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デヴィット・リバー 

1


 森の古城を目指していた所を、オオカミの群れを引き連れた兵士が現れ、俺達は戦っていた。

よし!もう少しで野生のオオカミを全て倒せるっ!

そう思った矢先・・・・。


「うわあああああっ!!」


森の中に突然ダニエルの悲鳴が聞こえた。くそっ?!何だと言うのだ?あんな悲鳴を上げてジェシカが驚くじゃないかっ!だからお前は女みたいな奴なんだよ!


「煩いぞっ!ダニエルッ!!ジェシカが驚くだろう?!」


アラン王子も俺と同じ事を思ったようだ。


「た・・大変だっ!ジェシカが・・・・・ジェシカが消えたっ!」


ダニエルがパニックを起こして叫んだ。


「何っ?!ジェシカが消えただとっ?!」


俺は最後の一匹を薙ぎ払い、アラン王子は兵士を気絶させ、俺達はダニエルの元へ駆け寄った。

ダニエルを見ると確かに馬上からジェシカの姿が忽然と消えている。


「おい!ダニエル・・・ッ!お、お前・・・何やってたんだよっ!ジェシカを奪われたのか?!」


アラン王子は髪を振り乱してダニエルに激怒している。


「煩いっ!僕はずっとこの腕にジェシカを抱きしめていたんだっ!なのにいつの間にか忽然と姿を消してしまったんだよ!」


ダニエルも負けじと言い返している。


「ふざけるなッ!貴様・・・っ!」


アラン王子は剣を振り回しながら怒りをまき散らし、ダニエルも負けじと剣を振り回している。


勿論、俺だって怒り心頭だが・・・何か妙な胸騒ぎがした。この状況・・・あの時と似ているっ!


「おい!2人とも、落ち着けッ!これは・・・もしかするとやられたかもしれないぞ!」


「やられた・・・?一体何の事だ?」


髪を振り乱しながらアラン王子は俺を睨み付けている。


「デヴィットッ!早く言えよっ!」


くそっ・・・!煩い奴らめ・・・!


「ああ。なら言う。以前・・・俺達の泊まっているホテルにドミニクがやって来ただろう・・?ドミニクはジェシカが何処へ行こうとマーキングをしているから居場所が分かると言っていたからな・・・。ひょっとするとドミニクが何らかの手段でジェシカを攫ったのかもしれない!」


「あ・・・・。」


アラン王子は呆然としている。


「そ、そうだっ!絶対にそう決まっている!」


ダニエルめ・・・・。恐らく責任逃れをしたいのだろう・・・。やたら俺の考えに同調しているぞ?でも・・相手がどこの誰であろうと、俺からジェシカを奪った奴を許す訳にはいかない。


「よし!なら城を探すぞっ!」


俺の掛け声と共に、全員で城を探し回ったが・・・結局半日以上森の中を探し回っても城を見つける事は出来なかった・・・。



辺りはすっかり薄暗くなり、うっそうと茂った森の中は視界が悪すぎて見通しが効かなくなっていた。そこで俺達は止むを得ず、今夜はこの森の中で野営をする事に決めたのだが・・・。

「おいっ!アラン王子っ!本当に・・・間違いなくソフィーはこの森の中の城にいるんだよな?!」


俺は焚火に火をくべ、イライラしながらアラン王子に言った。


「何だと、貴様・・・。この俺が嘘をついているとでも思っているのか?」


枯れ枝を集めていたアラン王子は物凄い形相で俺を睨み付ける。


「煩いなあっ!仲間割れをしている場合じゃ無いだろう?!」


非常食の干し肉を串にさして焼いていたダニエルが喚いた。


「「「なんだと~っ!!!」」」


睨み合って俺達3人が火花を散らしそうになりかけた時・・・。


「ああああっ!!」


突然ダニエルが再び叫んだ。


「煩いっ!何をまた叫んでいるんだっ!」


俺はダニエルを怒鳴りつけ・・・息を飲んだ

どうして・・・だ?何故今迄気が付かなかったのだろう・・・?俺達の眼前には・・こんなに巨大な城が建っていたというのにっ!!


