71st SNOW 佐久間光圀、最期の術
この回で蝿崎との戦いは決着です。
本当ならもうちょっと長くても良かったな、という思いはありましたね、蝿崎はマジで強敵だったんで。
氷華とは相性が最悪でしたしね、蝿崎は。
ただ、蝿崎は牛鬼と比べたら打たれ弱いところがあったので、短めになっちゃいましたね、想定より。
そこは僕の……早く沖縄で氷華と晴夜をイチャイチャさせたいんじゃ!! ……っていう焦りからでしょうね(笑笑)
ともかく衝撃の展開で締めたいと思うので、蝿崎戦、最後までお付き合いください。
佐久間が吐血し、氷華の悲鳴が遠くから聴こえる。
蝿崎の右拳は、佐久間の腹を貫通していた。
「口ほどにもないな、陰陽師の教師。……貴様は内側から腐り、もうじきに死ぬ。」
蝿崎は、次は氷華だと言わんばかりに右拳を佐久間の腹から引き抜こうとした。
が、動かない。
しかも凄い力で腕が握られているのが分かる。
「なっ……貴様、何処からそんな力が……!?」
蝿崎が驚きを隠せないのも無理はない、何せ死にかけの筈の佐久間の左手が、蝿崎の右腕を握り潰しているのだから。
しかも「分離」が出来ない。
佐久間は右の口角を上げた。
「……どうもこうも……最期の……力さ……死ぬ間際の生物というのは……強大なパワーを発揮するものさ……君は……僕たちには勝てないよ……何故なら……君の弱点は……その傲慢さなのだから。」
普段飄々としている佐久間の目には、熱いエネルギーのようなものが放出されていた。
「クソッ……何故だ! 何故術が使えない!!」
「簡単な話だよ……君の術の特性を……僕は見抜いていたさ……戦っている最中に、ね……腐食を遅らせ、君の術の発動をも遅らせる術を……僕は札と札を組み合わせて、それがついさっき完成した。……一か八かだったけど、君の目を欺き、君を倒すには十分だったようだねぇ……!」
「貴様ァ……!! よくもこの俺をコケにしてくれたな……!! 脳味噌から腐らせてやる……!!」
蝿崎は、渾身の力を込めて、左手に蝿の妖力を集める。
「フッ……無駄だよ、蝿崎。言っただろう……? 君は負けるって。」
佐久間は右手を頸に寄せ、人差し指と中指で貼っていた札を挟んで取り、頭上に掲げた。
「僕はここで朽ちるのは自分でも分かるさ……だけど……君も冥土へと送ってあげるよ……!!」
そして佐久間は、札を蝿崎の右腕へと振り下ろした。
「封印術拘束式……『滅魔封頼廠』!!!」
貼られた札から蝿崎の全身を巡って電流が迸った。
「グァァァァァァァァァ!!!」(なんだ……!? 身体が動かない!! 術も使えない……!!! マズイ……このままだと……!!)
この技は、佐久間が「対刻印者」専用に密かに開発していた術で、中にいる妖魔を拘束する技で、対象者の動きを止める技であり、怜緒樹に対して実験を重ねて完成に至った技で、佐久間の切り札だった。
(ああ……走馬灯が見えてきたな……でもいいんだ、僕の最期の術だから……あとは雪宮さんに任せるとしようか……)
ただ、効力が5分しか保たないので、一時的にしか妖魔を拘束できない。
だが、氷華にはそれで十分だった。
「時間がない! 行け! 雪宮さん!!」
佐久間が決死の大声を張り、氷華にトドメを刺すように促した。
(……分かってる……!! 佐久間先生の覚悟……!! 絶対に無駄にしない!!)
氷華はいの一番で「黒薔薇」を解放し、天叢雲剣と共に蝿崎に突撃していった。
「!?」
一瞬で間合いを詰めた氷華に、驚きを隠せなかった蝿崎。
しかし、身体が動かない。
(早く……動け……!!)
想いは裏腹に、ピクリとも動かない蝿崎の身体。
氷華にとっては格好の「的」だった。
「貴方は……!!」
そう叫び、蝿崎の右腕を斬り落とし、そして。
「絶対に許さない!!!!」
左斜め下から右斜め上へ天叢雲剣を振り上げ、蝿崎の身体を深々と斬ったのだった。
蝿崎は吐血しながら仰向けになって倒れ伏せたのだった。
それと同時に、佐久間も力尽きたのか、尻餅を突いて仰向けに倒れた。
《朔間光圀……何故雪女との戦争に加担しなかった?》
《お館様……御言葉ですが、此度の戦は……陰陽師、雪女の双方に無益な戦である、そう思ったまででございます。》
《貴様は名家・「朔間家」の名を汚した。私の命は絶対だ。依って、その不文律を犯したとして……貴様を陰陽師一門から追放する。》
《御勝手にどうぞ。私を追放しても、私自身には痛くも痒くもございませんので……ただ……此度の戦で幾ら陰陽師側に有利な条件で結ばされた条約だったとしても……お館様はいずれ破滅しますよ。》
佐久間は走馬灯を見ていた。
過去の、それも19年前のことだった。
「お館様」と呼ばれる人物に命令違反で追放される時が、走馬灯として蘇っていたのだった。
(ああ……もうそろそろ、か……もう少し生きていたかった、けれど……若い命に後は託すとしようか……)
走馬灯を見終えた時、声が聞こえてきた。
佐久間を呼ぶ声だ。
「……せい……! 先生!! しっかりしてください!! 先生はまだ……!! 生きていなくちゃいけないんです……!!」
氷華が涙ながらに佐久間を呼んで叫んでいた。
「ハハ……僕も……愛されたものだね……誰かに看取られて死ねる、っていうのは……」
