第9章 5 私の秘密とマシューの涙
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「マシュー・・・。覚えている?私が魔界へ行く為に『ワールズ・エンド』へ行く前日に、貴方が連れて行ってくれた魔法で作られた違う次元の世界・・美しい桜吹雪のあの場所を・・・。」
城を見つめていた私はマシューの方を振り向くと言った。
「うん・・・。勿論。忘れるはず無いだろう?だってあの場所は・・・ジェシカ。君と初めて結ばれた場所だったんだから。」
マシューは私をじっと見つめながら答えた。
そうだ、私はあの場所で初めてマシューと関係を持ったのだ。あの時はマシューの私を望む気持ちに応えてあげたいと思ったから、彼に身をゆだねた。けど・・・今なら分かる。本当はあの時の私は彼を・・愛していたから結ばれたいと思ったのだ。
でも、今となっては・・・それは全て過ぎ去った過去の話。
「それじゃ、私があの時貴方に話した言葉・・・覚えてる?」
「言葉・・・?」
マシューが首を傾げる。
「そう、貴方が私に『君は何者なんだい?』と尋ねたでしょう?だから私は自分の事をこの物語の世界の悪女、『ジェシカ・リッジウェイ』そしてソフィーはこの物語の『聖女』だと言った事・・。」
「勿論・・・覚えているよ。どうして、そんな言い方をするのだろう?まるでこの世界は物語の世界の話だと言ってるのかと思ったよ。」
マシューの言葉に私は息を吸い込むと言った。
「マシュー。この世界はね、本当に物語の世界の話なの。今からする私の話・・・信じるか信じないかは貴方に任せる。だから・・聞いてくれる?」
「うん。ジェシカ・・・聞かせて。」
「私はね・・・本当はこの世界の人間では無いの。別の世界・・・日本と言う国に住んでいたの。その事実を知っているのはエルヴィラと・・・アンジュ。この2人だけよ。そして、この物語のオリジナルを書いたのはこの私。だけど・・ある人物によって私の作った物語は大き変えられてしまった。それが、今私達が存在してる世界なの。」
「え・・・?ジェシカ・・。あまりにも急な話で、俺には何の事だか・・・。」
戸惑うマシュー。うん、それは当然だろう。誰だってこんな話をされて戸惑わない人間はいない。それどころか頭のおかしい人間に思われても仕方ない位だ。
「私の本当の名前はジェシカ・リッジウェイじゃない。川島遙って言うの。」
「カワシマハルカ・・・・?」
「そう、だからエルヴィラとアンジュは私と2人きりの時はハルカって呼んでくれてるの。」
「・・・俺も・・・そう呼んだ方が・・いい?」
マシューがためらいがちに言う。
「え?」
「あの魔女と・・・『狭間の世界』の王がそう呼んでるんだよね?だったら俺も君をジェシカではなく、ハルカって呼んだ方がいいのかなって思って。」
照れたようにマシューは言う。
「ジェシカのままでいいよ。でも、マシュー・・・。私の話・・・信じてくれるの?」
「うん。勿論だよ。だから・・全て教えてくれる?」
マシューは頷いた。
「私はね・・・日本では25歳の、仕事をしているごく普通の女性だったの。恋人もいたんだけど・・・ある日突然別の女性に彼を取られてしまってね。挙句に仕事もクビになっちゃったし。それでやけになって・・・物語を書いたの。今目の前にあるこの城をイメージした・・・恋と魔法のファンタジー小説の世界。そこで出てくる登場人物が、聖女と呼ばれるソフィーと、いずれソフィーと結ばれる運命の相手のアラン王子。そして・・・悪女と呼ばれた女性・・・それが私、ジェシカ・リッジウェイ。そして、本物のジェシカは・・・セント・レイズ学院の入学式の時に学院の塔から落ちて死んでしまったのよ。その話はマリウスと・・エルヴィラから聞いたわ。エルヴィラが・・私をこの世界に連れてきたのよ。彼女は私が書いた小説の語り部だったから。」
「え・・・?そ、それじゃ・・入学式で学院の外で光に包まれていたのは・・?」
え・・?
