92nd SNOW 父として、恋人として
この回は氷華と月久の対談回。
父としての葛藤の姿を見る貴重な回です。
土曜日、氷華は単身で京都に赴いていた。
その理由は、というと。
(……月久さんからも話を聞かないと……実情が見えてこない……危険だけど、やるしかないんだよな……)
そう、晴夜の父・月久に会うためであった。
そのためにわざわざ変装をしてまで、京都まで足を運んでいたのである。
家の場所は晴夜に教えてもらっていたので、マップを見ながら歩を進めていく。
(ホントはゆっくり観光したかったんだけど……そんな暇じゃないしな、今は……問題は月久さんが私のことをどう思ってるか……そこに全部懸かってる……)
そして到着したのが陽陰邸。
和風なのはさることながら、流石陰陽師の名家だ、敷地面積も雪子の邸宅ほどではないにしろ、かなり大きい。
氷華に一気に緊張が走る。
フゥ……と氷華は一つ深呼吸をし、心を整えてインターホンを押した。
扉が開けられると、そこには執事の月岡が。
「……どうも、東京から来ました、雪宮氷華です。月久さんからお話を聞きたくて……訪れました。」
「ほう、貴方様が……坊ちゃんから聴いていた通りのお美しさで……それで……旦那様と御対談を、とのことですか?」
「お忙しいのは承知の上です。お話を聞かないと……今回の件の真相が判らないものですから……」
「かしこまりました……それでは、旦那様をお呼びしますので、お待ちくださいませ。」
「はい、お邪魔いたします。」
氷華は月岡に連れられ、リビングへと上がり、ソファに腰掛けて月久が降りてくるのを待った。
3分後。
月久がリビングに現れた。
氷華は立ち上がり、一礼する。
「君が……雪宮氷華、だね? 息子が世話になっているよ。」
「いえ……こちらこそです。」
柔らかい顔をしていた月久だが、カリスマというべきか、威圧感が凄まじかった。
氷華も緊張しっぱなしである。
「……まあ、固いことはいいじゃないか。座りなさい。」
「あ、ありがとうございます……」
2人は向かい合わせに座り、対談が始まった。
話題は月久から切り出された。
佐久間のことについてだった。
晴夜から聞いた話だと、親友同士で生前は交友もあったということで、月久から話された話は相変わらずの変人エピソードばかりで、氷華は懐かしく感じていた。
「光圀は……人見知りが激しかった私に対しても分け隔てなく話していたヤツでな……それこそ兄のいなかった私にとっては実の兄のように感じていたんだ……変わった男だったが、自分の信念を持っていた。だから……朔間家を追い出された時は凄く驚いたし、心配ですぐに連絡を取ったほどだ……光圀はあんな家に居る意味は消え失せた、なんて言って……笑い飛ばしていたがな……」
「何故……追い出されたか分かりますか? 陰陽師の家を追い出されるなんてよっぽどの事が無いと……」
「……19年前の……『雪陰大戦』にアイツは不参加と反対を真正面から訴えてな……『双方利益が無い』、ただそれだけの理由で、な……」
「そうだったんですか……先生らしいと言えば、らしいですけど……」
月久はここで緑茶を一つ飲む。
「今思えば……晴夜のことを光圀に頼んだことは運命の巡り合わせだったのかもな……君は……今も『Σ』に居るのだろう? 晴夜が君と付き合っていると知った時……アイツだけ大笑いしていた……晴夜はそう言ったんだが、間違い無いか?」
「……そうなんですよ……先生だけ大笑いしてて……でも今なら辻褄が合いますね、晴夜のことをよく知っていたと考えるなら……」
「……東京に大量に妖怪が出た時期があったろう? ……アレの原因は……馬仙院教が引き起こしたものだ。教祖が大量に使役した妖怪を……1年半掛けて暴れさせていた、それが原因で……そのことがあって京都支部から1人東京まで派遣して欲しい、と言われてな。それも、光圀からの要請で。」
「先生からの要請だったんですか!?」
「東京支部の層は薄い方だったんだ。だから親交のある晴夜を行かせた方がいい、と言って……アイツを行かせたんだ。それでアイツの勤めてる学校で面倒を見るという条件で転校をさせたんだ。……まさか君と会うとは思っていなかったんだがな。奇しくも雪女、ということだし……な。」
「本当にタダの偶然で……それが今の事態を引き起こすなんて夢にも思ってませんでした……」
「まったくだ……私もお館様が、あそこまで浅慮な御方とは思ってもいなかった。此度の戦の件は……雪子から聴いたろう?」
