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※第9章 3 魔王の真名

曖昧な性描写有ります

1


 遠くで激しい魔力のぶつかり合いを感じる・・・。ああ・・そうか。これが・・・アカシックレコードの力なんだ・・。私・・ついに自分自身で魔法を使えるようになったんだ・・・。

ゆっくり目を開けると、そこはまるで宇宙空間の様な場所だった。

星々に囲まれた・・・不思議な空間。だけど、今までいろいろな不可思議な場所を数多く見てきた私はもう恐怖を感じる事も、驚く事も無くなっていた。


 そうだ、アンジュは・・・公爵は何処に?!

神経を集中させて・・私は魔力の位置を探し・・・見つけた。

それと同時に自然と自分の身体が転移する。

転移した先で目にした光景はアンジュが荒い息を吐きながら剣でその身体をささえ、右ひざをついて魔王と対峙している姿だった。


「どうした・・・?『狭間の世界』の王よ・・・。300年前は・・もっとお前は強かったぞ?」


アンジュは息も絶え絶えに魔王を睨み付けている。


「だ・・・・黙れ、魔王め・・・。卑怯な手を使って・・魔法を封じ込め・・・我々をバラバラにしたくせに・・・!」


「ほう・・そうか・・。門を開くのに・・・そして人間を助ける為にかなり魔力を使ったようだな?300年前より・・・随分甘さが出たようだ。」



魔王は腕組みをしながら面白そうにアンジュを見下ろしながら笑みを浮かべた。


「だ・・・・黙れっ・・!」


「300年前の決着・・・今こそつけてやる。その甘さが・・今回のお前の敗因だ。今度は俺が・・・お前を封印してやろう。」


右手を自分の顔の前に翳しながら魔王は言う。

するとそこから黒くて丸い物体が現れ始めた。その球体からは・・時折雷が走っている。


「ダークネスオーブ・・・。」


魔王は黒い煙のような球体を見つめながら呟く。それと同時にオッドアイの両目が片方は赤く、片方は金色に光り輝く。

私は直感で悟った。駄目だ・・・!あの魔法は・・・危険過ぎるっ!もしあの魔法の攻撃を受けたら・・・『狭間の世界』の王であるアンジュだって・・・只ではすまない!


「今度は・・・貴様の番だっ!!」


魔王は黒い球体をアンジュに向かって放った―!


「駄目えっ!やめて!魔王っ!!」


私は一瞬でアンジュのもとに転移すると・・無意識のうちにシールドを張っていた。

そして魔王の放った魔法は消えて無くなる。


「な・・・何っ?!ジェシカ・・・?い・・今のはお前が・・・?」


魔王は私の事を驚愕の目で見つめた。


「ジェ・・・ジェシカッ?!ど・・どうやってここに?!」


アンジュは突然目の前に現れた私の肩を掴むと言った。


「今は・・・そんな事を話している場合じゃ無いから!アンジュ・・貴方は今すぐここから逃げて・・・っ!」


「な・・何言ってるんだ?そんな事出来るはずが無いだろう?」


「いいからここは私に任せて、貴方はエルヴィラの元へ戻って!」


すると私の言葉が言い終えた途端、アンジュの姿は掻き消えた。


私と2人きりになると、魔王は静かな声で語り掛けてきた。


「ジェシカ・・・・。お前は・・・一体何者だ・・?」


「私は・・・ジェシカ・・・ジェシカ・リッジウェイです。エルヴィラに呼ばれた異世界の人間です。」


「異世界・・・。」


魔王の眉がピクリと動く。


「そうです。この世界は私が異世界で作り上げた物語の中の世界です。ここにいる全員・・・私が作り上げた世界の住人でしか過ぎない。魔王・・・貴方もです。」


「煩いっ!さっきら訳の分からない事ばかり言うなっ!!」


魔王は一瞬で私に近付くと、突如右腕を強く握りしめるとそのまま腕を持ちあげて、私を宙づりにした。私の眼前には魔王の顔がある。彼のオッドアイの瞳には、私の姿が映し出されている。


「ジェシカ・・・・。言っただろう?俺はお前を妻にすると・・・。だから奴等の味方をするな。俺と一緒に人間を・・狭間の世界の奴等を滅ぼして、魔族だけの王国を作り上げよう?」


