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5話 タコさん、準備をする

 少女は、見知らぬベッドの中で目を覚ました。

 全身が鈍く痛み、ほとんど動かすことが出来ない。さらには口や鼻だけではなく、至る所に管が差し込まれていた。


 いったい何が起きたのか?

 なぜ自分はここに居るのか?

 家族はどうしているのか?


 思い出せない。麻酔が効いているせいか頭も上手く働かない。少女にできることは、夢と現をさまようことだけだった。


 ……


 すでに一月くらい経過したのだろうか?

 いまだに痛みは続いているが、頭ははっきりしてきた。

 脳波操作が可能なタブレットを渡されたが、ネットには接続されていないようで、アプリで本を読むくらいしかできない。

 少女にはいまだ何も説明がされていない。不安と痛みに耐えながら、何も考えないようにひたすら文字を追っていた。


 ある日、症状が安定したと判断したのか、やっと医師が自分の状態を説明してくれることになった。だがそれは、周りに看護師が付き添い、鎮痛剤などを準備したうえでのことである。


 そして少女は、自分にはもう家族がいないことを知った。



 タコは、拠点の布団の中で目を覚ました。

 黒い記憶が蘇るが、すぐ横を見ればオクタヴィアが布団の近くに座っており、不安そうな顔でこちらの様子をうかがっている。

 あれは夢だった。タコは自分が異世界にいることを実感すると、力が抜けて布団に身を預けた。


「おはようございます、タコ様。うなされていたようですが、大丈夫ですか?」

 その言葉にタコは気持ちを切り替えて、飛び上がるように跳ね起きる。そして、触手でオクタヴィアを強く抱きしめた。


「おはよー、オクトちゃーん! タコさんもう大丈夫よ、心配してくれてありがとー!」

「きゃっ! タコ様、ちょっと苦しいです」

 タコは力を緩めるが、そのままオクタヴィアを抱きしめ続ける。彼女はタコの様子に何かを感じたのか、抵抗もせずに触手に身をゆだねていた。

 しばらくすると、タコは自分の額をオクタヴィアの額にコツンとくっつける。


「本当、ありがとね。タコさんとっても元気が出たわ」

「いえ、これくらいならいつでもどうぞ」

 触手を離すと、オクタヴィアはレインから朝食なのでタコを起こしてくるように言われたそうだ。ゆるりと起き上がり二人で食堂に向かう。


「あ、ボス、おはようなのー!」

「みんな、おっはよー!」

 すでに食堂にはほぼ全員がそろっており、みんなが楽しそうにがやがやと朝食を食べていた。この食堂はギルドの施設であり、メニューを選べば自動的に食事が生成される。

 タコとオクタヴィアも皆に挨拶を返しながら好きなものを選び、レインとアイリスを見つけるとその横に座った。


「レイン、アイリス、おっはー!」

「おはよう」

「ちーす。ずいぶんとゆっくりだったな」

 二人は先に朝食を食べ始めており、レインはこんな時でも完全装備だ。兜の口の部分だけ大きく開けて、大量のハチミツがかけられたパンケーキを突っ込んでいる。


「ところで、この食堂といいギルドの施設は使えるのね。エネルギーはどうなってるの?」

「それなんだけど、ギルド情報を見てちょうだい」

 ギルドの施設は基本的にエネルギーを供給しないと使用できない。この伏魔殿も食堂、錬金設備、鍛冶設備などなど、色々な所でエネルギーが必要である。


 そして、エネルギーの供給方法も様々だ。

 例えば、自然が多い所ならば自動で周囲のマナを回収できる。他にも、アイテムを分解してエネルギーを発生させる装置や、石炭などを消費する発電機のような物もある。最悪、プレイヤーのMPやSPスタミナポイントを使用することも可能だ。


 そういったエネルギーの状態は、ギルドの加入者ならウインドウで確認できる。

 さっそくタコがウインドウを開いてみると、結構な量のエネルギーが供給されていた。どうやらこの場所はマナが豊富にあるようだ。


「ずいぶんと良い場所みたいね。地脈でもあるのかしら」

 周囲のマナが多い所として地脈や霊峰、遺跡などがある。そういった場所はギルド同士で取り合いになることも多く、タコも場所の確保に苦労した。後半は面倒になり課金で直接エネルギーを調達するようになっていたが。


「さすがにフル稼働は無理だけどね、普通に生活する分には問題ないわ」

 レインの言う通り、水や光源、食堂などに限定すればエネルギーは足りている。しかし、他の施設が使えないというのも都合が悪い。特に、転移装置や作業用ゴーレムなどは何をするにしても重要だ。


「周りが海だし、イカたちに探索させて領地を広げようぜ」

「それなら、オクトちゃんに飛んでもらってマップを埋めましょうか。それからイカちゃんたちに石像を設置してもらいましょう」

 領地が増えれば回収できるマナも多くなる。ゲームでは基本的に所有者のいない土地なら専用のオブジェクトを設置することで自分の領地にできた。ちなみに、『アウトサイダー』のオブジェクトはタコを模した石像にしている。

 無論、石像を破壊されれば領地では無くなってしまう。しかし、周囲は海なので海底に沈めてしまえば当面は大丈夫だろう。


「ええと、単に移動すればこの地図が埋まるんですか?」

「そうそう、この縮尺で全部が埋まるくらいお願いね。あ、でも人には見られないように気を付けて」

 妖精は飛べるし、魔法で飛行できる人員もいるのだが、オクタヴィアの飛行訓練も兼ねて彼女に頼むことにした。彼女自身も、何もせずに拠点にいるのも申し訳ないと思っていたのでちょうど良い。


