69th SNOW 逆転の一手
完結のペースがだいぶ見えてきましたね、僕の中で。
この回も引き続き氷華VS蝿崎です。
(逆転の一手はある、けど……それをまだ使うわけにはいかない……どうにかして佐久間先生の援軍が来るまで耐えなきゃ……!)
氷華は天叢雲剣を抜かない。
あくまでどうしようもない時の最後の切り札だからだ。
佐久間さえ来ればチャンスは巡ってくるはず、今はただ、それに縋るしかなかった。
「……まだ抗うか、雪宮氷華。……いい加減に諦めろ。」
蝿崎は余裕綽々で蝿を飛ばしてくる。
氷華はそれを氷の弾丸で撃ち落としていく。
気が遠くなる作業。
だがそれでも氷華の目は死なない。
諦めていない。
蝿崎にはそれが理解できないままだった。
「いくら私が死のうとも……この身が朽ち果ててもアンタだけは倒す!!」
そうして氷華は大きく息を吸い込んだ。
(呼吸器と口の中で冷気を作り上げて……一気に放出する!!)
「雪女呼気術……『氷噴煙』!!!」
氷華が思い切り息を吐き出すと、蝿崎の放った蠅が一瞬にして凍りついた。
氷華は同時にドライアイスの剣を造り出し、凍らせた蝿を一気に斬り刻んでいく。
その時間、僅か5秒。
「『吹雪』!!」
細かく斬った氷を風に乗せて蝿崎に向かって解き放った。
流石の蝿崎も、この無数の氷は避けきれない。
身体を丸め、クロスアームブロックでこれを受け止めた。
この刹那、氷華は走り込んで切り込んでいく。
剣を左斜め下から振りかぶる。
「チェアァッ!!」
雄叫びを挙げながら蝿崎へ剣を振るう氷華。
「『分離』!」
蝿崎も間一髪、自身を蝿に変え、氷華の剣戟を避けた。
すかさず氷華は、左足で踏み切り、ムーンサルトキックを放った。
それも、氷で覆った右足で。
蝿崎の顎に浅くヒットした。
(やっぱり……! 『分離』は2回も使えない……! それだけ負担が大きいんだ……!!)
氷華は構うことなく剣をムーンサルトキックを放った後の体勢から横に振るう。
「『腐食の鎧』!」
一瞬で蝿の鎧を蝿崎は作り出し、氷華の剣を一瞬で腐食させてへし折った。
氷華は自身の手に蠅が行き渡る前に解除した。
蝿崎は距離を置いた。
「……まだこんなものを隠していたとはな……まさか俺が触られるとはな。」
「アンタの弱点は見抜いた……! あとは勝つだけだよ!」
そう言って、氷華は銃を二丁生成する。
銃のトリガーを引き、同時に弾丸を放つ。
氷で出来ているとはいえ、殺傷能力は通常の銃と遜色はない。
ドドン! ドドンッッッ!!! という音と共に、蝿崎の身体を撃ち抜いていった。
蝿崎も立ったまま凌いでいるだけだった。
氷華は尚も撃ち続ける。
しかし、蝿崎が急に踏み込んできた。
「『破壊の左』。」
蝿崎が一瞬で手刀を二度振るうと、銃が粉々に砕け散る。
そして蝿崎の通常のミドルキックが飛んできて、氷華の身体を吹き飛ばした。
「……俺の弱点を見抜いた、とか言ったな? 残念だったな。俺は蝿を生成出来る限り、幾らでも修復出来る。」
蝿崎の銃痕は跡形もなく、何事もなかったかのように消えていた。
蝿で再生させたのだ。
自ら食らったダメージを。
氷華は腹に加わった衝撃から辛くも立ち上がる。
が、蝿崎はすぐそこまで詰め寄ってきていた。
一瞬にして危機に陥った氷華なのだった。
一方、文香と佐久間はというと。
氷華のいるところまで車で走らせていた。
車の窓を開け、文香が長い舌先で妖気を探知している。
佐久間は助手席で、その報告を待っていた。
「……どうだい? 垢里くん。妖気の方は。」
「……近付いてるのは分かりますけど……何せ妖力が2種類……甘すぎるのと渋すぎるのが混在してまして……!」
バックミラー越しに見える文香の目は真剣そのもの。
その文香が舌先がカオス状態になっているほど、氷華と蝿崎の妖力は強烈すぎるくらいに強烈だった。