ねじり上げられるように腕を掴まれ、ズキズキと腕が痛む。

その痛みを堪えながら私は魔王を正面から見据えると言った。


「・・・嫌です。お断りします。お願いです・・・魔王。どうか・・ドミニク様にその身体を返してあげて下さい。そして・・・貴方はドミニク様の中で・・・眠って下さい・・。」


すると私の言葉に怒りの表情を露わにする魔王。


「煩い・・・黙れっ!俺をドミニクと呼ぶなっ!」


そして腕を掴んだまま私を振りまわし、放り投げた。


「キャアッ!!」

何も無いはずの空間なのにもかかわらず、私は床に激しく背中を叩きつけられる。


「ゴ・ゴホッ!!」

思わず咳き込ん瞬間、胸と背中がズキリと痛む。


すると一瞬魔王の顔が変わる。


「ジェシカッ!!」


そして倒れ込んだ私を魔王・・・いや、恐らく公爵が駆け寄り、私をそっと抱き起した。


「すまなかった。ジェシカ・・・大丈夫か・・・?こんな・・・こんな乱暴な事をお前にしてしまうなんて・・・。」


公爵の目には涙が光っている。


「ド・・ドミニク様・・ですか・・?」


「ああ、そうだ。ジェシカ・・俺だよ・・・。」


しかし、その瞬間再びその表情は魔王の物となる。魔王は自分が私を抱きかかえている事に一瞬驚愕の表情を浮かべるが、ニヤリと笑みを浮かべると言った。


「そうだ・・・。良い方法を思いついた。お前が正気を保てなくなる程に身体を奪えばいいのだ・・・。最初からそうすべきだったな?」


「!」


言い終わるや否や、魔王は乱暴に口付けしてくる。それはあっという間に深い口付けに変わり、魔王の身体から媚薬の香りが強まって来る。

駄目だ・・・抵抗しないといけないのに・・・。この香りは私の冷静な思考を奪っていく・・・。

深く、激しい口付けに気が遠くなりかけたその一瞬・・・・魔王の思考が私の中に流れ込んできた。


<何故だ?何故俺を拒むんだ?愛していると言ってくれたのは嘘だったのか?!>


その瞬間私の脳裏にある光景が浮かび上がった。

それは遠い昔・・・いずれ聖女になるべき女性が・・・相手が魔王とは知らずに愛した男性・・・。その女性は魔王の事をこう呼んだ・・・。


「ノ・・ノワール・・・・。」

深い口付けの合間に私は彼の名を呼んだ。


「何っ?!」


魔王は弾かれたように私から身を話すと両肩を強く握りしめてきた。


「おい、ジェシカ・・・・。お前、一体何処でその名を・・・?」


すると無意識のうちに私の口が勝手に言葉を紡ぎ出す。


「だって、貴方は私が愛した男性だったから・・・。ノワール・・・。」

そして魔王の背中に腕をまわし、彼の胸に顔を埋める。

え?嘘でしょう?何故・・・何故自分の身体なのにいう事を効かないの?自分の身体が勝手に動いて、言葉を紡ぎ出している。



「エレノア・・・やはり・・お前はエレノアだったのだな?!」


魔王・・・ノワールが私を強く抱きしめてきた。ああ・・・そうだ。私は・・彼の・・ノワールの香りが大好きだったんだ・・・。


「エレノア・・・。300年間俺はずっとお前に再会できる日を願っていた・・・再会を果たし、ようやくお前が俺の事を思い出してくれた・・・。だから・・今度こそ俺達を引き裂いた憎き人間達を滅ぼして・・・狭間の世界ごと手に入れよう・・?」


その言葉に怯んだエレノアの気配が私から消え去るのを感じ取った。

今なら・・自分の言葉を話せる・・・!


