72nd SNOW 強くなるために
この回から新章でござる。
第六章は迫力ある大激闘が繰り広げられます。
今回は特訓ですね、端的に言えば。
あと、最後でちょっと、まさかのそうなるパターンぶっ込みますwwww
氷華は直談判した。
雪子に「閻魔眼」を教えて欲しいと。
雪子は氷華に理由を問いただした。
「ほう……? 氷華よ、それは何故じゃ?」
氷華はグッと拳を握りしめ、問いに答える。
「……今回……雪羽ちゃんだけじゃなくて……私の所属している部隊の仲間まで失いまして……その時に実感しました。……『馬仙院教』教祖……『羅生門桃悦』には今のままでは勝てないと。だからみんなを守るために……私がもっと強くなればいい、そう思って馳せ参じました。」
「……そうか……」
雪子は立ち上がり、こう告げる。
「着いてまいれ、氷華よ。」
「はい。」
雪子が氷華を連れてやってきた先は、畳が10畳ほど敷かれている部屋だった。
「……ここは?」
「訓練場じゃ。どうせやるなら、人の通りの少ない場所でやる方が良かろう?」
そして雪子は、側にいた侍女に指示を出し、何やら白いマネキンを持ってこさせた。
「お主にはこれを閻魔眼を使って破壊してもらう。じゃが、お主はまだ……解放しておらん。じゃからその『戒言』を授ける。これはワシら名家の雪女以外は知らん。霜乃以外では氷華、お主が初めてじゃ。」
「名家の人間、ってことは……!! 雪羽ちゃんが使えたのって……!!」
「そういうことじゃ。……まあ時間もそこまで取れるわけではないからの。手っ取り早く、『戒言』を授けるぞ。」
といい、雪子は手を指を間に挟むように前に組み、目を閉じる。
「地獄の主、閻魔大王よ……我の感情を贄とし、我に力を与えたまえ……」
雪子が目を開くと目が青くなっていた。
「……このように、コレが『鍵』になる。これは門外不出なんじゃ、本来は、な。じゃから知らぬのは無理はなかろう。……そこからあの人形に向かって術を撃ちだすと……」
と、雪子は右手を前に突き出し、小さな冷気の弾を撃ち出した。
着弾したと同時に、マネキンが粉々に砕け散った。
「す……凄い……あんな小さい力だけで……」
「……まあこれが今のところ出来るのはワシしかおらんのじゃが……雪女の力を引き出す、という上ではこの眼は是非とも持っておきたいものなんじゃ。」
これがあれば桃悦とも十分戦える……! 氷華はそう思い、グッと拳を握り、軽くガッツポーズを取った。
が、現実はそうは問屋を下さなかった。
「これは本来は……習得までに最低数ヶ月はかけなくてはいけないものなのじゃが……もう時間もないのでな……生半可な気持ちでは習得は出来ん。もう数週間しかないからの。氷華は特に。」
「……簡単ではないのは承知しております……! ですが……!! それでもやらなければいけないんです!!」
氷華もそこは重々わかっている、といった目で雪子に訴えかけた。
真剣そのものだった。
その目を見た雪子は、薄く笑った。
「良かろう……お主は『鍵』の解放と同時に……感情を一個、捨てなければいけぬな。何せ急ピッチで完成に持っていきたいのじゃろう? ならばそれをするしかない。」
「感情を……一つ……」
「そうでもしなければ、桃悦には勝てぬであろう?? ワシが戦うわけではないからの。ワシはただ、手を貸すだけに過ぎぬ。その覚悟はあるか? 氷華よ。」
「……分かりました……では……『敵に対する容赦する心』を捨てさせてください!!」
「フッ……良かろう、では、雪女の因子に眠っている閻魔大王に語りかけるが良い。……ああ、邪眼を解放させることも忘れるなよ。」
氷華は頷き、目を閉じて指と指を重ね合わせた。
「地獄の主、閻魔大王よ……我の感情を贄とし、我に力を与えたまえ……!!」
氷華は精神世界に来ていた。
どこか暗い闇の中だった。
「ここは……?」
氷華は迷い込んだように辺りを見渡す。
