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※第11章 3 ついに2本の鍵を入手する 

(大人向け内容有ります)

1


 今、私達は園庭のベンチに座って二人で月を眺めている。本来ならとても外は寒いはずなのだが、公爵が周りの空気を温める事が出来る魔法をかけてくれたお陰でちっとも寒くない。


「すごいですね、こんな便利な魔法があったんですね。」


「ああ。実はつい最近この魔法を覚えたんだ。我が家には代々伝わる様々な魔術書があって俺が今使える魔法は全て魔術書を読んで学んだんだ。この魔法を覚えたきっかけは・・・ジェシカ、お前だ。」


公爵は私を見ながら言った。


「え?私・・・ですか?」


「ああ。以前お前が俺を探していた時に川に落ちてしまっただろう?慌てて引き上げた時には氷のように冷え切った身体でとても寒がっていた。そ、それでやむを得ずあのような行為を・・。ほ、本当にすまなかった!幾ら意識が無かったからといって勝手に服を・・。」


そこまで言うと公爵は顔を真っ赤に染めて口元を覆い隠してしまった。

あ・・・あの時の・・。でもそんな態度を取られてはこちらまでつられて赤面してしまう。

「い、いえ。いいんですよ!だ、だってドミニク様は私を助けるためにあのような行動を取られた訳ですよね?むしろドミニク様は私の命の恩人です。ありがとうございました。」

そこまで言って私は気が付いた。

「あ・・・ひょっとして、それが理由ですか?この魔法を覚えたのは。」


「あ、ああ。そういう事になるな。あの時、この魔法を覚えていたらあのような真似をしなくてもジェシカの身体を温めてやる事が出来ると思って。でも思った以上に早くこの魔法を試す事が出来て良かった。」


公爵は私の髪の毛をそっと撫でながら言った。

そこまで公爵は私の事を思ってくれているのに・・・私はまだ公爵の事を何処かで信じる事が出来なかった自分が恥ずかしいと思った。

公爵に・・・謝らなければ。

「すみませんでした・・・。ドミニク様。」


「何がだ?」


「私は嘘を・・・つきました。初めてドミニク様とジェシカ様が会った時、私だけ先に帰ってしまった理由・・あの時はお2人がお似合いのように見えたからだと言いましたが・・本当は違います。ソフィーさんが・・ドミニク様と2人きりになりたがって、彼女が私を睨み付けていたから・・。あの場から逃げてしまったんです。」


「・・・。」


公爵は黙って聞いている。


「そ、それだけじゃありません。先程、サロンで私を危険な目に遭わせていたのは誰だと聞かれ、分かりませんと答えましたが、それも嘘です。ソフィーさんが怖かったから・・何も言えなかったんです。」


「・・・ああ。分かっている」


公爵は私の肩を抱き寄せると言った。


「2人で学食へ向かう時、俺があの女が現れる前に強い視線を感じると言ったのを覚えているか?そして学食で俺達の前に姿を見せた時にすぐに気が付いた。視線は目の前にいるこの女からだったのだと。第一、明らかにお前の顔色が変わったからおかしいと思ったんだ。おまけにあの女は露骨にジェシカを追い払おうとしていたし。あの時、すぐに気が付いてやれなくてすまなかった。あんなにお前は震えていたのに。」


公爵の抱き寄せる手の力が強まった。


「全く・・・あの女のお前を罵る言葉を聞いているだけで反吐が出そうだった。あれが女で無ければ一発殴りつけてやるところだった。」


公爵は言い終わると、ギリリと下唇を噛んだ。


「勝手に会う約束をして、あの女は帰って行ったが・・・俺が言う通りに会うとでも思っていたのだろうか?本当に・・・愚かな女だ。」


「ドミニク様・・・。」

公爵は今のところはソフィーの暗示にはかかっていないようだが・・。ひょっとしてソフィーは今夜公爵と会って暗示をかけるつもりだったのだろうか?


