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第4章 5 1人じゃないから

1


「グレイ・・・ルーク・・・・。私の事・・・分かる?」

私の前に現れた2人に・・声を震わせながら尋ねた。見るとグレイとルークの目には涙が浮かんでいる。


「ああ・・勿論分かる・・随分髪の毛が短くなってしまったけど・・・分かるに決まってるさ!」


グレイは涙混じりに返事をし・・・ルークは無言で私を抱きしめて来た。


「おいっ!何抱き付いてるんだっ!」


デヴィットの抗議の声が上がるが、ルークは耳を貸さない。


「お・・・お帰り・・ジェシカ・・・。ずっと・・お前が戻って来るの・・待ってた・・・。」

ルークは私の髪に顔を埋め・・肩を震わせて泣いている。


「ルーク・・・。」

私はそっとルークの背中を撫でると・・・。


「ジェシカから離れろっ!」


今度はダニエル先輩が私とルークを引き離した。そしてそれを腕を組んで満足そうに頷くデヴィットとマイケルさん。・・・う~ん・・・。妙な信頼関係?がこの3人の間で出来上がってしまったような気がする・・・。


「まあまあ、積もる話はあるだろうけどさ、まずは再会を祝ってパーティーをしようよ。俺とお嬢さんとで2人で仲良く協力して『ラフト』を焼いたんだよ?ね。お嬢さん?」


これ見よがしに私の肩を抱き寄せるマイケルさんに全員の怒りの込められた視線が集中する。はあ~・・・これじゃ・・・先が思いやられるなあ・・・・。



 6人でテーブルを囲んでの食事会?が始まった。私は彼等を見渡して思った。

皆が思い思いにお酒を飲んで、ラフトを食べてお喋りをしている・・・。

それにしても随分大所帯になったな・・・。最初にこっちに戻ってきた時には一人ぼっちだったのに、そこへデヴィットが現れて、マイケルさんとの再会。そしてダニエル先輩と会えて・・・今はここにグレイとルークがいる。


 ああ・・・私はもう1人じゃ無いんだ・・・。

思わず涙ぐんでいると隣に座っているグレイが声を掛けて来た。


「どうしたんだ、ジェシカ?何か・・・あったのか?」


ちなみに誰が私の隣に座るか?で揉めに揉めて男性全員がじゃんけんで席を決めたのは言うまでもない。


「ううん・・・嬉しくて・・・。皆とまたこうして会えたことが・・・魔界の門を抜けて・・・『ワールズ・エンド』でアラン王子とソフィーに追われて・・やっと逃げてきた時・・・本当に一人ぼっちだったから・・・。だけど、デヴィットさんが声を掛けてくれて・・・そして・・こんな風に皆が集まってくれて・・・。本当にうれしくて・・。だ、だって私は『魔界の門』の封印を解いた悪女として・・指名手配されてたから・・絶対、皆私の事を忘れて・・悪女として見られて追われる身となるんじゃないかと思ってたから・・。」


涙混じりに言うと、グレイがギュッと抱きしめて来ると私に言った。


「何言ってるんだっ!俺達・・・いや、少なくとも俺は!お前を一度でも悪女なんて思った事は無いぞ!お前を思い出した時から、ずっと・・会いたいと思っていたんだから・・・。」


その時・・・・


ヒュンッ!


何かが音を立てて飛んできた。


「う、うわ?!な、何だ?!」


見ると・・・飛んできたのは紙皿だった・・・。え?紙皿?一体誰が投げた・・・の・・?すると・・。


「チッ!当たらなかったようだね・・・。君・・・勝手にお嬢さんに触れないでくれないかな?」


なんと!紙皿をグレイに向かって投げてきたのはマイケルさんだった!これには全員目を見開いて驚いている。あのデヴィットでさえ唖然とした顔をしているのだから。


「あ・・・貴方・・・確かマイケル・・・さんでしたか?い。いきなり俺に何するんですかっ!」


グレイが大声で抗議する。おおっ!でも流石はグレイ。王族に仕えるだけあって、礼儀を弁えている。誰かさんと違って・・そしてチラリとデヴィットを見ると、偶然目が合い、ニッコリと微笑まれた。


「うん?どうした、ジェシカ。やっぱり聖剣士であるこの俺の隣に座りたくなったのか?」


「駄目だ、デヴィット!一度決めた事だから変えるなんて許さないぞっ!」


さらに隣に座っているダニエル先輩が声を荒げる。


「ジェシカ・・・明日は隣に座ってもいいか?」


ルークがボソリと言うと、おい、ぬけがけするなとデヴィットが文句を言っている。

全く・・男5人揃うとこんなに騒がしくなるものなのだろうか・・・。



夕食後-


「なあ、ジェシカ。本当に俺達は席を外さないといけないのか?」


ホテルのドアから未練たらしく、デヴィットが動こうとしない。


「はい、すみません。どうしてもアラン王子の件で・・グレイとルークから聞きたい事があるので・・・これはアラン王子のプライバシーにも関わる事なので・・申し訳ありませんが、遠慮して下さい。」


「ほら、ジェシカがああ言ってるんだから行くよ!」


そこへダニエル先輩現れてデヴィットの袖を引っ張る。


「マイケルがセント・レイズシティで美味しいお酒を飲める店を紹介してくれるって言ってるんだから・・・。」


え?美味しいお酒?

