時間、私達は短いながらも楽しい女だけの話題に花を咲かせるのだった―。




「あの~夕食はまだでしょうか・・?」

私は部屋の様子を見回りに来た指導員に声をかけた。時計の時刻は18時半を指している。いい加減、お腹が減って来たところだ。


「ああ、そう言えばお前の所に来客が多すぎたから手続きが遅くなってしまったんだな。肉料理と魚料理、どちらが良い?」


何と!料理を選べるのですか?流石は私の造った小説の世界だ・・・。感動。


「あ、あの・・・それではお肉料理でお願いします。」


すると何故かにやりと口元に笑みを浮かべる指導員。


「あの・・・何か?」


「いや、流石肉食女だと思ってな。」


ムッとした私は尋ねた。


「それはどういう意味なのでしょうか?」


「お前は肉食女だから、ガツガツと男を漁っているのだろう?」


カッチーン!


「分かりました、それでは魚料理でお願いします。」


「何だ?今度は魚料理に変えるのか?」


「ええ。私は肉食女では無いので。」


「へえ~。やはりその顔同様、性格もきつそうだな?」


「ええ。そうですね。自分でもそう思います。せめてもう少し優し気な目元だったら少しはしおらしい女として世間の目も見てくれたのではないでしょうかね?」


だから私はこんな目に遭わされているのですか?と言わんばかりにジロリと指導員を見る。


「まあ、別に俺はきつく見えようが、優し気に見えようが、美人の女なら何でもいいけどな。」


「そうですか。だとしたら私のお勧めは、儚げな美少女を推しますよ。」

そう、あのソフィーの様な・・・ね。


「ふ~ん・・。じゃあ、例えばどんな女だ?」


指導員は面白そうに言う。全く、いつまでこの部屋にいるつもりなのだろうか。早く私のリクエストを聞いて、夕食を持って来て貰いたいのに。


「いいんですか?言っても?」


「ああ、聞くぜ。」


「そうですね・・・。私の推しは、髪はフワフワとなびく珍しいストロベリーブロンド、海のように青い瞳、そして思わず庇護欲を誘うような細身で小柄な美少女・・。こんな女性はどうですか?」


「え・・・?」


その時、指導員の肩が一瞬ビクリと動いた・・様な気がした。そしておもむろに部屋を出る。そして去り際に言った。


「色々・・・悪いな・・。」


え?今何と言った?でも聞き返そうとする前にドアはバタンと閉められた。



約30分後・・・

再び部屋のドアがノックされ、私はドアを開けるとそこに立っていたのは先ほど私の部屋を訪れていた指導員だった。


「ほら、お待ちかねの夕食だ。」


カートに乗せられた盆には銀の蓋がかぶせてある。指導員は私の部屋まで運び、テーブルの上に置くと蓋を外した。

皿の上には私が最初にリクエストした肉料理だったのだ・・・。うわあ・・美味しそう・・じゃなくて!


「あ、あの・・・私お魚料理を選んだんだけど・・・どうして・・?」


「いや・・だってあんたが最初に頼んだのは肉料理だっただろう?それで俺が変にからかったから魚に変更したんだよな?その・・悪かったと思ってる。からかって。」


照れてるのか、そっぽを向いて答える指導員。気を利かせてくれたのだろう。一応お礼を言っておくか。


「ありがとうございます。指導員さん。」


「指導員・・・。」


ガクッと肩を落とす指導員。


「あのなあ、俺にも名前があるんだよ。そんな呼ばれ方されたのは初めてだ。」


「仕方ないじゃ無いですか。名前が分からないのだから。」


「んー。確かに言われてみりゃそうだな。じゃあいいや。指導員でさ。じゃあ、味わって食えよ。」


そうして指導員は部屋を出て行った。

やった!私の楽しいディナータイムだ!





