51th SNOW 簒奪の魔手
第3章も最終盤を迎えましたが、第4章に繋げれるように頑張りたいと思います。
今回は桃悦VS雪羽の前半戦です。
桃悦の強さを際立たせれたらな、と思います。
登場人物紹介、今回はその桃悦を紹介していこうと思います。
羅生門桃悦 17歳 多摩東陵高校2年5組、「馬仙院教」教祖 165センチ 52キロ 好きな食べ物 水炊き鍋
新興宗教「馬仙院教」を率いる教祖。
2年前に立ち上げ、信徒は現在若者を中心に2万人を超えている。
本名は「石田晃良」で、氷華とは小学生の頃からの顔馴染みでもある。(ただ、同じ高校に通っていたことは氷華も知らなかった。)
元々は大人しく、人付き合いが苦手な性格で、イジメ、両親からの虐待と、悲惨な過去も持ち合わせている。
2年前にある妖から「簒奪」の力を与えられ、「簒奪者」となったことから性格が豹変、手始めに両親を殺害し、教団を立ち上げた。
現在は強欲で享楽的、自己快楽主義的、自己中心的で人を信用しない性格になっており、普段は隠しているが、所々でそれが滲み出ることもあり、目的のためなら手段は選ばない。
黒いローブを学校に行く時とプライベートの時以外、普段は羽織っている。
また、昨年自らを虐めていた人間を残忍な手口で連続的に殺害するなど、根に持ちやすい性格でもある。
氷華をなぜ付け狙っているかは謎に包まれているが、何かしら関係があることは間違いない。
妖を従わせ、妖を体内に吸収することもできるが、謎の多い人物でもある。
ボディーガード兼右腕として蝿崎を侍らせているが、蝿崎は最初の信者であり、蝿崎にだけは心を開いている。
戦闘力が非常に高く、近接戦闘主体ながら臨機応変に立ち回ることもできるので、大抵の相手には瞬殺で勝てる。
邪眼を解放し、戦闘体勢に入った雪羽。
しかし、その額には冷や汗が垂れていた。
得体の知れない妖気。
本能が逃げろと叫んでいる。
この男______羅生門桃悦には勝てない、と。
だが、それを理性と闘争本能で雪羽はその感情を抑えた。
「どうした……? 来ないのかい? 霰塚雪羽。……まあいいか。君は殺さないよ、僕は……だって、君は僕にこの後従わざるを……得ないんだからさぁ!!」
左足を勢いよく蹴り出して、桃悦は雪羽に襲いかかってきた。
スピードが尋常じゃないくらいに速い。
桃悦は飛び込んで左ストレートをなんの躊躇いもなく、雪羽の顔面目掛けて放った。
雪羽は「創造」で氷のナイフを作り出し、桃悦の左ストレートを受け止めた。
雪羽は拳に突き刺したナイフを支点にして桃悦の背後に回り込む。
そして至近距離でこの技を繰り出した。
「冷光砲!!」
強力な氷のレーザーを放った後、走って桃悦から距離を取り、魔導を展開した。
「雪女砲術『冷光散弾砲』!!」
五発もの氷のレーザーが一斉に桃悦目掛けて放たれる。
が、桃悦は何事もなくそのレーザーを受け止めた。
それもただ、右手を突き出すだけで。
これには雪羽も動揺を隠しきれなかった。
何が起きたのか、全く分からなかったためだ。
「素晴らしい……素晴らしいぞ! 霰塚雪羽!! だが……僕には勝てないよ?」
こうして桃悦は右手から先程のレーザーを極太にして放った。
「簒奪の魔手……『倍反撃』。」
とんでもない速度と勢いで雪羽に襲いかかるレーザー。
雪羽は咄嗟に盾を生成して受け止めるが、これが精一杯だった。
雪羽は攻撃が止んだ後、道路のアスファルトに右手をつけた。
そしてその右手からは魔法陣が生成されている。
「召喚獣生成……『氷の獰猛蛇』!!」
雪女が使える魔導系の秘技「召喚獣」。
氷の造形物をまるで生き物のように操り、敵に繰り出す大技なのだが、その分体力の消耗が激しい。
雪羽にとっては大技なのだが、この相手には最初から全力でいかないと勝てないと踏んだ。
召喚された白い氷の大蛇が桃悦に襲いかかる。
と、ここで右手が蒼く燃え盛って輝いた。
「簒奪術『火の鳥』。」
右手から小さい火の鳥を作り出し、雪羽の放った大蛇にぶつけた。
