表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/93

67話 タコさん、決意する

「ベロニカさまー、マリアちゃんから連絡があったのー」

「また面接して欲しい人がいるってー」

「向こうの準備はおっけーなのー」

「あ、ホタルちゃんたち。どうもありがとうございます」

 対策本部に詰めていたベロニカに、ホタルたちが突撃してきた。彼女たちが言ってるのは、マリアのようにこの国の司祭だった者たちへの面接である。


 既にいくつもの村を救っているタコたちがだが、天使や教会に騙されていたことを知った者の中には、彼らへの復讐心をあらわにする者も少なくない。

 それが元司祭ならば暴走しかねないし、村人なら逆に元司祭に対して反発しかねない。そこでタコたちは一時、元司祭を自分たち預かりにすることとした。


 もちろん、天使が抜けたとはいえ、教会の教えに従っていた者たちだ。場合によってはタコたちに反発することもある。

 そのため、一度は彼らと面接してから今後の扱いを決めているのだ。


 面接は基本、タコとベロニカ、それにマリアの三人で行っている。さっそくベロニカはタコを呼んでマリアのいる村に向かった。


「マリアちゃーん! 来たわよー!」

「タコ様、ベロニカ様。この度はお忙しい所をありがとうございます」

 マリアの村は、以前よりもかなり大きくなっている。

 いくら村を救えても、周辺の村が被害を受けいていた場合、今後が成り立たない村も存在する。そんな者たちの受け皿となったのがこの村だ。

 他にも、ベロニカの住んでいた村なども開発を進めており、タコたちはこの国に新たな体制を整えつつある。もっとも、現在はタコたちの支援あっての生活ではあるが。


「マリアさんもお疲れ様です。色々と大変でしょうに」

「とんでもない。要望を出せばほとんど叶えていただけるなんて、いたれり尽くせりな状況ですよ」

 体制が変わった以上、人々には以前よりも良い生活になったと思わせなければならない。そのため、村の増築と合わせて村民からの要望も叶えるようにしている。

 例えば、農業用水の整備などは、水の国であるナスキアクアに優れた技術があるため、そこから技術者を派遣してもらった。

 他にも、街灯や通信などにニューワイズ王国のマジックアイテムを導入している。

 今後は、そういったものを通じて他国との繋がり強化して欲しいのだ。


「さて、早速ですが元司祭の方に会わせていただけますか」

「かしこまりました。こちらへどうぞ」

 村の見学もそこそこに、改装された教会に赴く。そこでは一人の少女がタコたちを待っていた。

 彼女はタコたちに気づくと大きく頭を下げる。事前にタコやベロニカのことは聞かされているのだろうが、さすがに本人を前にすれば緊張してしまうようだ。


 少女は15歳ほどで、司祭として独り立ちしていたのならかなりの若手である。それだけ優秀だったのだろうか。

 まあ、その辺は本人に確認すればいいだろうと、面接を始めるため別室に入る。


「さて、そんなに緊張しなくてもいいですよ。あなたの意思を確認したいだけですから。まず、お名前は?」

「テ、テレサといいます。……よろしくお願いします」

 テレサは緊張しているのもあるが、あまり元気が無いようだ。よく見れば若干、頬がこけている気がする。


「ふむ、ちょっと元気が足りないわね。ほら、可愛い顔してるんだからもっと笑って笑って」

 タコがおどけながらテレサの緊張をほぐそうとしていると、その手の甲に2画の刻印の跡が残っているのを見つけた。

 2画ともなれば天使とかなりの意思疎通を行えたはずだ。そうなると精神汚染も激しいはず。

 それとも、それだけ天使に依存していたのに裏切られたのが、この元気のなさの原因だろうか。


「さて、あなたは今、教会や天使のことをどう思っているのか聞かせてもらえますか?」

「……私には、姉がいました。私よりもずっと才能を持っていた、自慢の姉が」

 テレサは、ぽつぽつとこぼすように話を始める。少しばかり質問からずれている気もしたが、タコたちはそれを指摘することなく耳を傾けた。


「教会にいた頃は互いに成果を競い合いながら、辛い修行をしながらも楽しい生活を送れていたのです。ですが、それも姉が3画になった時に終わりを告げました」

 その頃から姉は、人が変わったかのように冷たくなったそうだ。テレサを見ても知らない人を見るような目しか向けず、むしろ、修行の邪魔だと言ってくるようになったという。


 恐らく、その精神は完全に天使の支配下にあったのだろう。天使からすれば家族の情など無駄なものでしかない。

 かなりのショックを受けたテレサ自身も、天使による精神誘導を受けてそれが当然だと思うようになっていった。しかし、一度感じた衝撃は心に刻まれ、以前より修行に身が入らなくなる。

