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183/206

※マシュー・クラウド(モノローグ)②

大人向け内容有ります

1


 王子が神殿を去り・・・少し時が流れた頃・・・。 

その話はある日突然舞い込んできた。

何と、あのドミニク公爵がついにジェシカ・リッジウェイを捕らえたと言うのだ。

一体ジェシカとはどんな女性なのだろうか・・・?何故その名前を聞くだけで心がざわつく?

一目だけでも見てみたい・・・。

しかし、チャンスは意外とすぐにやってきた。


ソフィーが自分で勝手に作り上げた『謁見の間』なる部屋にジェシカを呼び寄せたのだ。そして俺達聖剣士とソフィーの配下の兵士達は謁見の間のカーテンの奥に待機するようにと呼び集められた。


 さて・・・ドミニク公爵が連れて来たジェシカと言う女性の顔を拝んでみるか・・・。

中に入って来た彼等を見て、俺はまず初めに驚いたのがドミニク公爵を目にした時だ。

何だ・・・?あの目の輝きは・・・。あの表情は・・・。いつもいつも俺が目にしてきた彼はまるで覇気の無い・・・半分魂が抜けたような虚ろな表情を見せていたのに・・アラン王子と同様に彼は変化を遂げていた・・・。いや、むしろ元の姿に戻ったと言うべきかもしれない。

そして隣に佇む女性を何とも愛おし気な目で見つめている。

それを見てすぐに理解した。ドミニク公爵は、ジェシカ・リッジウェイの事を・・・とても愛しているのだと言う事が。


 そして・・肝心のジェシカの方は・・。

彼女は両手を前に縛られ、静かに立っていた。まさか・・・・あんなに華奢な人物だとは思っていなかった。

肩にかかる程度の栗毛色の柔らかそうな髪、特徴のある紫色の大きな瞳・・・。

彼女は息を飲むほどに美しかった。そう・・・彼女の方がソフィーよりも余程聖女のように感じられる程に・・・。

俺は彼女を始めて目にした途端、心臓をわしづかみにされたかのような感覚に陥った。

何故だ・・・?何処かで会った気がする・・・。とても懐かしく、そして彼女がどうしようもなく愛しく感じてしまう・・・。彼女は・・俺にとって何なのだ・・?


 その後、ドミニク公爵は部屋を出され、ソフィーはジェシカを前にワインを飲みだした。

彼女の前で・・・何て無礼な女なのだ・・・っ!あんな女が聖女だなんて天と地がひっくり返ってもあり得ないっ!

ソフィーが彼女の足元にワイングラスを叩きつけた時には、思わず飛び出して襟首をつかみたくなる衝動にかられた位だ。

そしてあろう事か、ソフィーは俺達にジェシカの裁判の準備を始めるように命じたのだ。何だって?ジェシカを裁判にかけるだと・・・?あの女の事だ。絶対に残酷な罰を言い渡すにきまっている。助けなければ・・・っ!

しかし仮面の呪いのせいなのか、俺の身体はまるきり言う事を聞かず、身動きする事が出来なかった。

ソフィーの命令と共に彼女の兵士たちが動いた。

そしてあっという間に彼女を取り囲むと1人の兵士が下卑た笑いを浮かべながら乱暴に彼女の腕をロープで縛り上げてしまった。その様子を目にした時、身体がとんでもない怒りに沸いた。そして仮面が俺に囁いた。ソウダ、アノオトコヲコロセ・・・。

駄目だ、仮面の呪いに飲まれては・・・!心を・・・心を落ち着けなければ・・・!

俺は必死で仮面から聞こえる声と戦い・・・気付けばジェシカは兵士達に連れされれていた。

そしてジェシカはそのまま裁判にかけられたが・・俺は出席する事を許されず・・・暴徒と化した学生達の制圧部隊へと回されたのだった。


 ジェシカの裁判の行方が気になったが・・・きっと大丈夫。ドミニク公爵が何とかしただろう。何故なら・・・彼はジェシカを愛しているのだから―。


 俺の予想通り、ソフィーはジェシカに死刑を言い渡したものの、学生達からの激しい反対とドミニク公爵の機転により、取り合えずは断崖絶壁の上に建てられた監獄塔へ幽閉される事になった。しかもその監獄塔はジェシカを捕らえる為だけにわざわざ作ったと言うのだから。・・・ソフィーは何処まで愚かな女なのだろう・・・。