ピクリと思わず私のアルコールセンサー?が反応する。


「美味しいお酒・・・ですか・・・?あ、あの・・・私も今度連れて行って貰えますか?」


手を組んでダニエル先輩にお願いすると、何故かしたり顔でデビットの顔を一瞬チラリと見る。


「うん、いいよ。ジェシカ。例えお酒に酔ってしまっても・・・僕がちゃんと介抱してあげるからね?あの時のように・・・。」


ダニエル先輩は私の両手を片手ですくいあげ、もう片方の手で頭を撫でながら言う。


「え?あの時って・・?」


「ダニエルッ!ジェシカから手を離せっ!」


嫉妬の入り混じった声を上げるデビット。そこへヒョイと顔を見せたのはマイケルさん。


「お嬢さん、大丈夫。その店はね・・・お土産でお酒を買って来れるんだよ。お嬢さんの為に飛び切り美味しいお酒を買って来るから待っていてね。後で2人きりで飲むかい?」


ああ・・・またマイケルさんのおふざけが始まってしまった。デヴィットとダニエル先輩が恐ろしい目つきでマイケルさんを睨み付けているよ・・。仕方がない。


「はい、お酒のお土産楽しみにしています。後で皆さんと一緒に飲みましょうね?それではすみませんが、席を外していてください。」


私はデヴィットの背中を押しながら言った。


「おい、ジェシカ。押すなって・・・。」


最期までデヴィットの台詞を言わせず、私はドアをバタンと閉めると溜息をついた。

ふう~やれやれ・・・・。これでやっと静かに話が出来る・・・。



「お待たせ、グレイ、ルーク。」

リビングで待たせていた二人に声を掛けながら部屋に入ると、何故か恨めしそうな目で私を見る2人がいた。


「え・・?どうしたの・・2人とも・・・?」


「ジェシカ・・・どういう事なんだ?」


グレイが悲しそうな目で私を見る。


「え?どういう事って・・・?」


「何で・・・人数が増えているんだ?」


ルークは恨めしそうな目で言う。


「え?人数が増えてるって・・・一体何の事?」

分からない。グレイとルークは何を言いたいのだろう?その時、私はある事を思い出した。

「あ、ねえ。そう言えば・・・どうして2人ともここへやってきた時、ほっぺたが真っ赤になってたの?まるで誰かに叩かれたみたい・・に・・・?あ・・あれ・・?」


ますます2人の目が恨めしそうな目に変わって来る。


「ジェシカ・・・俺達・・実は付き合っていた女性がいたんだ・・・。」


ルークが重そうな口を開く。


「え・・ええっ?!そうだったの?おめでとう!」


思わず手を叩いてお祝いの言葉を述べると、たちまち顔色を変える2人。


「ジェシカ・・・それ・・本気で言ってるのか・・?」」


グレイが身体を震わせている。


「う、うん・・・?そうだけ・・ど・・・?」


ドサッ!!


途端に同時にソファに崩れ落ちる2人。


「え?え?一体どうしたの?!2人とも!」


「ハハハ・・・やっぱり全く脈なしか・・・。」


乾いた笑いをするルーク。


「うう・・・やっと別れられたのに・・・おまけにライバルは増えているし・・・。」


ブツブツ口の中で呟いているグレイ。

・・・仕方がない、少しの間・・・そっとしといてあげよう。




「それで・・・アラン王子の事なんだけど・・・2人の知っている情報を教えて貰える?」

ようやく落ち着きを取り戻したグレイとルークに尋ねてみた。


「知ってるも何も・・・俺達もあまり詳しくは分からないんだ。」


グレイが言葉を濁らせる。え?どういうことなの?


「アラン王子はソフィーが聖女になってからはもう一切授業に顔を出す事をやめてしまったんだ。寮にも戻っていないし・・今は殆ど神殿に軟禁状態にされている。」


ルークの言葉に私は驚いた。

「え・・ええっ?!アラン王子が・・・?!」

何てことだろう。私は操られている事は知っていたけれども、まさか軟禁状態に遭っていたなんて思いもしなかった!


