グレイの記述 ①
やった、俺はついにジェシカに告白してしまった。本当ならあんな謹慎部屋等という辛気臭い部屋では無く、もっとロマンティックな場所で告白したかったのに、どうしても自分の衝動を抑えきれなかった。
だって俺の頬に手を当てて、じっと見つめて来るのだから。男だったら誰だって動揺してしまうだろう。しかも相手が自分の好きな女となると尚更だ。
告白する時の顔を恥ずかしくて見られたくない為に、思わずジェシカを抱きしめてしまった。
そ・れ・な・の・に!相変わらずジェシカは全く動揺していないのだからもどかしくて仕方が無い。どうせなら照れた様子とか、戸惑う様子・・・何でもいい、いつもと違った反応をして貰いたかった。自分ばかりが冷静にいられなくて嫌になるし、何だか悔しい気持ちもある。
アラン王子がジェシカの事をお気に入りなのは知っていた。それにルークだって絶対にジェシカの事を好きに決まっている。あの日、いったい二人の間に何があったんだ?大して好きでもない酒を飲みに行ったルーク。アイツは幾ら飲んでも酔う事が出来ないと言う特殊体質、ある意味哀れでもある。事あるごとに自分が酔う事の出来る酒を探して色々な酒を飲みに出かけては不機嫌な様子で帰宅してくる。
それがあの日だけは違っていた。
妙に上機嫌なのである。おかしい、絶対に何かあったな?
ルークは俺が問いただしても何も答えない。けれど翌日俺は昨夜何があったのかすぐに知った。
ルークがナターシャとか言う名前すら聞いたことも無い女をかけて学院一女に手が早いノア先輩と飲み比べをしたそうだ。勝利したのはノア先輩だった。
ナターシャ?一体どんな女なんだ?その後すぐに意外な事実が分かった。
あの飲み比べの時にその場にいた連中から偶然話を聞く事が出来たのだ。実際にノア先輩とルークが飲み比べで賭けた女はジェシカだった。
ジェシカ・・・それなら納得だ。あれ程の美貌の女はそうそう探してもいないからな。女に目が無いノア先輩に早速目を付けられていたのだ。そしてノア先輩にからまれていたジェシカを助けたのは偶然その場に居合わせたルーク。
ルークは勝負に勝利して・・・その後、2人の間に何かあったのだ。
あの超奥手で生真面目人間のルークがとうとう女を好きになったのか・・・。
しかもよりにもよってあのジェシカに。
アラン王子もルークもジェシカの事が好きだ・・・。だから俺はどうしてもあの2人よりも先頭に立っていたい。焦りもあった。アラン王子よりもルークよりも、そしてマリウスよりも・・・。アイツは常にジェシカの側にぴったり張り付いて片時も離れようとはしない。こうなったら誰よりも早く俺を1人の男として認識させなくては。
俺だけを見つめるあの瞳を見た瞬間、それらの気持ちが一気に噴き出し、気が付いたら抱きしめ、告白してしまった・・・。もう後戻りは出来ない。
ジェシカの返事を聞くのがすごく怖かった。どうしよう、どんな返事を得られる?俺に全く興味が無く、告白されたと言う事で怖がられたりしないか?
そして返って来たジェシカの返事は・・・
「私も好きよ。」
嘘だろう?本当に、この俺を選んでくれるのか?喜びで飛び跳ねたくなりそうになったその矢先・・・。
「だって貴方は私がこの学院に来て初めて出来た友達だもの。」
ん?友達・・・友達い~っ?!
俺はジェシカの身体を離すと、改めてジェシカを見た。
「グレイ、これからも私と仲良くしてね。」
ジェシカは笑顔で俺に言った。
どうやら俺はジェシカに男として全く認識されていなかったようだ・・・・。