 それにしても・・何て気の毒なんだ。彼女は何一つ、悪い事等していないのに・・。

だが恐らくドミニクの事だ。きっと何か手段を考え、ジェシカを救い出すに決まっている。彼の目は・・・もう以前のように死んだ目をしていないのだから・・・。

それなのに、一方の俺は・・・どんどん仮面に心が蝕まれていくのを感じ・・・恐怖で一杯だった・・・。



ジェシカが監獄塔へ連れていかれた後の事・・・。



「おい、誰があの女の食事を運ぶ?」


兵士達の会話が突然耳に飛び込んできた。どうやら誰がジェシカの食事を運ぶのか決めているらしい。


「俺が行く!俺に行かせてくれっ!」

「いや、駄目だ。俺が行く。」

「お前ら・・・食事を運ぶついでにあの女に手を出す気だろう?」


何っ?!

俺の身体に一気に緊張が走る。


「な、何だよ・・・悪いか。何せあれ程いい女は滅多にいないからな。」

「ああ・・確かに一級品かもしれない。」

「なら・・・3人揃って食事を届けに行けばいいじゃないか・・・。皆で楽しもうぜ。」


そして彼等の下卑た笑いが聞こえて来た。

その言葉を聞いた途端、全身の血が怒りで沸騰しそうになった。

俺は無言で彼等の前に姿を見せる。


「な、なんだよ・・!お、お前・・・こんな所で何してるんだよ!」

「相変わらず不気味な男だな・・・。」

「ほら、お前邪魔だ!さっさと何処かへ行・・・。」


最期まで俺はその男に喋らせなかった。問答無用で男を殴りつけると、軽く壁際まで吹っ飛び、壁に叩きつけられて無様に床に倒れ込む。


「き、貴様っ!」

「ふざけた真似しやがってっ!」


2人が同時に襲ってくるが、軽くかわし、剣の鞘で2人同時に殴りつけ、彼等は物も言わずに崩れ落ちた。

ふざけるな・・・・っ!彼女は・・・お前らのような下衆が触れていいような存在では無いんだっ!

奴等の1人が監獄塔の鍵を持っていた。俺は鍵をむしり取ると、声にならない言葉で床に伸びている3人を詰り・・・代わりにジェシカの食事が入っているバスケットを持って監獄塔へと向かった。

・・やっと・・お前の側に行ける・・・。



階段を上り、鍵を開けて中へ入るとジェシカが怯えたような眼つきで壁に張り付いていた。・・・まずい・・どうやら怖がらせているようだ・・・。



「あ・・・あの・・・?」


ジェシカが戸惑うように俺に声をかけてきた。初めて俺にだけ語り掛けてくれる彼女の声は・・・とても素敵な響きだった。

だが・・・声を発する事が出来ない自分は・・何て惨めなのだろう・・。

無言でテーブルの上にバスケットを置くと、さらにジェシカは声をかけてくる。


「え・・・?そ、それは・・・?」


仕方が無い・・・俺は黙ってバスケットの蓋を開け・・・再び激しい怒りが湧いてきた。

何なのだ・・・?この粗末な食事は・・・!おまけに彼女の着させられてる服はまるで囚人のようにみすぼらしい服である。

これもきっと全てソフィーの差し金に違いない。わざと彼女に粗末な服と食事を与え、どちらが立場が上なのかを知らしめるため・・・。

冗談じゃないっ!彼女は・・・ジェシカは何の罪も犯していない、囚人などではないのに!


そんな俺の心の葛藤を他所に、しかし彼女は礼を言った。


「私の・・・食事ですか?・・・わざわざありがとうございます。」


ジェシカ・・・本気で言ってるのか・・・?何故か自分の方が惨めな気持ちになり、彼女を見つめた。


「あの・・・?どうかしましたか?」


首を傾げてこちらを見るジェシカ。その姿が・・・・あまりにも愛しくて、強く抱きしめたくなる感情が沸き起こって来た。

駄目だ・・・これ以上ここにいるのは俺自身が彼女にとって危険な存在になりかねない・・・っ!

だから、俺は転移魔法で瞬時にジェシカの前から姿を消した。


 ジェシカ・・・またお前に会いに行ってもいいだろうか―?