「あの男からお前が何度も危険な目に遭っている事を聞いてすぐに分かった・・・。本当はお前の口から直接聞きたかったが・・。あの女が怖くて本当の事が言えなかったんだろう?」


公爵は私の瞳を覗き込むように言った。

「は、はい・・・。私は魔力があるのに、魔法が一切使えなくて・・だから怖くて何も言えませんでした。後・・もう一つ理由があります。」


「理由・・・?」


公爵は眉をしかめた。


「はい。彼女・・ソフィーさんは人に暗示をかけるのが得意なのです。今まで数人の意中の男性に暗示をかけているようでした。その中でも特に暗示を何回もかけられていたのがアラン王子です。」


「アラン王子が・・・?」


「ソフィーさんはアラン王子がお気に入りの様なので・・。」


「そうか、それでお前を目の敵にして何度も襲って来たのか?」


「ええ、まあ・・・。」

私は曖昧に答えた。でも、もう後戻りは出来ない。公爵にソフィーの事を話してしまったのだから。

私は公爵を見上げると言った。


「ドミニク様・・・・。私の話を聞いていただけますか?」


「ああ。」


「私が予知夢を見る話は以前しましたよね?ドミニク様が夢に出てきた事がある話もしたとおり。あの時・・・ドミニク様の側にいたのがソフィーさん・・・だったんです。夢の中のドミニク様は・・すっかりソフィーさんに心を奪われていました。」


私は瞳を閉じた。あの時夢でみた光景は今もしっかり記憶に残っている。


「ドミニク様は冷たい瞳で私を見つめ・・・ソフィーさんが提案した罰を私に言い渡しました。」


「・・・・。」


公爵は悲し気な瞳で私を見ていたが、口を開いた。


「ジェシカ・・・それでお前は俺に何も言おうとしなかったのか?俺がもうソフィーの暗示にかけられているとでも思っていたのか?」


「はい、そうです。私は・・・もう何度も目の前でアラン王子がソフィーさんに暗示をかけられる姿を見ていますから・・。」


「そうか、だからお前はどんなにアラン王子が言い寄ってきても、受け入れようとしなかったんだな?いつまたソフィーの暗示にかけられてしまうか分からないから・・・と。」


「はい・・・その通りです。」


「催眠暗示という言う物は・・・相手の心に隙が出来ていればいる程かけやすいものなんだ。恐らくアラン王子の心は隙があったんだろうな。それは・・・ジェシカ。お前に対する隙だ。」


「私・・の?」


「アラン王子は不安でたまらなかったんだと思う。ジェシカが自分の事をどう思っているのか、自分の事を迷惑に思っているのではないだろうかと。そんな不安に思う心の隙をあの女に狙われたんじゃないだろうか?」


「そう・・・なのですか?」

でもその割には最近アラン王子はソフィーの暗示にかけられていないのは何故だろうか?


「どうした?ジェシカ。」


「あ、い・いえ。ただ、ここ暫くはアラン王子は一度もソフィーさんの暗示にかかっていないようなので何故かと思っただけです。」

すると公爵は私をじっと見つめると言った。


「お前とアラン王子・・・ここ最近何かあったか?」


「私と・・アラン王子が・・・ですか?」


「ああ、それこそアラン王子のお前に対する不安感が払拭されるような何かが。例えば強い絆が生まれたとか・・・。」


「不安感が払拭される・・・強い絆・・・?」

そこまで言いかけて、私はハッとなった。

ま、まさか・・・・私がアラン王子と初めて一緒にお酒を飲んでアラン王子と同じベッドで目覚めたあの時・・?!

そうだ!私は待ったく覚えていないが、どうやら私はアラン王子に抱かれたらしい。

まさかそれがきっかけで・・?でも、もしそれが事実だとしたら二度とアラン王子はソフィーの暗示にかからないのだろうか?


「どうした、ジェシカ。何か思い当たる節でもあるのか?」


私はすっかり考えに耽っていて、一瞬公爵の存在を忘れてしまい、無意識に答えていた。


「・・・思い当たる節ならあります。」


「!」

公爵の息を飲む気配を感じ、私はそこで気が付いた。しまった!公爵が今一緒にいたんだ!

