124th SNOW 氷華、モデル事務所にスカウトされる
新章……とはいっても9章は数話で終わるんで、サクッと行きます。
氷華は手術後、左腕の経過観察とリハビリを兼ねて2ヶ月間入院することになった。
最初はほとんど動かなかった腕だったが、地道にリハビリを重ねていくうちに、少しずつではあるが、通常通りに戻るようになってきたのである。
だが、それ以上に氷華にダメージが深かったのは、記憶の欠如。
自身の記憶の中に欠陥が出来てしまい、リハビリ後は空虚な感情になってしまう。
ベッドの背もたれに身体を預け、天井を見上げる日々が続いた。
時折晴夜や梢達が見舞いに来るのだが、それでも元気が出ない。
進路も全く決めておらず、どうしようもないという感情であった。
これからの方向性を氷華は決められぬまま、氷華は退院することになり、晴夜と渋谷でデートをすることになった。
久しぶりのデートとはいえ、氷華は全く浮かない顔をしていた。
「……氷華、大丈夫……?? 入院してた時から浮かない顔、してたけど……」
「うーん……なんか、やる気が出ないっていうか……やりたいことがない、っていうか……」
「そっかー……進路も何も決めてないって言ってたもんね……」
「そうなんだよね……なんか興味あるものがあるわけじゃないし……」
事実氷華は生来の引っ込み思案というところがあるので、就職してもやりきれる自信があまりない、というのが現実である。
かといって氷華は大学進学も乗り気ではない。
ただ、早いところ決めないとその後の人生にも関わってくる、それも現実問題である。
「まー、でも……ゆっくり考えればいいんじゃない? 人生はまだまだ先まであるんだからさ?」
「そー……だね、そうするよ。」
と、その時だった。
2人に声を掛ける人物が。
茶髪の、スーツ姿の長身の女性が突如声を掛けたのであった。
「……え……な、なんですか……??」
突如声を掛けられた氷華は、戸惑いを隠せない。
「あー……すみません、私、モデル事務所『ラミアス』マネージャーの『五十嵐亜弓』と申します。」
と、名刺を亜弓と名乗る女性は取り出した。
「も、モデルさんのところですか……??」
氷華は困惑を隠せない。
まさか自分にスカウトが来るとは思いもよらなかったからである。
「私たちは、新人のモデル発掘、育成を行ってますんで……お二人とも、いいお顔をされてますし……よろしければ今度の新作ファッションの撮影に抜擢したいな、と思いまして……」
「は、はぁ……」
「ちょ、ちょっと待ってください、五十嵐さん、それってちゃんと事務所に所属しないとダメですよね??」
若干興味ありげになっていた氷華に対し、晴夜は防衛本能からか、亜弓に問い詰める。
「そう……ですね、その部分のお話もさせていただこうかと思いますので、そこのお店で詳しいことをお話し致しますので。」
2人は戸惑いながら、亜弓の話を聞くことにしたのであった。
そんなこんなで亜弓の話を聞く2人。
氷華は興味を持ちながら頷いて聞いていたが、晴夜は全く興味がない、と言わんばかりの顔だった。
「2人とも18歳、かー……伸び代しかないよねー……晴夜君なんて背も高いし、絶対向くと思うんだけどなー……」
「いえ、僕は……銀行員になりたいので、そのために大学に進学したいんですよ。」
「えー、銀行員に!? ……うわー、意外だなー……絶対女の子から引くて数多だと思うのに、勿体無いな……」
「よく言われますよ、氷華にも。」
「……で、氷華ちゃんは? 興味ある?」
「うーん……そうは言っても……学校とか、ありますから……」
「大丈夫よ、そこは社長にも言ってさ、配慮してもらうから!」
「……それじゃ……ちょっとだけ、やってみます。」
晴夜が驚いた顔をする中、氷華はちょっと照れ臭そうな顔をしていた。
「よし、じゃあ決まり!! 撮影日は……2週間後! それじゃ、この書類にサインして! ハンコは後ででいいからさ!!」
氷華は言われるがまま、契約書にサインをする。
こうして氷華は、「ラミアス」専属のモデルとして、ファッションモデルのデビューが決まったのである。
「……ホントにいいの? 何があるか分からないのに……」
亜弓と別れた後、晴夜が氷華に改めて問い詰めた。
「正直言ってさ、ちょうど何もしないで高校を卒業することになってたから……モデルやって埋めれるかなぁって思って……ごめんね、なんか勝手になっちゃって……」
「いや……まあ、悪い人じゃなかったのは分かるけど……心配だよ、人見知りの氷華が上手くやれるのか分からないし……でも氷華がやるからには応援するよ、やっと前に進めるな、って考えたら僕も頑張らなきゃいけないし。」
「うん……私も頑張る、撮影とか全くわかんないけど……」
こうして時は流れ、氷華の初撮影の日が来たのであった。
次回は撮影です。




