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『迷いの森』のエルヴィラ ②

1


「お前達は知ってるかい?魔界も『ワールズ・エンド』と同様に人間は魔法を使う事が出来ないんだよ。」


「何?!その話は本当か?!」


声を荒げたのはやはり白髪の男だった。


「まずいな・・・。魔法を使えない状態で魔族達と戦わなければならないのか?」


アラン王子が剣を握り締めながら言う。


「俺は・・・知ってましたよ。何せ半分は・・魔族ですからね。人間界の魔法は使えないけど、魔族の魔法なら使えますよ。」


マシューの言葉に私は頷いた。うん、彼なら・・・今の状態のまま魔界へ行っても魔族達と渡り合って戦う事が出来るだろう。だが他の者達は・・・。

そこでふと、ノアを見て私は気が付いた。


「おや・・・。お前・・・半分魔族になりかかってるじゃないか?お前なら魔族の力を使う事が出来るかもしれないね?」


「え?何だって?!僕が・・・半分魔族になりかかってるだって?一体どういう事だよ!」


ノアは驚いた様に私を見た。しかも彼だけじゃなく、アンジュとマシュー以外の全員が驚いた様に彼に注目した。


「な、何・・・?ノア。君も・・半分魔族だったの?」


「おかしな事言うな!ダニエルッ!僕は人間だっ!」


「だが、そこの魔女がお前を半分魔族だと言ってるんだぞ?」


白髪の男が私の事を顎でしゃくりながら言う。

・・・全く本当に失礼な男だ。ハルカ様の知合いで無ければ、氷漬けにしてやるところだったのに。それに半分魔族だとは言っていない。魔族になりかかってると言っただけだ。


「あの、魔女様。本当にノア様は魔族になりかかっているのですか?」


聖女ソフィーが心配そうに尋ねて来た。


「ああ・・・。間違いないね。魔界にい過ぎたから・・・魔族になりかかってしまったのさ。魔界はね、人間が住むには厳しい条件の場所なのさ。凍り付くような寒い大地・・・いくら炎を灯しても・・・身体の芯から温めてくれることはない・・・。だからやがて体は順応していく。魔族に近い身体に向かっていく・・・。」


「僕は・・・何も覚えていないけど・・・本当に魔界にいたんだ・・・。」


ノアが呆然とした表情で佇んでいる。それに追い打ちをかけるようにダニエルが言う。


「そうだよ、それに・・ノア。君はお父さんになるんだからね。」


「「「「な・・・・何だってっ?!」」」」


ノア、マシュー、アラン王子、白髪男が同時に声を上げた。ソフィーも声を無くして驚いている。・・・確かにそれは驚く話かもしれないが・・・こんな話を今持ちだすべきだったのだろうか?

ダニエルをチラリと見るが、彼は自分の発言した事の内容の重大さにまだ気づいていないようだった。


「お、おい!本当なのか?魔女っ!今の話は・・・!」


ノアが物凄い勢いで私に詰め寄って来る。

全く・・・今はそれどころじゃないって言うのに。こんな事をしている間にもハルカ様は・・・。


するとアンジュが口を開いた。


「そうだよ、ノア。君は全く覚えていないだろうけど・・・魔界へ連れ去られた君を追ってジェシカは魔界へ行ったんだよ。そして君と・・・他にヴォルフと言う魔族の男とフレアと言う魔族の女を連れて、僕の住む国・・『狭間の世界』へやって来たんだよ。その時既に彼女のお腹には君との間に出来た子供が宿っていた。」


「え・・?な・・何だって・・・?」


最早ノアの顔は顔面蒼白になっている。


「フレアが・・・あのフレアがお母さんになるなんて・・・。」


マシューは呆然と呟いている。


「まあ、お前が・・・魔界へ行っていたっていう話は知っていたが・・・まさか子供までいたとはなあ。これは・・・責任を取ってその女と結婚するしか無いだろう?」


何故か嬉しそうに白髪男が言う。

ははあん・・・・成程。ハルカ様を狙うライバルが1人減って嬉しいと言う訳か?


