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70話 タコさん、神と対峙する

「いったい、何が狙いだったの……?」

 聖堂の入り口を吹き飛ばすほどの爆発が収まった。しかし、タコの魔法により防御した面々に、大きな怪我はない。すぐにベロニカの魔法で治癒してしまった。

 肉体から抜け出したドゥオは、予想どおり複数の天使がつぎはきされた姿である。彼女は苦しそうな顔をしながらも、タコを一瞥するだけで聖堂に向けて飛んで行った。

 ここまで来たら後は進むしかない。タコたちも後を追って聖堂に入る。


 そこに待っていたのは、まるで太陽のように輝くエネルギーの塊だった。いったい、これだけのエネルギーを集めるのに、どれだけの人間を犠牲にしたのだろう。

 いや、ベロニカの記憶では、これは目標としていた神を降臨させるだけのエネルギーに近い。今の状況では、これだのエネルギーは集まっていないはずだ。


「どうして? これだけのエネルギーをどこから……?」

「それは、こういう事だ」

 不意に、男性の声が響く。それはエネルギーの真上からだ。そこには6枚の純白の羽にゆったりとした白い衣をまとった天使が、タコたちを見下ろしている。

 その横では未だ苦しそうなドゥオが呻いていた。


「ウーヌス! それのドゥオ!? 一体その姿は……?」

「……ちょっと待って、ベロニカちゃんにもあれが見えてるの?」

 タコが疑問の声を上げる。以前の記憶で姿を知ってるのは分かるが、今の天使の姿はベロニカでも見えないはずだ。

 オクタヴィアのほうを見れば、彼女も小さく頷く。幽霊のように半透明であるが、声も聞こえているらしい。


「我らの目的は、神のこちらの世界にお呼びすること。既にこの聖堂は、世界の境界が失われつつある……そして、これで我らの目的は達成されるのだ!」

 そう言うとウーヌスが、ドゥオに何かの魔法をかける。すると、彼女は凄まじい悲鳴を上げながら、手足の先が砂のように崩れていった。

 それと同時に、その体から凄まじいエネルギーが放出される。それはちょうど、人間からエネルギーを取り出すときと酷似していた。

 しかも、その量は人間に比べればはるかに多い。


「天使のエネルギーを……いえ、あれは天使自体をエネルギーに変換している!?」

 そんなことが可能なのか。ベロニカの知識にもそんなものは無かった。しかし、事実として目の前ではドゥオだったものが凄まじいエネルギーに変換されている。


「はは! 神のお告があったのさ、この力で世界の壁を破れと!」

 恐らく、天使の格に応じてエネルギーが膨れ上がるのだろう。

 先ほどまで自爆させていたのは、格を無理やり上昇させた天使たち。あれは、タコたちの足止めをすると共に、このエネルギー源となる役割を果たしていたのだ。


「させる訳ないでしょ! 魔力最強化/水槍(ウォータースピア)>!」

 タコがウーヌスへ魔法を放つも、それは素通りして背後の壁に突き刺さる。どうやら見えているだけで、肉体は天使の性質を有したままのようだ。

 これではタコが直接、攻撃をするしかない。


「無駄だ! 肉体を捨てた我に魔法は効かん!」

「むう……ならばタイムス……ほげー!?」

 ドゥオがもたらすエネルギーがあふれ出したかのように、エネルギーの塊からタコへ雷がほとばしる。すんでのことろでオクタヴィアがタコをかばうが、それは次から次へと放出されて周囲を破壊していった。

 それを回避しているうちに、ドゥオの体がどんどん消滅してく。


 そして、ドゥオが完全に消滅したときには、エネルギーの塊が破裂しそうなほど巨大になっていた。それが一点に集まるように収束を始める。


 その時、世界に衝撃が走った。


 収束したエネルギーの中心から、まるで鋼鉄のドアを殴り付けているかのような音が辺りに響く。それは、オクタヴィアの記憶にある、タコが初めてこの世界に出現した時に酷似していた。


 ガラスが砕けるような音と共に空間が裂け、そこから光があふれ出す。光が収まった時には、一人の少女が残されていた。


 少女は雪のように白い肌に、ほとんど白に近い金髪をなびかせている。表情の無い顔は儚さすら感じられるも、作り物のように不自然なほど美しい。それとも、これが人外の美というものだろうか。