「マシュー。今・・何て言ったの?」
「いや・・実は今まで黙っていたけど・・・俺・・入学式の時、ジェシカに会ってるんだ。君は光の中で眠っていて・・すごく綺麗だった。そしたら、その直後に誰か人の気配を感じたから、俺は姿を消したんだけどね。そうか・・。その時にジェシカはこの世界に連れて来られたんだね・・?」
「うん。多分そうだったんだと思う。実は私も元の世界で死にかけていたんだって。そこを私を迎えに来たエルヴィラに連れて来られて・・死んでしまったジェシカの肉体に・・・私の魂を入れたんですって。」
「はじめ、自分がこの世界の悪女になっていた時は驚いた。・・何度も元の世界へ帰りたいって思っていたけど・・色々な人達に出会って・・・好意を寄せられて・・・。この世界も悪く無いかなって思うようになったの。でも・・私はずっと怖かった。だって私の作った物語の世界なら・・・確実に私は魔界の門を開けた罪人として裁かれて流刑島へ流される事は決まっていたから・・・。それに私は皆とは違う世界の人間だから・・・絶対に誰も好きになってはいけないって心に決めていたし・・・。」
「・・・。」
マシューは何を思っているのか・・両手を強く握りしめたまま私の話を聞いている。
「だけど、本当に魔界の門を開けて、魔界へ行く事になるとは思わなかったな。小説の世界とはかなり展開が違ったけどね。魔界から戻ってきたその後の事は・・・もう分かるでしょう?小説通りに私は裁判にかけられたけど、ドミニク公爵が私を助けてくれたお陰で、今こうしていられるのよ。」
「ジェシカ・・・君は・・・ドミニク公爵を・・・今は愛してるの・・?だけど彼は君を監獄塔に閉じ込め、嵐の晩・・・君の所へ来るどころか・・あのソフィーを抱いていたんだよ?そんな男を・・・。しかも彼は・・・魔王だった・・・。」
「マシュー・・・?」
マシューが悲し気に私を見つめてくる。
「分からない。確かにドミニク公爵は私にとって特別な人に違いないけど・・。」
「けど・・?」
「だって・・・今の私にはもっと他に大切な人がいるから・・。」
「テオ・・・先輩なんだよね・・・?ジェシカの命を救った・・・?」
「テオの事を愛しているって聞かれても・・それもよく分からないの。でも・・私が絶望してしまったこの世界で・・テオは言ってくれた。自分の居場所は私の隣だって。・・・それがすごく嬉しかった。だって・・・彼が初めてだったのよ。私の事を裏切らなかったのは・・・魅了の魔力を失った私を愛してるって言ってくれたのは、全部・・テオが初めてだったから。今、はっきり言えるのは・・・テオは私にとってのかけがえのない人だって事・・。」
「・・・・。」
マシューは下を向いたまま、黙って俯いて私の話を聞いていたが・・やがて顔を上げると言った。
「ジェシカ・・・。俺が君を絶望させてしまったんだよね?俺がソフィーの手に落ちて、ジェシカから貰った愛を・・一瞬でも踏み躙ってしまったから・・・!」
私は首を振った。
「そうじゃないわ、マシュー。だってそもそも・・・貴方が私の事を好きになったのは『魅了の魔力』にあてられたからなんでしょう?偽ソフィーに私の魅了の魔力が渡った瞬間・・マシュー。貴方はソフィーを愛したでしょう?」
「だから?だからもう俺はジェシカを愛していないと決めつけるの?俺の事を愛してると言った事も・・・ジェシカは帳消しにしてしまうの?」
「マシュー・・?」
マシューの顔が悲し気に歪んでいる。そして彼は血を吐くように言った。
「ジェシカ・・・。俺は、『ワールズ・エンド』で一度は心臓が止まったんだ。だけど、どういう分けか命を吹き返した。そしてその時にはすでにあのソフィーに捕まっていたんだ。そして・・無理やり仮面を付けられてしまい・・あの状態だった時の俺の事は、もう知ってるよね?」
気付けば、マシューは私の両肩を掴んでいた。
