43rd SNOW 邪教の実態
この回は第三章のタイトル通りの「蠢く陰謀」の部分を書きます。
一方、氷華たちが体育祭の練習をしているその裏で。
「馬仙院教」のことについての事態が大きく動こうとしていた。
北川は「Ω」の本拠地のある、秋葉原のとあるビルの五階の部屋に足を運んでいた。
そのワケとは。
以前頼んでいた「馬仙院教」についての情報を得るためだった。
そこには晴夜よりも背が高く、ガタイのいい男が座っていた。
「おう、酒鬼原……どうだ、『馬仙院教』については。」
その背の高い男は、「Ω」東京支部隊長『酒鬼原天童』といい、彼は「酒呑童子」の半妖だ。
北川と同じ35歳で、職業は警察官。
北川とは同期で今も連絡を取り合っている中だ。
「ああ……北川か……ウチの精鋭が収集してくれたぞ……」
低く野太い声で、酒鬼原は北川に資料を手渡した。
そこには新興宗教「馬仙院教」の実態が記されていた。
「まず……信者の年齢層が10代後半から20代前半が多い……コンセプト上が『願いを叶える』だからが故か……夢破れた若者が集まっているかのように思える。」
「……なんともけったいな話だな、酒鬼原……」
「新興宗教というのは……心に空白のある人間の隙に入り込む。今の若者が就職にあぶれるケースはあまりないのだが、会社で上手くいかなかったりすることが多い。そこにうまく漬け込んだのだろう。」
「まあ……甘い言葉に酔いしれちまうケースもあるからな……」
と、酒鬼原がスマホの動画を提示した。
その映像を見ると、何やら儀式のようだ。
「信者は朝5時に集まって……何やら注射を打っているように見えるんだ。それも目隠しを全員された状態で、な。……そして全員ハイになっている……これが何を意味するかわかるか? 北川。」
「……覚醒剤か。」
「……そうだ。覚醒剤を打っている、それはまず間違いない。本来なら覚醒剤取締法違反で現行犯逮捕するべきなのだが……信者と思わしき人間の尿を検出したら……それが出なかった。」
「……そりゃ……逮捕出来ねえよな。シャブじゃなきゃ、俺たちが手出し出来ねえしな。……だったらアドレナリン増強剤か何かか?」
「だとしたらそれで洗脳する意味がわからない。いくら快楽を得たところでそれでは限度があるだろうに。」
「まあ……実態が分からねえ以上、どうにも出来やしないがな……」
唸る酒鬼原。
北川はもらった資料を一枚一枚丁寧に眺めていく。
そこには牛鬼で犠牲になった雪女の名前も列挙されていた上に、過去に捕らえた妖怪から馬仙院教が検出された痕跡も、ことしなやかに記されている。
「……確か氷華の姉貴が眼を取られたのが3年前、そして馬仙院教が立ち上がって2年……文香が調べてくれた牛鬼は一年半前に使役された妖怪だった……」
「……おそらく牛鬼は雪女の眼を喰らい続けていたが……その妖力の検出量が数の割に少なかった。つまり……教祖と思わしき男が大半を喰らっていて、牛鬼はそれを分け与えてもらっていたに過ぎないのかもしれないな。」
ここで北川に気になる点ができた。
馬仙院教の教祖についてだ。
「……オイ、酒鬼原。……教祖の情報はねえのか?」
「……断片的な情報だが、一つ判明している。この写真を見ろ。」
と、一枚の写真を見せてきた。
160センチ台の黒ローブを身に纏った男と、長身の、作務衣を身につけた男が並んでいる。
酒鬼原はこう話した。
「……おそらく表情的にも高校生くらいの男が教祖だ。そうでなければあのような長身の男が常にそばに居ない。背の高い男はボディーガードだろう。」
「……名前は判明しているのか?」
「ああ……部下が潜入してくれたからな……教祖の名前は『羅生門桃悦』……だが、長身の男の名前は分からずじまいだ……北川、そこは申し訳ない。」
「いや……いいんだ。だが……偽名では逮捕は不可能だ。裁判所が受理してくれやしねえ。せめて本名さえわかれば……書類送検は可能なんだがな。一応Σにも共有はしておくぞ、酒鬼原。」
と、北川は自分のスマホを使って写真に収めた。
「じゃあな、酒鬼原……助かったぞ。」
そういって、北川はビルの一室を後にした。
そうしてビルから出た北川を待っている人物がいた。
怜緒樹だ。
「隊長、お疲れ様です。」
「……ああ、情報は得られたぞ、怜緒樹。」
「……そうですか……それで、成果は?」
「とりあえず教祖の名前は分かったが……依然尻尾を出しきってねえ以上……逮捕には踏み切れない。それだけは言える。」
「……ですね。行きましょうか、隊長。」
こうして怜緒樹は車を走らせ、Σ本部へと戻っていったのだった。
その頃別の場所では、例の長身の男がスーパーマーケットで買い物をしていた。
買い物を済ませた後に電話が鳴る。
「はい、こちら蝿崎。」
『ああ、蝿崎か。僕だ。……そっちの首尾はどうだ。』
「……何事もないようです。教祖様。」
その報告を聞いた、多摩東陵高校の制服姿の青年が、長身の男、もとい蝿崎の言葉にこう返した。
『そうか……毎度毎度、世話を掛けるな、蝿崎。』
「……教祖様のためなら喜んで尽くします。……それで、そちらの方は。」
『雪宮氷華のガードが硬い、それは事実だ。だが……手は打ってある。』
「……と、仰いますと?」
蝿崎のこの言葉に電話越しで不敵な笑みを浮かべ、こう答えた。
『精神を崩壊させる算段は出来ている。あとは……生かさず殺さず、どう使役させるかだ。』
「……かしこまりました。……それで、それをいつ実行なさるおつもりで?」
『体育祭が終わってすぐだ。それまではいつも通り儀式をやる。』
「……承知いたしました。それでは、そのスケジュールで。」
『ああ。よろしく頼む。』
と言い残して、教祖は電話を切った。
教祖もとい、「羅生門桃悦」はこう呟いた。
「雪宮氷華さん……君はもうすぐ僕のものになる……。」
氷華の身に危機が迫ろうとしていたのだったが、そのことは蝿崎以外、まだ誰も知らない。
そして「馬仙院教」の存在が、「Σ」や雪女一族の厄災となって立ちはだかることになるのだが、それはまだもう少し先の話である。
この2人は謎が多すぎるので、登場人物紹介はもっと後にしたいと思います。
ただ、この2人はマジでバカ強い。
超血みどろな展開が、体育祭編が終わった後続きますのでご容赦ください。