「……これが閻魔眼の世界……?」
と、そこに、謎の声が聞こえた。
男の野太い声だった。
【よく来たな……うら若き小娘よ………】
背後から聞こえる。
氷華はハッとして後ろをバッと振り向いた。
【ここは「下賜の間」……蒼き目を与える場だ。小娘よ、貴様は何のためにここに来た。】
氷華の答えはただ一つだった。
「仲間を失って……友を自分の手で殺めて……私は“弱い”のだと実感しました。だからこそ……あの男……羅生門桃悦を倒すのと、仲間を守るために強くなりたいんです!! だからここに来ました!!」
閻魔は椅子に座り、頬に手を突いて語りかける。
【お主の願いは分かった。……が、それには数ヶ月かかるぞ。その覚悟はあるか?】
「ええ。勿論です。ですが閻魔様……! お願いがあります!!」
【……ほう? なんだ、申せ。】
「私の……!! 感情の一つ、『敵に対する容赦という感情』を貴方に差し出します!!」
【………ふむ……初期の段階、それも習得の段階でそれを棄てるか……! 面白き小娘じゃ。……良かろう! 今からワシがそれを抜き取る!! それで習得も早くなるであろう!!】
ここで氷華の精神世界は途切れ、意識が現実へと戻っていった。
目を開けた氷華。
効果は既に表れていた。
「これは………」
氷華が自分の湧き上がってくる妖力に自分自身が戸惑っていた様子だった。
「ホウ……霜乃の初期より濃いのお……やはり感情を一つ捧げたからかのう……」
雪子は想像以上の出来に、目を丸くしていた。
「今なら……御当主様とも張り合えそうですね……!!」
意気揚々としていた氷華だったが、雪子は笑いながら釘を刺した。
「ハッハッハッ、図に乗るでない、氷華よ。では氷華よ。お主は『創造系』が得意じゃろう? その状態で剣を生成し、あの藁人形を時間まで斬り捨てよ。それで修練度は上がる。」
「ハイ!!」
氷華は今までより質の良い剣の生成に感動を覚えながらも、頭は敵を想定した動きだったので、冷静そのものだった。
まるでシュミレーションゲームのように、次々と床から飛び出てくる藁人形を制限時間30分一杯を使って氷華は悉く斬り捨てていったのだった。
タイムアップ後、氷華は暫く虚無感に陥った。
なるほど、これが閻魔眼の代償か……氷華は効力と代償を自らの身体で体現したことで、雪子の邸宅を後にたのだった。
翌日。
新しい化学教師が来る、ということで教室は話題になっていた。
なんとも、背が割と高い褐色美女、とのことらしい。
化学の授業になり、氷華のクラスにその教師が来たのだが、それは氷華もよく知る人物だった。
肌が黒いストレートの髪をした女性は頭をペコっと下げて、自らの名前を黒板に書き出した。
(………え………?? 冗談……でしょ……??)
氷華の表情は固まっていた。
それもそうだ、夢だと見紛う程の出来事なのだから。
黒板に名前を書き終わったあと、その女教師は全員の方を振り返った。
「今日から化学を担当します、『氷柱山冷奈』、と申します。以後よろしくお願いします。」
まさかの冷奈が、新任の化学教師として、この「多摩東陵高校」に赴任しているという事実がそこにはあった。
(なんで冷奈さんがここにいるのーーーーーーーーーーーーーーー!?!?!?!?!?)
……氷華は事実を、現実を理解しきれずに卒倒しそうだったが、氷華を除く全員が拍手で冷奈を迎えていたのだった。
細かなカタルシスは書いたつもりなんですが、如何でしたでしょうか。
冷奈さんはちゃんと、教員採用試験及び面接に合格して「新任教師」として赴任しています。
大学時代に教員免許を取得してるんですよ、実は。
勿論、今回の修学旅行も「2年5組の副担任」として同行します。
冷奈さんは氷華や晴夜を今回サポートする立場に回りますんで、次回は情報共有の回になります。
桃悦の外道っぷりと、熱戦を第六章は書きたいと思いますので、これからもよろしくお願いします。