私は恐る恐る公爵を見上げると、彼は衝撃を受けた顔で私を見下ろしていた。



2


「ジェシカ、今何て言った?思い当たる節があるのか・・・?」


公爵は私の両肩を掴むと問い詰めてきた。


「あ、あの・・・そ、それは・・・。」

言えない、言えるはずがない。ど、どうしよう・・・。


と、その時。


「ジェシカーッ!!」


誰かが私の名前を呼んでこちらへ向って走ってくる。ま、まさかあの声は・・・?


「ジェシカッ!!」

鼻息を荒くして、私達の前に現れたのは生徒会長だった。


「せ、生徒会長何故こちらに?!」

私は公爵から慌てて離れると言った。


「つい先程ソフィーに会って、その時に教えてくれたのだ。お前が見らぬ男と一緒にここにいると言う事をな!」


そして公爵をジロリと睨み付けた。


「おい、貴様。どこのどいつかは知らないが俺のジェシカから離れろ。」


生徒会長はあろうことか、公爵を指さすと言った。


「俺のジェシカ・・・?」


公爵はその言葉にピクリと反応し、ユラリと立ち上がり、生徒会長に近寄ると正面に立った。背の高い公爵は自然と生徒会長を見下ろす形になる。


「俺のジェシカとはどういう意味です?」


「な、何だ?言葉通りの意味だが?」


公爵の迫力に押されながらも言い返す生徒会長。あ・・・まずい。公爵は生徒会長の性格を良く知らないから、今の言葉を本気に取ってしまったようだ。


「あ、あの・・・2人共落ち着いて下さい・・・。」


「「お前は口を出すな。」」


「はい・・・。」

2人から同時に注意されてしまった。 


「いいか、俺はこの学院の生徒会長をしているユリウス・フォンテーヌだ。」


生徒会長は偉そうに親指を立てて自分を指し、胸を晒せながら言った。


「生徒会長・・・?ああ、ジェシカが言っていたのは貴方でしたか。強面で実は大のスイーツ好きらしいですね。」


公爵はニヤリと笑いながら言った。


「な・・・何いっ?!ジェ、ジェシカ・・・!お、お前・・俺の秘密をこの男にばらしたのか?!」


生徒会長は驚いた様に叫ぶと私を振り返った。


「ええ?あれは秘密だったのですか?!」

そんな馬鹿な。だったら何故私やエマをスイーツカフェに連れて行ったり、堂々とスイーツについて周囲に語っていたのだ?全く理解に苦しむ。


「当たり前だ!男でスイーツ好きなど知られたら周りから気持ち悪く思われるだろう?!」


別にそこまで思われる事は無いだろうけど・・・。相変わらず変人ぶりは変わらない。


「そ、それよりだ!」


突然生徒会長は私にズカズカ近寄ると、肩をガシイッと掴み顔をググッと近づけて言った。


「おい、ジェシカ!怪我の具合はもう大丈夫なのか?お前が冬期休暇中に弓矢で死にかけたという話を聞いたときは心臓が止まるかと思ったぞ?!だから俺はお前を守らせるために生徒会長の権力を使って聖剣士にお前の護衛を頼んだのだ!」


「せ、生徒会長・・ですからもっと離れてくださいってば!」


ギャ~ッ!!相変わらず距離が近い!だからそんなに睫毛が触れる位に顔を近付けないでよ!それにとうとう言っちゃったよ。生徒会長の権力を使って・・・と。この男は生徒会どころかこの学院の聖剣士まで私物化しているのだろうか?