「ソフィーは・・・アラン王子が中々完全に自分の暗示にかからないから・・アラン王子に・・。む、無理やり・・・か・・・体の関係を・・・・。」


グレイはそこまで言いかけ、後は言葉にならなかった。

「そ、そんな・・・。」

そう言えばアラン王子は言っていた。確かにソフィーとは通じているが、一度も紋章が光った事は無いと―。


「アラン王子は・・物凄く苦しんでいた・・・。そして・・ジェシカの事を口にしていたんだ・・。」


ルークの言葉にドキリとする。

「え・・・?アラン王子・・・が・・・?」

そう言えば神殿の庭園で・・アラン王子は私の事をすごく求めていた。逃げようとしても手を離してはくれなかった・・・。そこまでしてアラン王子は私を・・・?


「頼む!ジェシカッ!アラン王子を・・・助けてくれっ!俺は・・・あんな哀れな王子の姿をこれ以上は見たくないっ!あのままだとアラン王子は完全にソフィーの手に堕ちてしまうかもしれない・・・。ドミニク公爵のように・・。だ、だけど・・まだアラン王子が正気でいられるのは・・・それだけジェシカを思っているからなんだ!」


グレイが涙混じりに訴えて来る。


「ああ。グレイの言う通りだ・・・。アラン王子はソフィーにこう話していた。自分の心はジェシカのものだと・・・!」


ルークも・・・泣いていた。泣いてアラン王子の事を・・伝えて来た。


だ・・・だけど・・・私に・・・アラン王子を救う事なんて出来るはずは・・・!

「アラン王子とは・・・もう一度会いたいとは思っていたけれども・・アラン王子は夜の間の数時間だけがソフィーの呪縛から逃れられると言っていたの。その時間に・・ソフィーの目を盗んで会えれば・・・話をするくらいなら・・・出来るかもしれないけど・・・。」

でも、果たして・・・それでアラン王子の呪縛を解く事が出来るのだろうか・・?

第一・・もう一度デヴィットが私とアラン王子を会わせてくれるだろうか?いや・・きっとそれは無い。

残る方法はただ一つ・・・。


「ねえ・・・グレイ、ルーク・・・。私・・あの神殿に・・潜りこむ事・・出来ないかな・・?」


そして2人の顔を交互に見つめた―




2


「駄目だっ!そんなの認める訳が無いだろうっ?!」


開口一番・・・デヴィットが言った。ああ・・・やっぱりね、そう言うと思ったよ。


「ま、待って下さい!え・・と・・デヴィットさん。俺達も中には忍び込んだことがあるんですよ。しかも驚くぐらいにあっさりと簡単に。」


グレイが興奮しているデヴィットを必死に宥めるように説得している。


「お前達はいい!魔法も使えるし剣だって使えるじゃ無いか。だがジェシカはどうだ?魔法も使えないし、剣だって使えない。いや、そもそもこの細腕じゃ剣を持つ事だって不可能だ。こんなか弱い女を敵の本拠地に・・・しかもあの薄汚い聖女が狙ってるんだぞ・・・?そんな場所へ俺の聖女を・・・ジェシカをやれるかっ!」


デヴィットは私を羽交い絞めにしながらグレイに抗議した。く・苦しい・・・。


「ちょっと!どさくさに紛れてジェシカに抱き付くなっ!この獣めっ!」


ダニエル先輩が喚く。


「煩い!俺は獣なんかじゃないっ!」


言い返すデヴィット。


「ま、待って下さいっ!わ・・私の話も聞いて下さいっ!」


必死でデヴィットの腕から逃れると言った。


「何も私1人で神殿に潜り込もうと思っているつもりではありません。」


「そんなのは当たり前だ。」


ムットしたように言うデヴィット。


「あの・・・ここにいる全員で・・・神殿に潜り込めたらなって思うんですけど・・・。あ、でも・・マイケルさんは残っていて下さい。」


「ええ~お嬢さん・・・。俺は行ったら駄目なのかい?」


すかさず反応するマイケルさん。


「はい・・・マイケルさんは私同様・・魔法を使えませんから・・・。私達と一緒にいたら・・・反って危険だと思うので。」


「う~ん・・・。お嬢さんがそう言うなら・・・いいよ、君の言うとおりにするね。」


「はい、ありがとうございます。」


「神殿の兵士の中には兜を身に着けている兵士が何人もいるんだ。その連中を背後から襲って鎧から兜まで全て奪って変装すればばれないはずだ。現に俺達は誰にも気付かれる事無く神殿の最上階・・・ソフィーとアラン王子の元へ辿り着く事が出来ましたからね。」


ルークが言う。


「え?何?そうだったの?だったらどうしてアラン王子を連れて逃げなかったのさ。」


ダニエル先輩が不思議そうに首をかしげる。


「う・・・・。」


「そ、それは・・・。」


2人は顔を赤らめ、口を閉ざしてしまった。その態度を見て私はピンときた。

もしかしてさっき2人が話していたのは・・・そこできっとソフィーとアラン王子の行為を目にしてしまったんだ・・・。


「何だ?何故黙るんだ?ちゃんと説明しろ。」


ああっ!デヴィットが2人に迫っている・・・。


「ま、まあまあ。タイミングが悪くてきっと助け出せなかったんですよ。ね?グレイ、ルーク。」


2人の代わりに私がデヴィットに応えると言った。


「神殿には数多くの兵士が集められているので・・・全員の顔と名前の把握なんて不可能だと思うんです。だから・・・紛れ込みやすいかなって思って・・・。駄目・・・ですか・・?」