「魔王!お願いです・・・。エレノアさんはそんなこと望んでいません!どうか・・・どうかドミニク様の身体を返して下さいッ!」


「黙れっ!お前こそ・・・エレノアにその身体を引き渡せ・・・!」


そして魔王は私の首に手をかけ、締め上げた―。






2


く・苦しい・・・・。

魔王、ノワールは私の首を両手で締め上げてくる。呼吸が出来ず、ヒューヒューと口笛を吹くような音しか出てこない。


「や・・やめ・・て・・・ドミニク・・・様・・。」


必死で何とか言葉を絞り出すも、魔王は激怒する。


「うるさいっ!黙れ・・・!」


そしてますます締め上げる。

もう・・・駄目だ・・・。私はここで・・。

そう思った時、突如として私の紋章が強く光り輝き、一瞬魔王がひるんだ。


「な、何だ?!この輝きは・・・?!」


すると、それに反応するかのように魔王の・・・いや、公爵の右腕が強く光り輝き始めた。

その途端、公爵の腕が緩み・・・・私は床に倒れこんだ。


「ゴホッゴホッ!!」


激しく咳き込みながら肩で息をする私の後ろでは魔王が自分の光り輝く右腕を見て戸惑っていた。


「くそっ!何なんだ?!この光は・・・!お前・・・一体この俺に何を・・・!」


魔王は言いかけて、私の左腕も同様に光っている事に気が付いた。


「そ、その光る腕は・・・も・・・もしかして・・・お前が聖女だったのか・・?それじゃ・・この男は・・ひょっとして聖剣士・・・?」


魔王は信じられないと言わんばかりに私を見下ろしている。


「そ・・そうです・・。わ、私は・・ドミニク様の聖女・・・です・・。そして・・・ドミニク様・・・は・・・わ、私の聖剣士・・・。」


息も絶え絶えに魔王を見上げる。


「な・・・何て事だ・・・・っ!魔王の・・・この俺が・・・聖剣士だと・・・?!くそっ・・・!こんな紋章など・・俺の魔力で・・引きはがしてやるっ!!」


魔王は左腕を高く掲げ、自分の右腕に振り下ろそうとし・・・。


「駄目えっ!!やめてっ!ノワールッ!!」


私は魔王の名を叫び、彼の身体に縋りついた。すると互いの光り輝く腕がより一層強さを増し、辺りを真っ白に染めて・・・・私は見た。


その光の奥に、公爵の後姿が浮かんでいるのを・・・。


「ドミニク様ッ!!」


声を限りに私は彼の名を叫び・・・手を伸ばして、彼の右腕を掴んだ。


「ウワアアアアアッ!!」


途端に辺り一帯に絶叫が響き渡り、公爵が右腕を抑えて悶えている。


「ドミニク様っ?!」


慌てて駆け寄り、彼の傍に跪くと魔王は恐ろしい形相で私を睨み付けた。


「お、お前・・・一体俺に・・・何を・・したんだ・・・っ?!」


「え・・・・?何をって・・・?」


しかし、次の瞬間再び魔王は絶叫する。


「グアアアッ!よ・・よせ・・やめろ・・・!俺を・・・俺を消すな・・・っ!!」


え?消す?一体・・・何の事?

すると、徐々に魔王の右腕の輝きが、周囲に侵食していく。右腕を中心に今は胸元から膝まで激しい光を放ち続け、次第に魔王のうめき声が小さくなるにつれ、身体全身が光に包まれていく。


「ドミニク様っ?!」

一体、今魔王の身に何が起こっているの?ドミニク様は・・・どうなってしまったの?!