「お、おい!ジェシカッ!死にかけたとは一体どういう事なのだ?!俺はそんな話初耳だぞ?!」


そこへ公爵が生徒会長を押しのけて私の前に立ちふさがった。

あ・・そうだった。公爵にはこの話はした事が無かったんだっけ・・・。

「は、はい・・・。実は冬期休暇中に、あるトラブルに巻き込まれて弓矢で撃たれて死にかけた事があるんです・・・。」

まあ実際は死にかけたと言うよりは、本当に一時的に死んでいたみたいだけど・・。


「な?何だって!どうしてそんな大事な事を俺に話さなかったのだ?それもやはりあの女の仕業なのか?!」


「いいえ、それは違います!直接的な関係はありません。」


必死で否定すると生徒会長が割り込んできた。


「おい!お前!俺がジェシカと話をしていたのに勝手に割り込んで来るな!」


公爵の肩を掴んで喚く生徒会長。


「大体、貴様は何者なんだ?さっきも2人きりで妙に親密そうに話をしていたし・・・。おまけに見かけない顔だ。転入生なのか?」


「俺は・・・ドミニク・テレステオ。一時はジェシカの婚約者だった男ですよ。」


「な・・・何いいいいいっ?!こ・こ・こ・・・婚約者だとおっ?!」


身体をグラリと大きく傾け、小刻みに震えている生徒会長。

おお~っ!相変わらずそのわざとらしい演技がかった様子が素晴らしい・・・。

と言うか・・・。


「ド、ドミニク様!な、何と言う事を生徒会長の前で言うのですかっ?!」


「おい!嘘だろう?!ジェシカッ!!」


生徒会長はギャーギャー騒ぐし、公爵には怪我をした経緯を詳しく聞かせろと問い詰められるしで、この日静かだったはずの夜が一転し、大騒ぎの夜となってしまった。結局騒ぎを聞きつけた他の学生達から報告を受けた寮長達がやってきて、何とか騒ぎを収める事が出来、その場で強制的に解散させられる事になったのである。

 

 公爵と生徒会長は名残惜しそうに去って行ったが私は内心ほっとしていた。

何故なら公爵にはアラン王子との関係を話さなくて済んだし、生徒会長には公爵との関係をしつこく聞かれる事も無くなったのだから。ある意味寮長達に感謝だ。


「ふう~・・・・疲れた・・・。」

部屋に入ると私はベッドの上に倒れ込んだ。

まさか新学期早々、こんなにトラブルが勃発するとは思わなかった。私は重たい身体をノロノロ起こすと、シャワールームへ向かった。

 コックを捻り、バスタブに熱い湯を張るとお風呂の準備をする。

お湯が溜まるのをぼ~っと見つめながら、今後の事を考えていた。

さて、これからどうしよう。マシューには私が魔界へ行きたい理由は話してある。多分・・・彼なら私が魔界へ行く事を止めない気がする。

だとしたら、マシューが1人だけで門番をしている時に訪ねれば、私を通してくれるかもしれない・・・。


「あ、お湯がたまった。」

考え事をしていたらお湯が溢れそうなくらい溜まってる事に気が付いた。

衣類を脱いでシャワーを頭から浴びて髪の毛から身体迄くまなく洗ってバスタブに身を沈めて天井を見上げた。

「あ~気持ちいいなあ・・・。やっぱりお風呂は最高・・・。温かいし・・・。」

そこで私は言葉を切った。

あの時の・・・ノア先輩の言葉を思い出したからだ―。





 夢の中でノア先輩に初めて抱かれている時、ノア先輩の身体が驚く程冷えきっている事に気が付いた。


「ノア先輩・・・。何故こんなにも身体が冷えているのですか?ひょっとすると・・体調が悪いのですか・・・?」


するとノア先輩は悲し気に笑って首を振って答えた。


「ジェシカ・・・ここの世界は素敵だよね・・・。こんなにも温かいし、君の身体もとても温かくて・・・。」


ノア先輩は私を抱きしめ、髪に顔を埋めながら切なげに囁いた。


「ジェシカ、魔界はね・・・とても寒い世界なんだ・・・。身体を温めてくれるような場所も無いし、道具も無い。僕はいつも寒さで震えて・・寒くて寒くておかしくなりそうなんだ。やっとこの世界に来ることが出来て・・今この世界で、ジェシカとこうして肌を重ねていられる事がどれだけ幸せな事なのか僕は身を持って実感しているよ。だから・・ジェシカ。僕を温めさせて。もっと・・強く抱きしめさせて・・。」


潤んだ瞳でじっと私を見つめるノア先輩。

そしてノア先輩は私をより一層強く抱き寄せ・・・・。



ピチョーン!