互角にぶつかり、蛇と鳥は跡形もなく弾け飛んだ。
雪羽は想定内として、今度は馬を召喚獣として創り出した。
「召喚獣生成『吹雪の馬』、更に『創造』で剣を生成!」
そして雪羽はその馬に飛び乗った。
手綱を引っ張り、桃悦に向かって突撃していった。
まるで、戦場を駆ける騎士のように。
剣を桃悦のところまで昇華させて伸ばす。
そして馬から飛び上がり、技を雪羽は繰り出した。
「人馬一体! 雪女剣術『昇華一閃』!!!」
横に振るい、桃悦の首をかっ割こうとしたのだが……。
桃悦の首はそのままだった。
しかもよく見ると剣が折れている。
「……この程度で僕を倒せるとでも思ってたかい? 雪羽……」
首元にあったはずの剣が桃悦の左手の中にあった。
受け止められた挙句、握りつぶされて二酸化炭素に気化していた。
「クッ……何をしたと言うんですの……!?」
雪羽は悔しそうな表情で桃悦に問いかける。
「さあ……? なんでだろうね、霰塚雪羽。ただ一つ教えるとするならば……僕は『簒奪者』だ。」
「簒奪者……!?」
簒奪者というのは、怜緒樹のような「刻印者」の上位互換で、上位妖魔が稀に持っているとされる人為的に妖魔の力を持った人間のことで、刻印者の1%にも満たない。
その分超強力で、妖怪の力を自らの体内に幾らでも取り込める仕組みになっている。
「まあ……詳しくは教えないけどね……だけど……僕は神に選ばれたんだ、それだけは言える。」
そう言って、桃悦は右手を燃え盛らせた。
炎を操る妖怪を出しているのだろう。
「簒奪の魔手『輪入道』解放……『灼炎の拳』。」
力強く雪羽の懐に踏み込み、右ボディーアッパーを繰り出し、雪羽の横隔膜にクリーンヒットさせた。
一瞬にして呼吸を止められた雪羽は、膝から崩れ落ち、蹲った。
「さあ……どうだ、雪羽……僕の部下になれ。」
左手で髪をグイッと引っ張り上げ、目を見開いて雪羽にそう、桃悦は囁いた。
「ふざけないで……誰が……貴方となんかと……!!」
桃悦を睨みつける雪羽。
それを見た桃悦が再びボディーに拳を放つ。
再び苦しい表情になる雪羽。
桃悦の顔に情は一切入っていなかった。
まさに鬼畜の所業と言えよう。
「君に拒否権なんて無い……何故なら……『君は僕より弱い』というのが事実としてあるからだ。僕は君を殺さない、何度言えばわかる。」
更に狂気の目になり桃悦は、雪羽に問いかける。
雪羽の目にはまだ、光が残っている。
諦めていないのは明白だ。
無言のまま、雪羽は桃悦を睨む。
「いいのかい……? 牛鬼の時みたいに……他の雪女みたいに、『右眼』を獲られてしまっても……」
桃悦は右眼を指差して、人差し指と中指をハサミのように見立てて脅した。
だが、これが隙となった。
「貴方みたいな下衆に……私は従いませんわ……!! 雪女凍結術奥義……『絶対零度』……!!」
桃悦の左脇を右手で触り、雪羽は「絶対零度」を放った。
みるみるうちに凍っていく桃悦の体。
しかし、桃悦はニヤッと笑っていた。
「へえ……まだ、こんな能力を残していたなんてね……」
雪羽は凍りゆく桃悦の隙を突き、左手を振り払い脱出した。
バックステップで距離を取り、一つ、大きく息を吐いた。
桃悦は右手に力を込め、術を繰り出した。
「簒奪術耐性変換『熊蟲』。」
放射能や絶対零度にも耐えられる微生物「クマムシ」の耐久性に体内を変換させ、更に輪入道の「簒奪」で絶対零度を溶かした。
「やっぱり……君が欲しくなったよ、霰塚雪羽。」
そう呟いた桃悦。
雪羽は、というと。
「まさか貴方みたいな下賤な者に……これを使うとは思いませんでしたわ……!! 左の眼……『閻魔眼』解放!!!」
邪眼と同時に解放した、左眼に映る青き目。
雪女の全力の証だ。
「貴方には……全力で戦わないと勝てませんわ……!!」
雪羽は桃悦に向かってそう言い放った。
「フフ……いいだろう。来い、霰塚雪羽……!!」
本気モードを解放した雪羽と、まだ底が見えない桃悦の戦いは激化の一途となるのだった。
雪羽の左眼については次回紹介します。
お楽しみください。




