32th SNOW 「恋なんて不器用でいい」
恋愛するのに完璧を求めたらアカン。
天狐はその辺よく分かってる。
登場人物紹介は凍山冬実です。
凍山冬実 16歳 高校一年生 4月4日生まれ A型 171センチ 3サイズB85W59H84
10傑の1人。
新潟県糸魚川市在住。
氷結系を得意にする。
真面目な性格で現実主義者。
ストレートに物を言うため友人が少ないのが悩み。
氷華は冬実のことをタイプが被るため苦手にしている。
全能力値のバランスが良く、邪眼のコントロールも取れる。
こうしてファミレスに入った氷華と天狐ではあるが、どこか雰囲気が気まずかった。
いくら晴夜の誘いとはいえ、昨日あんなことをした手前だ、話を切り出そうにもどこから行っていいのかが全くわからなかった。
そうこうしている間に注文が到着する。
氷華はアイスコーヒー、天狐はショートケーキだ。
と、ここで天狐が切り出す。
「氷華ってさー……友達多い方?」
自分のことを知りたいのだろうか、天狐は他愛もなさそうな話題で質問をしてきた。
「……なに? 急に……」
訝しげな顔をして逆質問をした氷華。
あまりプライベートのことは言いたくはないのが氷華の本音ではあった。
「あー……そのさ、昨日あんなことあったじゃん。だから溜め込むタイプなのかなー、って。」
「……多いか少ないか、って言われたら大して多い方じゃないけど? 知り合いは多いけどさ。」
「……知り合いってやっぱりそっち方面だったりするかな? 10傑だったり?」
「知り合いっていっても、雪女ばっかりだよ私に関しては。あと友達は普通の人間だから。」
「なーるほど。」
「……そーゆーアンタはどうなのよ天狐。」
「別にアタシは元が妖怪だからねー。わざわざ人間とは仲良くはしないよ、相手の情報を得たいから擦り寄ったりはするけど。コレもアタシに関しては晴夜に頼まれただけだし、氷華を理解できるかどうかは話は別。ただ、アンタの為人を知りたいだけ。」
「……で? 私のことはどう思ってるの?」
「出会いがアレだったからまあ第一印象はそんな良くないと思うよ、お互い。……最初は嫉妬深い子なのかな、って思ってたよ。アタシは。でも晴夜から話聞いたら真面目で大人しくて……優しい子だってさ。だから今はそんなに氷華に悪印象は抱いてないよ?」
「別に嫉妬はしてないって……私も家帰ってから頭冷やしたから。そこは謝るよ、ゴメン。勝手に熱くなりすぎた。」
頭の中にはまだ靄が残っている氷華だったが、流石にやり過ぎだったとは思っているようだった。
天狐はこれを笑い飛ばす。
「やっぱ真面目ね、氷華。……そりゃ晴夜もアンタのことを気になって、気に掛けたりしてるんだなって思うよ、こんなにいい子なんだったら。」
「……うーん……まあ気にかけてくれてるんだなって思うところはあるよ、本人に気があるかどうかは置いといて。陽陰君、ああ見えてウブだからさ。……まあ私が言えることじゃないんだけど。」
「本人がアンタに気がなかったら今みたいなこと、そもそもしないと思うけど? いくら仕事上の間柄だったとしてもさ?」
「まあ、確かにそうだと思うけど……ってそうじゃなくて! ……その、言いづらいん、だけどさ。」
「まあいいんじゃない? 晴夜今いないし。なんでも言っちゃいなよ。」
「……陽陰君は……わ、私のこと、好き、とかって言ってた……??」
氷華は顔を赤らめていた。
本気の恥じらいだろうか。
発言的にも顔的にも、完全にメスの顔だった。
「氷華のことは人としては嫌いじゃないと思うよ、話だけ聞いていても。好きかどうかは知らないよ? 本人も明言してなかったし。……嫌っていたらそもそもアタシにこんなことさせないし、実際問題。」
「そ……そっか……私の思い過ごし、か。」
ホッとした顔に戻った氷華に、天狐はこう、フォローした。
「でも多分、氷華を女の子として見てると思うよ、晴夜は。ただ鈍感で、おくびに出さないだけで。まあ、お人好しってのもあると思う。」
と、こう、続けた。
「……というか、『思い過ごし』ってどういうこと? 氷華。……アンタの晴夜に対して思ってることは大体察しはついてるけど実際どうなの? 晴夜のことを『1人の男の子』として見てさ?」
「えっ!?」と突然驚いた声を発して、また顔が紅くなった。
流石に隠し切れないと踏んで、正直に白状した。
「……付き合いたい、です……陽陰君と……」
目を背けて項垂れる氷華。
本音が出ていた。
本気で晴夜のことが好きなのだと。