「も・・・勿論知ってるわ。」
「ジェシカ・・・俺・・実は・・今はもうあの時の記憶も・・・仮面の呪いが消えた直後の事も全て覚えている・・記憶が戻ったんだ。信じてくれるかは分からないけど、俺は・・入学式の時に、初めてジェシカを見た時から『魅了の魔力』を君が持っている事に気付いてたよ。だって俺は半分は魔族だから・・魔族の血を持つ者はそういう能力にはすぐに分かるんだ。だけど、そんな事は関係なく、俺は・・ジェシカに惹かれたんだよ?だから生徒会長から君の護衛をするように言われた時は・・・すごく嬉しかった。だって、ようやく君との接点が出来ると思ったから・・・。」
「マシュー・・・・。」
知らなかった。彼がそんな風に思っていたなんて。
「初めて・・・君に許しを貰って抱いた時・・・嬉しさの反面、半分は罪悪感があったんだ。命の危険を冒して魔界の門を通らせる事の交換条件のように感じて・・ジェシカは俺と関係を持ってくれたのだろうって・・・。あの時ジェシカはノア先輩を愛していると思っていたから・・・!」
次の瞬間、マシューは私を強く抱きしめてきた。それと同時に・・あの魔族の香りが私の鼻腔を刺激する。
「だけど・・2度目・・仮面をつけていた時にジェシカを抱いた時は・・・君から・・愛を感じたんだ・・!己惚れなんかじゃ無く・・・全身で俺を愛しているって言われているように感じた。もう・・・その時の君の感情は戻ってきてくれないの・・?」
マシューが泣いている・・・。
私の髪に顔をうずめ・・熱い涙が髪を通して伝ってくる。
「お願いだ・・・。ジェシカ・・俺は・・・君を愛しているんだ・・・・。仮面の呪いは・・本当に恐ろしくて・・未だに時々、あの当時の事が夢に出て・・思い出されるんだ・・。もう一度・・俺の事を愛してるって言って欲しい・・。」
マシューは子供のよう私に縋って泣いている。いつもどこか飄々とした態度を装っていたマシュー。でもそれは半分魔族だから・・・人間界で虐げられた生活を余儀なくされてきたから・・わざとそんな風に自分を演じて・・・周囲を・・・そして自分を騙して生きてきたのだろうか・・・?
公爵とはまた違った意味での孤独な世界で生きてきた、半分魔族のマシュー。
そして・・かつて一度は愛した事のある男性・・・・。
だから、泣きながら抱きしめて来るマシューの背中にそっと手を回し・・まるで小さな子供をあやす様に、彼が泣き止むまで私は背中をさすり続けた―。
2
「ごめん・・・。情けない姿を・・・見せてしまったね・・。」
ようやく泣きやんだマシューが恥ずかし気に視線を逸らせながら言う。
「いいよ、そんな事気にしないで・・・だって私は今迄大勢の男の人の涙を見てきたからね。アラン王子や公爵、それにノア先輩やあのデヴィットさんまで・・。」
すると、咳ばらいをしながらマシューが言った。
「え~と・・・あまりそういう話はしない方がいいと思うよ?男っていう者は・・・人前で泣く事を恥ずかしいと思ってるから・・。」
確かに・・・言われてみればそうかもしれない。
「うん・・・そうかもね。ごめんなさい。」
「でも・・・多分ジェシカの前で泣いた男達は・・・皆君の事が好きだから・・泣いたと思うよ?それだけ感情をジェシカの前では揺すぶられるって事だと思うんだ。・・・っ。ごめん・・・。迷惑だったね。こんな話をするのは。」
「マシュー・・・。」
「あ、いや・・。と、とに角・・もう・・・俺がさっき言った事は忘れてくれて構わないから。それよりも魔法が使えないのは困ったな・・・。これでは学院に戻る事が出来ないし・・・。」
確かに、魔法が使えないとなると元の世界へ戻る事は不可能だ。この世界は私が住んでいた現実世界でファンタジー小説の世界では無い。魔力が使えなくなったのは元々魔法が存在しない世界だからなのかもしれない。
