82話 タコさん、その真実
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昔々、ある所に、エネルギーがいっぱいある世界がありました。しかし、この世界にあるのはエネルギーだけで、人も動物もいなかったのです。
さて、その隣にもう一つ世界がありました。こちらは山があり川があり、森があり海があり、そして、人や動物が住んでいました。
そしてある日、事故が起こりました。二つの世界がぶつかって、一つになってしまったのです。
◆
「うん、飽きた。これからは普通に話すね。だいたい察せたと思うけど、この事故のせいで、この世界には『魔力』やら『魔法』っていうものが発生したの。そして、しばらくしたら『神』や『精霊』が生まれるようになったのよ」
「ずいぶんと根本まで遡ったわね……それよりもさ、『神』や『精霊』の方が魔法より後なの?」
リルの話を聞いていたタコが疑問を呈する。タコの感覚的にそれらは世界の根本的な存在であり、後から生まれたと言われてもピンとこなかった。
「そう。そもそも、魔法って何だと思う?」
急な質問に誰もが答えに詰まる。
言われてみると「こんな感じのもの」と頭の中にはあるのだが、それを言語化するのが難しい。
結局、タコがしどろもどろになりながら頭に浮かんできた言葉をそのまま口に出す。
「えっと、こう、不思議な力で炎とかを出したり……」
「ちょっと違うわね、もっと根本的な所から考えてちょうだい。そもそも、何で炎を出すの?」
やはり、それはリルの望んだ答えではないようだ。
未だ彼女の意図はつかめていないが、タコはとりあえず質問に答える。
「それはえーと……寒いとか、攻撃の為に炎を出したいときに……」
「そう! それ!」
突然、リルが両手で机を叩いた。さらに、身を伸ばしてタコを指さす。
驚いて若干身を引くタコだったが、オクタヴィアがさっとリルの体を引き寄せると、自分の膝の上に乗せた。
顔が似ていることいい、その様子は本当の親子……年齢差を考えれば姉妹の様である。
「リルさん、お行儀が悪いですよ」
「おっとっと、ごめんごめん。それで、魔法って言うのは、『炎を出したい』といった意思。それを世界に作用させるものなの」
この世界の魔法は、学問であり技術だ。
必要な現象を起こすためには、魔力をどのように操作するか理解しなければならないし、魔力の操作は経験がものを言う。
だが、結局は意思が無ければ魔法は発動しない。マジックアイテムを使用するにしても、元々は誰かが意思を持って作成したものである。
「ま、厳密にはそれを実行するための手順やテクニックなんかもあるけど、それは置いといて。極論を言えば、意思だけでも魔法は発動可能なんだ。もちろん、個人で発動することなんてほとんど不可能だけどね。でも、仮に複数、それこそ大勢の人が同じ意思を持ったとしたら?」
「なるほどね」
レインが呟く。それに、タコたちもリルが言いたいことが理解できたようだ。
つまり、神や精霊とはある種の魔法という事である。ただ、それがこの世界に住まう人々すべてが術者という、超巨大な協力魔法ということになるが。
「話が早くて助かるわ。つまり『神』や『精霊』ってのは、『こんな存在がいるんじゃないか』とか、『こんな存在がいて欲しい』っていう、こっちの世界にいる者の意思が集約させて生まれた存在なの。昔は、今よりもそんな存在がありふれていたのよ」
魔法でもゴーレムの様に疑似生命を作ることはできる。それの発展と考えれば、神や精霊が魔法で作れない理由は無い。
当時の彼らは『とある理由』により、生まれてしまえばこちらの世界の生物に依存せず存在できる、普通の生物と同じ存在だった。
そして、そのありようも自由である。彼らは時に人々の味方であり、時に敵であり、中には不干渉を貫く存在もいた。
「さてさて、長年の研究によりエルフはそんな事実に気づきます。そして、それの応用により一つの成果を出しました。『神器』という、極小の神を作り出す技術をね」
