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第6章 4 魔物の襲来、そして再会 

1


 公爵が監獄塔から消えてすぐの事・・・。

突然無数の悲鳴、叫び声、そして・・・恐ろしい獣の咆哮が響き渡るのが聞こえて来た。

所々、外で大声が響き渡る。


「だ・誰かたすけてくれーっ!!」

「ウワアアアーッ!!こ、こっちに来るなっ!!」


え?一体何の騒ぎなの・・・?!この悲鳴は・・只事じゃないっ!!

私は牢獄の窓から下を覗き見て驚いた。

そこには第一階層で見た事がある異形の姿の魔物達が・・ソフィーの兵士を襲っていた。

身体が半分腐り果てたような獣や・・人型の化け物。巨大な角に爪を振りかざす、まるで熊の様な姿の魔物・・・・・。

何故?一体どうしてこんな事に・・・。何故・・・・ここに魔族が・・・っ!!


「ど、どうしよう・・・っ!」

閉じ込められている扉をガチャガチャ回しても開かない。押しても引いてもビクともしない。どうしよう・・・っ!逃げられない・・・っ!

いや・・でも待って・・。ここにいるのが一番安全なのかもしれない。ここはとても高い塔の上。しかも扉は頑丈な鍵がかかっているし、唯一の窓は鉄格子が嵌められている。


「そうよ・・・。ここにいれば・・きっと・・きっと大丈夫・・・・・っ!」


その時、何かが爆発するような音がして、塔が大きグラリと傾いた。え・・?う、嘘・・。

慌てて鉄格子にしがみ付き、外を覗くと、そこには巨大な鳥が火を吐きながら森を焼き払おうとしている。


「そ・・・そんな・・・・鳥の魔物までいたなんて・・・。」


すると1羽の巨大な鳥の魔物と目が合ってしまった。


「あ・・・。」


巨大鳥は塔を目指して真っすぐに飛んでくる。


「キャアアッ!!」


急いで鉄格子の窓から離れると同時に激しい衝突音と共に砂埃を上げてばらばらと崩れ落ちる石の壁。そして・・・現れたのは私の体の大きさをはるかに超えた・・まるでカラスを巨大化したような鳥が・・・目を光らせて立っていた・・・。



 その巨大鳥は私を見ると、鋭いくちばしを開けて、翼をはためかせた。

も、もう駄目・・・・っ!!