2


 そしてその日の夜の事だった。

突然の嵐がこの地域一帯を襲って来た。

「・・・。」

俺は1人神殿の自室から激しく叩きつける雨の音を聞いていたが・・・頭の中には監獄塔に捕らえられているジェシカの事しか頭に無かった。

でも・・きっと大丈夫。ドミニク公爵が彼女の元を訪れているだろう・・。


 その時、廊下で話声が聞こえて来た。


「全く・・・また聖女ソフィーに城を追い出されたよ。今夜はドミニク公爵と2人きりにさせろってさ。」


「またかよ・・・。本当にあの2人は昼夜を問わず見境が無いよな・・・。最も常に媚薬を服用している聖女様の魅力には逆らえないか・・・。」


何だって・・・?!ドミニク公爵は・・・こんな嵐の夜なのに・・ジェシカの元を訪れずに、よりにもよってあの女の所へ・・・?!

いても立ってもいられなくなった俺はそのまま転移魔法で監獄塔へと飛んだ。

断崖絶壁に立っている監獄塔は激しい雷雨に晒されていた。

あれでは牢屋の中に雨風が吹き込んでいるに違いない。

俺は急いでジェシカの元へと向かった。


「キャアッ!」


転移魔法でいきなり俺が牢屋に現れたのが余程驚いたのか、ジェシカは俺を見た瞬間悲鳴を上げた。

稲光に照らされたジェシカの姿をじっと見つめる。

・・・可哀そうに。彼女は与えられた、たった1枚の毛布をその薄絹の上に巻き付け・・・なるべく雨風が吹きこまないぎりぎりの場所で膝を抱えてうずくまっていたのだ。

この高い監獄塔に外で激しく轟く雷鳴。いつ雷が落ちて来てもおかしくないこの状況・・・どんなに不安で怖かっただろうに・・・。

俺が彼女の目の前にしゃがむと、驚いた様に目を見開いた。


「あ・・あの・・・な、何故ここに・・・?」


彼女と会話がしたい・・・!だが、俺の口から言葉は出てこない。出て来るのは言葉にならない呻き声だけ。

だから俺にしてあげられることは・・・この嵐が止むまでの間、彼女の側にいてあげる事・・・。

マントを脱ぐと、彼女の近くに腰を下ろす。暫く彼女は俺の様子を伺っていたが・・・やがてこっくりこっくりと船をこぎ出し・・・少し経つといつの間にか安らかな寝息を立てていた・・・。


 そのまま彼女の様子を伺っていると・・・寒いのだろうか、身体を縮こませて小刻みに震えている。・・・眠りに就いている彼女に勝手に触れてもいいのか・・・少し迷ったが、このままでは風邪を引いてしまうかもしれない。

眠っている彼女をそっと自分の腕に抱き寄せる。すると驚いたことに彼女の方から俺の胸に身体を摺り寄せてきた。そして彼女は眠りながら笑みを浮かべ・・・寝言だろうか・・・ある言葉をつぶやいた。


「愛してる」と―。


ジェシカ・・・お前はどんな夢を見ているんだ・・?

一体誰を・・・愛しているんだ・・・?

そしていつしか俺も・・・眠りに就いていた・・・。



「お・・おいっ!そこのお前・・・ジェシカに何をしているんだっ!」


いきなりの怒鳴り声で俺は目が覚めた。

気付けば腕の中には少し困った顔を浮かべているジェシカの顔が眼前にある。

どうやら・・・彼女を抱きしめたまま眠りについてしまったようだ。


「おい!お前・・・一体彼女に何をしたんだっ?!」


やれやれ・・・騒がしい男だ。

ドミニク公爵は・・・本来はこういう男だったのだろうか・・・?立ち上がった俺に尚も彼は怒りをぶつけて来る。


「聞こえないのか?返事をしろっ!」


するとジェシカが慌てて彼を宥め始めた。


「待って下さいっ!ドミニク様っ!ま・・まずいですよ・・。これでは私の事を庇っていると言ってるようなものでは無いですか・・・っ!」


何だ・・ジェシカ。そんな事を心配しているのか?大丈夫、俺は・・お前とドミニク公爵の関係は・・理解しているつもりだ。大体俺はソフィーの忠実な犬では無い。


そして2人は会話を始めた。俺は黙って聞いていたが・・・ドミニク公爵のある一言で理性が切れそうになった。


「どうしても・・・昨夜はソフィーの相手をしなくてはならなかったんだ・・・ッ!」


彼はよりにもよって・・・ジェシカの前で飛んでもない台詞を言った。

その言葉だけは・・・言ってはいけないだろう?!言い訳をするなら・・・もっとましな答えを用意しておけっ!


自分を閉じ込めた男が・・・嵐の夜なのに、こんな危険な場所に閉じ込めていたくせに・・・その時、別の女を抱いていましたと言うなんて・・・!この男は最低だっ!本当に・・・本当にジェシカを愛しているなら、何が何でも彼女の側にいてあげるべきだったろう?!