ただし、その結果が芳しかったとは言えない。自然に発生するはずの存在を無理やり作るというのは、かなりの無理があったのだろう。
確かに神器は凄まじい力を持っている。武器としてはどんな魔法よりも強力であるし、普通の魔法では困難な現象も起こすことができた。
しかし、いくら研究を続けても反動を無くすことはできず、連続使用には限界がある。それでも、エルフたちには神器に頼らざるを得ない理由があった。
「そのころの世界は、血で血を洗うような争いが起きていたの」
世界が合体した影響なのか、当時は凄まじい力を持つ種族が存在した。エルフ以上の魔法を操るもの。不死身に近い肉体を持つもの。山のように巨大な体を持つもの。
問題は、そのどれもが意思の疎通が不可能なほど異形の者たちであり、他の生物を食料としてか見ていなかったという事である。
当時は人間や魔族もエルフに近い技術を持っていた。さらに、一部の精霊や神々もエルフと協力して敵対する種族と戦っていたのだ。
それは、今の世界で起こる戦争とは比較にならないほど凄惨なものであり、滅んでしまった種族も少なくない。
「そこでエルフは考えました。人為的に『世界を平和にする神』を作れないかと。その研究は実を結び、ついに神が降臨する日が訪れたのです!」
「あっ、オチが読めたわ」
思わずタコが呟く。
まあ、それが上手くいったのなら、こんな事にはなっていないだろう。
「そう、出来上がったのは混沌の神。全ての生命を否定し、全てを破壊して混沌に戻す神」
エルフは失敗した。
平和どころか、それとは真逆に存在を作り上げてしまったのだ。
そしてそれは、未だタコの中に存在する。自身の胸元を抑えるタコだが、未だ本調子ではないのか。それともオクタヴィアが自分を解放した影響もあるのか。幸い、その存在を感じることはできない。
「奴は、壊した。殺した。そして喰らった」
凄まじい力を持った神は、全てを破壊することを目的としていた。それは、「何もいなくなれば、世界は完全に平和だろう?」とでも言いたいかのように。
しかも、混沌の神は破壊したものをその身に取り込み、次第に力を増していく。世界は、絶望に染められていった。
「なんで、そんなことになったのかしら?」
「心の底から『平和だけ』を熱望している者なんて、そんなに多くなかったのよ」
レインの質問にリルが答える。
エルフや人間、魔族の中にある『平和を望む意思』を集約して増幅すれば、望みの神を作れるはず。
その理論に間違いは無かった。だが、意思とはそんなに単純なものではない。
「前線で戦いに明け暮れるにいる兵士。愛する子ども失った親。今日の食事にすら困る子ども。病に苦しみ死を待つだけの老人。彼らの心の中に『誰か、全てを終わらせてくれ』という考えが無いなんて、言いきれるかしら?」
一概に『平和』と言っても、その内容は誰もが同じではない。皆が笑って暮らせるのを『平和』と思う者は多いだろう。
だが、自身を取り巻く『悪』が無くなるのを、『平和』だと思う者もいるはずだ。そして、その『悪』が世界全てだと考える者も。
実際、ちょうど後者に該当した者がこの場にいる。
「耳が痛い……」
タコが触手で耳を塞ぐ。
事故にあったせいとはいえ、あの時のタコは確かに世界のすべてを恨んでいた。この気持ちが晴れるのは、全てが無くなった時だと思い込んでいた。
そんな心情を察したのか、オクタヴィアが優しく声をかける。
「タコ様、あまり気を落とさないでください」
「そうそう、それが普通なんだかだから。でもね、机にかじりついているだけのエルフには、そんなことが考えつかなかったのでしょうね。ま、後は知ってのとおりよ」
そして、戦争という異常事態が起きている時にそれを実行したのがまずかった。
正しく平和を願う者より、苦しみから逃げるための平和を願う者が多すぎたのだ。
さらに、相反するような平和の意思が集約されたことにより、生まれた神も方向性が狂ってしまう。