3



「どうだ?美味かったか?」


先程の指導員が食べた食器を下げに、またまた私の部屋へやって来た。


「ええ、そりゃもう美味しかったですよ!」


思わず気が緩んでぞんざいな口の利き方をしてしまう。


「へえ~。それがあんたの素の姿って訳か?」


何故かおかしそうにニヤリと笑う指導員。あーもう、隠していても仕方が無いか。


「ええ、そうですが。いけませんか?だって私達を無実の罪でこんな場所に閉じ込めた貴方方に猫かぶっても意味無いじゃ無いですか?」


「ほう、そうかい。」

指導員は腕組みして頷く。


「それじゃ、俺との会話も無意味って事か?」


何か意味深な事を言う指導員。


「え?それってどういう意味・・・ですか?」

もしや話によっては味方になってくれるのだろうか?


「いや、別に。でもあんたは高位貴族なのに全然お高くとまっていないんだな。」


「ええ、よく言われますよ。変わり者だって。ま、男性達からすれば可愛げが無い女に見られてしまうかもしれませんけど、自分を偽るのって疲れるし、好きじゃ無いので。」


「それはどうかな・・・?」


何やら考え込むかのように言う指導員。


「お上品にお高くとまっているのが男に受ける条件だとしてだ、あんたはどうなんだ?あの生徒会長にも興味を持たれ、大国のやがては王になるアラン王子のお気に入り、それにあんたの従者や、アラン王子の従者達・・聞くところによると、女嫌いのダニエル・ブライアントや、ノア・シンプソンにまで狙われているらしいじゃないか。まあ、だからこそ、魔性の女やら、肉食系女等と言われているんだろうけどな。」


「何故、彼等が私の周りに集まってくるかなんて、むしろこっちが知りたい位ですけどね。あ、一緒にコーヒーでもどうですか?」


 無意識に私は自分の食後のコーヒーをカップに注いでいたので、ついでに指導員にコーヒーを薦めてみた。


「え?あんた・・・俺にコーヒーどうかって聞いたのか?」


指導員は意外そうに目を丸くした。


「ええ。そうですけど。あ、もしかしてコーヒー嫌いですか?なら紅茶にしましょうか?」


私は紅茶に手を伸ばそうとすると、その手を掴んで止められた。


「え?」


「あ、悪い。手、掴んじまって。」


ぱっと私の手を放す指導員。


「いいのかよ・・じゃあ、コーヒーくれるか?」



「それにしても、一応俺はあんたの敵みたいなもんなのに、よくこの俺にコーヒーを薦めてきたよな?」


 コーヒーを飲みながら指導員は不思議そうに言う。だってそれはそうだろう。いつもの癖で食後のコーヒーを淹れてしまったが、貴方がいつまでも居るから勧めたんでしょうが。いくら何でも私は誰かが部屋にいるのに自分一人でコーヒーを楽しめるような人間では無いからだ。


 それから約10分後・・・・コーヒーを飲み終えた指導員はごちそうさんと言って私の食べ終えた食器を持って部屋を退室した。ふう~。やっと一人になれた。

時計をチラリと見ると時刻は20時ちょっと過ぎ。

こんな時、お酒が飲めればいいのに・・・。実は謹慎部屋はアルコール類一切禁止となっている。まあそれはそうかもしれないが、やはり口寂しい。でも言っておくが私は決してアル中などでは無い。


 不意に部屋のドアの外が騒がしくなった。耳を澄ませると・・・・。


「何故だ!他の連中はジェシカに面会できるというのに、何故この俺だけが面会を許されないのだあっ!!」


「駄目です!貴方はまだ一応生徒会長という立場、個人的感情で2人を会わせる訳にはいきません!」


あ、あの声は・・・暴君生徒会長だ。よし、外の指導員、頑張れ!何としても暴君生徒会長を追い払うのだ!


 数分後・・・押し問答していた生徒会長は結局再び気絶させられたようで(何と過激な生徒会だ!)外へ引きずられていったようだ。何故、分かったかというと、塔の出口付近で大の字に伸びた生徒会長の姿が窓の外から見えたからだ。・・・あんなところに放り出されて風邪でも引かないだろうか・・・?