「わっ!冷たっ!」

突然バスルームの天井から冷たい雫が降ってきて、私の額を直撃した。

「う~・・・・私・・お風呂で転寝しちゃってたんだ・・・。」

お湯に浸かりながら気持ち良くなり、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。


「今・・・あの時の夢・・・見ていた・・。」


あの時、ノア先輩はとても寒がっていた。魔界という所はそれほど寒い場所なのか・・・・。

「私に公爵のような身体を温める事が出来る魔法を使えたら良かったのに・・・。」


しかし、悲しい事に私は少しも魔法を使う事が出来ない。強いて言えば、強く念じた物を具現化する事しか・・・そう、例えば以前私が作り上げたパソコンやオリハルコンのように・・・?

え?ちょっと待って・・・。そうだ、私は物を作りだす力なら持ってるじゃない!


 そうと決まればっ!

急いで風呂から上がり、お湯を抜いて寝間着に着替えると髪を乾かした。

すっかり寝る準備が整った私はハーブティを用意した。このハーブティーは安眠効果をもたらしてくれる。

これをゆっくり飲み干すと、明かりを消してベッドへ潜り込んだ。


「おやすみなさい、ノア先輩。」

そっと呟くと瞳を閉じた。

どうか、明日の朝目覚めた時に「魔界の門の鍵」と「狭間の門の鍵」が出来ておりますように・・・・・。





3


緑の草が揺れる大平原に私は立っている。空はやはり真っ青で風が吹き、白い花びらが散っている・・・。そして目の前には巨大な門。

間違いない。ここは前に見た夢の景色と一緒だ。私はあの時と同じ夢を見ているのだ。けれどもあの時の夢とは状況が違う。今回の夢の中の私は自分の意思をしっかり持ち、行動をする事が出来ているようだ。

門に近寄り、そっと扉に触れてみるとひんやりした感覚が伝わって来る。


 その時私は自分が2本の鍵を握り締めている事に気が付いた。1本は金色に輝き、鍵の頭の部分には青い小さな水晶が埋め込まれている。もう1本は銀色に輝くカギで同じく鍵の頭部分には小さな赤い水晶が埋め込まれていた。しかもこの鍵の形状はよく見ると2本とも同じ形をしている。

門には当然の如く鍵穴がついているが、やはり思った通り鍵穴は1つのみ。

間違い無い。この門の鍵穴は同じなのだ―。


『狭間の世界』へ行ける門の鍵はどちらになるのだろう?もし間違えて魔界の門を開ける鍵の方を使ってしまえば取り返しのつかない事になる。

私は2本の鍵をそれぞれ右手と左手で握り締めた・・・。


 鍵を握り締め、じっと意識を集中させた。

すると・・・右手に握り締めている銀色の鍵から冷たい冷気のような物を感じる。

そしてうたたねをしていた時に見た夢の中でノア先輩が言っていた言葉を思い出す。

魔界はとても寒い世界なのだと・・・だとしたら、魔界の鍵はこの赤い水晶が埋め込まれている鍵が魔界の門を開く鍵なのかもしれない。

私は意を決して赤い鍵を鍵穴にさそうとしたその時・・・。


「「ジェシカーッ!!」」


遠くから私を呼ぶ声が風に乗って聞こえた。その声には聞き覚えがある。

後ろを振り向くと、私に向かって駆けよって来る2人の聖剣士の姿が。


「そ・・そんなまさか・・・。」

その姿を確認した時、私はまるで頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けた。

夢の中で自分が声を発する事が出来るのにも驚いたが・・それ以上に驚いたのが2人の聖剣士がアラン王子と公爵だったからだ。


「やめろ!ジェシカ!早まった真似をするな!!」


アラン王子は必死で叫んでいる。


「ジェシカ!今ならまだ間に合う!学院へ戻るんだ!」


公爵も必死で私を止めようとこちらへ向かって走って来る。移動魔法を使ってこないと言う事は・・・このフィールドは何らかの魔法がかけられていているのかもしれない。

ならば・・!