 体には粗末とも思える白い衣をまとっているだけであるが、それが逆に少女自身の神秘を強調しているかの様だった。


「ついにこの時が来た! ああ、神よ! あなたが降臨されたことに無常の喜びを感じます!」

 陶酔するウーヌスが地面に降り立ち少女の目の前に跪く。少女の方は未だ感情のこもらない瞳で、彼の方に視線を向けた。


「我らと共のこの世界に光を……がはっ!?」

「ほげっ!?」

 突然、少女がすっと手を上げてウーヌスの喉を掴む。

 大人と子どもの対格差を物ともしないほど、その手には凄まじい力だ込められているようだ。彼は振りほどくこともできず、呻くだけである。


「お、お許しください! 不完全な復活となってしまったことを。さらに、本来ならこの世界を支配してからあなた様に捧げるべきところを……」

「違う」

 少女は、その声ですら神秘的な響きのある美しいものだった。だが、顔は変わらず無表情でありながらも、声からは苛立ちのようなものが感じられる。


「人を守るべき私を呼ぶために、人を犠牲にするなど本末転倒。でも、私を呼んだ功績と差し引いて消滅で済ませてあげる」

「ひっ! お、おやめくだ……」

 少女がその手に力を込めると、眩い光が周囲に放たれる。すると、ウーヌスは先ほどのドゥオのように苦しみの声を上げながら、粒子に分解されてぽろぽろと消えていった。

 それはほんの数秒のことであり、少女は手を軽く振るうとタコの方に視線を向ける。


「は、はろー? 初めまして、邪神タコさんです」

 いきなりウーヌスを消滅させたことにはびっくりしたタコだが、少女は人間のことを思いやるようなことを言っていた。

 ちょっとは話し合いの余地があるのでは? と考えるも、それはすぐに切り捨てられる。


「さて邪神よ、次は貴様が消滅する番ね」

「ええー!? ちょっとは話し合いましょうよ! 別にタコさん、人間を滅ぼそうなんて思ってないわよ!」

 タコの目的は、人を不幸にする天使を倒すことだけだ。向こうがそれを止めタコたちに攻撃をしてこないなら、これ以上は戦う必要が無いはず。

 しかし、少女はタコに対して静かに、だが確実に敵意を込めた目を向けていた。


「あなたが何を考えているかなど関係ない。あなたの存在は、世界の調和を乱す」

「そんなことはありません! タコ様は、世界に平和をもたらしています!」

 タコに続いて、オクタヴィアも少女に反論する。彼女自身もタコに救われた者の一人だ。たとえ少女が神であっても、そんな意見には反発するしかない。

 そんな言葉に対し、少女は軽く目をつぶり自身の胸に手を当てる。


「私は、人を愛している」

 その言葉には、母親のような愛が込められていた。

 一体、何を言っているのか。それが、なぜタコたちと敵対する理由になるのか。

 少女の言葉は間違いなく本気だった。それが逆に、何を言いたいのかタコたちには理解できない。


「だから私は、魔を否定する。魔獣、魔族、精霊……そして、魔法。こんなものがあるから人は苦しむ。私は、この世界から魔法と、それに関するものを全て……滅ぼすの!」

 先ほどまでとは打って変わって、少女の顔が憤怒に染まる。同時に拳を握りしめると、それだけで周囲に爆発のような衝撃波が響いた。

 だが、その程度でひるむタコたちではない。特にベロニカは、神であるこの少女に対して怒りの声を上げた。


「何を言っているのですか! そもそも、天使自身が人を物のように扱っていたというのに!」

 確かにこの少女は人のことを想っているのだろう。だが、それでは天使の行動に説明がつかない。

 自身を、この国の人々を蹂躙したのは天使自身だ。それは絶対に、許されることではない。


「天使……私の端末が暴走していたのは確かね。私を呼ぶために送り込んだというのに、こんな手段を取るなんて。それが失敗だったのは認めましょう」

 少女の顔から怒りが消え、悲しそうな表情になる。反省しているのかと思ったが、続いたのは身勝手な言い訳だった。


「でも私は、境界が揺らいだことでウーヌスに指示を与えた。人を逃がし、自らの命で境界を破壊して、と。それに、狂った端末は私自らが処分したよ」

 少女は、天使自身のエネルギーを利用する方法を教えると共に、行動の指示もしていたようだ。それが、あの数万人の行軍なのだろう。

 だが、それすらもウーヌスは曲解した。人間をおとりに使い、司祭たちを足止めに利用している。


「それで罪を償ったつもり!? もっとやるべきことがあるでしょう!?」

「私が世界を管理すれば、人間は幸福なる。ならば、少しでもそれを早めるのが私の贖罪。まずは、全ての魔を駆逐しなきゃね!」

 まるで開き直りのような言い草にタコが反論するも、少女は一切の効く耳を持たないようだ。

 そのまま腕に力を込めると、タコに向けて突撃してくる。その速さはアイリス以上であったが、何とかオクタヴィアがタコを庇った。


「ぐふっ!?」

「オクトちゃん!?」

 少女の一撃を受け、オクタヴィアが壁まで吹き飛ばされる。その勢いは凄まじく、壁が砕けて穴が開くほどだった。

 間違いなくその威力は、レインやアイリスの攻撃を超えている。