 それが上層部に聖女として不適だと判断されたのか、本部から離されて地元の教会に勤めることとなった。


「そして先日、久しぶりに姉が村に戻ってきたのです。……村人の生命力で、私を3画にするために」

「ああ……それは……」

 才能はあれども思考に問題ありと判断されたテレサだが、3画になれば天使の意思の方が優先される。ならば、有効活用してやろうと天使は考えたのだろう。

 テレサは久しぶりに姉と会えたことに喜びを感じており、いつも以上にその様子がおかしいことに気づくことはなかった。

 そして、村の皆が教会に集まったところで悲劇が始まる。


「村人から次々と生命力が抜き取られて私に注ぎ込まれる。それと同時に私の自由意思も無くなっていきました。ですがその時、確かに見たのです。姉が、血の涙を流しているのを」

 それは、姉に残っていた最後の心だった。どれだけ天使に支配されても、残っていた親愛の情だ。それが天使の命令に反発する。

 だが、姉に残っていたのはわずかな精神のかけらに過ぎない。その抵抗は、すぐさま天使に押しつぶされてしまう程度のもの。

 しかし、その抵抗は無駄ではなかった。


「一瞬、ほんの一瞬ですが姉の魔法が止まりました。その一瞬のおかげで、私はアイリス様に助けていただけたのです」

 教会に飛び込んできたアイリスが、姉に組み付いて魔法を中断させたそうだ。だが、次の瞬間に姉の体は爆発して消滅してしまう。天使が自爆を選択したのだろう。

 残念ながら、肉体が消滅してはタコでもベロニカでも復活させることはできない。


 テレサの方は自爆する準備がされていなかったこともあり、人狼が意識を奪うことに成功する。

 しかし、天使はテレサに集まっていたエネルギーを回収して、逃げ出してしまったそうだ。


 何とか村人たちも一命をとりとめ、その後は半ば強制的ではあるが、村はアイリス率いる人狼や半魚人たちの支配下となった。

 3画の司祭の暴走や、魔族と思わしきアイリスたちに混乱する村人たちだが、生活が保障されていることから何とか平穏を取り戻していく。

 だが、テレサは姉を失い、天使の契約もなくなった。呆然としたまま何も手につかない日々が過ぎていく。

 そんな折、事情を知ったマリアが村を訪れる。


「そして、私は天使たちの本性を知りました。同時に、生まれて初めて怒りに我を忘れたのです」

 幸い、魔力を失った彼女が暴れたところで、マリアがすぐにそれを押さえてくれた。優しく抱きしめられたことで怒りが落ち着くも、しばらくそのまま泣き続ける。


 マリアはテレサが泣き終えるまで、何も言わず抱きしめていた。最後にはまた優しくその頭を撫でてくれる。

 そして、この気持ちをどうすればいいかという疑問に対し、ベロニカに会うことを勧めてくれたのだ。


「私は、どうしたらいいのでしょうか。姉を失った、天使に奪われた怒りと悲しみを未だに処理できていません」

 信じていたものに裏切られ、姉を失ってしまった。魔力すらなくなった体では、復讐を果たすこともできない。

 だというのに、自分の中にある感情は日に日に大きくなるばかりである。それをどうしたらよいのか、テレサは常に苦しんでいた。


「それなら、私と一緒に復讐を果たしますか?」

「……え?」

 そんな少女に対し、ベロニカはあっさりと過激な答えを提案する。

 予想外な答えにあっけにとられているテレサだが、ベロニカはそのまま話を続けた。


「聞いているでしょう? 私も、タコ様も『邪神』ですよ。復讐を果たしたいなら、喜んでそれを手伝います。ただし……」

「あなたはそのために、人間を辞められるかしら?」

 ベロニカの言葉を引き継ぎ、タコがテレサの目を見つめる。思わずビクッっと体が震えてしまう彼女だが、それでも目をそらすことはなかった。


「タコさんは復讐も暴力も否定しないわ。必要な力もプレゼントしてあげる。でもね、絶対に引き返さないほどの決意が無いなら、それを忘れて穏やかに生きることをお勧めするわよ?」