「おい・・・。一体これはどいう言う事だ・・・?」


俺は城を見上げながら隣に立つアラン王子に言う。


「どういう事?とは?」


アラン王子も俺同様城を見上げながら返事をする。


「だから、何故忽然と城が姿を現したかを聞いてるんだっ!」

この王子は・・・俺の言いたい事が伝わらないのかっ?!


「う・・煩いっ!そんな事俺に聞かれても分かるはずが無いだろう?!」


「だから、いちいち大声で話すのはやめてってばっ!どうせ、こんなのは恐らく誰かが城に封印を掛けたからじゃ無いの?僕たちにこの城を見つけさせない為にさっ!」


ダニエルの言葉に俺は納得した。そうか・・・となると・・こんな手の込んだ大がかりの魔法を使える人物は・・・あの男しかいないっ!


「ドミニクの・・・奴の仕業だな・・・・。」


俺は剣を握りしめると頭上を見上げた。


「ああ。そうだな。あいつにしかこんな真似は出来ないと思う。」


アラン王子も剣を抜いた。


「よし、それじゃ僕たちの大切な姫と・・・ノアを助けに行こう。」


ダニエルは剣を引き抜き、キザな台詞を言うが・・・。

「姫」・・・か。確かにジェシカは俺達にとっての『姫』と言っても過言では無い存在だ。よし・・・っ!それじゃ・・・愛しい姫を助けに行くかっ!!



そして俺達は剣を構えると城へ向かって突進して行った―。


襲ってくるソフィーの兵士達を俺達はいとも簡単に倒していく。フッ!所詮烏合の衆だ。統制力も無ければ、弱い事この上ない。


俺は自分の付けたマーキングを頼りにジェシカの元を目指す。間違いない。あの部屋からジェシカの匂いを色濃く感じる!

突如として俺の前に兵士が現れ、叫んだ。


「城の中へ侵入者が入ったぞっ!」


ふんっ。仲間に知らせるつもりだろうが・・・遅すぎたなッ!

相手の兵士の顔面を蹴り飛ばし、俺の目に一つの部屋が飛び込んできた。


「そこかっ?!」

勢いをつけてドアを蹴破り、部屋の中へ飛び込み俺は目を見開いた。


そこには水色のジャケットに紺色のロングドレス姿のジェシカがドミニクに背後から羽交い絞めにされていたのだ。


な・・・何だ・・?あの状況は・・・っ!

2人の様子と、部屋の状況を一瞬でザッと確認した。ジェシカは何故か女性のドレスを着用している。そして一方のドミニクは胸が大きくはだけたローブ1枚のみを羽織った姿。

そして・・・背後にあるベッドは・・布団もシーツも乱れ切っている・・・。

間違いない・・・!この部屋であの2人は・・・っ!!

その刹那、俺の中に言いようの知れない怒りと嫉妬が込み上げて来る。


「貴様・・・・ジェシカを放せっ!!彼女は・・・俺の聖女だっ!」


剣を抜くと俺は喚いた。ジェシカに触るな・・・ジェシカは・・・俺の・・・俺だけの聖女だっ!!


しかしドミニクはジェシカを抱きしめたまま、不敵に笑った。


「お前の聖女だと・・・?誰がそんな事を勝手に決めた?見ろっ!俺の腕を・・・。」


そしてまるで見せつけるかのようにドミニクは眩しく光り輝く右腕を俺の前にさしだした。

な・・・何て眩しい光なんだ・・・・?今にも目がくらみそうだ。そして一方のジェシカの左腕も同じく位の輝きを放ち始めた。


「ジェ・・ジェシカ・・・。う、嘘だろう・・・?お・お前・・もしかして・・?」


信じられない・・・いや、信じたくなかった。あの様に眩しい光・・・あれは一度や二度の関係を結ぶだけであんなに光り輝く事等ありえない。恐らくあの2人は・・何度も何度も・・・あのベッドで・・・っ!!