私は急いで銀色の鍵を回して門を開けた―。




 チュンチュン・・・・。

小鳥の鳴き声で私は目が覚めた。

「え・・・?朝・・・?」

呆然としたままベッドの上で呟く。

「う・・・嘘でしょう・・?」

どうして?どうして後もう少しだけ夢の続きを見る事が出来なかったのだ?!

私はあの鍵が本当に『狭間の世界』へ行く為の鍵だったのか確認する事が出来なかった。

「あ~っ!私の馬鹿!!」

思わずベッドの上で頭を抱えて転げ回った。どうしよう?今晩もう1回眠ったらあの夢の続きを見る事が出来るのだろうか?そこまで考えてハッとなった。


「鍵!鍵は何処?出来ているの?!」

あわててベッドから起き上がると机の上や引き出しの中など、鍵が無いか探し回ってみる。夢で見たあの鍵を・・・。

「そ・・・そんな・・無い・・。」


私はへたり込んでしまった。でも、何でもかんでもそう都合よくいく訳無いか・・。

ひょっとしたら明日には鍵が現れるかもしれないし、明後日に現れるかもしれない。

それでも駄目なら・・・。

ベッドの上に座り、枕を持つとギュッと抱きしめた。

「それでも駄目ならどうしよう・・・。でも夢の中で私は確かに鍵を持っていたし、あの夢は絶対予知夢に決まっている。大丈夫、必ず鍵は現れる。」

うんうんと頷いた時、突然机の上が眩しい光に包まれた。


「え?!な、何?!」


枕を置くと慌てて机に向かい、息を飲んだ。光り輝いていたのは机の上に乗っていた2本の鍵であった。




「ま、まさか本当に・・・・?」

鍵に触れようと手を伸ばすと、眩しい光が鍵の中にスーッと吸い込まれていく。

そして2本の鍵は完成した・・・のかな?光こそ失ったものの、頭に取り付けられた水晶はそれぞれ鈍い光を放っている。恐る恐る2本の鍵を手に取ってみる。


「冷たい・・・。」

赤い水晶の鍵は驚く程冷たかった。まるで氷に触れている様である。

一方の青い水晶の鍵は不思議な事に温もりを感じる。

「やっぱり・・。こっちの鍵が絶対『狭間の世界』の鍵に決まってる。」

私は2本の鍵をギュッと握りしめると言った。


「ノア先輩・・・私、鍵を手に入れましたよ・・・。」




「マシュー・・・中々出てこないなあ・・・。」

小声でそっと呟く。

私は男子寮の近くに生えている植え込みの中に隠れて出入り口を注視していた。

それにしても・・寒い。

おまけに身体を動かすと茂みがガサガサなるのであまり身動きをする事も出来ない。

私に構ってくる男性達さえいなければ、こんな風に植え込みの中にしゃがんで隠れている事もしなくていいのに・・・。

「はあ~・・・。」

何度目かのため息をついた時・・・。

「!」

私は息を飲んだ。

なんとソフィーが学生寮へ向かって歩いてきているではないか。

「え・・・?誰かを迎えに来たの・・?」

誰を迎えに来たのだろうか?でも心当たりがある人物といったら公爵か、アラン王子しかいない。


「マリウス様っ!!」

私はその時ソフィーにしか注目をしていなかったので、突然マリウスの名前を呼ぶ女生徒の声が聞こえたので本当に驚いてしまった。

え・・?

すると眼前にはいつの間にかマリウスと・・・確かドリス・・?だっただろうか?