 コンコン・・・再びドアのノック音が聞こえる。今度は誰だ?どうして次から次へと・・・。


「はい、何でしょうか?」

ドア越しに返事をすると、声が聞こえた。


「おい、またあんたに面会だぞ?」


おや?あの声は・・・先程から何度も行き来している指導員の声だ。私はドアを開けるとやはりそこに立っていたのはあの指導員。


「ほら、後ろにいる男だ。」


指導員の後ろに立っていたのは、ダニエル先輩だった。

「ダ、ダニエル様?!」


ダニエル先輩は憔悴しきった顔で立っていたが、私を見ると途端に笑顔になった。


「ああ、良かった・・・ジェシカ!」


 そして指導員の前をすり抜けると私の身体を何も言わずに突然ギュッと抱きしめてきた。

それを見て唖然とする指導員。


「ダ、ダニエル様?!ほ、ほら。生徒会の方の目がありますから!」


それなのに気にもせず、ダニエル先輩は言った。


「いいじゃないか?だって僕たちは恋人同士だったろう?」


「恋人だあ?」


後ろで指導員のイラつく声が聞こえる。あ、まずい・・・。


「と、とにかく中へ入って下さい。それじゃ指導員さん、30分たったら教えてくださいねっ!」


所が・・・。


「いや、俺も中で見張っている。」


「はあ?」


綺麗な顔を歪めて指導員を睨み付けたのはダニエル先輩。


「ねえ?何でかな?君は只の生徒会の指導員だろう?僕と彼女の2人きりの面会時間を邪魔する権利は無いと思うんだけどね?」


背の高いダニエル先輩は指導員を見下ろすように言うが、彼はそれを気にする風でも無く言った。


「神聖なる謹慎部屋で2人きりで不埒な真似をされても困るからな。それを防ぐのも我々指導員の仕事だ。言い分があればお前も生徒会に入り、校則を変えてでも見るんだな。」


 何故だ?一体何故この2人の間に不穏な空気が立ち込めているのだろう?私はさっぱり訳が分からず、オロオロするばかりだ。



 カチコチカチコチ・・・・・。

私達3人は無言のまま椅子に座っている。うう・・・何だかこのパターン、つい最近もあったような気がするんですけど・・・。


「あ、あの。ダニエル様。」

折角面会に来てくれたのだ。黙っていても仕方が無い。


「何だい?ジェシカ?」


やたらめったら愛想を振りまいて私にほほ笑みかけるダニエル先輩。


「わざわざ私などの為に面会に来て頂いて有難うございます。本当は不安だったんです。呆れて嫌になってしまったかなと思って・・・。」


そうだ、夢の中ではダニエル先輩は私の味方をしてくれた。だから絶対ダニエル先輩が敵に回るのだけは嫌だ。そんな思いで私は言ったのだが・・・。


「ジェシカ・・・。」


何故か、感極まるように私を見つめるダニエル先輩。そして再び私をギュっと抱きしめた。ちょっと待てーっ!先輩!指導員が見てるじゃないですか!

そんな私の思いをよそにダニエル先輩は言う。


「馬鹿だなあ。ジェシカ、君は世界で一番僕の大切な人なんだよ?そんな君をどうして嫌になるって言うんだい?」


そしてダニエル先輩は私の髪に顔を埋めて摺り寄せる。さ、流石にこれは恥ずかしい・・・!


「言ってる傍から風紀を乱すな!」


何故か立ち上がって私達を引き離す指導員。


「さっきから何なんだ?!君は!君に僕たちの邪魔をする権限など無いだろう?!」


「う、煩い!俺はこの女を見張る立場にある人間なんだ!権限ならある!」


妙に食い下がる指導員。う~ん・・。どうしたものか・・・。


「あ、あの指導員さん・・・?」

私が恐る恐る声をかけると、指導員はキッと私を見つめて言った。


「指導員では無い!いいか?俺の事はライアンと呼べ!分かったな?ジェシカ!」


ええ~っ何でダニエル先輩の前でそんな事今更言うんですか・・・?


何だか果てしなく嫌な予感がするのだった―。

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