「マシューが魔法を使えなくなったのは、多分魔力切れとかそう言う類のものじゃないと思うの。元々の世界では魔法が使えるのが当たり前の世界だけど・・・この世界では魔法なんて使える人は誰もいないし、魔法自体が存在しない世界だから。それに・・・。」
「それに・・?」
「何だか凄く違和感を感じるの。この城は、市街地から数キロしか離れてない場所だったから・・・初めてこの城を訪れた時も大勢の人がこの城に見学に来ていたのに・・全く人の気配がしないし・・。」
何となく不気味な気配を感じた私はブルリと身体を震わせた。
「ジェシカ・・・・大丈夫?」
マシューが心配そうに声をかけてくる。
「う、うん・・・。あのね・・これは勘だけど・・この城の中に入れば・・何か分かりそうな気がする。だから、私、城の中へ入るね。」
私は『Keep out』と 貼られてテープを剥がした。
「え?ジェシカ・・・。中へ入ってもいいの?」
「う~ん・・・本当は駄目なんだろうけど・・3年前にここへ来た時はこんなテープ貼られていなかったのよ。ひょっとして、何かがあって中へ入れなくされているのかと思って・・・。」
「ジェシカ。どんな危険があるか分からないから・・俺が先に中へ入るよ。」
マシューを先頭に私達は城の内部へと入って行った。
床も壁も全面石造りのこの古城は約1000年前に建てられた名も無き小さな城で、古城マニアからは『アンネイムド』と呼ばれ、いつしかそれが固有名詞になっていた。
「随分古そうな城だね・・・。床も壁も石で出来ているなんて・・・。これじゃいつ崩れるかも分からないよ。」
時折、舞い散る砂埃に口元を押さえながらマシューが言った。
「うん、そうだね。この城は1000年前に建てられたって言われているから・・・。」
「え?!1000年前・・・?そんなに古い城なの?!」
マシューが驚いた様に声をあげる。
「うん、そう。そんなに驚く事?」
「勿論だよ!だって俺達が住んでいた世界にはそんなに古い歴史はまだ無いからね。」
「・・・そうだったっけ・・?」
う~ん・・。自分で書いた小説なのにその辺の古い歴史は曖昧にしてきたからなあ・・・。
「それでジェシカ。上に登る?下に降りる?何だか地下にも階段があるみたいだけど・・・?」
先頭を行くマシューが尋ねて来た。
「え・・?地下?地下なんてあるの?!」
「うん・・・。ほら、あの床を見て。」
マシューの指さした先には床から下に続く階段が見えている。
「え?そんな・・・。地下へ続く階段なんて以前は無かったはず・・。」
「どういう事なんだろうね・・?」
マシューも不思議そうに首を傾げている。
「どうする?地下へ降りてみる?魔物とか・・・出てこないと思うけど。」
マシューの真剣な顔に思わず私は噴き出してしまった。
「プ!フフフ・・。」
「な、何?!どうしたの?突然笑ったりして・・。」
「あ、ご・ごめんなさい。マシューが魔物の話をするから・・・。あのね、この世界には魔物なんて存在しないよ?せいぜいいても野生動物くらいで・・・」
「え?そうなの・・・?本当に・・・俺達がいた世界とは何もかも違うんだね。でも・・・魔物がいないならある意味安心だね。よし、それじゃ行ってみよう。」
そして私とマシューは地下へと続く階段を下りて行った・・・。
「え・・?何だろう。ここだけ何か雰囲気が違うね・・。」
地下へ降り立つとマシューが言った。
「本当だ・・・確かにそうだね・・。」
その地下室はやけにだだっ広い部屋で何もおかれていない只の地下空間であった。ただ1つ違っていたのは部屋の中心に青白く光る五芒星が浮き出ていた。
「え・・?あれは・・・魔法陣・・?」
マシューが慌てて魔法陣に駆け寄った。
「な・・・何故・・・こんな所に・・・?」
思わず呟くと、魔法陣から声が聞こえてきた。
<聞こえますか・・?!ジェシカ様・・>
え・・?その声は・・・?