その結果が、全ての破壊を目指す混沌の神という事だ。
リルの顔に陰りが落ちる。エルフの罪を思い出し、それを悔いているのだろうか。
とっさにタコも声をかけることができず、周囲が沈黙に包まれる。それでも、カップに注がれたお茶を飲み干したあたりでアイリスが口を開いた。
「しっかし、神器といい、神を作る技術といい、エルフってすげえんだな」
「そりゃそうよ。私って天才だもの」
「……ん?」
話の前後が繋がっていないような気がしてタコが変な声を出す。
だが、レインはすぐにリルの言葉を理解しようだ。しかし、さすがにそれはないだろうと思ったのか、念のため疑問の声を上げる。
「ひょっとして、『神器』の製作者って……」
「そう! この、大・天・才! リル様よ!」
リルはオクタヴィアの手を振り払うと机の上に飛び上がった。勢いよく足を踏み込んでポーズを取り、目と歯がキラリと光る。
どこからともなく、冷たい一陣の風が吹いた気がした。そして、正気に戻ったタコも机に上がると、リルの頭に思いっきり触手を叩きつける。
「馬鹿ー!」
「痛っ! 仕方ないじゃない、思いついちゃったんだから! それに、『平和の神』を作るのを決定したのは上であって、私は反対したんだからね!」
涙目で頭を抑えながらリルが弁解を始めた。
しかし、いまいち信用しきれないタコは、未だ触手を振り上げて目を細めたままリルを睨みつけている。
「……本当?」
「……技術的にやってみたかった。という考えが無かったと言うのは嘘になりますです」
しばらくは黙っていたリルだったが、結局は目を逸らしながら自白した。
タコは準備していた触手をそのまま振り下ろす。
「あほー!」
「いいじゃない! 結局は巡り巡ってあなたが助かったんだから!」
「リルさん! タコ様! 机の上で暴れてはいけません!」
そのままタコはポコポコと触手を叩きつけるも、リルも腕を触手に変えそれを防ぐ。だが、取っ組み合いになりそうなところで、珍しくオクタヴィアが割って入った。
それでも、リルに対してはたしなめた後に抱きしめて頭を撫でている。見た目が子どもなので手心が加わったのだろうが、タコは少しばかり寂しげにその様子を眺めていた。
なんとなくレインとアイリスは「子どもに奥さんを取られてすねる旦那みたい」と感じ、二人で目線を合わせると軽く笑いだす。
そして、落ち着いたところでレインが話を戻した。
「結果として、あなたは生まれてしまった混沌の神を封印したのよね?」
「うん、エルフ総出で神を退治しに向かったの。ただ、そこで問題が起きてね……あのクソ……失礼。汚物並みの……いや、ゲロ以下の……」
「早くしなさい」
何をこだわっているのか、リルがぶつぶつと言い直す。結局、またしてもタコが触手で突っ込みを入れて軌道修正することになった。
痛む頭を抑えながらリルが説明を続ける。
「むー、分かったわよ。あのロイドってエルフがいたでしょ? あいつが裏切ったの。あいつも当時は優秀でね、混沌の神討伐メンバーの隊長だったのよ。それが逆に良くなかった。強力な神器をエルフに向かって使用したせいで、指揮官クラスが軒並み死亡。私たちは総崩れになったわ」
何とか生き残ったリルだったが、その頃のエルフには混沌の神を討伐するほどの戦力を用意することができなかった。
しかし、彼女は別の手段を作り上げる。自身に、混沌の神を封印する方法を。
それは、天使やウンディーネが使っている契約の秘術と似たようなものだ。むしろ、その原型といえるのかもしれない。
違いがあるとすれば、相性の悪い相手でも無理やり契約を交わすことができることだろうか。
天使や精霊は、契約したものと相性が良い方が力を十全に発揮することができる。ならば、その逆。相性が悪い者同士を無理やり契約させれば、力を抑えることができると考えたのだ。
決死の作戦は無事に成功を収める。だが、リルにできたのは、あくまで混沌の神の力を抑え込むことだけだ。
「私は、壊した。殺した。そして喰らった」