私は思わず目を閉じ・・・。


「ジェシカーッ!!」


私の名を呼ぶ声が聞こえた。

あ・・・あの声は・・・・あの懐かしい声は・・・っ!!私の目に涙が浮かぶ。


その声の主は巨大鳥の前に立ちはだかると、剣を引き抜いて飛び上がり、一撃で巨大鳥の頭を貫くと同時に、そのまま床に突き刺した。

激しい砂埃が巻き起こり、ガラガラと音を立てて崩れていく監獄塔。


「ジェシカッ!!掴まれッ!!」


差し出された彼の手を掴むと、その人物は私を抱きかかえて地面へ向けて跳躍した。


そしてストンと地面に降り立つと私を見下ろし・・笑顔を見せた。


「ジェシカ・・・無事で良かった・・・。」


その懐かしい声の主は・・・。


「ヴォ・・・・ヴォルフッ!!」

懐かしい・・ヴォルフの香り。

私は彼の首に両手を回し・・・胸に顔を埋めて彼の名を呼びながらいつまでも泣き続けた・・・。


「ジェシカ・・・。待たせたな・・・。」


ヴォルフは私の髪を撫でながら耳元で囁くのだった―。



「ジェシカ・・・。少しは落ち着いたか?」


ひとしきり泣いて・・・ようやく落ち着いた頃・・・。ヴォルフが私の頬に両手を添えると顔を覗き込んできた。


「う、うん・・・。ごめんね・・・いきなり泣いて・・・。私の泣き顔を見たらどうしたらいいのか分からなくなるから困るって前に言われてたのに・・・。」


「な・・何言ってるんだ。ジェシカ。あ、あの話は忘れてくれ。でもジェシカ・・・髪の毛・・・・随分切ってしまったんだな・・・。あんなに長くて綺麗だったのに・・。」


ヴォルフが私の短くなった髪の毛に触れながら言った。


「う、うん・・・。この世界に戻ってきた時・・・色々あったから・・切ってしまったの。」


「そうか。・・・でも・・・その髪型も・・・良く似合ってるぜ。」


ヴォルフは愛おしそうな目で私を見つめると言った。そして・・・・。


「おい。ジェシカ・・・。さっきからそこに立っているあの男は・・・一体何だ?」


「え?」


ヴォルフの見つめている方向を見ると、そこには鉄仮面を被った彼が立っていた。


「ま・・・まさか・・・私の事が心配で・・・来てくれたんですか?」


声を掛けると仮面の男性は黙って頷き・・・転移魔法で一瞬で姿を消してしまった。


「ジェシカ・・・。誰だ?今の男は・・・。」


「さ・・さあ・・。実は私も良く知らなくて・・・。」


「ふーん。そうか・・・。気のせい・・・かもな。」


ヴォルフの言葉に私は尋ねた。


「気のせいって・・?」


「いや・・・、何でも無い。それより、ジェシカ。一体何があったんだ?この世界に現れた魔物達は・・・全部第一階層に生息する魔物達だった・・・。もしかして・・・『ワールズ・エンド』の魔界へ続く門を・・・お前・・開けたのか・・?」


「え・・・・?ヴォ、ヴォルフ・・・。今・・・何て言ったの・・・?」


私は声を震わせながら尋ねた。


「ジェシカ・・・お前・・・何も知らなかったのか・・・?人間界と魔界を繋ぐ・・門が開けられてしまっているぞ。」


「え・・・?そ・・・そんな・・・っ!い、一体誰が・・。」


「そうか・・・開けたのはお前じゃ無かったんだな・・。それを聞いて安心した・・いや、安心してちゃ駄目だ。早い所・・・門を閉じないと、このままだとどんどん第一階層の魔物達が人間界へ溢れかえるぞ。・・・あいつらは知性も何も持たない本能だけで生きている様な奴らだから・・・凶暴で何をしでかすか分からない。」


「そ・・それなら今すぐ行かないと・・・っ!」


「でも・・・ジェシカッ!お前は駄目だっ!行くなっ!」


いつになく真剣な目でヴォルフが私を引き留める。


「ヴォ、ヴォルフ・・・・?」


「いいか、ジェシカ。今・・一番危険な場所が『ワールズ・エンド』なんだ。俺はこの世界に来る途中、魔物達と戦っている大勢の人間たちの姿を見た。彼等は皆必死になって魔物達を『ワールズ。・エンド』で足止めしようと必死で戦っていた。そして取りこぼしてしまった魔族達が、この辺り一帯を襲っていた。」


「ヴォ、ヴォルフ・・・。」


「俺は正直焦った・・・。辺り一帯はかなりの惨状で・・。必死でお前の気配を探って・・・でも、本当にお前は・・・運が良かったよ・・・。あと少し発見が遅れていたら・・・お前はあの魔物に・・・。」


そしてヴォルフは私を抱きしめて来た。彼の身体は・・・やはり魔族なのに冷たくはなく・・そして・・身体は・・・とても震えていた。


「心配かけてごめんなさい。そして・・・助けてくれてありがとう・・・。」


私はヴォルフの背中に手を回し・・・彼の胸に顔を埋めた。

懐かしい・・・魔族のヴォルフの香り・・・。やっぱり私は魔族の香りが・・・好きなんだ・・。


その時、森の奥から私を呼ぶ声が聞こえて来た。


「ジェシカーッ!!何処にいるんだ?!」

「頼むっ!いたら・・・返事をしてくれッ!!」

「ジェシカッ!お願いだから・・・出て来てよ・・・っ!。」


声を聞いたヴォルフが尋ねて来た。


「おい、ジェシカ・・・。あの声の連中は・・?」


「あの声の人達はね・・・・私の・・大切な人達なの・・。」


「ふ~ん・・・。で・・・ジェシカ。俺は・・・・どうなんだ?」


「勿論、ヴォルフだって・・・私の大切な・・・仲間だよ?」


「仲間・・・か。」


ヴォルフは苦笑しながらも言った。


「それじゃ・・・ジェシカ。大切な・・・仲間たちの所へ向かうか?」


ヴォルフが私に手を差し伸べて来る。


「うん。」


私はその手を取ると頷いた。

そして私はヴォルフと・・・大切な私の仲間達の元へと歩き出した―。


ヴォルフには尋ねたい事だらけだけども・・・今は『ワールズ・エンド』へ彼等と再び向かわなければ―。





2


森の奥からデヴィット、アラン王子、ダニエル先輩が姿を現した。デヴィットにアラン王子は聖剣士の姿をしている。

3人は私を遠目から見て、笑みを浮かべて駆け寄って来るが、隣に立つヴォルフの姿を見ると、顔色を変えた。


「おい!貴様は誰だっ?!ジェシカの手を離せっ!!」


いきなりデヴィットが剣を抜くとヴォルフに向かって突き付けてきた。


「ま、待って下さい!デヴィットさんっ!」

魔族であるヴォルフに何て事を・・・!!