絶望的な気分で俺はジェシカを見つめた。

そして、ジェシカは申し訳なさそうに俺を見つめていたが、ドミニクに訴え始めた。


「ドミニク様・・・。本当にお願いです、どうか私とノア先輩を・・彼等の元へ・・返してください。」


「駄目だっ!出来ないっ!それだけは絶対に・・・!」


抱きしめる腕に力を強めるドミニクを俺は呆然と見ていた。

すると・・・。


「デヴィットさんっ!」


ジェシカが俺に向かって手を伸ばし、縋りつくような目で俺を見つめた。

だが・・・俺は・・・もう・・・。

どうしてもジェシカとドミニクが何度も愛し合う姿が脳裏に浮かび、消えてくれない。

今のジェシカを見るのは・・・辛すぎるっ!俺はジェシカの視線を避けながら言った。

「そうだよな・・・。俺だけがジェシカの聖剣士だと・・・すっかり勘違いしていた。だけど、考えてみればアラン王子もお前の聖剣士だったし・・・。お前と公爵は・・・余程深い絆で結ばれているんだな・・・。それだけ絆が出来たなら・・・もうお前はドミニクに裁かれる事も・・・牢屋に入れられる事もなくなるんじゃないか・・・?」

思わず自虐的な言葉が口から出てしまった。


「・・・中々思慮深い所があるんだな。ああ・・・確かにそうだ。ジェシカが側にいてくれさえすれば、俺は自分を見失う事等決して無い。それだけは断言する。」


勝ち誇ったような・・・満足げな笑みを浮かべるドミニク。

もう・・俺はこれ以上ここにはいたく無かった。2人の強い絆を見せつけられ・・惨めな気持ちで一杯だ。だから俺は言った。

「よし、分かった。・・・さっきノアは返してやってもいいと・・・言ってたな?」


「ああ。確かに言ったな。いいだろう。ノアはこのすぐ隣にある部屋に閉じ込められている。この部屋を出て右側に隠し通路がある。一か所だけ壁の色が違う場所があるからそこに触れろ。隠し部屋へ続く道が開かれる。・・薬で眠らされてるが、死んではいない・・・。早く連れて帰ってやれ。そのかわり、ジェシカは俺が貰う。」


ジェシカは貰う・・・その言葉だけが大きく俺の耳に響いて聞こえた。


「・・・分かった。それで構わない。」

本当に?本当にそれで構わないのか?ジェシカを・・・あの危険人物であるドミニクに預けて本当にいいのか?

自分の中で自問自答を繰り返すが・・・今はジェシカをここに残すのが一番だと思えた。・・・自分自身の為に・・・。そうしなければ俺は嫉妬に狂って、連れ帰って来たジェシカを襲ってしまうかもしれない・・・っ!!


「え・・?な、何を言ってるんですか?デヴィットさん・・・・?」


ジェシカはその紫の瞳を大きく見開き、声を震わせて俺を見つめている。

やめろ・・・!そんな縋るような目で俺を・・・見るな・・・っ!!


ジェシカに背を向け、部屋を出ようとするとジェシカの声が追いかけて来た。


「待って!行かないでっ!デヴィットさんっ!」


駄目だ・・・っ!ジェシカ・・・ッ!頼むから・・・そんな声で俺を呼び止めるな・・っ!!


俺は後ろを振り返る事無く・・・ジェシカを残して部屋を出た。


ジェシカ、お別れだ―。





2


 ドミニクの話していた通り、その場所に隠し部屋はあった。

ドアノブに手を掛けると、どうやら鍵はかかっていない様だ。無言でドアを開けて部屋の中へ入るとそこには粗末なベッドの上に金の巻き毛の男が眠っている姿があった。

近寄って顔を覗き込んでみる。

ああ・・・・この男がノアか。そう言えば見た事があるな。確か・・・生徒会長の副会長をしていたな・・・。

しかし・・この男もダニエル同様、まるで女のような外見をしている。・・・きっとノアも・・・ジェシカの事を好きなんだろうな・・・。

溜息を1つつくと、ノアを揺さぶった。


「おい、起きろ、ノア。」


「・・・。」


しかし、全くの無反応だ。・・・ひょっとすると・・魔法で眠らされているのだろうか?