気付けば俺は唸り声を発し・・・ドミニク公爵の腕から・・ジェシカを奪っていた。


「お・・・お前・・・っ!一体何を・・・っ!」


突然の事に一瞬呆気に取られていた彼はすぐに我に返ると怒鳴りつけて来る。

だが・・・お前のような男に・・ジェシカを渡せるものか・・・っ!

俺はますます強くジェシカを抱きしめた。


「一体・・・どういうつもりだ?早くジェシカを俺に渡せ・・・。」


突如、ドミニクの様子がおかしくなった。

禍々しいオーラが身体から徐々に滲み出てくる。顔つきも変わり、目が怪しく光り始めた。


「!」


ジェシカはすぐに異変に気付いたのか、息を飲み・・・俺に叫んだ。


「お・・・おねがいっ!離してくださいっ!」


ジェシカ・・・何て目で俺を見るんだ・・・?そんなに・・あの男が・・大事・・なのか・・?

悲しい気持ちで手を緩めると、ジェシカはすぐに公爵に駆け寄る。


「ドミニク様っ!!」


そしてジェシカはドミニクを抱きしめた。


「ジェ・・・ジェシカ・・・。た、頼む・・・。俺を助けてくれ・・・っ!」


「ドミニク様っ!お願い、しっかりして下さいっ!」


「う・・・。ジェシカ・・・ジェシカ・・・。」


2人が抱きしめう姿を俺は呆然と眺めていた。

・・・心が麻痺して何も感じない・・・。

一体俺は何をやっているんだ・・?

俺は何故こんな所で・・・恋人達を見守っているのだ・・?


「・・・お願いします・・。」


ジェシカが振り返った。


「どうか・・・私と公爵だけの・・2人きりにさせて頂けますか・・・・?」


この言葉を聞けば・・・もう答えは明白だ・・・。

ジェシカは・・ドミニクを元に戻す為に・・これから2人は・・・情を交わすのだろう・・・。

俺は絶望した気持ちで・・・視線を逸らすと転移魔法で姿を消した―。




 それから数時間後―

あんな事件が起こるとは予想もしていなかった―。



 監獄塔から戻った俺はジェシカとドミニク公爵の事が頭から離れず、自室に引きこもっていた。あの後2人は・・・その事を思い描くだけで頭がおかしくなりそうだった。何故なんだ・・・?何故・・・俺はジェシカの事が気になって仕方が無いんだ?どうして・・・こんなにもあの2人に嫉妬してるんだ・・・っ?!



 その時・・・外で物凄い悲鳴と・・・獣のような咆哮、さらには建物が激しく破壊される音が響き渡った。


「た・・・大変だーッ!!魔物が・・・魔物がーっ!!」


魔物?!まさか・・・門の封印が破られたのかっ?!

傍らにあった剣を握りしめると部屋の外へ飛び出し・・・目に飛び込んできた光景に呆然となった。

う・・・嘘だろう?な・・何だ・・この魔物の群れは・・・!!


空に飛び交恐ろしい姿の魔物・・・地を這う獣達・・・全てこの世に存在してはいけない魔物達が・・ソフィーの兵士達を襲っていた。

彼等は・・・所詮寄せ集められた力の無い兵士達。彼等では・・この魔物を制圧など出来るはずがない・・・っ!

俺は剣を握りしめ・・・魔物の群れへと飛び込んで行った―。



ザンッ!!


最期の一帯を切り倒し・・・ようやく辺りに静寂が戻る頃には、あちこちに怪我人が転がっていた。


ジェシカは・・・大丈夫だっただろうか・・・?いや・・・何も心配する事は無いだろう。何しろ彼女の側には・・・あのドミニク公爵が付いているのだから・・・。


 その時、たまたま兵士同士の会話が耳に飛び込んできた。



「それで・・・聖女ソフィーの後を追ったドミニク公爵は・・未だに『ワールズ・エンド』から戻ってきていないのか?」


「ああ・・・。いずれにしろ・・・俺にはもう聖女様が理解出来ないぜ。よりにもよって魔界の門を目指すなんて・・・。」


な・・・何だって・・・?!ドミニクは・・・ジェシカと一緒では無かったのか?!

あの男は・・・何処まで無責任な男なんだ?!あんな男に・・・ジェシカを託す等・・出来ないっ!



ジェシカッ!無事でいろっ!

そして俺は監獄塔へ飛んだ―。


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