「エルヴィラッ!エルヴィラなのっ?!」
<ああ!良かった・・・やっとジェシカ様と通じる事が出来ました。ジェシカ様・・・申し訳ございません。こんな事になってしまったのは全て私の責任なんです。>
エルヴィラの声は悲痛に満ちていた。
「落ち着いて、私は今マシューと一緒に居るの。私の考えが間違えていなければ・・・ここは私が元いた世界・・現実の世界なのよね?」
<正確に言えば、どちらでもありません。>
「どちらでもない・・・?」
<はい、そこは現実世界とこちらの世界の中間地点に当たる場所です。本来であればその場所を通り抜けて、こちらの世界か、ジェシカ様が元々住んでいた世界に行く為の中間地点・・・次元の狭間のような場所です。私の使用した『ワームホール』の魔法が、当時気を失っていたジェシカ様の・・元の世界へ戻りたいと無意識で願っていたことが・・・中途半端な場所へ導いたのだと思います。>
「エルヴィラ・・・どうすればそちらの世界へ戻れるの?」
<!ジェシカ様・・・。まだこちらの世界へ戻ろうと思う意思があるのですね?>
「勿論!だって・・・『ワールズ・エンド』の門を直すのを見届ける義務が私にはあるから・・。それに、マシューがいる・・・。彼を・・・元の世界へ帰してあげないと・・・。」
「ジェシカ・・・・。」
マシューが複雑な表情を浮かべて私を見つめている。
<ジェシカ様。今の状況では私の力ではこちらの世界へ戻すだけの魔力が足りません。次の新月の時・・・魔力が完全に満ちます。その時に・・・ジェシカ様とこちらをつなぐ門を開く事が出来ます。>
「エルヴィラ・・・次の新月はいつになるの?」
<はい、5日後になります。>
「そう・・・それじゃ、あと5日待てば・・・そっちへ戻れるのね?」
<はい、そうです。5日後の午前0時・・・この魔法陣の上に立って下さい。その時に門が開かれ、こちらの世界へ呼び戻す事が出来ます。それまでは・・・そちらの世界でお待ちください。>
「うん・・・分かったわ。ところでエルヴィラ・・・。この世界には人の気配を感じないのだけど・・・?何故なの?」
<はい。そこは次元の狭間のような世界なのでジェシカ様のいた世界とは空間が違うのです。なので存在している建物や自然界の植物などは現実世界と何ら変わりませんが、生物に関しては・・・そちらの世界には恐らく存在しないはずです。>
「ああ・・だから人の気配を感じなかったのね。それで・・・話しは変わるけど・・ドミニク様はどうなったの?」
<生憎・・・未だにこちらも情報が掴めません。ただ、分かった事は・・あれ以来魔物が『ワールズ・エンド』に現れなくなったと言う事です。>
「そうなの?ドミニク様・・・・魔族達を説得してくれたのね・・・。」
私は目を閉じて言った。
公爵・・・大丈夫だよね?絶対・・・魔界から戻ってきてくれるよね・・・?
<ジェシカ様・・・大丈夫ですか?>
「うん、大丈夫。それじゃエルヴィラ・・・。新月までの間、定期的に貴女と連絡を取り合いたいの。1日1回でもいいから・・。」
<ええ、私もその方がよろしいかと思います。では・・・今の時間は午後4時です。明日もこの時間で宜しいですか?>
「うん。お願いね。」
<はい、承知致しました。それではジェシカ様・・後少しだけお待ちください・・・。>
そしてエルヴィラからのメッセージは途絶えた。
「ジェシカ・・・。」
背後でマシューが私を呼んだ。私は振り返ると頭を下げた。
「マシュー。・・・巻き込んでしまってごめんなさい。私の手を掴まなければ・・貴方はこの世界に来る事も無かったのに・・。」
「そんな事・・気にしなくていいよ。それに・・・。」
マシューが私に近寄ると言った。
「俺だって・・・ジェシカが隣にいてくれるなら・・・元々いた世界なんて帰らなくたっていいと思ってるんだ・・・。」
「え・・・?」
そしてマシューは私を抱きしめた―。