16th SNOW 雪女の長「霜之関雪子」
今回は、氷華と雪子との会話がメインです。
……意外とお茶目な御当主様が見れるかもしれません。また、結構後の話に繋がる伏線が張られますので、それが回収された時は此方をご覧になっていただくとありがたいです。
さて、登場人物紹介は、氷華の姉、霜乃です。
雪宮霜乃 20歳(大学2年生) 5月28日生まれ 170センチ O型 3サイズB90W59H89
氷華と氷衣露の姉。元「新世代10傑」の一人。右眼を3年前に牛鬼に襲われ、奪われたので、常に黒い斜め掛け眼帯をしている。大学では経済学部二類を専攻。嘗ては「神童」と呼ばれ、将来を嘱望されていた。今は雪子の側用人として働いており、他の一族からは軽蔑はされているものの、器用なため、かなり重用されている。妹想いの性格で、氷華にアドバイスを送ったり、氷衣露を嗜めたりと、長女らしい性格。
料理が得意で、仕事で帰りが遅い母に変わって料理をすることが多く、かなりの腕前。
クールビューティーなので、大学の女学生からは憧れの的。男子学生からも告白されることはあるが、男に対しては塩対応で今まで彼氏がいたことがない。吹雪からは彼氏を作った方がいいと催促をされているが、霜乃自身は乗り気ではない。
なんとも神々しい姿なのだろうか。
椅子に佇む白髪赤眼のこの女性____「霜之関雪子」は、雪女一族を束ねる長だ。
御年43歳。
カリスマ性があり、尚且つ雪女最強と謳われるお方だ。
敬服しないわけがない。
氷華が雪子に跪いているところ、雪子が一言発した。
「良く来たのう……。氷華よ。」
威厳を感じさせる、低く、今にも嵐が吹き荒れようかという声は戦慄を予期させる。
「はい……私にお話がある、ということでしたので……。」
氷華がそういうと、雪子は薄笑いを浮かべ、そばにいた侍女にこう、指示をした。
「………椅子を氷華のところに持って参れ。」
「……ハッ」
そういって、少し黒味がかった肌の侍女が椅子を持ってきた。
「氷華殿……。此方へお座りになられてください。」
「あ……ありがとうございます……。失礼します……。」
緊張しているのか、座っても氷華の表情は強張ったままだった。
「お茶を……どうぞ……。」
「あ……ありがとうございます……。」
「では……ごゆっくり。」
侍女に紅茶を淹れられた氷華はというと、雪子と正面から面会している。
氷華は恐ろしく緊張していた。
何せ雪子とは、霜乃が世話になっているとはいえ、氷華は初対面なのだ。
しかも当代となれば尚更緊張する。
「……氷華よ……。」
「は……ハイ!!」
「フフ……なに、そんなに緊張せんでも良いではないか。ワシと話ができる機会など、そうそうないのじゃから。……光栄に思うが良いぞ……。」
「……お心遣い、感謝いたします。」
「時に氷華よ……。お主、今は『Σ』というところで妖魔討伐組織の隊員を勤めておるとのことじゃが……そこの話も聞かせてくれぬか?」
「ええ……。成り行きで入ったのですが……皆さん、いい人たちばかりで……。私も思う存分に力を振るえるというか……。」
氷華が近況を説明すると、雪子は紅茶のカップを片手に薄笑いを浮かべている。
「そうか……それならば良いのじゃ……。して、牛鬼はどうじゃ。手掛かりはあったか。」
「あ、ハイ……! 実は、ですね……。」
と、氷華は加賀山に送られた写真を見せた。
牛鬼が映り込んでいる写真だ。
「これは……担任の先生に送られた写真なんですけど……。」
「……3年前、か。……この日も雪女が一人襲われてのう……。この写真主はおそらく巻き込まれたのじゃろうな……。気の毒にのう。」
この言葉に何も言えなくなった。
複雑な想いでいっぱいだったからだ。
「……なるほどのう……。氷華よ。ここで良い情報をワシからも与えよう。……実はな、ワシの部下達が牛鬼のことを調べて貰うての。4つの妖怪の情報を得た。」
「!! それは……! どんな情報なのですか!?」