それはちょうど、天使に乗っ取られていた時のベロニカとよく似ていた。それでもリルは必死に神の力を抑え、ついには共に滅びることとなる。
だが、その争いは凄まじい影響を世界に与えた。
混沌の神が断末魔と共に放った一撃は世界をも揺るがし、この世界と魔法の世界……今で言う精霊の世界にわずかな『ずれ』を生じさせる。
それは、魔法を少しばかり困難な技術に変えた。精霊や神は簡単に生まれなくなり、こちらの世界の生物を通してしか干渉できなくなった。
怪我の功名と言うべきか、エルフと敵対する種族は甚大な被害をこうむり滅亡している。
それにより、人間や魔族がその後の世界で勢力を広げることになった。神器などの技術はエルフと共に失われ、文明はほぼ崩壊状態。さらに、世界のずれは魔法の力を大きく引き下げることになったが。
「それで結局、どうやってタコの世界に行って戻ってきたの?」
「えーと、さっきこの世界と精霊の世界の話をしたわね。世界ってのは複数のものが重なったり、隣り合ったりしているのよ」
普段はお互いの世界を認識したり、移動することはできない。だが、魔法の力が別の世界から来たことを発見したリルは、さらに他の世界があることを調べ上げていた。
「混沌の神と共に死ぬことに成功した私だけど、そのままじゃ混沌の神が精霊の世界に戻って、いつかは力を取り戻してしまう。だから、混沌の神ごと『隣の世界』に移動することにしたの。その世界は神や魔法といったものが存在しない。だから、混沌の神が存在したとろころで問題ないはずだったんだけど……」
それが、元々タコがいた世界。
魔法が存在しなければ、混沌の神といえども力を発揮することはできない。むしろ、世界は神という異物を排除するかの様だった。
「実際、タコの世界は法則が違いすぎて、私はほとんど存在しなくなったわ。この世界の精霊が、普段は夢うつつで周りを認識できないのと同じね。私の場合はそれよりもっとひどかったかしら」
後は、世界が混沌の神を消滅させてくれるはず。わずかな意識で神の封印を続けながら、リルはまどろむように最期の時を待っていた。
だが、彼女の判断は甘かったようだ。混沌の神は、そんな状態でも自身の存在を保ち続け、虎視眈々と復活の為に動いていた。
「あいつは、タコの世界にわずかながら自分の意思を知覚できる者がいることに気づいた。その者を通じて少しずつ世界を書き換えていったの。もちろんそれは、自身の力を十全に発揮できる世界に」
混沌の神は、魔力による電波のようなものを発する。そして、ごくわずかだがそれを受信できる人間が存在した。
前の世界と同じように、世界の破滅を望む者はタコの世界の存在したのだ。そんな彼らにささやきかけ、自身の信者となるよう染め上げていく。
彼らは神の意志のままに世界へ魔力を放出させていく。そのエネルギー源が自身の生命力だということも知らずに。
それはまるで、葉緑素が酸素を生み出して地球を覆った時のようだった。混沌の神が、世界を自分の都合がよいものに作り替えていったのだ。
「皮肉にも、わずかに世界が変質したせいで私も少し意識を取り戻せたの。その時、混沌の神は、とある女性を通じて力を発揮しようとしていた」
「あれ? ひょっとしてそれって……?」
「そう。タコ、あなたのことよ。多分事故のせいであなたの脳にエラーでも起きたんでしょうね、松果体とかに。結果として、あなたは混沌の神の意思をすさまじい感度で受信できる存在なってしまった」
それは、いくつもの偶然が重なった、悪い意味での奇跡だった。
家族と健康な体を失い、世界のすべてを恨むような漆黒の意思。さらに、事故の影響によって、超自然的な存在を感知する力に目覚めてしまう。
そんな逸材を見つけた混沌の神は、漆黒の意思を増幅し、自身に都合のよい存在となるように仕向けていた。
「私はそれを妨害し続けていた。しばらくは人間と存在が近い私の意思が優勢だったんけどね……」
ちょうどそれは、タコがゲームを始めた時だった。
