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ルークの記録 ①

 俺はある特異体質を持っている。

それは体内に取り入れた全ての毒を中和する事が出来る能力である。

代々俺の家系、ハンター家は特殊な能力を引き継いでいる。それは俺のように解毒体質だったり、怪我を負っても瞬時にその場で治ってしまったり、時には相手の心を読むことが出来たり等その能力は多岐に渡る。これが魔法の力なのか、超能力なのかは分かりかねるが、その才能を見込まれて俺達一族はゴールドリック王家に何世代にもわたり、仕えてきた。


 今回俺は第2王太子のアラン・ゴールドリック王子が『セント・レイズ』学院に入学する事になり、その警護を兼ねて俺も入学する事となった。幼馴染のグレイと一緒に。

 本当はこんな王子の警護など付きたくない。学院で勉強させて貰えることは感謝しているが、四六時中この王子の身辺を離れてはならないのだから。

恐らく自分の自由時間等持てないだろう。


 入学早々、王子はある女性に目を付けた。名前はジェシカ・リッジウェイ。

公爵令嬢と言っていたが、何故か庶民的な雰囲気を持っている。

 このジェシカ嬢は、珍しい事に王子に誘われても迷惑そうな顔ばかりする。嘘だろうと思いたい。何せ相手は王族だ。王妃になるのだって夢じゃない。それなのに王子が追えば追う程、逃げていくばかりだ。でも王子が興味を持つのは分かる気がする。

何せ、彼女は物凄い美人なのだ。あれだけの美女は恐らくそうそういないのではないだろうか?

だからなのだろう。彼女が付き人と紹介した男はまるで女神でも称えるかのような眼つきで見つめている。しかし、その男の事すら彼女は露骨に避けているのが手に取るように分かった。男の俺から見ても美形な付き人を酷く毛嫌いするなんて、ますます謎が深まるばかりだ。


 

 王子が流感にかかり、療養病棟に入院が決定した時、王子には悪いが内心俺は心の中で大喜びした。これで数日間は王子の警護から逃れられる・・・。


 ここにきて、もう一つ新しい謎が出来た。グレイについてだ。アイツは一体いつの間にジェシカ嬢と親しくなったのだろう?彼女を呼び捨てにしている時には流石の俺も驚いた。

でもあいつは俺とは違い、誰とでも親しく付き合う事が出来る男だ。それできっと2人は王子が不在中の時にちゃっかり仲良くなったのであろう。ジェシカ嬢もアラン王子よりはグレイの方がお気に入りなのか、2人はふざけ合いながらも仲良さげにしている。


 多分、間違いない。グレイはジェシカ嬢の事を好きなのだ。 

俺は試しにグレイに鎌をかけてみる事にした。ジェシカ嬢の事、どう思っているのか尋ねると、驚くほど素直に白状した。

好きだけどアラン王子の思い人だから、どうしたら良いか分からないと真剣に悩んでいた。

何だかんだ言いながらグレイは俺より忠誠心が強いからな。彼は苦しそうで俺は見ていて少し気の毒に思えた。


 まあ、これは俺が口を挟んでもいいものでは無いし、静観していよう。

そう思っていた矢先に、あんな事が起こるなど思いもしなかった。


 その日の夜、俺はサロンで酒を飲んでいた。本当は好き好んでこんな場所に来ている訳では無い。何故なら俺は解毒体質者。その為、いくらアルコールを摂取しても酔う事が出来ないのだ。俺から見ればアルコール等たんなる味の付いた飲み物でしかない。一度でいいから酒に酔った高揚感・・のようなものを味わいたい。

いつか、きっと俺の体質に逆らった酒に出会えるのではないか・・。そこで何時間もサロンで様々な酒を飲んでいたのだ。

 ふと見ると、ジェシカ嬢が一人きりでサロンでカクテルを飲んでいる姿が目に留まった。いつの間にやってきたのだろう。

バーテンと何か楽し気に話をしている。俺は彼女を横目でチラリと見ると、うっすらとアルコールで頬を染めた彼女はいつも以上に美人に見えた。


 ここに来たのも悪くない・・・そう思っていると、その場を崩すような人物が数人の派手な女たちを連れて現れた。


ノア・シンプソンだ。

折角の楽しい雰囲気が台無しだ。今夜は一体どの女を持ち帰りするつもりなのか・・。あの男が来たのなら帰ろうかと腰を上げた時、小さな騒ぎが起こった。

ノアは女たちを全員追い払うと、あろう事がジェシカ嬢に絡みついているのである。

あまりにも馴れ馴れしく彼女に触れるノア。そしてあろう事か、彼女の弱みに付け込んで、自分の物になれと脅迫しているのだから。


その上、ノアは酒の飲み比べをして自分に勝てれば彼女の要望に応えてあげる等と抜かしている。俺は相手が酒に強いのはよく知っていた。だから、自分が代わりに勝負する事を申し込んだ―。


 ジェシカ嬢は余程怖かったのか、殆ど俺の事を知らないくせにしがみついてきた。

その小さな身体は震えている。絶対に助けてやらなければ。


 意外な事にあの男は俺の提案をすんなり受けた。余程自身があるのか、それとも何か勝算でもあるのか・・・。だが、相手が悪かったな。俺はアルコールが全く効かない特殊な人間なのだから。


 結局勝負は俺の勝ち。当然だろう。俺はこの時ほど自分の体質を喜んだことは無い。いつもならアルコールに酔えない自分の体質を呪っていたと言うのに。


椅子に座っている俺の前に何やら思い詰めたように近付いてきたジェシカ嬢が突然俺に抱き付いてきたのには驚いた。女に殆ど免疫が無い俺の心臓は飛び跳ねそうになった。

けれど、彼女の柔らかい身体と温かなぬくもり、鼻腔をくすぐる甘い香りを感じた俺は、気が付くと自然に彼女の身体を抱きしめていた。


 どうやら俺はジェシカ嬢を好きになってしまったようだ・・・。

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