「仕方が無いな・・・。」


俺はノアを背負うと、転移魔法で城の外へと出た。そして茂みの中にノアを寝かせると、ダニエルとアラン王子を探しに再び城へと戻って行った。

魔力感知でダニエルとアラン王子の気配を探り、俺は急いで2人の元へ向かった。

そして1階のホールでダニエルを発見した。


「おい!ダニエルッ!ノアを発見したぞ!城の出口の茂みの中に置いて来たから、行って様子を見て来てくれッ!俺は今からアラン王子を探してくるっ!」


「え?ノアが見つかったの?!分かった・・・。すぐに行くよ。所でジェシカは?」


ダニエルが痛い所を突いてくる。


「その件については、後で話す。」


「え・・・?」


いぶかしむダニエルを置いて、俺はアラン王子の元へと向かった。


大広間にいたアラン王子を遠目で見つけると俺は大声を上げて声を掛けた。


「おい!アラン王子っ!ノアを発見した!取り合えず城の外に集合だっ!」


そしてアラン王子が何か口に出す前に俺は城の外へと飛んだ。


城の外ではダニエルがノアを揺さぶっていた。


「ノア!ノア!目を覚ませよっ!」


「うう・・・。」


すると・・・ノアが睫毛を震わせて、ゆっくりと目を開けた。


「あ・・・、ここは・・・?僕は今まで何を・・・。ウッ!」


ノアは頭痛がするのか、頭を押さえた。


「おい、大丈夫か?」


俺も思わず声を掛けたところで・・・アラン王子がやってきた。


「ノアッ!お前・・・無事だったんだなっ?!」


するとようやくノアは意識が徐々に戻って来たのか・・俺達を見渡すと言った。


「あれ・・・?君達は・・・?そ、それより僕は今迄何を・・・うっ!」


再びノアは苦し気に頭を抱える。


「ノア、そんなに一気に思い出そうとしなくていいよ。」


ダニエルは心配そうにノアを見つめながら言った。


「おい、所でジェシカは?」


アラン王子が俺に向かって尋ねて来た。


「・・・・。」

どうしよう・・・何と答えるべきか・・・。


「おい?デヴィット。何を黙っているんだ?」


アラン王子がイラついた声で言う。


「そうだよ、デヴィット。ジェシカはどうしたのさ。まさかまだ見つかっていないの?だったら・・助けに行かなくちゃっ。」


ダニエルが城の中へ戻ろうとしたので俺は大声で呼び止めた。


「行かなくていいっ!!」


「え・・・?」


ダニエルが信じられないと言う目で俺を見る。


「おい・・・。デヴィット・・・。貴様・・・何を言ってるんだ?ジェシカは一体どうしたんだっ?!」


アラン王子が怒気をはらんだ声で言う。


「ジェシカは・・・・。」

俺は深呼吸すると言った。


「ジェシカは・・・連れて帰らない。」


アラン王子とダニエルが息を飲む。

そして一方のノアは訳が分からない様子でぽかんとしている。


「おい!ジェシカを連れて帰らないとは・・・一体どういう事だっ?!」


いきなりアラン王子が抜刀し、剣を俺の首筋に突き立てる。


「ちょ、ちょっと!アラン王子っ!幾ら何でもやり過ぎだよっ!!」


ダニエルが慌てて俺達の前に割って入って来た。


「煩いっ!お前は引っ込んでろっ!そんな事よりもジェシカだ・・・っ!」


しかし、その直後城の中から10数人程の聖剣士達が飛び出してきたのである。


「な・・何だって?!まだ・・こんなに残っていたのか?!」


アラン王子が焦った声を上げる。

チッ・・・!まずい・・。あの中には1人・・・仮面を被った聖剣士がいる。

アイツは・・・ヤバイ奴だっ!!