リルが混沌の神を妨害したおかげでタコも漆黒の意志が薄れ、ゲームを楽しむことができる。『リル』を作ったのは、無意識に彼女のことを感じ取ったせいだろう。
だが、その間にも混沌の神はタコのことを狙い続けていた。そのバランスがついに崩れる。
「さすがの私も混沌の神の力には敵わない。ダムが崩壊したように混沌の神の力がタコに流れ込んだ。本来はタコの肉体を乗っ取るはずだったそれに、私が横やりを放ったの。力の方向をわずかに変更し、あなたの意思を経由させるように」
「……つまり、『私』が今こうしてタコさんになったことや、ゲームの力を使えるのは、リルのおかげで混沌の神の力をパクったから?」
混沌の神が目を付けるほどの逸材。だからこそ、タコはその力を利用することが可能だった。
タコの望みであった『悪堕ち』。そのために必要な状態を、混沌の神がもたらしたエネルギーにより実現する。その結果が、今のタコということだ。
「そういうこと。それでも、あっちの世界だったら大騒ぎになっただろうけどね。ちょうど元の世界から『引っ張ってもらえた』から、それを伝って帰還したってわけ」
リルも、この世界にいくらかの『保険』を残していた。
人間と子どもを作ったこと。『祖霊召喚の儀』の原型を残したことなどである。
もちろん、前者は『保険』だけが理由ではないが、結果としてそれらは想定以上の結果を出すことができた。
「オクトの父方には高名な魔法使いがいたのよね? 多分だけど、そっちも私の血を引いていたと思うの。偶然、二つの家系が出会ったことで、オクトには隔世遺伝のようにエルフの性質が強くなった。それに私自身が帰還を望んだことで、この時代でも『祖霊召喚の儀』を成功させたのでしょう」
本来ならセシルといえども、作成時とは魔法の技術力が違うこの時代で儀式は成功できなかっただろう。様々な因子が集約したことにより、リルも帰還できたのだ。
「ありがとうね、リル。あなたのおかげで混沌の神に飲まれることも無く、こうしてタコさんとして生きることができたわ」
タコは触手を伸ばしてリルの頭を撫でる。
様々な偶然が重なって起きた異世界転移。だが、それは偶然だけではなく、リルが必死に努力して混沌の神に抗った結果なのだ。
タコからすれば死ぬところだったのを、こんな力を持って生きられるようになったのだから、感謝しかしようがない。
さらに、間接的にだがタコ経由でリルに救われたオクタヴィアも、感謝を伝えたいのか一緒になって頭を撫で始めた。
照れくさいのか、くすぐったいような表情を強いてるリルだが、まんざらでもないようだ。肉体が若返った分、精神も少しばかり引きずられているのかもしれない。
そして、そんな親子の団らんのようなものが終わると、アイリスが疑問の声を上げた。
「ところでよ。混沌の神の影響があったってことは、タコが悪堕ち好きなのもそのせいなのか?」
「いいえ、それは純然たるタコの趣味」
アイリスの疑問を、リルはバッサリと切り捨てる。
「むしろ、そのおかげで助かったわ。仮にあなたがガチガチの正義で秩序寄りの人間だったら、混沌の神のエネルギーを上手く誘導できなかったもの。『人を異形に変化させて願いを成就させる』なんて、混沌の神の力を使うにはうってつけでしょ?」
混沌の神が目を付けたのだから、元々、タコには悪に惹かれるような素質はあったのだろう。だが、平和な世界ならばそれは発揮されることも無く、事故に合わなければ普通の生活を送っていたはずだ。
タコたちが「ふーん」と話を聞いていると、続いてレインが質問する。
「もう一つ聞きたいことがあるんだけど、良いかしら」
「……その前に空気を変えましょうか。ちょっと外の空気を吸いたいの」
リルは質問の内容を察しているのか、すぐに答えようとしなかった。さらに、何か思うところがあるようで、場所を変えようとする。
予想より話が長くなったこともあり、タコとしてもその提案に異存は無い。立ち上がって軽く伸びをすると、皆は外に向かって歩き出した。