「いや、彼女自身にはその気は無いよ。何せヴォルフが彼女のお腹の子の父親になるって宣言したからね。」


「え・・・?そ、そうなの・・?」


ノアは目をしばたたせながらアンジュの方を見た。


「うん、本当さ。だから気にする事は無いよ。」


アンジュッ?!お前・・・本気でそんな事言ってるのか?!・・全くまだまだ未熟な王だ・・・。先が思いやられるよ。

思わずため息が出てしまう。


「そうか・・ならヴォルフはもうジェシカに興味は無いって事か・・・・それなのに思わせぶりな態度を取っていたんだな?」


アラン王子がブツブツと言ってるが・・・いい加減にこんな不毛な会話を終わらせなければ。


「お前達・・・いつまでこんな会話続けているつもりだい?話がさっぱり進まないんだけどね・・・。」


ため息交じりに言うと、ソフィーが頭を下げてきた。


「あ、申し訳ございません。彼らは・・・皆ジェシカさんの話になるとこんな風になってしまうんです。・・・本当に愛されている方ですよね。ジェシカさんって。」


笑顔で言うソフィー。

しかし・・・彼女は全く分かっていないようだ。本来はこの小説の主人公は自分で、ジェシカという人物は悪女として描かている。そして最後は私の目の前にいる者達全員に裁かれて流刑島へと流されてしまう結末をたどる人物だと言う事に。

どうやら・・・本当に良い流れが出来ているのかもしれないね。

私は笑みを浮かべると全員を見渡した。


「いいかい、今の状態で魔界へ行っても我らは返り討ちに遭う可能性が高い。いくらここに『狭間の世界』の王がいようと、この私・・『迷いの森の魔女』がいたとしても・・相手は魔王だ。しかもジェシカ様が居る場所は魔界の第三階層と呼ばれ、そこには強力な魔力を持つ魔族ばかりが住んでいる。一方の我々は魔界へ行けば、人間界で使える魔法の一切を封印されて、使う事が出来ない。準備も無しに・・・魔界へ行くのは非常に危険な処なのだよ。」


「それじゃ、どうすればいいんだ?一刻も早くジェシカを助け出さなければいけないのに。ひょっとすると殺されてしまうかも・・・・。」


ノアが声を震わせて言う。しかし・・・その心配は無いだろう。


「いや、ジェシカ様は・・・多分大丈夫。命を取られると言う事は無いだろう。」


「どうして、そんな事が言えるんだよ。何か確証でもあるのか?」


するとアンジュが私の代わりに応えた。


「うん、それは全く大丈夫だよ。だって僕は彼女が命の危険にさらされた時に僕の実耳に警報が鳴り響くように魔法をかけたんだ。ジェシカが魔界に行ってからはその警報が鳴りやんだのさ。・・・皮肉な事にね。」


アンジュはそして私の方をチラリと見た。


「そうか・・・やはり恐れていた事になってしまったか・・・。」


「なんですか?恐れていた事って言うのは?」


マシューが尋ねてきた。


「・・・半分魔族のお前なら分かるかと思うが・・・魔族の男は人間の女性を好む傾向がある。その為に常に体に媚薬のような香りを身にまとっているんだよ。それに・・・魔王の元の身体の持ち主だったドミニクと言う男はジェシカ様を愛していた・・。」