ノアの奴はまだぐったりしているし・・・。


「おい!皆っ!ひとまず町まで戻るぞっ!」


「何言ってるんだっ!ジェシカはどうするんだっ!」


アラン王子が喚く。


「馬鹿っ!良く見ろ!あの聖剣士の中には・・・化け物がいるじゃ無いかっ!」


化け物・・・。それは銀の鉄仮面を被った聖剣士。あの聖剣士とはこの間ジェシカが神殿にいると思い、乗り込んだ時に俺達の前に立ちふさがった聖剣士だ。

兎に角・・・恐ろしいほどの強さを持っていて、危うく俺達全員やられそうになった剣士だ。


「チッ!あいつがいたのか・・・!」


アラン王子は悔しそうに舌打ちをする。


「確かにあの聖剣士がいるなら逃げた方が良さそうだね・・・。」


ダニエルも賛同した。


「よし!逃げるぞっ!!」


そして俺達は彼等に襲われる直前に・・・町まで飛んだ―。




「それで・・・・命からがら逃げて来たというのは分かるけど・・・。なぜ、お嬢さんを城に残して逃げ帰って来てしまったんだい?」


マイケルが腕組みをして仁王立ちになり、俺達を見下ろしている。・・・信じられない。あのいつも何処か飄々としてつかみどころの無かった、あの男が・・・こんなに怒りをあらわにして俺達を見下ろしているなんて・・・・っ!!


多分俺だけでは無いだろう。この男に果てしない恐怖を感じているのは・・・っ!

その証拠にグレイとルークは小刻みに震えているし、いつも怖いもの知らずの口を利くダニエルだって押し黙っている。アラン王子も視線を合わさないように俯いている。

くそ・・・っ!な、なぜ・・・魔法も剣も使えない男にこれ程の恐怖を感じてしまうのだろうか・・・。



「さあ、デヴィット。何故・・・お嬢さんを城に置いて来たのか・・答えてくれないかな?」


どすのきいた低い声で俺に命じる。


「そ・・・それは・・・ドミニクと・・取引したから・・・だ。」


重い口を開いて俺は語った。


「取引?どんな?」


マイケルは目を細めて先を促す。


「ノアを返して貰う代わりに・・・ジェシカをドミニクの元に残すと・・。」


「ふ~ん・・・。それをお嬢さんは納得していたのかな?」


「い、いや・・・。俺と・・ドミニクで勝手に・・・決めた。」


「勝手に?」


マイケルの眉がピクリと動く。


「な・・何だと!デヴィットッ!貴様・・・ジェシカを売ったのか?!」


アラン王子がいきなり俺の胸倉をつかんできた。


「あ、ああ・・。そう言われても仕方が・・・ない・・・。」


「どうしてさっ!何でそんな酷いことをしたんだよっ!!」


ダニエルも俺に食って掛かって来た。


「そ・・その時は・・それが一番最善だと思ったんだっ!」


「最善・・・?どういう意味かな?」


飽くまでマイケルは冷静に俺に尋ねて来る。


「お・・・俺がジェシカを助けに行った時・・・ジェシカは既にドミニクと・・聖女と聖剣士の誓いを交わしていた・・・・。し、しかも・・・あんなに強い絆を見せられて・・・!ドミニクは言ったんだ。ジェシカが側にいてくれれば、自分は正気を保っていられるし、ソフィーからも守ってやると・・・。ジェシカだって、ドミニクの事を憎からず思っているから、あんなに強く絆を結んだのだろうと思って・・・・。いや。違う・・・。全ては・・・俺の嫉妬だ。ドミニクに何度もジェシカは抱かれたと思うと・・・ジェシカを見ているだけで苦しくて・・・俺は見捨てたんだ。誰よりも・・・本当は一番大事な存在だったジェシカを・・俺は切り捨ててしまった・・・っ!」



「貴様・・・っ!ふざけるなっ!!」


アラン王子が拳で殴りつけて来た。


「ジェシカの・・・その時の気持ちを考えた事があるのかっ?!ジェシカは‥どんな様子だったんだよっ!!」


アラン王子が荒い息を吐きながら俺を見降ろした。


「お・・俺の名を呼び・・助けを求めていた・・・。」


すると突然、マイケルが俺の襟首をつかむと床に投げ落とした。


「ガハッ!!」


あまりの衝撃に咳き込む。ウ・・嘘だろう・・・・こいつ・・本当は、物凄く・・強かった・・・のか・・・?


そして俺は意識を失った―。





3


う・・・。ここはどこだろう・・・?