「まずは一人。残念ね、人の身でいればこんな事にはならなかったのに」

 確かな手ごたえを感じ、少女は満足そうにつぶやく。そのまま逆の手でタコを狙うも、そこにベロニカが背後から鎌を振り下ろした。


「このっ!」

「遅い」

 そんなことは予測済みだと、少女は鎌を避ける。そのまま体を回転させ、勢いを付けた拳をベロニカの脇腹に叩きつけた。

 彼女は先ほどのオクタヴィアのように壁まで吹き飛ばされる。


「終わりよ、邪神」

 近接戦闘がからっきしなタコは、少女の攻撃を防御することはできないだろう。そもそも、タコはオクタヴィアが吹き飛ばされた方を見たままだった。

 勝利を確信した少女が腕を振るう。だが、それはパシッと音を立てて受け止められた。タコの居たところに、いつの間にかいたオクタヴィアによって。


「……何?」

「させません! 私がいる限り、タコ様には指一本触れさせませんよ!」


「何故あなたがここに……? 今、吹き飛ばしたばかりだというのに」

 これは、オクタヴィアが「仙術/風水《我と位を替えよ》」を使用したためだ。対象と自分の位置を入れ替えるスキルである。

 先ほど受けた傷は、ポーションとタコの魔法で回復済みだ。タコが少女の方を見てすらいなかったのは、オクタヴィアがこうすることを理解して治癒魔法を唱えていたためである。


「多段連射・魔力最強化/<水噴射(ウォーター・ジェット)>!」

 オクタヴィアと入れ替わったタコは、水を連射して少女を吹き飛ばす。

 だが、すぐさま体勢を整えた少女がタコに向けて飛びかかってきた。しかし、タコは正面からやり合う気などない。


「魔力最強化/<(クリエイト)作成(・ウォーター)>! あーんど、<肉体(ボディー・オブ)液化・ウォーター>!」

 魔法で水を作り出し、聖堂の中を水びだしする。さらに、自身の体を水に変えてしまえば、水になったまま聖堂中を自由に移動できるのだ。

 攻撃が空振りした少女へ、背後からオクタヴィアが迫る。


「今度は、こちらの番です!」

「私もいますよ!」

 それに、先ほど吹き飛ばされたベロニカも続く。彼女も自らの魔法で既に傷を癒しきっていた。

 だが、二人の攻撃は少女にまで届かなった。


「児戯ね。この程度で神は止められないわ!」

 少女が気合を込めると、全身から眩い光と衝撃波がほとばしる。それは、聖堂中の水を蒸発させ、オクタヴィアとベロニカを吹き飛ばした。

 さらにその目は、先ほど自分の攻撃を受け止めたオクタヴィアの方を見ている。


「まずはあなたから!」

「ぐ……」

 吹き飛ばされているオクタヴィアに、攻撃が受け止められるはずもない。少女の拳が彼女の胴体を貫き、オクタヴィアの口から血がほとばしる。

 その様子に、少女の口の端がわずかに吊り上がった。


「これで理解したかしら。神の力を」

 確実に心臓を貫いた。このままばらばらにしてしまば復活もできないはず。少女が腕に力を込めようとする。


「ええ、よく分かりました。あなたが、私たちに勝てないってことがね」

「何?」

 オクタヴィアの両手が少女の腕を掴んだ。心臓が破壊されたというに、この力はどこから出てくるのか。

 しかも彼女は、この状況で反撃のためのスキルを準備していた。


「HPの8割ってところですか。一撃で私を殺せない時点で、力不足ですよ……《強打》!」

「な……!?」

 スキルで強化した筋力で、オクタヴィアが少女の腕を粉砕する。自身の肉体に絶対の自信があったせいか、少女は一瞬、放心してしまった。

 その隙をついてベロニカが少女を鎌で吹き飛ばす。


「ふふ、《束の間の不死》を使っていたというのに、無駄になりました」

 ベロニカは『地母神』の能力で、スキルの名前通り一時的に不死になることができる。もちろん、再使用には時間を置く必要があるが、それも課金アイテムで無視可能だ。


 結局、少女はオクタヴィアとベロニカ、どちらを狙おうとも殺すことはできなかったのだ。そして、死ななければポーションと魔法ですぐに回復することができる。

 最悪、課金アイテムにはもっと素早く回復できるものだって存在した。


「オクトちゃん! 魔力最強化/<大治癒(メジャー・ヒーリング)>!」

 実際、ポーション使用するオクタヴィアにタコが魔法をかければ、お腹の穴はすぐさま修復される。


 相手の本拠地に突入するにあたり、タコだって何も考えずにこのメンバーを選出したわけではない。

 タンク1人に回復役2人。防御に徹すれば勝てはしなくても、負けることはない。

 だが、それでだけは千日手になってしまうところだが、もちろん、タコはその対策も考えている。


「う、腕一本砕いた程度で調子に乗らないで! この程度すぐに……」

 そう言うと少女の腕が一瞬で再生する。

 だが、それを誇る前に、タコのチャットへ待ち望んでいたメッセージが入った。


「ああ良かった。タコさん達の勝利も決定したみたい」

 タコが穏やかな顔で告げる。

 何のことかと少女が視線を向ければ、いつの間にかタコの横にレインとアイリスが控えていた。

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