私が言うと、白髪の男が続けた。


「ああ、そうだ。ドミニクは・・・ジェシカの事を愛していた。くそっ!あいつ・・・何度も何度もジェシカの身体を奪いやがって・・・っ!」


「「「「「な・・・何だってーっ!!!!!」」」」」


アラン王子、ダニエル、ノア、マシュー、そしてアンジュまでもが声を揃えて叫ぶ。

ソフィーに至っては顔を真っ赤にして口元を抑えている。


あああ・・・。またしてもあの白髪男め。これではちっとも話を進める事が出来ない。

私はチラリと彼らを見ると、全員が肩を落としてがっくりしている。

仕方が無い・・・。彼らの気持ちが落ち着くまでは少し待ってやるか・・・。


そして私は空を仰ぎ見た。

ハルカ様・・・。必ず助けに参りますので、もう少しだけ待っていて下さい―。





2


 白髪男の爆弾発言からしばらく経過し、全員が落ち着いた頃に声をかけた。

「皆、そろそろ落ち着いたかい?」


「あ、ああ・・・。何とかな・・・。」


アラン王子はがっくりしながらも顔を上げた。


「彼とジェシカが関係を持っていたのは知っていたけど・・・そんな・・何回もなんて・・・。」


マシューは地面に座り込み、岩に体を預けて空を見上げて呟いている。

ノアもダニエルも同様にショックのあまり、いまだに言葉を失っているし、ソフィーは居心地が悪そうにしている。


全く、どいつもこいつも・・・。

「お前たち!いい加減にしないか!今はそんな事で動揺している場合じゃないんだよ?!私達はこれから魔王からジェシカ様を助け出さなければならないのだから。それだけじゃない、魔王の協力なしでは再び『ワールズ・エンド』の門を封印する事すら出来ないんだよ。」


するとソフィーが言った。


「あの・・・300年前に魔王は倒されたのですよね?その魔王が・・よく『門』の封印をするのに協力しましたね?」


「別に・・・協力したと言う訳では無いんだけどね?300年前、封印する際に使われたのは魔王の血液と魔力だったから・・・相手からそれを奪えばいいだけの話さ。」


私が言うと、ソフィーは顔色を変えた。


「魔王の血と・・・魔力ですか?それって・・・大量に必要と言う事なのでしょうか・・・?」


「いや、ほんの僅かで構わない。ただ・・・相手が『門』の封印に協力するとはとても思えないからねえ・・。何せ300年前の『魔界』と『人間界』そして『狭間の世界』の戦いは魔王が全ての世界を征服しようとしたのがきっかけだったからね。」


「魔王め・・・。自分の世界だけで満足せずに他の世界まで手に入れようとしていたのか?なんて奴だ。」


アラン王子が憎々し気に言う。


「魔界は・・・酷い世界だからねえ。凍てつく寒さ、荒れた大地、そして光が差す事の無い暗黒の世界・・・。だから欲しくなったんだろう?」


皆に説明しながら私は考えた。それにしてもハルカ様は・・・・何故魔界をあのような世界に・・描いたのだろうか?魔界も『人間界』や『狭間の世界』のような世界だったなら、このような事にならなかったかもしれないのに・・・と。

はっきり言えば、今の状況では勝機が見えない。

ハルカ様が・・・アカシックレコードを自在に使いこなせるようになれば・・・全てうまくいくのに・・・。自分が側にいれば力を貸す事が出来たけれどもジェシカ様は現在は魔王の腕の中。

私が今、この瞬間願う事は・・・私達が助けに行くその時まで・・決してハルカ様がアカシックレコードを所持している事が魔王にバレない事。何せ、アカシックレコードは神に匹敵するほどの力を持っているのだから―。


「おい、魔女。・・・今まで魔界から溢れだしてきた魔物達相手に俺たちは戦ってきたが・・・魔法を使って戦わなければ難しい局面ばかり目の当たりにしてきた。そんな状況で・・魔界にいる魔族たちを相手に魔法抜きで戦って・・・勝ち目があると思うか?」


全く・・・それが人にものを尋ねるときの態度なのだろうか?この男は失礼過ぎるにもほどがある。白髪の男をじろりと見ながら言った。


「いいや。・・・まず無理だろうね・・・」


「そんな!!それじゃ僕達はどうやって戦えばいいのさ。」


ダニエルが口を尖らせる。

私は300年前の戦いを思い出していた。あの時、私は当時の『狭間の世界』の王に懇願されて、魔王との戦いに参加していたのだ。だが私はこの小説の世界の語り部に過ぎない。あくまで傍観者としていなくてはならない身。だから名前を・・・姿を隠し、私たちは戦った。

そしてついに魔王の拠点である城まで追い詰める事が出来たのだが、そこで魔王が人間たちの魔力を封じ込めるシールドを張り、一気に形成が逆転してしまった。

魔法が使えなくなった人間たちは魔族たちの前に1人、また1人と倒れて行ったが、後に英雄と呼ばれるようになった1人の騎士が、シールドを張る魔力の根源である魔石を発見し、破壊することに成功。人間達に魔力が戻り・・・戦いは我々の勝利に収まったのだ。