その2人が激しくもみ合って?いた。


「な、何ですか?!ドリス様!あれ程こちらに来られては迷惑だと申し上げたでは無いですか!」


「嫌です!そんな事を言ってどうせマリウス様はジェシカ様の所へ行くつもりだったのでしょう?!」


「そんなのは当たり前です!ジェシカお嬢様は私の大切な主ですから!」


「だったら私の事も大切にして下さいよ。私達婚約者同士ではありませんか・・・。」


しゅんとなるドリスにマリウスはぴしゃりと言った。


「いいえ、私は貴女を一度たりとも婚約者だと思った事はありません。はっきり申し上げて迷惑ですからもう付きまとって来ないで下さい!」


マリウスはドリスの絡みついてくる手を振り払うと、校舎へ向かって歩いて行く。

それを必死で追うドリスの姿が遠ざかっていく。

・・・。

何だろう?ひょっとして・・・あの2人、すごくお似合いなんじゃないの?!やはりマリウスにはああいった押しの強い女性が合っているように思う。うん、2人の将来をお祝いしてあげよう。


はっ!そ、それよりソフィーは・・・・?

慌てて男子寮に視線を移すが、そこにはもうソフィーの姿は消えていた。

あ・・・。しまった、やってしまった。

マリウス達に気を取られていたからソフィーを見過ごしてしまった。

・・・気になる。一体ソフィーはあそこで誰を待っていたのだろうか・・。

いつの間にか校舎から出て来る男子学生達の姿もまばらになってきた。

恐らくマシューも校舎へ向かってしまっただろう。

私は溜息をつくと、植え込みの中から這い出してきて・・・。


「う、うわ?!ジェ、ジェシカ?!こんな所で何をしていたの?!」


上から声が降ってきて、思わず見上げると・・・そこに偶然立っていたのはマシューであった。


「マ・・マシュー。良かった・・貴方に会えて・・。もう校舎に向かってしまったと思ったから。」


「え?ジェシカ。ひょっとして俺を待つためにこの中に隠れていたの?」


マシューは驚いた様に植え込みを指さして言った。


「うん、そうよ。だって・・・他の人達にマシューを待っている事がバレたら騒ぎになるでしょう?だから・・・。」

私はキョロキョロ辺りを見渡した。よし、誰もいない!


「マシュー!私と一緒に来て!」


「え?」

マシューの手を握り締めると私は全速力?で今は使われていない旧校舎へと向かった。



「マシュー、大事な話があるの?聞いてくれる?」

私は壁際に追い詰めたマシューを見上げると言った。


「あ、ああ・・。わ、分かったよ。」


私の迫力に押されたかのように上ずった声で返事をするマシュー。


「私ね・・・ついに『門の鍵』を手に入れたの。」

言うと、肩から下げていた鞄からハンカチにくるんでおいた2本の鍵を取り出した。


「!こ、これは・・・?」


珍しくマシューが驚いた表情を見せた。


「そう、私ね・・・魔法は全然使えないけど、何故か眠っている間に強く念じた物を作る事が出来る力を持っていたみたいなの。昨夜、必死で門の鍵が欲しいって祈りながら寝たら、この鍵が現れたのよ!それにね、私予知夢を見る事もあるの。その時見た鍵と同じなんだから!」


興奮を抑えきれず、さらにマシューにグイッと身体を近付けるようにして鍵を見せる。

「・・・。」

マシューの顔が赤らんでいる。あ、近寄り過ぎたかもしれない・・・。

さり気なくマシューから距離を置くと言った。


「だから・・・ね?マシュー。貴方にお願いがあるの。今度マシューが門番をする時に・・・どうかお願い!私に狭間の世界の鍵を開けさせて下さい!!」

パンッと手を合わせると、私はマシューに深々と頭を下げる。


「え・・ええ~っ!そ、そんな無茶言うなよ。大体、どちらの鍵が狭間の世界の鍵が分かってるの?」


「勿論!」

多分ね・・・。


「お願い!貴方の言う事、何でも聞くから!」

再び私は頭を下げた。


「ふ~ん・・・何でも・・・ねえ。」


マシューは何処か考え込むように言った。


「本当に何でも言う事聞いてくれるの?」


マシューは私の目を覗き込むように言った。


「え?ええ・・・まあ・・。私にできる範囲内だったら・・・。」


「それじゃ、今度の休暇の日は俺とデートして貰おうかな?」


「え・・?デート?」


「そう、デート。これ位のお願いなら簡単でしょう?」


マシューは楽しそうに私にウィンクすると言った―。


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