上目遣いにデヴィットを見る。デヴィットさえ陥落する事が出来れば・・・後は絶対になんとかなるはず・・・


「う・・・そ、そんな目で・・お、俺を見るな・・・っ!」


デヴィットは私から顔を背けようとするも・・・。


「あああっ!分かった!俺の負けだ!いいだろう・・全員で・・あ、マイケルは留守番で神殿に乗り込むぞっ!」


とうとう観念したのか、デヴィットが折れた。やった―!これでアラン王子に近付く事が出来る・・・。




「まずはやみくもに神殿に乗り込んでも駄目だ。と言う訳で・・・。」


デヴィットはグレイとルークを見ると言った。


「お前らはもう寮に帰れ。門限があるだろう?」


言われてみると確かに・・・時計の針はもうそろそろ夜の10時になろうとしている。


「ええ?!そ、そんなっ!」


「何故、俺達だけ?俺達もここに泊めて下さいよ。」


グレイ、ルークが交互に泣きつく。


「駄目だっ!この部屋は4人で借りる契約を結んでいるんだ。お前達は頭数に入っていない。」


頑なに2人を拒絶するデヴィット。グレイとルークが必死にデヴィットに縋りついている。

しかし・・・アラン王子には虐げられ・・・デヴィットには逆らえず・・・とことん不運な彼等だなあ・・。


「まあまあ、別に構わないじゃ無いか。ほら、この部屋はこんなに広いんだし・・彼等にはソファで寝て貰えばいいじゃ無いか。」


ニコニコ顔で言うマイケルさん。

・・・じゃんけんとかクジ引きとかで誰がベッドを使えるかは決めないんですね・・・。


「ええ、俺はソファでも構いません!」


「この部屋に泊れるなら何処に寝たって構いません!」


グレイとルークが即答する。ええええ?!いいの?そんな簡単に決めちゃって?!


「グ、グレイ・・。ルーク・・・。貴方たちは・・それでもいいの?」


「ああ、お前の側に居られれば何処で寝たって構わないさ。」


グレイは笑顔で答える。


「そ、そうだ・・・。グレイの・・言う通り・・だ。」


ルークは頬を赤く染めながら言う。


「おい、お前達。ジェシカは俺の聖女なんだ。半径1m以上近付くなよ。」


私を腕に囲い込みながらデヴィットが彼等をジロリと見て威嚇する。

う~ん・・・デヴィットは・・・アラン王子に性格が似ている気がする。だから・・・きっとあの2人もデヴィットに逆らえないんだろうな・・・。


 その時、不意に声をかけられた。


「お嬢さん、さっき話していた美味しいお酒を買って来たよ。早速2人で飲んでみないかい?」


「マイケルさんがグラスをを持って立っていた。」


「うわあ・・。本当に買って来てくれたんですね?どうもありがとうございます。」

笑顔で答えると、ダニエル先輩が言った。


「あ、何?2人だけで飲むつもりなの?僕だって当然一緒に飲むからね!」


そして私の手を引くとリビングルームへ移動し・・・ソファに座った。


「あの・・・ダニエル先輩・・。」


「うん?何だい、ジェシカ。」


「何故・・ダニエル先輩の膝の上に乗っているのでしょうか・・?」


「フフ・・・。それはね、僕がそうしたいからだよ。ね、ジェシカ・・・。」


私の耳元に息を吹きかけながらダニエル先輩が言う。こ・・・これはまさか・・すでにダニエル先輩は酔っているのでは・・・?