「デヴィットの言う通りだ。ジェシカから離れろ。さもないと・・・。」


イヤアアッ!ア・アラン王子まで・・・・。


「へえ~っ・・・。」


しかしヴォルフは何を考えているのか、笑みを浮かべると繋いでいた手を離して今度は私の肩を抱き寄せてきた。

「ヴォ、ヴォルフッ!」

この3人の前でこんな事をするなんて・・・一体ヴォルフは何を考えているのよ!


「さもないと・・・どうなるんだ?」


ヴォルフは何処か楽しそうに口角を上げて、3人を見渡した。


「ねえ・・・君は・・・誰なんだ?」


1人、冷静に対応するのはダニエル先輩。


「俺はヴォルフ。ジェシカの恋人候補に名前を挙げている者だ。」


そう言うと私を背後から強く抱きしめて来た。とうとうヴォルフは・・・争いの火種を投下してしまったっ!!



「「「何だと~ッ!!」」」


途端に3人が剣を構える。ああ・・・もう嫌だ・・・。


「3人供・・やめてくださいッ!!ヴォルフも・・離してっ!」


「・・・分かったよ。」


ヴォルフが腕の力を弱めたので、彼から身体を離すと私は3人の前に立ちはだかり、両手を広げると言った。


「お願いです。ヴォルフに剣を向けないで下さい!」


「ジェシカ・・・。何故そいつを庇うっ?!」


デヴィットが叫ぶ。


「彼・・・ヴォルフは私の命の恩人です。先程魔物に襲われそうになったところを助けくれたんです。それに・・・彼は魔族の男性なんです。私が魔界に行った時も・・何度も私を助けてくれた方なんです。・・・だから・・どうか・・剣を降ろして下さい。」