「……」

 少女の瞳がわずかに擦れる。それは、明らかに悩んでいる証拠だ。

 そもそも、この国で人外の存在は神の敵扱いである。いくら天使がいなくなったとしても、染みついた考えからすぐに抜け出すことはできない。テレサが躊躇してしまうのも当然だ。

 しかし、その揺れはすぐに収まる。


「タコ様。私に、力を下さい」

 そして、今度はしっかりとタコの目を見つめ返してきた。その瞳は復讐という黒い意志に染まっていながらも、きちんと人間を辞める意味を理解している。

 タコもそれならばと、満足そうに大きく頷く。


「うむ、よく言いました! ならば、あなたに力を授けましょう!」

 タコはインベントリから漆黒に染まった鳥の翼のようなものを取り出した。それをテレサの背中にくっつければ、翼から噴き出した闇が彼女を包む。

 闇が晴れた後には、大きな黒い翼が生え、肌が褐色に染まったテレサが残されていた。

 自分の意思で動く翼に違和感を覚えながらも、タコはその間にレベルアップの宝珠やエキスパートブックでテレサを強化していく。


「こ、これが私……? 凄い、体中から溢れるほどの力が……」

「テレサちゃん、あなたは堕天使になりました! ふむ、どうせだから鎌と仮面はベロニカちゃんとお揃いにしましょう。この力で、天使に立ち向かってちょうだい!」

 天使と契約していた頃とは比較にならないほどの力に、テレサは興奮していた。

 とりあえず先達としてベロニカに指導を任せようとタコが視線を向ける。それを察した彼女は頷いてからテレサの前に立った。


「ではテレサさん、まずあなたがするべきことを教えます」

「はい! ベロニカ様、何なりと!」

 タコの力を目の当たりにしたテレサは感動に震えてる。この力があれば、天使を倒すことも簡単だろう。

 ならば、すぐにでも天使を倒しに行きたい。早く復讐を果たしたい。そんな期待を込めてベロニカの言葉を待つ。


「お腹いっぱい、ご飯を食べなさい」

「え?」

 だが、ベロニカの口から出たのは、復讐とは全く無関係な言葉だった。

 いったい、なぜそんなことを言うのか? それとも、何か深い意味があるのか? 

 目を丸くして呆けているテレサに対し、タコが近づいてその肩を掴む。


「この村なら食べるものもいっぱいあるから、遠慮する必要はないわ! 心身共に健康になって、奴らを見返してやるのよ!」

 タコは触手でテレサの薄い頬をぷにぷにと触りだした。やはりあまり肉がついていないようで、タコとしてもご不満な触り心地だ。これは早急に改善する必要がある。


「まずはこれ! はい、あーん」

 そう言ってタコはインベントリから飴を取り出す。これは、レインが丹精込めて作った高級品である。それを少し無理やりにだがテレサの口に放り込んだ。

 めったに食べられない甘味に、思わずテレサの頬が緩む。


「あ、甘い……」

「いいこと? 復讐をしたいなら、まず自分が救われなきゃだめよ! 幸せいっぱいの状態で、無様な相手に高笑いするくらいの気持ちでいなさい! 復讐を果たした後には、あなたの人生が待っているんだから!」

 恐らく、今のテレサが天使を倒したとて、後に待っているのは燃え尽き症候群だ。

 ならば、少しでも周囲とのつながりや、仲の良い相手を見つけてもらわなければならない。自分を頼ってくれる者を作るのもいいだろう。


 タコはテレサの頬を少し上に吊り上げ、無理やり笑顔のような形にする。まだ、自分でこの形にすることはできないだろうが、皆の助けがあればベロニカのように立ち直ってくれるはずだ。