「あ!ダニエル!お前・・・俺が目を離した隙に・・・ジェシカに何をしてるんだっ?」


声が上がった方向を見ると・・・やはりデヴィットだった。グラスを用意していたのだろうか?デヴィットの持っている銀のトレーにはグラスが沢山つみあげあれている。

おや・・・意外とデヴィットは世話好きなのかもしれない。


「ほら、早くジェシカを降ろせ。と言うか、お前もお前だ。何故素直にダニエルの膝の上に乗るんだ?乗るなら俺の膝の上にして置け。いいか?分かったな?」


そしてデヴィットは言いたい事だけ言うと、すぐに奥のカウンターへ引っ込んでしまった。


うん?何だかどさくさに紛れて妙な事を言われた気がしたけど・・聞かなかった事にしよう。


「え~。と言う訳で、ダニエル先輩。膝から降ろして頂けませんか?」


しかしダニエル先輩は私の腰に手を回し、しっかりホールドして離そうとしない。

そして潤んだ瞳で私を見つめると言った。


「いいじゃないか・・・。だって・・・ずっと君が側にいなくて・・・寂しかったんだよ・・。」


「え・・?」


言いながら徐々にダニエル先輩が顔を近付けてきて・・・・。


「はいはい~。そこまでだよ。」


突然マイケルさんがダニエル先輩の腕を振りほどき、私を引き剥がした。


「何するんだよ!折角いいところだったのに!」


ダニエル先輩が怒って抗議するとマイケルさんは言った。


「はいはい、抜け駆けは禁止だよ。さあ、お嬢さん。今彼等に手伝って貰っておつまみを沢山作っているからね~。」


言いながらマイケルさんはテーブルに次々と料理を並べていく。


「す・・すごい!いつの間に用意していたんですか?」


「大した事ないよ、これ位・・・。俺はね、お嬢さん。料理を作る事が大好きなんだ。」


「すごいですね・・尊敬します!」


私は両手を胸の前で組んでマイケルさんを見上げると、ダニエル先輩は面白くなさそうな顔をして何やらブツブツ独り言を言ってる。


「あの、私もお手伝いしますよ。」


「うん、それじゃ出来上がった料理を運んでもらおうかな?」


「はい!」




この日の夜は皆でお酒を飲んだり、食べたりと、おお賑わいの夜となった。


そして、夜は更けてゆく―。



3


<ジェシカ・・・ジェシカ・・・。>


誰かが私を呼んでいる・・・。でも瞼が重くて開けられない・・・。ごめんなさい・・・。


「・・・・・・。」

う~ん・・・。何だろう・・・?身体が重い・・。まるで何か重たいものが身体の上にのしかかっているような・・・。

睫毛を何度か震わせ、ようやく目を開けると眼前にデヴィットの寝顔があった。


え?!な、何・・・?一体・・・。何と私はまるで抱き枕のようにデヴィットに抱き締められたまま眠っていたのである。

ど、どうしてこんな状況に・・・・?ベッドサイドに置かれた置時計に目をやると時刻は午前6時になっている。

だ、大丈夫・・・。服は昨日のまま・・・。デヴィットも服を着たまま眠っているし・・・・。良かった・・・。以前のアラン王子の時のような状況にはなっていない様なので安堵の溜息をつく。

それにしても・・・何故私はベッドの上でデヴィットに抱き締められたまま眠っているのだろう?他の人達はどうしているのか・・?昨夜の記憶が全く飛んでいるので何が何だか分からない。

起き上がりたい・・・。絡みついているデヴィットの腕を持ち上げてみると意外なほど簡単に身体から解く事が出来た。

デヴィットの身体から抜け出ると真っ先に思った。

「シャワー浴びたいな・・・。」

昨夜はシャワーも浴びずに眠ってしまったので、さっぱりしたくなってきた。


持参していたボストンバックから着替えを取り出すと、ソロリソロリと部屋を抜け出す。・・・どうやらこの部屋にいたのは私とデヴィットの2人だけだったようだ。

 

カチャリとドアノブを回してリビングへ出て見て驚いた。

そこにはダニエル先輩、マイケルさん、グレイ、ルークがそれぞれソファの上や床に転がったまま眠っていたからである。

そしてテーブルの上には空になったボトルが20本近く置かれていた。

・・・一体彼等はどの位深酒をしたのだろう?

恐らくこの調子では当分起きてくる気配はなさそうだな・・・。



 それにしてもこの客室のバスルームに鍵が付いているのは助かった。もしシャワーを浴びている時に誰かが入ってきたら・・・と思うとゆっくりお風呂に入る事も出来ないしね。


コックをひねり、浴槽にお湯を溜めながら身体と髪の毛を洗う。

うん、やはり一流ホテルのアメニティは最高だ―。

ゆっくりお湯につかり、さっぱりした後に着替えを済ませて出てきたのに、彼等は未だに同じ姿勢のまま眠っている。

え・・・・?

その時-

私の中である違和感が生じた。

おかしい・・・何かが変だ。どうしてこんなに・・・静かなのだろう?音が何も聞こえてこない。慌てて辺りを見渡し、そこで私はある事に気が付いた。

時計の時刻は・・・6時10分を指している。

6時10分・・・・?この時計・・・遅れているのだろうか?

それなら―。

私は急いでデヴィットが眠っている客室へ入り、ベッドサイドの時計を確認する。

そんな・・・・。

この部屋の時計も・・・6時10分で止まっている。

一体、今この部屋で何が起こっているの・・・・?

こ、怖い・・・。

私は傍らで眠っているデヴィットの肩を激しく揺すった。


「デヴィットさん!デヴィットさん!お願い、起きてっ!」


しかし・・・デヴィットの身体はまるでマネキン人形のように固く強張り、微動だにしない。試しに口元に手をやり・・・慌てて手を引っ込めた。

息を・・・していない・・?嘘でしょう?一体何故・・・?で、でも身体は温かい・・・。

怖い、怖くて堪らない。頼りになるデヴィットはすぐ側にいるのに・・彼はまるで魂が抜けたようになっている。


「デヴィットさん・・・お願い・・・目を開けて・・・。」


デヴィットの身体に縋って涙混じりに訴えるが、全く反応は無い。

たまらず隣の部屋へ行き、ダニエル先輩やマイケルさん、グレイ、ルークの身体を揺さぶっても全く彼等は無反応・・・デヴィットと同じだ。

一体何が起こっているの・・・?