その時私の頭の中から声が聞こえてきた。


<彼を・・・ノワールを・・このまま彼の中で眠らせてあげて・・・。>


ま・・・まさか、その声は・・魔王ノワールの恋人だった・・・


「エ・・・エレノア・・・?」


その瞬間眩しい光の中で・・・金色の長いウェーブのかかった女性が私の前に立っていた。その顔は・・・。


「え・・・?わ、私・・・?」


そんなバカな。この女性は・・・髪の色こそ違うけれども、私にそっくりだったのだ。

その女性は光の中で微笑むと・・・苦痛の表情を浮かべている魔王の頬にそっと触れる。すると魔王の表情が和らぎ・・・何かを呟いた。

何と言ったのか聞こえなかったが、私にはわかる。きっと彼はこう言ったのだ。


「エレノア」と-。


やがて、光は徐々に収束していき・・・最後に光は小さな粒となり、公爵の身体の中へと消えていった。



「う・・・。」


倒れていた公爵が小さく呻く。ハッとなった私は急いで公爵の元へと駆け寄って顔を覗き込んだ。


「ジェ・・・ジェシカ・・・?」


顔を上げた公爵は私を見ると名前を呼んだ。


「ド・・ドミニク様・・・ですか・・?」


恐る恐る声を掛けてみる。


「ああ・・・。」


すると公爵は笑みを浮かべると身体を起こして、私を見た。


「ドミニク様・・・。」


気付けば私は涙を流しながら公爵の顔を見つめていた。


「ジェシカ・・・ありがとう。お前のおかげで・・・俺は再び戻って来れた。」


公爵は私の頬にそっと触れながら言った。


「ドミニク様・・・。よ、良かっ・・・・。」


私の言葉は最後まで語ることが出来なかった。公爵は私に口づけをすると言った。


「ジェシカ・・・お前を愛している・・。お前さえいてくれれば、この先俺はもう二度と・・・魔王を自分の中に眠らせておくことが出来る。だから今、ここで・・俺はお前が欲しい・・。」


切なげに訴えてくる公爵。

私は思った。彼は私の聖剣士で、私は彼の聖女・・・。誓いの儀式の本来の意味は・・魔王を封印する為の・・契りの事をさしていたのではないだろうか?


「ドミニク様・・・私と貴方が・・・契りを交わせば・・完全に魔王を封印出来るのですよね・・・?」


「ああ・・・そうだ。魔王を取り込んだ俺にはそれが・・・分かる。」


言いながら公爵は再び口付けしてきた。

それなら・・・私には拒む理由など何所にも無い。


ドミニク様・・・・。

私は公爵の首に腕を回し・・・彼に抱かれた―。



誰もいない不思議な宇宙のような空間・・・。

私は公爵の腕の中で言った。


「ドミニク様・・・。魔王の気配は・・・まだドミニク様に残っていますか?」


「ああ・・・・。ほんの僅かだが・・・残っているよ。でも・・もうどうにも出来ない程に弱っているのが分かるけどな。」

公爵は私の髪を撫でながら優しく微笑んだ。

じっと公爵の顔を見つめながら私は言った。


「ドミニク様・・・・。貴方の力を・・・まだ魔王としての力が少しでも残っているのなら・・・協力して頂けますか?」


「協力・・・何をすればいい?」


「『ワールズ・エンド』で破壊された門を修復するには・・・聖女と『狭間の世界』の王、そして・・魔王の力が必要らしいんです。だから・・・ドミニク様・・。貴方の力を・・貸して下さい。」


「ああ。断るはずは無いだろう?何故なら俺は・・・・魔族では無い・・人間なのだから。」


「でも・・・魔王が居なくなったら・・・魔界はどうなってしまうのでしょうね?」


「さあな・・・。でもまだ魔族たちが俺を魔王と認めているなら・・・。」


公爵はそこで一度言葉を切った。


「認めて・・・いるなら・・・?」


「人間界には手を出さず・・・今後一切『ワールズ・エンド』には近付くなと命令するよ。最も俺の言う事を彼らが聞けば・・・の話だけどな。」


「その時は・・私に手伝わせて下さい。」


公爵の目をじっと見つめながら私は言った。


「ジェシカが・・・?」


「はい、私はアカシックレコードを持っています。これが手に入ったから・・・私は魔力を自由に操ることが出来て・・・グレイやルーク、そしてレオ・・・彼らの命を救う事が出来ました。」


「・・・・。」


公爵は黙って私の話を聞いている。


「そして・・ドミニク様。貴方を助ける事が出来ました。・・だから、私で出来る事なら・・・力になりたいんです。」


「ありがとう、ジェシカ・・・・。」


公爵は私を抱き寄せて口付けをすると、そっと身体に触れてきた。


「あと少しだけ・・・2人きりで過ごしたい・・。いいか?ジェシカ・・?」


潤んだ瞳で切なげに囁いてくる公爵。

公爵は今まで散々辛い目に遭ってきた人。・・私は少しでも公爵の望みを受け入れてあげたい。


だから私は瞳を閉じて、公爵にその身を委ねた。



彼に抱かれながら私は思った。


・・・この先、私はどうなるのだろう・・・?


門が元通りに戻ったら、私はこの世界に別れを告げて・・元の世界へ戻るのだろうか・・・?


けれど私の思考は、徐々に公爵との甘い時間に溺れるように溶けていった―。




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