「やっぱそうなんだ。……まあ人には言えないだろうしね、友達にもさ。……晴夜にも、誰にも言わないでおくからアタシなんかでいいなら話してご覧なさいな、氷華。」
「……最初はさ……確かにカッコいいけど……変なやつだな、って思ってた。いきなり私に対して陰陽師をカミングアウトしたりさ? 組織に入ってる、だのなんだので。」
天狐は頷いて聞いている。
「でもさ……最初の任務の時……付喪神のポルターガイストでも冷静に対応してたしさ、私が大技を発動している間にも他の人の身体のことも考えられるほど気配りも効くし……」
確かに晴夜らしいなとは天狐も聞いていて思った。
「……で、その後のことはあんまり覚えてないんだけど……わざわざ泊めてもらったり、さ? 陽陰君のウチに。朝起きたらご飯もわざわざ作ってくれて……でも話してる時の反応が可愛くて……」
本当に気配りが出来るんだろうな、というのを天狐は感じ取っていた。
「でも女の子にはどんどん声掛けられるし……海に行った時もそうだった。女の人に声を掛けられてる時に……その後の対応が謙虚でさ、『自分なんて大したことない』……って言ってて……その時思ったよ、陽陰君のことが、好きなんだって、私は……」
「……なるほど〜……まあでもイケメンの裏の顔がイケメンなのを知ったら惚れるよね、そりゃ。」
氷華はコーヒーを口に運び、一度暴走する恋心を落ち着かせた。
「……声を掛けられる女の子は積極的でいいなー……なんて思ってたり、さ……私なんかが、って思う時もあったし……私、引っ込み思案なところあるから。だから……アンタがべったりくっついてた時……爆発しちゃって……」
恥ずかしさで顔を覆う氷華。
確かに人として行動的には恥ずかしいだろう。
「氷華……恋愛なんてさ、不器用でいいんだよ?」
「……え……??」
「氷華はさ、今、自己評価が低い、みたいなこと言ってたじゃん。……全然そんなことないよ。だってこんな可愛いのにさ、そりゃ寄られないわけがないよ。巷ではさ、『恋愛は完璧じゃないといけない。顔も、行動も、性格も何もかも』みたいな雰囲気だと思う。氷華みたいなさ、自分に自信がない人が、超絶イケメンの横に侍らせられていいのか……って思ってると思う、そんな恋愛の雰囲気だから、人間の世界は。」
氷華は頷いて聞いている。
確かに思っていることと一致している。
天狐は続ける。
「恋愛はさ、勉強だよ。最初っから完璧なカップルなんていない。そんなのはただ『演じてるだけ』。失敗して、失敗して……そこから学んで、人ってのは強くなる。そんなこと言ってるうちは恋愛なんて出来ない。……一歩踏み出せばさ、いくら晴夜が鈍感だろうと流石にわかるとアタシは思う。」
とはいえ、あの場面を間近で見られているのだ。
たとえ、知らなかったとしても、だ。
「いや、でも天狐にアレだったんだよ!? ドン引きされてるって、内心で……」
「……嫉妬っていうのは『自分に自信があるのにその対象が自分に無いものを持っている』から嫉妬するのであって……アンタの場合は羨望、だね。アタシに対しては。……アンタはもう少し、人に甘えるということを覚えた方がいいと思う。もしさ、付き合うことになったら周りからは嫉妬とかそういう目で見られると思う。でも氷華は晴夜を射止めた、っていうのが既成事実としてあれば堂々としてられるじゃない?」
「……前に出てみた方がいいのかな……? 勇気、出してみて……」
「でも今はまだ言わない方がいいかもよ? 何せ牛鬼を討伐するのに余計な感情を入れてしまったら、それこそ支障を来たす。今回のもリラックスだろうしね、氷華が思い詰めていたから。……アタシ的にはさ、全部が終わってからでいいと思う。告白するのは。」
「……そう、だね。」
「そんな落ち込むことないよ、氷華……いつでもさ、恋愛事だったら相談に乗ってあげるから安心しなさいな。」
「天狐……」
不思議と、気が楽になった気がした氷華。
もう、天狐には嫌悪感はなかった。
しかも相談に乗ってくれる、ということだ。
3枚目を買って出てくれた、その事実が氷華の心境にあった。
「じゃあこのあとさ、カラオケでも行く?」
「……わかった。」
そう言った氷華に対して無邪気な笑顔を見せた天狐だった。
そうして会計を済ませた2人は、カラオケボックスにこの後行き、3時間ほど熱唱することになるのだった。
羨望と嫉妬は全くの別物です。
僕は羨望タイプですねww
あんまり自分に自信がないタイプなので。
次回は決戦前夜を書きます。
お楽しみください。
登場人物紹介は、牛鬼編終盤のキーマン、落雪冬菜です。
乞うご期待ください。