震えながら何気なく先程の時計を見て・・やはり時計の針は1分も動いていないことに気が付く。


ひょっとして・・・?時が・・・止まって・・・いる・・・?

私は一度だけ時を止める魔法を見た事がある。そう、あの魔法を使ったのは・・・

マシューだった。

今のこの状況は・・・あの時とそっくりだ・・・・。

ま、まさか・・・マシューが今何処かに居る・・・の・・・?

だけど・・・もし時を止めたのが本当にマシューだとして・・。彼は一体何故こんな手の込んだことをするのだろう?私を怖がらせるような真似を、あの優しいマシューがするとはとても思えない。


 でも・・・もし、本当に愛しい彼が今ここにいるのなら・・・・っ!

私は・・・まだ確認していない部屋のドアノブを震える手で開けた・・・。


「そこに・・・いるの・・・?」


カーテンで閉ざされた薄暗い寝室・・・。ふと、置かれているソファに誰か人の座っている気配を感じた。


「!」

マシューだろうか・・?一歩足を踏み出して・・・私は足を止めた。

違うっ!マシューではない・・・。この気配は・・彼では無い。それなら一体誰・・・?

もし本当に時を止めたのならば、何故私の時間だけが動いているの?

恐らく、その答えは・・・。


「わ・・・私を・・・捕まえに・・来た・・・のですか・・・?」


「・・・・。」


すると私の問いに答えるかのようにユラリとソファからその人物が立ち上り・・・こちらを振り向いたその相手は・・。


「ド、ドミニク・・・様・・・・。」


そこにいたのは・・・今私が一番会ってはいけない人物・・・ドミニク・テレステオ公爵だったのだ。


「ジェシカ・・・リッジウェイ・・・。ようやく会えたな・・・。」


ドミニク公爵はゾッとする位冷たい声で私の名を呼んだ。そして一瞬で私の目の前に現れると、凍り付きそうな瞳で私を見下ろす。

その瞳は・・怪しく光り輝いていた。


「ド、ドミニク公爵様・・・。な、何故こちらに・・・・?」

自分でも間抜けな質問をしているとは思ったが、何かく話さなくてはと思い、つい口から出てしまった。


「何故・・・ここに来たのか?だと・・・?そんな事は・・お前自身が一番良く分かってる事じゃないのか・・?」


公爵は私の耳元迄口を寄せると・・・低い・・・ハスキーボイスの声で囁く。


「!」

思わず恐怖が募り、後ずさりしようとしたところを、強く左手を掴まれた。


「俺から・・・逃げられると思っているのか・・?」


公爵は私の左手をねじり上げながら片時も私から視線を逸らさない。その瞳には、痛みと恐怖に怯えた私の顔が映っている。

この人は・・・本当に私の知っているドミニク公爵なのだろうか・・?

今の公爵からはただ事ではない雰囲気を全身に纏っている。注視してみると・・身体から赤黒いオーラのようなものがまとわりついているようにも感じる。


 何故・・・?ここまで彼は変貌してしまったのだろう?

どうして・・・公爵はソフィーの手に堕ちてしまったのだろう・・・?

思わず、目に涙が浮かんでくる。


すると・・公爵の目が私の涙を捉えたからなのか・・・一瞬ハッとする表情を浮かべた。


「ジェ・ジェシカ・・・・。」


突然、公爵の声のトーンが変化した。


「え・・?」


私は公爵の目を見つめると・・・そこには先程の怪しい光が消え失せ・・・見慣れたオッドアイの瞳が戻っていた。


 次の瞬間・・・。

突然私の左腕が眩しく光り輝いた。こ・・これは・・アラン王子やデヴィットと同じ輝きだ!

ドミニク公爵の右腕も眩しく光り輝き、その光を公爵は・・・唖然とした表情で見つめていた。そして、私は見た。

公爵の腕が光り輝いたと同時に、赤黒い物体が抜け出て行くのを・・・。

今のは一体・・?

私は赤黒い物体が消え去った方向を見つめていると、不意に公爵が声をかけてきた。


「ジェシカ・・・。」


公爵に視線を戻すと、驚く程至近距離の場所に彼の顔があった。


「ジェシカ・・・お前・・・聖女として・・目覚めたのか・・・?」


その声・・・口ぶりは・・・以前のドミニク公爵と同じものだった―。




4


「・・・・。」

どうしよう、何と答えれば良いのだろうか。今の・・・公爵は私が知っている以前の公爵なのだろうか・・・?