ズキズキと痛む身体を起こすと、ここはベッドルームだと言う事が分かった。

リビングでは話声が聞こえて来る。

戸を開けると、目覚めたノアを含め、一斉に冷たい視線が俺に向けて集中する。


「フン!目が覚めたようだね・・・。」


ダニエルはそっぽを向くと言った。


「あ、ああ・・・。」


曖昧に返事をすると、俺は一番端のソファに腰掛ける。するとマイケルが俺に視線を向けると言った。


「今ね・・・今後の事を話し合っていた所だよ。それで・・・話し合いの末、俺達はジェシカを助けに行く事に決めたからね。」


淡々と話すマイケルに俺は返事をした。


「ああ・・・分かった・・。それで・・・いつ行くんだ?」


「明日にはまた古城を目指すが・・・デヴィット。お前とはここまでだ。」


アラン王子が腕組みをしながら俺を睨み付けた。え・・?今、何と言った・・・?


「ここまで・・ってどういう意味だ?」


「言葉通りの意味だ。デヴィット、お前はもう俺達の仲間では無い。俺達は皆でジェシカを救いに行くが・・・お前とは行かない。ここでお別れだ。」


俺は信じられない思いで話を聞いていた。


「いいかい?デヴィット。君はお嬢さんと・・・そこにいるノアと交換する事を条件に彼を連れて帰って来た。そうだよね?」


マイケルは冷静に俺を見据えながら言う。


「あ・・ああ。その通りだ。」


「だけど、俺達は違う。最初から目的はノアを助け出す事。そこにはお嬢さんと引き換えに・・・何て交換条件は含まれていない。なのに・・・君は勝手に約束をしてしまった。」


確かにマイケルの言う事は一理ある。俺が・・・全て自分一人で勝手に取った行動だ。他の連中には関係ない話だ。


「つまり、君がいると厄介な話になるんだよ。約束を破ったことになる。だから・・・俺達はもうこれ以上君と行動を共にする事は出来ないのさ。」


「わ・・・分かった・・・。」


返事をするとマイケルは信じられない事を言った。


「さ、それじゃ・・・すぐに荷物を持って出て行ってくれないか?ここは・・・君の居場所じゃない。」


「!」


流石に他の連中もマイケルの言葉に驚いたようだが、この男の底知れぬ恐怖に恐れをなしたのか、異論を唱える者は誰もいなかった。



「わ・・・分かった・・・・。今すぐ・・出て行く。」


俺は立ち上がると、自分の私物が入ったリュックを背負い、玄関へと向かった。


「皆・・・色々世話になった・・・な・・・・。」


そして出る直前にマイケルが声を掛けて来た。


「俺はね・・・本当にお嬢さんを大切に思って来たんだよ?休暇の度に俺の屋台にお客さんとしてやって来てくれて・・彼女のお陰で俺の屋台も人気になれた。だからそんな彼女を俺はまるで妹のように大切に思って見守って来たのに・・・。でも、その俺の大事な妹を敵の手に渡すなんて・・・そんな人間は絶対に許す訳にはいかないんだよ。」


「・・・。悪かった・・・マイケル。・・皆も・・・。」


頭を下げる。


だが・・・全員マイケルが怖いのか返事をしない。

俺は溜息を1つつくと、ドアを開けた。そして最後アラン王子が俺に言った。


「デヴィット。お前は・・・ジェシカの聖剣士としては失格だ。聖剣士は聖女を守るべきなのに・・。本当に、最低な馬鹿男だ。お前は・・・。」


「ああ・・・本当にそうだな。」


そしてドアを閉めた。


この日、俺は皆と決別した―。




 皆と別れてから1週間が経過した。

俺はセント・レイズシティの町外れに小さな家を1軒借りて1人で暮していた。

学院は・・・今は殆ど機能していないので休学届を出し、今は身分を隠して荷物を運搬する作業員の仕事をして過ごしていた。

 本当はこんな事をしてる場合では無いのは十分過ぎる程に分かっている。

だが・・・あの時、自分の気持ちを優先させるために縋って来るジェシカを捨ててしまったのだ。仮に助けに行ったところで・・・今更何をしに来たのだと責められるのがオチだろう。

俺が・・・一番怖かったのはジェシカに面と向かって冷たい言葉を投げられたり、拒絶される態度を取られる事を恐れていたのだ。

もう顔も見たくないと言われてしまえば・・・きっと立ち直る事が出来ないだろう。そしてふと思った。

あれ程ジェシカを恋い慕っていたマリウスは・・・さぞかし辛かっただろうと。

恋は・・・人をここまで臆病にするものなのだと改めて思った。だが・・・やはり俺は最低な人間なのだろう。過去に付き合った恋人の顔すら今は思い出せず・・・そしてジェシカの気持ちを踏みにじってドミニクの元へ置き去りにしてしまったのだから。

