110th SNOW 終戦、餞の手向け
第七章終了です。
まあ、撤退戦で終わる形なんですが。
この次回から3話は「7.5章」的な形で後日談としての日常を送りたいと思います。
さて、昼茂及び諏訪を討ち取った雪子、氷華、小雪の3人は、これから撤退戦をすることになるが、主を失い怒り狂う残党が襲いかかる。
「おのれェェェ!!! よくもお館様をォォォォォォォ!!! 殺せ! 殺せェェェェェェェェェ!!!」
だが、この怨嗟とも取れる術を、雪子が余力を持って防いでいく。
「氷華、ここはワシに任せよ。お主は先に帰っておれ。」
「御当主様!? ですが……!!」
「案ずるな。ワシは死なぬ。それよりもお主が生きてくれることが……ワシやお主にとっても都合が良いじゃろう? 故に、ワシが殿を張る。だから今は逃げよ。」
氷華は納得が行っているわけではなかったが、晴夜のためと言い聞かせ、ここは逃げることにした。
「……分かりました……」
氷華は雪子の命令に従い、駆け出していった。
「……それで良い。さて……」
雪子は眼を強め、ドライアイスの壁を一瞬で作り出した。
「此処から先はアリ一匹通さぬ!! 死ぬ覚悟のある者のみワシにかかって来い!!」
仇討ちを考えていた残党達は、雪子の圧倒的な力の前に恐れ慄いてしまったのであった。
その頃、追撃を免れた氷華と小雪は。
小雪の背に乗り、氷華は陣営へと戻っていった、のだが………
「ちょ……ごめん、小雪……一回止まって!!」
何かを見つけたのか、氷華は小雪にストップを指示し、小雪は急ブレーキで、ガギギギギギッッッッ!!! という音と共に爪を地面に立てた。
「……どうしたよ、氷華姐……」
小雪は何事かと顔を見上げるが、氷華は青ざめた顔で小雪の背を降りた。
そして目撃した何かに向かって駆け出す。
そこにあったのは。
手足がバラバラになり、力なく横たわっている天狐の姿があった。
既に息はない。
氷華は愕然とした。
氷華は何度も天狐の名を叫ぶが、反応はない。
そこに小雪が肩を叩く。
「……氷華姐……気持ちは分かるぜ? けどよ……それが“戦争”だ。必ず誰かを……両方が失うもんだ。狐さんはそれを覚悟してたんだろ? そうじゃなきゃ……あんな死に顔はできねえだろ……?」
小雪の言う通り、悔いはないと言わんばかりの安らかな表情を浮かべている天狐。
「うぅ……天狐……無事でいるって言ったじゃん……!! なんで……」
氷華の目から涙がこぼれ落ちる。
良き相談相手だった天狐を失った悲しみが込み上げてきたのだった。
小雪はこれを見て、先に前に行った。
「……死んだヤツはもう戻りゃしねえ……人生そんなもんだろ? 誰が死ぬかも分からねえ、もしかしたら自分が死ぬかもしれねえ……そんなギリギリの世界でみんな……生きてんだよ。戦争なんてその最たる例だ。アタシ達は……逝っちまった奴らの分まで生きること、それが使命だろ? 違うか?」
氷華は小雪の不器用な愛情のゲキを聞き、涙を拭って立ち上がった。
「……うん……そうだね……行こうか……天狐の分まで、先に死んじゃった雪女達の分まで……生きなきゃ、ね……」
小雪と氷華は追っ手が来ないことを確認した上で、天狐の亡骸を抱えて陣地へと戻っていったのであった。
そしてその頃、雪子の方では意外な事態が起ころうとしていた。
陰陽師の陣営の方で、ではあるが。
一際長身の大男がやってきていた。
それも、晴夜によく似た顔立ちの男である。
「つ……月久殿!? 今来られたので!?」
「……ああ。今どうなっている?」
「か……過激派七人衆が討ち取られ……お館様も討ち死にされました!!」
「……そうか……雪子はいるのか?」
「今雪女の軍勢の殿としておりますが……」
大男の正体、陽陰月久は、撤退を命じた。
「……下がっていろ。あとは私がやろう。」
「恐れながら……!! あの女は危険です! それでも行かれると言うのであれば……!!」
「ベラベラと五月蝿い。もう私たちの負けは決まったのだ、無駄な死人を出したくなければ下がれ。」
「……かしこまりました……」
月久はそう言って、仕えてきた陰陽師に下がるよう命じたあと、札を取り出した。
「結界術安眠式……『永劫睡魔』」
猛烈な睡魔が陰陽師に襲いかかり、雪子に恐れをなしていた者は次々と眠りにつき、説き伏せた。
雪子はこれを見て、指を鳴らして壁を解除した。
「……来おったか……月久。」
「久しぶりだな、雪子……17年ぶりか、こうやって面と向かって話すのは、な……」
元夫婦同士が対面する。
しばらくの沈黙が流れたあと、月久から口を開いた。
「……明日……2種族間協議を私と雪子で行う。今回の件を踏まえて、な……」
「……そうじゃな……久しぶりに2人きりで……話そうかの。今後のことも、な……」
雪女と陰陽師は、両陣営とも死者をこれ以降出すことなく、陣を取っ払った。
雪女陣営は「燎」を行い、此度の戦で亡くなった雪女、及び天狐を簡易的に火葬し、その煙が天に昇っていくのを静かに見守っていくのであった。
次回から7.5章を番外編及び後日談としてやります。
第八章は「3年生編」になりますので、少し大人になった氷華と晴夜を見ていただければな、と思います。