「何?そ、その男・・・魔族だったのか?!」


アラン王子が驚いた様子で声を上げた。


「い・・・言われてみれば・・・俺達人間とは違って・・若干耳が大きいような・・・。」


デヴィットはヴォルフの耳を見た。


「うわあ・・・僕・・・魔族なんて初めて見たよ。」


ダニエル先輩は感心している。


「ああ、俺達は第3階層と呼ばれる魔界に住んでいる高位魔族だ。勿論・・・人間の女と結婚して子供を作る事だって可能だからな。」


そう言うと再びヴォルフは再び私を腕に囲い込んだ。

結婚して、こ・子供を作るなんて・・・・っ!またヴォルフは余計な一言を言ってくれる。



「「「そんなのは認めないっ!!!」」」


3人は同時に叫んだ。


「いいかっ!俺はジェシカの聖剣士なんだっ!お前の様な魔族になど絶対に渡さない!認めないからなッ!いい加減にその手を離せっ!!」


デヴィットが叫ぶ。


「そうだっ!ジェシカはなあ・・・俺の国の后になるんだっ!さあ、早くこっちにジェシカを渡せっ!」


アラン王子が喚く。


「ジェシカはね、僕の領地に来るんだよ、前から言ってるけど、僕はジェシカ以外の女性は受け付けないんだからなッ!!」


ダニエル先輩も負けじと言う。


「ふ~ん・・・。で、この中にマシューって奴は・・いるのか?」


ヴォルフがまたもや爆弾発言をする。


「な・・・に・・・。マシューだと・・・?」


ピクリとデヴィットが反応する。


「え・・?マシュー・・・?あの聖剣士のか?」


アラン王子が言う。


「マシューって男なら、ここにはいないよ。」


ダニエル先輩の言葉を聞くと、ヴォルフはニヤリと笑った。


「よーし、そうか。なら安心だ。お前らは所詮俺の敵じゃあないな。」


ヴォルフは満足そうに言う。


「お、おい・・・今のは一体どういう意味・・・。」


アラン王子がそこまで言いかけ時・・・突然森の奥から10体以上の異形の化け物が襲って来た。


「くそっ!魔族の群れかっ?!」


デヴィットが剣を構える。



「おい!あんな連中を俺達のような魔族と一緒にするな!ジェシカッ!俺の側に来い!!」

ヴォルフが私に手を伸ばす。


「ヴォルフッ!」

言われてヴォルフに手を伸ばすと、しっかりと握られる。


「おいっ!それは俺の台詞だっ!!」


アラン王子がまたもや訳の分からない事を叫ぶ。


ヴォルフはアラン王子を気にも留めずに一瞬で巨大オオカミに姿を変えた。

その姿を見て驚愕する3人の男性陣。


<全員両耳を塞げっ!早くしろッ>

ヴォルフは私を尻尾で守るように隠すと、咆哮を上げた。


途端にその衝撃音で倒れて行く魔物達。第1階層の魔族達はヴォルフの放ったオオカミの遠吠えで一瞬で全滅してしまった。


「す、凄い・・・。」


デヴィットが剣を構えたまま呆然として倒された魔物の群れを見つめている。


「これが・・・魔族の力・・・なのか?」


アラン王子はオオカミの姿に変えたヴォルフを見ながら言った。


「それが君の本来の姿なの?」


ダニエル先輩が尋ねるとヴォルフが言った。


<いや、この身体は第1階層の門番をしていた魔物だ。この俺が身体を乗っ取っただけだ。さっきのが俺の元の姿だ。よし、ジェシカ。俺の背中に乗れ>


ヴォルフは尻尾を私の身体に巻き付け、自分の背中に乗せると言った。


<今から『ワールズ・エンド』へ向かうが・・お前たちはどうする?何なら・・・俺の背中に乗せてやろうか?>


オオカミの姿でヴォルフはニヤリと笑った。おおっ!オオカミの顔で笑うとは・・・物凄い違和感だっ!!


「な・・何だと・・・?」


デヴィットは明らかに屈辱的な顔でヴォルフを睨む。


「だ・・・誰がお前の背中など乗るかっ!神殿までは・・転移魔法で・・・後は馬に乗って行ってやるッ!」


アラン王子はご丁寧に移動方法を語る。


「あ、それじゃ僕は君の後ろに乗せて貰おうかな。」


ダニエル先輩は手を挙げた。


「この・・・馬鹿ッ!お前・・男のプライドが無いのかっ?!」


デヴィットがダニエル先輩に文句を言った。


「煩いなあっ!僕はプライドなんかどうだっていいんだよっ!そんな事より一分一秒だってジェシカの側にいたいんだよっ!」


そう言うとひらりと私の後ろに飛び乗ると私を背後から抱きしめて来た。


「「あっ!!」」


デヴィットとアラン王子が同時に声を上げる。


「ダ・ダニエル先輩・・。まだこの恰好するのは・・・は、早くないですか?」


するとヴォルフが言った。


<おい、ダニエルとか言ったな・・・。あまりジェシカに馴れ馴れしくすると降ろすぞ。>


「何でだよっ!乗せてやろうかって言ったのはそっちだろっ!」


ああ・・・ヴォルフが加わった事で新たに喧嘩が勃発しそうだ・・・。

「そ、そんな事よりも・・・早く『ワールズ・エンド』まで行かないと!」

私が言うと、ヴォルフが頷いた。


<ああ・・・そうだな。門がもし開きっぱなしなら、そこから際限なく魔物達が溢れて来るぞ。普通の人間ではあいつらを処理するのは厄介だろう。よし、ジェシカ。それじゃしっかり掴まっているんだぞっ!お前達も急げよっ!>


ヴォルフはデヴィット達に言い残すと、風のように走り出した。



 神殿に着くと、そこは酷い有様だった。

ソフィーの寄せ集めの兵士たちは負傷してあちこちに倒れている。そしてそんな彼等の脇には何者かによって倒されたのか、無数の魔物達が絶命していた。


「え・・・?い、一体誰が・・・この魔物達を倒したんだろう・・・?」


ダニエル先輩が驚いた様に言った。


<ああ・・確かにすごいな・・・。確実に急所を狙って一撃で倒しているぞ・・・。一体誰が・・。い、いや!その前に・・・まずは『ワールズ・エンド』へ向かわなくてはっ!>


そして私達を乗せたヴォルフは『ワールズ・エンド』へ向かって走り始めた―。


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