 テレサは邪神にこんなことをされるとは思ってもおらず、困惑しながらされるままになっていた。だがそれでも、タコが自分のことを心配していることははっきりと認識できる。

 それこそ、まだ天使と契約する前、姉が自分にしてくれたように。


 テレサの目に涙がにじむ。そして、無意識に、ほんの僅かにだが、その顔には微笑みが戻り始めていた。



 それから数日、タコは既に何件もの面接を終わらせていた。

 テレサのように復讐の為に悪堕ちした者もいるし、人間のままでいることを選んだ者もいる。

 悪堕ちしなかった者や男性も思考に問題が無いことを確認すれば、杖と腕輪を渡してもろもろの仕事についてもらった。

 あれを持っている者がベロニカの庇護下であることは周知されているので、元司祭だと村人から邪険にされることもない。


「さすがはタコ様ですね。マリアさんも、テレサさんが元気になって良かったって言ってましたよ」

「……うーん、そーねー」

 面接は次々に成功しているのに、伏魔殿に戻ってきたタコは触手を組んで難しい顔をしていた。

 ベロニカが心配そうにタコの様子をうかがう。


「どうしましたタコ様? 何やら元気が無いようですが」

「……今更だけど、悪堕ちする女の子がいるってことは、それと同じ数の悲劇が起きてるってことなのよね……」

 現状に満足している者なら、今の体を捨ててまで力を得ようと思わないだろう。悪堕ちを受け入れるということは、それだけの転機を迎えているということだ。

 そして、テレサと似たような境遇の者が、この国にはあまりにも多かった。


「悪堕ちしてくれる娘がいるのは嬉しいんだけど、なんか微妙な気分になるのよねー」

「確かに……そうですね」

 タコの気持ちを理解したベロニカも不安な表情になる。いくら人々を救ったとして、それは対処療法に過ぎない。悲劇が起きる前に防ぐのが一番なのだ。

 だが、現状では後手にしか回れないのも事実である。タコが頭をひねっても良い案が出るわけでもない。

 だがその時、タコのチャットにレインから呼び出しが入った。


『タコ、緊急事態よ! 対策室に来て!』

 慌ててタコとベロニカは対策室に転移する。そこではすでにアイリスとオクタヴィアもおり、地図を睨みつけながら様々な情報を書き加えていた。


「ちょちょちょ、ちょっと! 一体何があったのよ!?」

 緊迫した状況を理解したタコが、早々に説明を求める。

 まず、レインが地図に示したのはスプレンドルの中心部だ。タコたちでも探索が進んでおらず、未だ空白地帯が多い。


「スプレンドルの首都近辺に動きがあったの。大規模な軍団、おおよそ数万人がナスキアクアに向けて進軍中だと思われるわ」

「数万!? いったいそんなにどこにいたの!?」

 驚くタコをよそに、レインが地図に情報を書き加える。どうやら彼女のチャットには次々に情報が届いており、それは悪いニュースばかりのようだ。


「私たちがコツコツと司祭と潰している間に、転移魔法でかき集めたんだと思う。セクスとかいう天使が、転移妨害の魔法を使えるのは確認済みだからね」

 天使が命令すれば、この国の人間はまず逆らえない。それに、魔法で洗脳すれば女や子どもだって兵士のように行動できる。

 恐らく、タコたちが到達していない、首都に近い所から人々を強制的に連れて来たのだろう。


「数万の中には契約者も多数いるでしょう。でも問題は……」

「ただの人間がいる以上、正面からぶちのめすわけにはいかねぇってことだな。かといって普通の兵士や半魚人では3画以上の相手には力不足。最悪、天使の杭を連発されたら人狼たちでも危ねぇ」

 これが数千人規模なら、ナスキアクアのように後で復活させる方法も取れた。だが、万単位となるとそうもいかない。

 戦場が森ともなれば取りこぼしが発生するだろうし、見つけた頃に損壊が激しければ復活させることができなくなる。

 さらに、軍の中にはタコたちでなければ対応できない者も存在するのだ。これでは安易に攻め込むはわけにはいかない。


「それに、こいつらは間違いなく陽動よ。恐らく、本拠地で本命を準備しているんでしょうね」

 さらに、現状で彼らが攻めに転じる理由が考えられない。正面から戦ってタコたちに勝てるとは向こうも思っていないだろう。

 そもそも、本気で攻めに転じるなら5画クラスを全面に押し出すはずだ。


 しかし、タコたちはこの軍団を無視することはできない。放っておけばこの国でタコたちが押さえた村を平気で攻撃するだろうし。最悪、ナスキアクアまで来られたらどれほどの被害が出るだろうか。