「そんなこと仰らないでくださいよ……!! 文香さんの車は!? 何処に停めてますか!?」
「……駐車場にいるよ……垢里くんは……それに……自分の死期くらい分かるさ……身体が腐っていく感覚がするよ……だから……君に伝えておく……遺言だ。」
氷華が蝿崎の方に一瞬目をやると、蝿崎の身体が動いているのがわかった。
なんでまだ生きているの……!? 歯を食いしばり、蝿崎から逃げるように、氷華は佐久間を抱えて文香の車へと一目散に駆け出していった。
「……君は……陰陽師と雪女を繋ぐ『橋』だ……だから雪宮さん、君は……晴夜と別れちゃあいけない………もし別れてしまったら……そうなればまた禍根を残すだろう……その2つのものの間に、ね。……だから晴夜を意地でも守り通せ……おそらくもうそろそろで……畝りが来る。それを乗り越えろ……!!」
佐久間は何かを予期しているかのように、氷華に告げた。
晴夜と別れてはいけない、そしてもうじきに「畝り」が来る。
「先生……!! 私が晴夜と別れちゃいけないのは分かりましたけど……!! どういう事なんですか……!?」
「……もうそろそろで……わかる、よ………真実……が……」
佐久間の力が抜ける。
氷華は文香の車のドアを叩き、乗せるよう頼んだ。
文香は車の鍵を開け、氷華と佐久間の2人を乗せ、雪美が勤務している総合病院へと急行していったのだった。
「クソッ………この俺が……!! 負けるなど……!!」
身体を思うように動かせない蝿崎は、身体を起こそうとし、氷華達を追おうとした。
と、そこに、黒いローブを身に包んだやや小柄な男が蝿崎の前に姿を見せた。
「あまりにも遅いから探してみたら……このザマとはね、蝿崎。」
「きょ……教祖様……申し訳ありません、雪宮氷華に不覚を執りました……」
桃悦だった。
桃悦はフード越しから狂気的な笑みを浮かべて蝿崎を見下ろしていた。
そして右手を翳す。
「……君はもう助からない。だからこの先は僕1人でやるよ。……君の力を糧にして、ね。」
「なっ………!!! まさか……!!!」
桃悦の右手に光が集約される。
それと同時にベルゼブブが粒子状となって桃悦の右手に吸い込まれていった。
「やめろ……やめてくれ……!!!」
桃悦は笑みを絶やさない。
蝿崎はベルゼブブが離れないよう抵抗するが、ボロボロの身体では抗う力は残っていなかった。
「さあ、『ベルゼブブ』よ……僕の元に来い!!」
吸引力が一層強くなる。
「刻印者」の肉体と妖魔は一心同体。
肉体自体が死んでも妖魔は生き残るが、体内の妖魔が死ねば、肉体も死ぬ。(佐久間のように、妖怪の血だけならその同調デメリットは発生しない。)
そういうリスクを「契約」で孕んでいる。
それは蝿崎も例外ではなかった。
「ヤメロぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
蝿崎の断末魔の叫びが公園中に響き渡った。
ベルゼブブは桃悦の身体に吸収され、蝿崎は息絶えたのだった。
そして蝿崎の死体は、桃悦が発動したベルゼブブの術に依って、跡形もなく、骨も残さず消え失せた。
「蝿崎を倒した、か……ハハハ、面白くなってきた……!!! ますます君が欲しくなったよ、雪宮さん……!!! ハーッハッハッハッ!!!」
夜に傾きかけた頃に、桃悦の高らかな笑いが公園内に響いたのであった……。
「そんな……」
「残念だけど………彼はもう死んでるわ。」
夜間病棟で対応していた雹崎雪美は、佐久間の身体を見て、そう氷華に告げた。
雪美の職業は、本来は脳神経外科医であり、まだ医者歴2年目の若さではあるのだが、「天才」と称されるほどの手術の技術を持っている。
彼女も「新世代10傑」の1人であり、最年長でもある。
その雪美が佐久間の息はもうない、と言っているのだ。
氷華と文香は、その事実に打ちひしがれた。
「……氷華、そんなに落ち込むことはないよ。この人は責められない。……死力を尽くして戦った結果死んでしまった、それだけよ。寧ろそんな勇敢な人と一緒に戦えたんだもの、自分を誇りなさい。それで……この結果を受け止めて乗り越えなさいよ。」
「……ありがとう……ございます……」
「あと……どうすんの? 流石に遺体は病院では処理し切れないわよ?」
この雪美の問いに文香が答えた。
「……Σには警察関係者がいるんで……学校に連絡して、葬儀は私たちで行います。」
「……そう。じゃあ安置所に置いておくわ。」
「お気遣い、ありがとうございます。」
雪美と別れ、2人は本部へ戻り、北川に蝿崎の件と佐久間の死を伝えたのだった。
翌日、佐久間の死に対して、黙祷が教室内で捧げられた。
その日の化学の授業は自習になった。
授業後、氷華は横浜の雪子の邸宅へと訪れた。
「おお氷華、なんじゃよく来たの。ワシに何か用か?」
「御当主様……単刀直入に申し上げます……」
雪子が興味ありげに耳を傾ける。
「私に『閻魔眼』を教えてください!」
まー、章の最後らしく、内容濃く締めましたが、これでいいのかなーとは思いますねww
次回から第六章『沖縄決戦編』になります。
佐久間先生の走馬灯は、次々章で回収しますので、「伏線」として抑えてもらえれば大丈夫です。
次回は閻魔眼の特訓と、これまた面白い展開にしたいと思いますので、よろしくお願いします。