思わず視線を逸らすと、両肩を掴まれた。


「目を逸らすな。ジェシカ・・・・。」


公爵は真剣な眼差しで私を見つめて来る。目を逸らすな・・・・。この言葉は今迄にもう何度も聞かされ続けた言葉・・・。

だけど、私・・・。

「ご、ごめんなさい・・・。ドミニク様・・・。」


「ジェシカ・・・?」


公爵の顔に困惑の色が浮かぶ。


「手を・・・手を離して頂けますか・・・?」

先ほど黒い物体のようなものが公爵から抜け出て行ったのは見えたが、これで彼が正気に戻ったかどうかなんて、私には判断が出来ない。だから・・用心しなくてはならない。今の公爵は私にとって・・アラン王子よりも危険な存在なのだから。


「ジェシカ・・・俺が・・・怖いか?」


悲しみの色を称えた顔を見せる公爵に私は黙って頷くと、小さくため息をついて公爵は肩から手を離し、私から距離を取った。


「・・・これでいいか?ジェシカ。」


「すみません。・・ありがとうございます。」

頭を下げると公爵の顔を見た。公爵は・・・最初にこの部屋で出会った時とは雰囲気がまるで変っていた。禍々しい雰囲気は消え去り、何処か憂いの帯びたオッドアイの瞳は・・・以前の彼と同じものだった。


 そして今・・・私と公爵の紋章は互いに反応して光り輝き、薄暗い部屋を照らしている。


「初めてだ・・・。」


公爵はフッと笑みを浮かべ、私を見た。


「え・・・・?」

何が・・初めてだと言うのだろう?


「俺の腕の紋章が・・・こんな風に光り輝くなんて・・初めての経験だ。聖女であるはずのソフィーが近くにいても・・こんな風に光った事等今迄一度も無かったのに。」


自分の右腕を見つめながら公爵は言う。

そう言えば・・・アラン王子も同じ事を言っていた。でも・・・一体何故?

本来の小説通りなら、ソフィーは間違いなく全ての聖剣士の聖女になるはず。

それなのに・・・聖剣士であるアラン王子も、ドミニク公爵までもが紋章が光り輝いたことは無いなんて。


「不思議だ・・・。」


「え・・・?」


「俺は・・・記憶が殆ど曖昧なんだ・・・。魔界へ向かったお前を追ってアラン王子と『ワールズ・エンド』へ向かったらしいが・・・その記憶すら・・残っていない。勿論・・アラン王子もだ。」


 公爵の言葉に私は頭の中が真っ白になるのを感じた。

そ・・そんな・・・覚えていないなんて・・。それじゃ・・アラン王子にマシューの事を尋ねても分かるはずなんか無い・・。

やはり・・こうなったら直接ソフィーにマシューの事を尋ねるしかないの・・?


「時折・・・自分が正気に戻る時間があるのだが・・・その時間の感覚もだんだん短くなってきている。今では1日の殆どの記憶が無いんだ・・。」


寂しげに言う公爵の言葉に私は耳を疑った。え・・?それじゃ・・・完全にソフィーの操り人形になってしまった訳では無かったのだろうか?


「だけど・・・本当に参るよな。食事をしていたと思ったら・・・次に意識が戻った時には神殿にいたりと・・・。時には・・・あの女のベッドで目覚める時もあるし・・・っ!」


公爵は悔しそうに下唇を噛み締めながら俯く。


「・・・・っ!!」


その言葉を聞き、私は思わず声にならない悲鳴を上げそうになった。

同じだ・・・・ドミニク公爵も・・・アラン王子と同様に苦しんでいたんだ・・。

だけど・・どう見てもアラン王子よりも強い呪縛にかかっているのが何故か私には分かった。


「今だって・・・何故自分がここにいるのかが分からない。でも・・きっと・・お前を連れ去る為にここへ来ていたんだろうな・・。だけど・・・驚いたよ。気が付いてみれば俺はジェシカ・・お前の腕を掴んでいたのだから。すまなかった・・。強く握りしめて・・・痛かっただろう・・?」


公爵の瞳には・・・悲し気な色が宿っている。

「いいえ・・・私は大丈夫です。」

首を振って公爵に答えた。


「それにしても・・・不思議な感覚だ・・。」


公爵は自分の光り輝く腕を見つめながらポツリと言った。


「何が・・・ですか・・・?」


「この光を見ていると・・・心が穏やかになっていくんだ・・。お前が門を開けたあの日から、ずっと俺の心の中にさざ波が立っているような感覚に襲われていたのに・・今は・・・とても穏やかな気持ちでいられているのが分かる・・。」


「ドミニク・・・・様・・。何故・・私の居場所が分かったのか・・・ご存知ですか?」


私は自分の光る左腕を押さえながら尋ねた。


「それは・・・お前の中に眠っている魔力を少しだけ自分に移したんだ・・。俺と・・お前が触れ合ったあの時に・・。いわゆる『逆マーキング』と言えば分かるか?」


若干頬を染めながら公爵は言った。

そうか・・・あの時私は気が付かないうちに公爵が・・・。それなら・・。

「で、では・・・。ドミニク様は私が何処へいるのか・・全て把握されていたのですね・・・?」

スカートの裾をギュッと握りしめながら私は言った。


「ああ・・。少なくとも自分の意識がある時は・・・分かっていた。」


そ、そんな・・・・それじゃ何処へ逃げても私の居場所は全て公爵にはバレていたんだ・・・!幾らアラン王子から逃げる為にデヴィットにマーキングを消して貰っても無意味だったなんて・・・!