「まあ、そう急ぐな。……牛鬼の配下の妖怪どもじゃ。まず一つ目。『八岐大蛇』。巨大な蛇の妖怪じゃ。」
八岐大蛇とは、八つの蛇の頭を持つ妖怪で、酒と美女をこよなく愛する妖怪だ。
それが牛鬼の配下とは……氷華も固唾を呑んだ。
「コイツが長野の飛騨山脈におる。……かなり手強いぞ。で、二つ目じゃ。」
「……はい………。」
「『覚』じゃ。」
「さ、覚?? 随分また変わった妖怪ですね……。」
「此奴は浦安の森におる。一言で言えば、心が読める妖怪じゃ。……一手先の攻撃が見えるそうでなかなか厄介じゃ。戦闘能力自体はそこまでじゃがな。」
「……はい……承知いたしました。」
「三つ目は、『濡れ女』。コイツは湘南にいると聞く。」
「しょ……湘南に、ですか!?」
濡れ女が湘南にいると知り、氷華は驚いた。
無理もない、一度遊びに行ったのだから。
濡れ女は、蛇の体に髪の長い女の顔がついたおどろおどろしい妖怪だ。
夜に防波堤に近づいた男を喰らうとのことだ。
しかも驚くことに80メートル近くもの体長を誇り、とても大型の妖怪だ。
「……まあ、男もΣの面々にはいるじゃろうから、くれぐれも気をつけることじゃな。で、最後じゃ。」
「……ええ。」
「最後は『九尾の狐』。お主も知っているじゃろうが、この妖怪は化ける。……人間に近い霊気じゃからこれが一番見分けにくかった。」
「九尾の狐……ですか……!?」
「……まあ、そう急くな。氷華よ。………此奴は歌舞伎町におり、普段は人間に化けておる。……とりわけ美女によく化けるそうじゃからの。……くれぐれも、変に声を掛けぬよう、気をつけないと行けんのう。」
「……そうですね……。私の地元も東京ですから、尚更ですね……。」
氷華の表情が引き締まった。
この妖怪四体を倒せば牛鬼の手掛かりが掴める、そう踏んだ。
しかも東京から車で行けるところだ。
案外近かったりする。
「……そうじゃの……。夏休みが終わるまで余裕はあるじゃろ? ……焦らずとも良い。」
「……ええ……。そうすれば、牛鬼の手掛かりを掴めるのですか?」
「……かもしれんな。」
「は……はあ……。」
雪子の曖昧な答えに氷華はキョトンとした。
「まあ、いずれにせよ、探っておれば牛鬼も尻尾を出すじゃろうの……。……ところで、氷華よ……。」
「は……ハイ……。」
突然話題を変えられた氷華は尚のこと表情が固まっていた。
「………あの陰陽師とは……上手くやっておるかの?」
悪戯に笑みを浮かべた雪子。
どうやら晴夜のことを聞いているのだろうか。
「…………え……??」
氷華の思考が一瞬止まる。
晴夜なのか、佐久間なのか……。
陰陽師の血を引いているものは、この二人だからだ。
「……すまんの。説明が足りなかったようじゃ。……2ヶ月前に転校してきた陰陽師のことじゃ。」
「…………え、ええええええええええ!?」
思考回路が回復したと同時に、氷華の顔が一気に紅潮する。
何故、雪子が晴夜のことを知っているのか……不思議でしょうがなかった、というのもあるだろう。
「た、確かにクラスメイトですし、Σでも一緒ですけれど……!! 何故そのことを御当主様がご存知でいらっしゃられるのですか!!!???」
ここで雪子がはぐらかすように笑った。
満面の笑みでニヤニヤと笑っている。
「さあ……?? なんでじゃろうのお?? ハッハッハッ。」
「か、彼とは上手くはやれてはいますけれど……それがどうしたっていうんです!?!?」
「なに、案ずるでない、氷華よ……。お主と彼奴は必ず結ばれる運命で出来ておる……。もし、お主が秘密裏に他の誰かに寝取られようと必ず、な。」
何故、氷華と晴夜が結ばれると断言できるのか。
氷華は聞き出そうとした。
「御当主様……御言葉ですが!! 何故そう言い切れるのですか!? まだ彼とは恋人関係にもなっていませんし、第一私にはそのようなことは……!!」
完全に顔が紅くなって興奮しているようだった。
氷華は言葉の主張が強くなっている。
「フフフ……愛い奴よのう……。氷華は。そんなに顔を赤らめおってのお……。」