 対応策に頭を悩ませる面々だが、そこにタコの大きな声が響いた。


「よし! 決めた!」

 全員の視線がタコに向かう。タコはその中でレインの方を向くと、自信たっぷりの声で宣言する。


「レイン、あなたを軍団に対処する総大将に任命します。イカや人狼に妖精。それに、アレサンドラちゃん達悪堕ちメンバー。ヴァイスちゃん、ドラゴンちゃん達も全員そっちに向かわせましょう」

「おいおい、ほとんど全員じゃねえか。本拠地の方はどうするんだ?」

 一体、タコは何を言っているのか。あまりにも滅茶苦茶な内容に皆はあっけにとられていた。

 だが、タコの表情は真剣そのものだ。


「タコさんとアイリス。ベロニカちゃんとオクトちゃんで行くわ」

「タコ、さすがにそれは……」

 戦力の偏りが過ぎる。そう言いかけたレインだったが、その言葉を飲み込んでしまう。それは、タコがじっと自分の目を見つめていたからだ。

 レインの言葉が止まったところで、タコは正面を向いて全員へ語るように話し始める。


「これ以上、悲劇はいらない。助けられる者は、全員助ける」

 それは、タコにしては珍しい、実に真面目な口調だった。それが、有無を言わせないほどの説得力を持たせる。

 さらに、タコはレインの方を向くとじっとその目を見つめた。


「レイン。あなたなら、可能な限り犠牲を出さない作戦を実行してくれるでしょ?」

 その言葉に込められているのは、信頼であり、確証であり、絶対の自信だ。レインですら反論することなど思いつかなったほどである。

 タコがこう言うのなら、作戦など思いつくのが当然。既にレインの中では様々な作戦が立案されていく。

 その反応に満足したタコは、次にアイリスの方を向く。


「アイリス。あなたなら、誰が来たって絶対に負けないでしょ?」

 アイリスは実に嬉しそうな笑顔を見せた。どれほど強力な敵がいるのか分からない本拠地に、少人数で乗り込む。

 それは、鉄砲玉だと言われても仕方がない仕事である。だが、アイリスにとっては一番欲しかった任務だ。

 欲しいものが手に入る喜び。それは、ぞくぞくするほどの快感が、背筋から全身に駆け巡るほどだった。

 タコはその様子に微笑むと、ベロニカの方を向く。


「ベロニカちゃん。あなたは、自分の手で決着を付けたいでしょ?」

 ベロニカに喜びと緊張、二つの気持ちが湧き上がった。それでもタコの視線から逃げないように姿勢を正す。

 復讐を果たせるのはもちろん嬉しい。だが、自分にこれほど重要な任務が任されるとは正直、思っていなかった。

 しかし、今のベロニカは以前とは違う。タコがそう言うなら、その信頼に応えたい。それが、自分に今まで以上の自信を与えてくれる。

 ベロニカは強い意志を込めた視線をタコに向け、了解の意味を込めて大きく頷いた。タコも嬉しそうに頷き返す。

 そして、タコは最後にオクタヴィアへ顔を向けた。


「オクトちゃん。あなたなら、タコさんのことを完璧に守ってくれるでしょ?」

「はい、もちろんです! 私にお任せください!」

 オクタヴィアはいつも通り、満面の笑みに元気な声で返事をする。既に、彼女の頭の中には不安や疑問など存在しない。

 タコから力を授けられ、伏魔殿に来てからは鍛錬を続けてきたのだ。自分がどれだけのことができるのか、しっかりと認識している。

 さらに、タコを守るという任務を与えられたのだから、やる気は100倍だ。悩む必要など、どこにもない。


「よし! それじゃ作戦開始よ! もちろん、みんな無事で戻って来なかったら、タコさん怒っちゃうからね!」

「はい!」

 期待通りの反応に、タコは満面の笑みでそれに応える。そして、作戦開始を宣言すれば、全員が元気よく返事をして準備に動き出した。

 タコ自身だってやる気も気合も十分だ。これで、この国の悲劇は終わらせる。そんな決意に溢れている。


 そのためには万全の準備が必要だと、タコは伏魔殿の倉庫からインベントリへ次々にアイテムを放り込んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