61st SNOW 「完璧」は何も生まない
僕の人生観を晴夜のセリフに乗せて代弁したいと思います。
晴夜自身がお人好しというのもありますが、厳しい環境で育てられたが故なんで、説得力はあると思います。
隣のブランコに腰掛けた晴夜は氷華の方を見る。
だが、氷華は顔を背けている。
「今朝からどうしたの? 疲れてそうな顔してたけどさ……」
「………」
氷華は晴夜の問いかけにも黙秘を貫いている。
雪羽を殺めた、なんてそんな簡単には言えないだろう。
「……思えば馬仙院教に……霰塚さんが幹部になった、って聞いてからおかしかったよね……? だから絶対何かあったよなー、って僕は思ってるんだけど。」
「………」
「……なんで黙る必要があるんだい? 僕らの関係だったらさ、話してみてもいいんじゃないか?」
「……ほっといてよ……」
どうしても言いたくない、と言わんばかりに晴夜を突き放そうとする氷華。
「ほっといてと言われてもさ……とにかく僕は氷華がなんで苦しんでいるかの理由を知りたいだけだから。」
「……なんで……!?」
声を少しばかり荒げる氷華。
だが、晴夜が一歩も引く気はなかった。
氷華は声を、悲痛な叫びと共に出した。
「なんでアンタはそうやってさ……!! 人の事情にズカズカと踏み込んでくるわけ……!? 私の事情なんてどうだっていいじゃん……!!!」
明らかに癇癪を起こしているようだった。
そうでもしなければ晴夜を氷華が雪羽を殺したという事実から遠ざけられないとでも思っているのだろうか。
だが、晴夜も一歩も引かないし、むしろその癇癪を受け流しているかのような態度だった。
「……君が心配だから。本心として。」
「なんで私の心配なんてするの……!? 大丈夫だって言ってんじゃん!!」
「僕個人のエゴかもしれない、だけど……僕は氷華の……苦しそうな顔を見たくない。それに、君には精神面が万全の状態で文化祭に臨んでほしいから。」
「……晴夜に何が分かるの……!? 大丈夫だって何回も言ってるのに……!!!」
氷華は泣いている。
口では大丈夫とはいっても、雪羽の件で苦しんでいるのは側にいる晴夜だけでなくても分かる。
「……やっぱり隊長が言ってた……霰塚さんが行方不明なのと、何か関係があるんだね。」
「え………???」
「潜伏してる人から情報が入ったんだって。霰塚家の人たち全員と、連絡が取れなくなったって。冬菜ちゃんのその件で言ってたことから推察するに、この件は雪女の一族とも関連しているんじゃないか、って僕は踏んでるけど? だから知ってるなら……話してもいいんじゃないか? 勿論誰にもこの事は言わない。隊律違反があったとしても、みんなそれを咎めたりはしない。今朝の事は僕がみんなに言ってるから分かってくれるよ。」
氷華がグッと、拳を握りしめる。
「……ホントに言わない……?」
「言わない。」
氷華の確認に晴夜は即答する。
「……絶対……?」
「僕の口からは言わない。だけど……みんなに話すなら氷華から話しなよ。」
渇いた心にこのように口を堅くしていてくれる晴夜。
こうなってしまっては、氷華も話さざるを得ない。
事の真実を。
「分かった………実は……」
氷華はこう切り出して、晴夜に昨日あった出来事の全てを涙ながらに話したのだった。
全てを知った晴夜は、唇を結ぶ。
原因が分かって一安心はしたのだが、雪女の当主も酷なことを氷華にさせるものだ……と考えると心が痛かった。
「……そっか……霰塚さんを……その手にかけたんだね……」
「……うん………だけど……本当は……雪羽ちゃんを救いたかった……私はただ……助けたかっただけだったのに……」
「……確かに人を殺してしまった、なんて言えるわけがない、か……それも単独で動いて霰塚さんを殺めた、だなんて……僕も氷華と同じ立場なら言えないと思う。……でもさ、それを含めて氷華なんじゃないかな?」
「……晴夜……?」
突然何を言い出すのか、という顔で氷華は晴夜の方を見る。
「……君は……当主様からの命令と、自分の気持ちとの鬩ぎ合いだったんだろうね。でも僕はさ、それで良かったんじゃないかな、って思うよ。」
「晴夜……」
「だってそうだろ? 人は誰しも、間違いはするものだし、取り返しのつかないことをすると思う。それに気付けるかどうかだよ、人生って。」
氷華は黙って晴夜の語ることを聴いていた。
完璧に近いと学内で評されている晴夜がそんな人間臭いことを言うなんて想像できなかったからだった。
「……僕は完璧な人なんていないと思うしさ、自分が絶対正しいんだっていうこともないと思う。……氷華の顔を見たら分かるよ、氷華にとってはさ、正しくない命令だったんだな、って。でもさ……やらないよりやる方がさ、一歩前に……進める物だと思う。」
