82nd SNOW ブチギレ雪女の恐怖
この回、氷華が遂にキレます。
最初は晴夜と桃悦の殴り合いからスタート。
長身の晴夜と、男子としては小柄な桃悦が殴り合った。
お互いに妖術や結界術は何も使わずに、だ。
しかしスピードに勝る桃悦が次第に有利になっていく。
「……まだまだ……!!」
「ホントしぶといね、陽陰晴夜……そこまでして雪宮さんを守りたいかい?」
「愚問だ、桃悦……!! 君みたいに誰よりも弱い人間じゃ……ないからね!!」
「……聞いた僕がバカだったよ……」
晴夜の問いに呆れた桃悦は、晴夜の腹にミドルキックを放った。
晴夜がバックステップでこれを避けると、桃悦は大きく踏み込んで右オーバーブローを放つ。
だが、晴夜もただでは終わらなかった。
左足軸に右回転し、右踵中段蹴りを放った。
相打ちとなったが、晴夜の方がカウンターを取っており、生身の肉体のダメージは桃悦の方が上だった。
「クッ……やるね。」
「『陽陰』の跡取りを……舐めるな……!!」
意地と意地のぶつかり合い、それが2人の間を交錯させていたのだった。
その頃、彼岸の世界の氷華は、というと。
三途の川に映る晴夜と桃悦の殴り合いを見ていた。
「晴夜……!! なんで……」
「……貴女のためよ、氷華さん。彼は……貴女を守るために、命を賭けてる。」
「そんな……!! じゃあ……!!」
「このままだと彼は二度と立ち上がれない。そこまで行ってしまうわ。だから……貴女の意識を現世に戻す。」
氷華と雪羽達の間を分断していた結界が晴れる。
しかし、氷華は尚も躊躇っている。
ここで怜緒樹が背中を言葉で押した。
「氷華……アンタならやれるよ。本気でキレた時の氷華が……とんでもなく感情的になるってのはアタシもよく知ってる。それは雪女の邪眼に活きてくるはずだ。それにもう……掴んでんだろ? 桃悦の変則性も。」
「……大丈夫です……もう……負けません!!」
「氷華さん……行ってきなさい。もう時間がないから先に言っておくわ。雪女の未来のために……それを狂わせた元凶を倒してきて。それだけよ。」
雪羽のこの言葉に佐久間も頷いている。
「大丈夫……勝ってくる!!」
意を漸く決した氷華は、三途の川へと飛び込んで現世に意識を戻したのだった。
「う……うう……ん……今、どうなって……」
意識を取り戻した氷華は身体を起こした。
しかし、それと同時に痛覚が甦る。
腹に鈍痛が襲いかかってきた。
と、氷華はここであることに気付いた。
自分の周囲だけ冷たいことを。
ふと自分の身体を見ると、右脚に何やら札が貼られているのが分かった。
それが出来るのは1人だけ……氷華は一瞬で察知した。
桃悦との戦いの最中で、晴夜が「氷点の露空」を発動していたことを。
(そうか……晴夜、私が戻ってくるのを信じてて……)
そう思うと、氷華は自らに腹が立ってきた。
奥歯をギュウッ、と力一杯噛み締める。
(晴夜が戦ってるんだ……!! 私も行かないと……晴夜の苦労が報われない!!)
そして同時に思い出していた。
2年前に、桃悦にかけた言葉を。
その頃、晴夜と桃悦は。
遂に晴夜が膝を突いた。
ダメージが溜まりすぎていたようだった。
それもそのはず、桃悦に殴られたのは389発。
ここまで倒れなかったのが不思議なくらいだ。
「ったく……梃子摺らせやがって……君の生命力はゴキブリみたいにしぶといねぇ……まだ僕を睨むか……」
と、ここで氷華が晴夜の後ろに現れた。
「……氷華……もう、いいのかい……??」
「……ゴメン、晴夜……私はもう大丈夫。それに……」
晴夜が氷華の顔を見上げた時に寒気がした。
怖気という意味で。
「……私、今……こんなにキレてることないからね……」
氷華を纏っていたのは静かなる怒り。
その証拠に、亜熱帯の沖縄に冷気が異常なまでに氷華の周囲を渦巻いているのだから。
恐ろしいと同時に、味方ならこれほど頼もしいものはない。
晴夜はゆっくり立ち上がり、氷華の側を離れた。
桃悦も野生の本能で五歩後ろに距離を取った。
「……氷華……あとは頼むよ……」
「任せて。」
氷華は邪眼を解放した。
これで決着を着ける、という気で。
「……どうやら……君を倒さないとダメなようだね。雪宮さん……」
「……貴方がこうなったのは私の責任でもある……『何もない人の方が……どんな人間にでもなれる』って2年前の時に私は貴方にそう言った……。それが『簒奪者』、『邪教の教祖』っていう悪い方向に向かった……それを止めるのが私の責務だ!!」
「ハハハ……やってみなよ!! この僕を止められるとでも!?」
桃悦の煽りに、氷華は閻魔眼を解放した。
「絶対に石田くん……貴方を止めてみせる!! 創造系奥義……『霊装結界』壱ノ型……『氷柱錦』……!!」
氷華の周囲が冷気の繭で覆われた。
氷華の身体を白装束が纏われ、髪は空にオーロラが懸かるかの様な虹色に染まった。
紅と蒼のオッドアイになった氷華は、神々しく見えていた。
「……ここから全力で行かせてもらうよ……石田くん……」
「素晴らしい……素晴らしいぞっ!!! これが僕の求めていた力だ!!! 奪いがいがある!!」
桃悦はイフリートを解放し、巨大な火球を作り出した。
氷華も負けじと巨大な冷気の球を作り出す。
「雪女魔導結界奥義……『凍獄の世界』!!!」
「簒奪術イフリート……『灼炎の世界』!!!」
2人の超火力が、沖縄のビーチでぶつかった。
巨大な球同士が弾け飛び、半径3キロ圏内まで響くであろう大爆発を引き起こした。
これを聞いた文香、北川、冬菜の3人はほぼ同時に目を覚ました。
「オイ……何が起きた!?」
「わ……わからないです、わからないんですけど……!! 多分、氷華ちゃんと桃悦の戦いかと!!」
「オイオイ……なんだ、氷華のあの姿は……!! 見たことねえぞ……!?」
「わ、分かんないですよ、氷華さんのあの姿は……!! 少なくとも私じゃ無理です……!!」
3人は呆気に取られていたが、援護をする理由が見当たらず、静観することにしたのだった。
一番近くで見ていた晴夜は、というと。
(凄い……これなら桃悦にも勝てるんじゃないか……!? けどこの形態は5分しか保たない……それまでに決着を着けてくれないとマズイ……!!)
対桃悦勝利の一縷の望みが見えてきていたが、それも5分の制限時間内で、だ。
間に合うかどうかは氷華次第だった。
晴夜も座って静観することにしたのだが、いても立っていられなかったのが約1名。
晴夜の札の中にいた天狐だった。
(晴夜……!! 氷華を援護したい!! ここから出して!!)
(天狐! まだ早い!! もう少し様子見てからじゃないと危険すぎる!!)
必死に晴夜は、天狐を諫めていたのだった。
「まだまだ、本気じゃないだろう? 雪宮さん!! もっと僕を楽しませろ!!」
「当たり前よ……ここから更に……第二段階、『黒薔薇』解放!!」
桃悦と氷華の超限戦が、始まりを告げたのであった。
次回は閻魔眼を使った氷華が特訓の成果を見せます。
これが逆転の一手になるかはお楽しみくださいませ。