「ハイ……だから月久さんからも当時はどうだったのかをお伺いしたくて……」
「私も戦には参加した。だがそこで見たのは……清廉潔白だったはずの陰陽師どもが……ああも汚くなれるのか、そう感じた。下衆な本性を垣間見たのでな……そこからは力の弱かった穏健派を率いて何かあれば止めよう、そういう風にしていたんだが……晴夜を殺して雪女も滅ぼす、そういうムードが脊髄レベルまで浸透していてな、過激派の馬鹿どもがな……だから穏健派は穏健派で、従うフリをして静観しておけ、そういう風に今回は指示を出した。……お館様には『後ほど援軍として合流する』という風には伝えてある。」
「……やっぱり思うところはあったんですね……」
「それもそうだ、血の匂いと引き出される狂気を見て……何も感じない方がイカれている……それに、後から合流するとは言ったが……此度の大戦に参加する気は一切ない。」
「……と、仰いますと?」
「……周りは晴夜のことを『厄災』だの、『悪魔の子』だのというプロバガンダを流しているが……私は違う。それは父としての情もあるが……あの子は雪女と陰陽師を繋ぐ『架け橋』だと思っている。それに選ばれたのが氷華、君だったということだ。それに……雪子の想いを無碍にはできない。アイツは本気で晴夜の将来を心配していた。だからアイツに晴夜を匿ってくれ、そう頼んだんだ。」
「架け橋……」
「正直言って、今の陰陽師は『解体』されるべきだと思っている……私が再興すると同時に、もう同じことを繰り返してはならないと固く誓う。だから此度の戦で雪女が勝てば、だが……」
氷華は固唾を飲む。
月久はお茶を飲み、こう言った。
「晴夜と君との婚約を認めたいと思っている。そして……もし2人の間に男の子が生まれたとしても、『特例』で別れることのないように取り決めをしたいと思っているんだ。」
「こ……!! ここここ、婚約……ですか!?」
氷華は紅潮すると同時に、嬉しさも湧き上がった。
しかも絶対に別れないように調整する、とのことだ、これほどありがたいことはない。
何せお互い、狂おしいほどに愛しているのだから。
「君の晴夜を想う気持ちは本物だと思っているからな……晴夜が心配じゃなければ、わざわざ私の元に赴いたりはしないだろう? 私に話さなくても分かるさ。」
「そ、それは……晴夜のお陰で今の私がありますから……!!」
「……だから君に情報を教えておく。……おそらくは雪子の家に匿う、というのは向こうも読んでいるはず、そして大戦の開戦が予定されているのが12月23日……別動隊を出動させて晴夜を暗殺する手筈だ。それを迎え撃て。そして……もう一つ、情報を与えておく。これは君の所属している組織に関係があることだ。これは東京に戻ったら絶対にやってくれ。」
「と、言いますと?」
「……実はな、『Σ』は陰陽師の支援を金銭面で受けている。だから……北川くん、だったか? 隊長に進言をしてくれ。雪女側に着くように、な。事情も全て説明した上で。」
「……分かりました……」
「この件は君がどう動くかに全てが懸かっているからな。九尾の狐を晴夜に化けさせて登校させているだろう? アレは君が機転を効かせたのだろうが……アレは大正解だ。結果的にだが、別動隊を上手いこと撹乱させることができている。」
氷華は目を丸くした。
結果的に上手くいっていたのか、と。
「今回のことは雪子に伝えてくれ。流石にこの対談はバレないだろうから……早めに帰った方が賢明だろう。」
「ハイ! ありがとうございました!!」
氷華は立ち上がって一礼し、陽陰邸を後にしたのであった。
帰る前に腹ごしらえをしようとし、コンビニで買い物を終えた直後だった。
ここで意外な人物が氷華に声を掛けた。
朝日奈夕哉だった。
「自分……もしかして……雪宮氷華かいな!?」
「え、え?? ど、どちら様で……??」
突然のことに氷華は困惑したが、夕哉に悪気はない。
「晴夜の……京都時代の親友と言ったら分かるか? ワイは朝日奈夕哉。見てくれはアレやが陰陽師や。」
「せ、晴夜の??」
「……悪いようにはせえへんから……ちと話さんか? ワイも今回の件に想うところはあるからな……」
氷華は状況は飲み込めないにしろ、夕哉にしばし付き合うことにしたのであった。
次回はそこまで長くはやりませんけど、第一部は人間的な葛藤を晴夜に繋がっている人物間で書きたいなという風に思いますので、よろしくお願いします。