もし・・・まだあの魔石の場所が同じところにあれば・・・同じ形状をしているのなら、私にはその場所が分かる。必ずたどり着いて、破壊できる自信がある。


「皆・・・私に考えがある。良く聞いて欲しい・・・・。これは少々危険な賭けになるかもしれないが・・・この話に乗るか乗らないかは話を聞いた後で決めて貰って構わない。聞いてくれるかい?」


「ああ、聞くぜ。魔女。」


白髪の男がにやりと笑う。


「俺も聞かせてもらう。」


アラン王子に続いてダニエルが言う。


「ジェシカは・・・・僕の大切な姫だからね。」


「僕はジェシカに助けてもらった。今度は・・・僕が彼女を助ける番だよ。」


ノアは目を閉じた。


「魔界の王は・・・僕たちの宿命の敵。『狭間の世界』の王として・・僕は行くよ。」


アンジュは力強く言った。


「魔女・・・。」


マシューが私の前に来て言う。


「俺は・・・ジェシカを傷つけてしまいました。あれ程恋い慕っていた彼女をいくら操られていたとはいえ・・・酷い事をして・・ジェシカの愛を失ってしまいました。こんな俺は二度とジェシカの前に立つ資格は無いのかもしれないけれど・・・俺は彼女を助けに行きます。俺は半分魔族です。だから魔界に行っても魔法を使う事が出来る。どうか・・・俺を捨て駒に使ってもらっても構わないです。ジェシカを助け出す方法・・教えてくださいっ!」


そして頭を下げた。


「・・・分かった。お前の気持ち・・・きっとジェシカ様に伝わるよ。」


「あ、あの・・・魔女様・・・。私は・・・。」


「ああ、ソフィー。お前は危険だから・・・来ない方がいい。だから神殿で、どうか我らが勝利することを祈っていておくれ?」


「で、でも・・・。」


尚も言いよどむソフィーに言った。


「聖女の祈りはね・・・・魔界にだって通じるんだ。お前の祈りが皆の力になる。だから、ここに残って皆の無事を祈って欲しいんだ。」


「わ・・・分かりました。」


ソフィーは頷いた。その瞳には強い決意が宿っていた。


「さて、それじゃ・・・説明するよ。この作戦は、我々だけでは駄目だ。聖剣士全員の力が必要だ。ソフィー。」


私はソフィーを見つめた。


「悪いが・・・全ての聖剣士・・・そして戦えそうな奴らを全員招集してくれるかい?」




数時間後―


 私たちは上空に浮かんでいる魔王の城を見上げていた。いま、この地に立っているメンバーは私、アンジュ、アラン王子、デヴィット、ノア、ダニエル、そしてアラン王子の2人の従者・・・名前はグレイとルーク。そして・・・。


「お前は誰だい?」


見慣れない兵士の姿をした男に声をかけた。


「ああ、俺はレオって言うんだ。元海賊さ。ジェシカには命を助けてもらった事があるんだ。そして、約束したんだ。ジェシカがたとえどんな場所に閉じ込められようとも・・・必ず助けに行くからなって。」


「そうかい・・・。本当にジェシカ様は・・・皆に慕われていたんだね。よし。それじゃ・・いいかい?皆。我々は先発隊・・いわば囮だ。恐らく我々がこの城の真下に来ているのは魔王はもう気が付いているはず。自分の住む城へ招き入れるはずだ。この魔界を覆い尽くす・・人間界の魔法を封じ込めている魔石は私が探し出して破壊する。そうすれば魔法が使えるようになる。少ない人数でやってくれば魔王も油断するだろう。そして・・・後発隊として、人間界の聖剣士、そして『狭間の世界』のソルジャーたち全員を一斉にこの城へと集結させて・・魔王を倒し、ジェシカ様を救い出すのだ!いいか?」



私の言葉に全員が頷くが・・・私は失敗してしまった。

まさか・・・魔王が全員を違う場所に転移させるとは思わなかったのだ―。

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