更に晴夜は続ける。
「僕自身は……周りから完璧だ、ってよく言われるよ。こんな風体だからね。でも僕は……僕のことを完全無欠な人間だと思った事は一度もない。周りが勝手にそう言ってるだけだしね。僕なんてむしろ欠点だらけの人間だと思ってるからね。人付き合いは苦手だし……話してる時もズレる時があるし……こういう分かりやすい時じゃないと……人の感情に気付けないしね……」
といって、苦笑いを浮かべる晴夜。
人当たりが良いのに人付き合いが苦手、と自分を評するのも些か矛盾しているようにも見えるが、晴夜自身の自己評価がそこまで高くないので、こうやって自虐気味に言うのも納得かもしれない。
「……何が正しいかそうじゃないか、なんてさ、客観的に、総合的に判断されるものだと思う。定められた法律を自分の意思で塗り替える奴も居る。そういうのは『自分が全部正しい』と考えているからそう言えるんだ。……そんなのはただの偽善者だ、僕が一番嫌いなタイプの人間なんだ、そういうのは。だから氷華が今回の霰塚さんの件で抱えてる……これで良かったのか、もっと別の方法があったんじゃないか、って悩むってことは……まだ正常な考えだと思うよ、僕は。だって最初から『完璧』なんて求めても何も生まないじゃないか。」
氷華は大粒の涙を流していた。
鬩ぎ合うことが「正常」と言われた時に余計な力みが消えたような感覚だった。
嗚咽を漏らし、ハンカチで顔を抑える。
「……僕はさ、物事に100%は無いって思うし、かといって0%も無いと思ってるから……だってそうだろ? 何もないのは確かにゼロだ、だけどさ、何もないからこそ、そこに一歩踏み出せば……それだけで1%が刻まれるものなんだ。氷華がまだそういう考えが出来るってことはさ、立ち直るために一歩踏み出せるわけだからね。……だから……気が済むまで、僕のところで泣けばいいしさ、氷華が気持ちを切り替えてくれれば僕はそれ以上は言わないよ。だって氷華のボーカル、聴いてみたいしね。」
晴夜はそういって自分が座っているブランコから降りた。
晴夜の心底からの暖かさに触れた氷華は、自分の目の前のブランコの前に座った晴夜に飛びついた。
両膝を突き、晴夜の制服の背を指で掴む。
「ひぐっ……ううっ………あぅう……うわぁぁぁぁぁぁ〜〜…………ん…………」
晴夜は、自分の懐で泣きじゃくる氷華の身体をスッ……と、優しく抱え込んだ。
氷華の傷ついた心を、全て、優しく、包み込むように。
数十分が経過し、氷華は晴夜の体から身体を離した。
「……落ち着いた? 氷華。」
「……うん……ホントに、もう大丈夫。……それに……」
「うん、どうしたの?」
「新曲の歌詞……晴夜のお陰で思い付いた。だから……楽しみに待ってて、私達のバンド。」
「え、ホントに!? そんな事言ったっけ? 僕。」
驚いたリアクションを見せる晴夜に、氷華はクスクスと笑う。
「言ってなきゃそんな事言わないよ〜。」
「ハハハ、なんか小っ恥ずかしい気分だな。……じゃあ僕も一個……いいかな?」
「うん。いいよ。」
「……その……恥ずかしいんだけどさ、こういう事言っちゃうの……文化祭さ、一緒に回らない? 二人っきり、で。」
氷華の顔が一気に紅潮した。
氷華が想いを寄せる晴夜からのアプローチだったので、内心舞い上がっていたのだった。
「……これをオッケーしない子が何処にいんのさ。受け入れない理由がないよ、晴夜。」
そういって、最大級の笑顔を見せる。
「良かった……断られたらどうしようかと思ってたから……バンドの演奏、終わってから回ろうか、それじゃあ。」
「そうだね、晴夜。……うん、だからさ……今日は……ありがとね。」
氷華は感謝を述べて公園を去っていった。
氷華は自宅に帰って、急ピッチで歌詞をノートに書き込んでいったのだった。
翌日、氷華は梢達と集まって報告をすることにした。
「完成したんだよ、歌詞がやっと!!」
みんな驚いた反応をしていた。
昨日とは打って変わってパッとした表情をしていたから。
「おー、氷華、見せて見せて!」
梢が興味津々に食いつく。
氷華が歌詞を書いたノートを「ネフティス」メンバーに見せる。
「こんな感じなんだけどさ……」
「えーーー!! カッコいいね!! 氷華ちゃん、曲名は決めてる!?」
「確かにね。私の作った曲と氷華のこの歌詞を合わせたいから。」
ノートに食いつくメンバー、特に都姫と玲香は純粋に高評価だった。
「曲名? 曲名は……」
氷華は一つ息を吐き、こう曲名をメンバーに告げた。
「『完璧なんてない!』。」
やべえな、自分で書いててクッソ小っ恥ずかしいwwwww
次回公開します。
「完璧なんてない!」の歌詞を。
氷華と晴夜が付き合うまで秒読みですね、現状。