「揶揄うのは後程で構いませんからお答えになってください!!」
氷華は明らかにムキになっていた。
何故晴夜と必ず結ばれるのか……。
気になる事が山ほどある。
「……そうじゃのお……。いずれ分かることになろうな。……今言えるのはそれくらいじゃ。……機が熟せば、そなたにいつか話して進ぜよう。」
荒唐無稽な雪子の答えに氷華は苛立ちを隠せなかった。
「機が熟せば、とはなんですか! 御当主様!! 何故そこまでして断言されたことを隠すのですか!!」
これをサラッと受け流すかのように、雪子が答えた。
「……既に彼奴からヒントを聞いてはおらぬのか? 氷華よ。……彼奴の家族構成を聞いた時に。」
「え……? あ、そういえば……陽陰君は母親のことを知らない、と……言っていました……!」
「……それがカギじゃ。……お主の父にも聞いてみよ……。おそらく、同じことを言うじゃろうから。」
「え……父に、ですか……??」
「まあ、ともかく細かいことは良いではないか、氷華よ。……これから、『新世代10傑』の一人として、頑張ってくれ。……お主に話すことは以上じゃ。」
「は、はい……。それでは、失礼致します……。」
氷華が椅子を立ち、一礼して書斎から出ようとした。
と、ここで、雪子から声が掛かった。
「ああ、そうそう氷華よ。……この運命のことは……彼奴にはまだ、言ってはならぬぞ……。無論、家族にも、他の者達にも、じゃ。……健闘を祈っておるぞ。」
「……承知いたしました。」
再び一礼をし、氷華は書斎を後にした。
氷華が去った後、雪子は侍女と話した。
「のう、冷奈よ。」
冷奈、と呼ばれた黒味がかった肌の侍女の女性、「氷柱山冷奈」は「ハッ」と一声を発した。
「……お主は……氷華の運命のことを……どう、思うた……?」
こう聞かれた冷奈は答えを自分なりに出した。
「私見ではございますが……氷華殿は、陰陽師の転校生とやらを……好いておられるかと思われます。……御当主様の仰ったことは現実となるのではないでしょうか。」
冷奈の見立ては当たっていた。
氷華は晴夜に対して恋心に近しいものがあることに。
「フフ……そうじゃろうなあ……。彼奴らの運命がどうなるか、じゃがの。必ず結ばれるぞ。……何かの間違いがなければ……運命通りに、な。」
意味深な言葉を残していった雪子であった。
一方、当の氷華は。
(……御当主様はなんで……陽陰君のことを知ってるんだろ……会ったこともないはずなのに、なんでだろ……。まあ、四体の妖怪のことはΣに相談するとして……。あの人が結婚した、なんて話も聞いた事がないし……。)
と、悩みながらパーティー会場へと戻っていった氷華は、氷衣露に声を掛けられた。
「あ、氷華ねーちゃんお帰りー!! ……って、どうしたの?? 浮かない顔して……何かあった??」
「ひ、氷衣露?? ……ううん、なんでもないよ?」
「さては……まーた大変なこと、巻き込まれたんじゃない??」
「う……お、オフレコの話だから!! い、言えないことなの!とにかく!!」
「え〜、ケチ〜。教えてくれたっていいじゃ〜ん。」
「ダメったらダメ!! ……もう、とにかく行くよ!!」
……この後も氷華は、パーティー会場で新世代10傑の面々と交流をして、時は流れていったのだった。
今後、御当主様の言った事が大伏線になってきます。ですが、それはめっちゃ先になりますね。回収されるのは。ちなみに冷奈の肌がなんで黒味がかっているのかと言いますと、「メラニズムの雪女」だからです。この状態で生を受けた雪女は、邪眼が使えません。雪女の強さというのは、メラニン色素が関係してきます。だから妖力的には最弱です。ですが、身体能力が異常に高い人が多く、主に諜報員として活動します。ちなみに視力は9.0だったりします(驚愕)。
次回の登場人物紹介コーナーは氷衣露です。お楽しみに。次回は晴夜の帰省を書きたいと思います。実際間埋めるのにサイドストーリーは必要なんで。