「だから・・・嬉しかった。」


突然公爵の声のトーンが優しくなった。


「え?嬉しかった・・・・?」


「ああ・・・。ずっと心配していたんだ・・・。ジェシカが突然消えてしまい、何故か周囲からお前の記憶が消えてしまい、俺は正直焦った。何度も行方を探そうとしたが・・・その度に何者かに身体を乗っ取られたかのような感覚に襲われ、次に自分を取り戻した時には全く違う行動を取っている自分がいるんだからな・・・。正直言うと・・もう心が折れそうだった・・・。これ以上正気を保てる自信が無い。今に・・きっと自分の全てがもう1人の俺に・・奪われてしまうんだろうな・・。って何故泣く・・・?ジェシカ。」


「え・?あ・・わ、私。」

そう・・・私は気が付けば、公爵が哀れで・・・涙を流していたのだ。慌てて下を向いて涙を拭う。そんな私を少し距離を置いた場所で見つめていた公爵が言った。


「ジェシカ・・・。お前の側に・・行ってもいいだろうか・・・?」


まるで許しを乞うような言い方に・・・私は自分から公爵の元へ近付き、すぐ側で立ち止まった。そんな私を公爵は目を見開き、見つめている。


「ジェシカ・・・お、お前に・・触れても・・・いいか・・・?」


頷いた、次の瞬間・・・私は公爵の腕の中にいた―。


「ジェシカ・・・ジェシカ・・・・。」


公爵はまるで熱に浮かされたかのように私を強く抱きしめ、髪に顔を埋めて私の名前を呼んでいる。その時・・私は公爵から・・・魔族特有の香りをふと感じた。

え・・・?何故・・・公爵から・・マシューやヴォルフのような香りを感じるの?

だけど・・・私はこの香りが・・すごく好きだ・・・。

その時、公爵が突然私の耳元で囁いた。


「ジェシカ・・・・。お前の未来は・・・変わったのか・・?」


「!」


驚いて、顔を上げた瞬間公爵が一瞬唇が触れるだけのキスをしてきた。


「ド・ドミニク様・・・?」


「ジェシカ・・・お前の未来では今もやはり・・俺が・・お前を捕らえて罪を言い渡すのか・・?」


私の頬を撫でながら公爵は言う。


「は、はい・・・・。残念ながら・・・私の未来は変わっていません・・・。」


「そうか・・・。」


寂しげに笑うと、再び公爵は力強く抱きしめて来ると言った。


「不思議なんだ・・。今まで・・こんなにも長く自分の意識を保てた事は無かった。俺は・・あのソフィーに聖剣士としての忠誠を誓ってしまったが・・・お互いの紋章が光った事が無いので・・・聖剣士と聖女の正式な誓いを結んではいないんだ・・・。」


「・・・・。」


私は黙って公爵の話を聞いていた。


「ジェシカ・・・お前には・・・・もう聖剣士は・・いるのか・・?」


「・・います。」


「そう・・・か・・・。いたのか・・・。」


「俺は・・・ソフィーから逃れたい・・。お前を捕らえて流刑島へ送るなんて事は・・・したくないんだ・・・。」


「ドミニク様・・・・・・っ!」


顔を上げた途端、突然公爵が深い口付けをしてきた。反射的に押しのけようとしても力が強すぎて敵わない。

な・・何故こんな事をしてくるのだろう。ひょっとすると公爵はまだ私の事を・・?

深く長い口付けに魔族特有の香りで思考能力が奪われ、頭の芯が痺れて来た頃・・・。


「誰だっ!そこにいるのはっ!」


突然激しくドアが開け放たれ、中へ誰かが飛び込んできた。

あ・・あの声は・・・。


私が口付けられているのをデヴィットが見たのか、息を飲む気配が伝わった。


「き、貴様・・・・ッ!ジェシカに何をしているんだっ!!」


「しまったっ!時間切れか・・。」


公爵は私の身体から素早く離れると笑みを浮かべながら言った。


「ジェシカ・・・会えて良かった。やはり・・俺はお前を愛しているよ。」


「ドミニク様・・・っ!」


「な・・・何だとっ?!」


怒りに震えたデヴィットをチラリ見ると公爵は転移魔法で姿を消した―。



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