「……独特の表現だねえ、相変わらず。ま、君がそう言うなら間違いはないんだろうけどねえ……」
「この強さは私たちが束になってもキツいと思いますよ!? 蝿崎は!! なんで副隊長だけが援軍に……!?」
「……僕のことを、北川くんは最も良く熟知している。心配は要らないさ。僕にはとっておきの策があるから。」
「その『策』が破られたらどうするんですか!! ただでさえ氷華ちゃんが1人ではキツい相手だって言ってるのに……!!」
「大丈夫。あの術は小鳥遊くんで効力を試しているから。いくら『悪魔の刻印者』とはいえど、効果は発揮されるはずさ。元々……対刻印者のために作った術だからね。」
焦燥感が漂っている文香に対し、相変わらず飄々としている佐久間。
文香は内心で心配しながら車の速度を上げて、氷華がいる地点まで目指していったのだった。
場面は再び、氷華と蝿崎に戻る。
蝿崎は距離を詰めているが、何故か氷華に攻撃を仕掛けない。
氷華も一度邪眼を解き、様子を見ていた。
「言ったはずだ、お前では俺には勝てないと。……今からでも遅くはない。……雪宮氷華。俺たちの元へ来い。」
勧誘だったとはいえ、氷華はこの申し出を受けるわけにはいかない。
蝿崎を無言のまま、下から睨みつける。
(……石田君が私を狙っているのは承知済み……でも何故狙っているのかは分からない……確かに小中で一緒で……高校も同じだって話だ……蝿崎に聞いてみても損はない……)
腑が煮え繰り返る想いだったが、感情を押し殺して蝿崎に問いかける氷華。
「……なんで私を狙うの……? 貴方、『馬仙院教』のナンバーツーなら……何か知ってるんじゃないの?」
蝿崎は冷徹な表情を浮かべながら、こう答える。
「……俺が答える義理はない。何故なら俺も詳しいことは知らないからな。教祖様がお前のことを御所望だということしか分からない。」
氷華の頭に謎が深まるが、大体なら分かる。
氷華自体のことを欲していると、今なら断言できそうだった。
身も心も、何もかも。
「……聞くだけヤボだったよ……でも、だとしても……私はアンタたちに付き従う気はないよ。だって私には……守るべき人たちがいるから。」
そう言って、氷華は短剣を生成し、構えた。
薄笑いも浮かべている。
「……つまらぬ女だな。そのためだけに俺と対峙するのか。」
蝿崎は失望を通り越して逆に感心したような表情を浮かべた。
「……まあいい。終わらせる。どちらにせよ俺には勝てないのだからな。」
しかし、氷華は表情を、薄笑いを崩さない。
「それはどうかな? ……言っとくと、私は独りじゃないから。」
「はあ? 何を言って_________」
蝿崎が疑問の表情を浮かべた瞬間、まるで測ったかのように可視化出来る電流が飛んできた。
蝿崎は「分離」を使って間一髪避けたが、驚きの表情を隠しきれていなかった。
バックステップを使い、氷華から距離を取った。
「フム……『雷光一閃』を避けるとはね……大したものじゃないか、蝿崎。」
独特の喋り口調の、結界術使い____「Σ」副隊長・佐久間光圀が氷華の後ろに立っていた。
「待たせたね、雪宮さん。」
ゆったりとした歩みで佐久間は氷華に近づいていく。
「佐久間先生!! 来てくれたんですね!?」
「間に合ってよかったよ。さて……ここからは2対1だ……締めてかかるよ、雪宮さん。」
「ハイ!」
佐久間は札を構え、氷華は遂に天叢雲剣を背中に背負っていた鞘から引き抜いて構えた。
更に邪眼を再度解放し、ドライアイスの剣との二刀流のスタイルを取った。
「……援軍が何人来ようが、俺に勝つことは出来ん。今からそれを証明してやろう。」
蝿崎は右手から蝿の群れを作り出し、二人の攻撃に備えた。
ここから佐久間・氷華ペアと蝿崎との戦いが、熾烈なデットヒートを生むこととなるのだった。
佐久間先生到着。
ここから激アツの戦いになりますんで、渾身の電子筆で書きたいと思います。
次回また、お楽しみに。