 

 それにしても・・・改めて今借りている家を外に出て、まじまじと見る。2階建てで赤い屋根の小さな家。それが今の俺の住まいだ。

本来なら何処かの安い宿をずっと借り切っている方が楽だと言うのに、わざわざ小さな一軒家を借りてしまうなんて・・・。男の1人暮らしで、いつまでこの生活が続くかも分からないのに・・。ジェシカのあの時の言葉が忘れられず、無意識のうちに家を借りてしまったのだろう。


『私・・・将来はこういう可愛らしい家に住んでみたいです。』


あの時、マイケルの家に初めてやって来たジェシカは頬を染めて見上げていた。

その言葉が頭の片隅に残っていたから・・・ひょっとするとジェシカと将来一緒に暮らせるのでは無いかと、勝手に甘い幻想を抱いて、俺は家を借りてしまった。

「馬鹿だよな・・・。ジェシカには・・・別に愛する男がいるっていうのに・・・。」


自嘲気味に笑うと、突然背後で声を掛けられた。


「おい!一体ジェシカが誰を愛しているだって?お前はその男の事を知っているのか?!」


え・・・?その声は・・・?

俺は振り向き、驚いた。何とそこに立っていたのはアラン王子だったのだ―。


「え・・?アラン王子・・?どうしたんだ?こんな朝っぱらから・・・。一体何でここへやって来たんだ?俺はこれから仕事へ出掛けるんだが・・・?いや、そもそも何でこの場所が分かったんだ?・・・まあ別にいいか。」


ナップザックを背負い、戸締りをする。


「よし、それじゃあな。」


そう言い残し、アラン王子の前を通り過ぎようとすると襟首を突然掴まれ、首がギュッと閉められる。


「グエッ!」

・・・まるでカエルのような声が出てしまった。


「プッ!」

その声を聞いたアラン王子は・・・口を押えて笑いをこらえてた。


「・・・おい、一体何の真似だよ・・・。俺はこれから仕事に行かなくちゃならないんだよっ!忙しいんだよっ!じゃあなっ!」


「待てっ!デヴィットッ!!」


アラン王子が鋭い声で俺を呼ぶ。


「一体何だよ?俺は忙しいって言ってるだろう?!」


「ジェシカの事を完全に忘れるつもりか?!」


そこで俺は足を止めた。


「ジェシカ・・・?ジェシカなら・・・もうお前達が助け出したんだろう?城の場所だって分かっているんだし・・・。俺はもう・・彼女に合わせる顔が無いからな。・・せめて・・よろしく伝えておいてくれ。」

力なく笑い、歩き出すとアラン王子の声が追いかけて来た。


「デヴィットッ!力を・・・貸してくれっ!」


「え・・・?」


その言葉に驚いて振り返る。


「力を・・貸す・・?一体どういう意味なんだ?」


「実は・・・ジェシカは・・・未だに・・見つかっていないんだ。」


「な・・・何だって?あれからもう1週間も経過しているんだぞっ?!そ、それに・・城の場所だって分かっているじゃないかっ!」


「いや・・・それが・・・幾らあの森に入っても・・・見つからないんだ。城の場所が・・・。お前・・・マーキングしたんだろう?ジェシカに・・・。お前なら・・探し出せるんじゃないか?ジェシカの事を・・・。」


「そんなの無理に決まっているだろう?!ジェシカは・・・ジェシカはもう数えきれない位ドミニクに抱かれているんだぞっ?!俺のマーキングなんか・・・とっくに消されているに決まっているっ!」

俺は半ばやけくそになって大声で怒鳴った。くそっ!思い出させるなよっ!


「いいや!探すんだっ!お前・・・ジェシカの・・・聖剣士なんだろう?!」


アラン王子は真剣な目で俺を見た。

そうだ・・・・。俺は・・・俺はジェシカの聖剣士なんだっ!


「あ・・ああ・・・。分かった・・・。」

ジェシカ・・・。

俺にもう一度お前に会えるチャンスを与えてくれるか―?



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