 それから、日常業務以外にもレインと妖精たちは今後の計画策定、アイリスと人狼たちは修練をすることを決めて、各自の作業に入ることとなった。



 それからしばらく、タコはそれなりに忙しい日々を送っていた。

 

 まず、レインが島の中に農場を作りたいと提案してきたのが始まりだ。

 薬草を育てればポーションを作れるし、食料があって困ることは無いというのが理由である。


 タコとしてもその考えに異論は無いので同意すると、大規模開墾が始まった。

 まず、『ドルイド』のクラスを持ち、自然操作が得意なタコが土地を平らにならしていく。そこにタコが水源を作って水路を整備すると、タコが作業や出荷などに必要な道路を整備した。

 もちろん、細かい部分はイカたちにも手伝ってもらったが。


 その後は農業関係のスキルを所有している妖精が中心となって野菜や果物を植えていく。これらのスキルやギルド拠点からのエネルギー供給により、たいていの作物は一日で採取が可能となる。

 さらに、収穫物から種を取得することも可能であるため、それを植えればまた同じ流れで収穫することができる。

 ある程度の流れが出来上がれば、後はゴーレムにより自動で作業が行われるだろう。


「でもさ、なんでこんなに花畑の範囲が大きいの?」

「そりゃ、ハチミツの為に決まってるでしょ」

 タコの疑問にレインは何食わぬ顔で回答する。ここは特に日当たりもよく、土や水はけなどにも留意して作られた畑だ。そこを様々な花が鮮やかに彩っている。

 レインも妖精たちも楽しそうに花の手入れをしては、あれこれハチミツの味を確かめていた。


 若干の職権乱用を感じないではないが、積極的に自分を出してもらいたいと思っていたのはタコなので指摘がしづらい。

 そもそも、この壮大な花畑を見れば、「撤去しろ」と言える者はまずいないだろう。心地よい太陽の光の中、色とりどりの花の中を妖精が飛び交っている様は、なんとも幻想的な光景だ。


 そんなわけでタコの黙認の元、拠点周りが農地という名の庭園に様変わりしていると、今度はアイリスの方が別の提案を挙げてきた。なんでも、訓練場を作って欲しいという。


 最初はその辺で修練をしていたのだが、安全性や目立つことを考えれば拠点の近くで行うのは好ましくないという事で、別の島に建設するべきと結論を出したそうだ。

 ちょうど良く周囲を探索していたオクタヴィアが火山を有する巨大な島を見つけていたので、そこを加工して訓練場とすることになった。


 で、大規模な開発となればタコの出番である。

 まず、本体の訓練場だが、エネルギー源として溶岩を使いたいというレインの意見もあり、山の中にドームを作るように地面を掘り進んでいった。

 その後は通路や休憩所なども作っていったのだが、運よく温泉を掘り当ててしまう。


 そうなると、ついでだからとお風呂やサウナなどの施設をどんどん追加していき、最終的には温泉旅館のようなものが完成してしまった。

 拠点とは別の島であるが、転移装置も設置したのでいつでもここに来れるようにしている。そして、温泉に入れるとなればほとんど全員が毎日通うようになっていた。


「しかし、意外と訓練場の利用者も多いのね。オクトちゃんなんて常連じゃない?」

「ああ、こいつから鍛えてくれって頼まれてな。意外と筋がいいぞ」

「知識の無い私にできることは鍛えることだけです! ならば、少しでも皆様の力になれるように頑張ります!」

 3人で温泉につかりながら近況報告を行う。なんだかオクタヴィアの方向性に疑問を感じながらも、タコは本物の温泉を堪能していた。それに、お楽しみはそれだけではない。


(ゲームでは下着が限界だったけど、こうしてみると、やっぱりアイリスのプロポーションは完璧ねぇ)

 手前味噌になるが、タコは自分の作り上げたキャラを眺めて眼福を得ていた。特にアイリスは恥ずかしいという考えが無いようで、その魅力的な体を隠そうともしない。


(オクトちゃんも、最初に見た時は分からなかったけど、結構なボインちゃんねぇ)

 今では完全に健康体となったオクタヴィアの体形は、かなりグラマラスだ。アイリスと違い、恥ずかしそうにタオルで隠しているのもポイントが高い。


 タコ自身はといえば、最初にエルフでキャラを作ったため、「弓を引くとき邪魔よね」と思い完全にペタン子にしてしまった。種族を人魚に変更した時もそのままである。

 今となっては遅いことは分かっているが、自分の胸の前で手をスカスカとさせながら後悔していた。


「……タコ? おい、タコ!?」

「ふえっ!?」

 やましいことを考えている最中に話を振られ、タコは変な声が出てしまう。何の話かと思ったら、皆が好きなことやってる中、タコは何をしたいのかという事だった。


「タコさんはもちろん女の子を悪堕ちさせることよ! ちゃんとマイカちゃんとアオリちゃんに任務を与えているから、それの結果次第ね!」

「そういえば、先日お二人から大陸の方向を教えて欲しいと言われましたね。その関係ですか?」

「だいたいそんな感じね。本格的に始まったら忙しくなると思うから、二人ともよろしくね!」


 タコ自身も目的を忘れていたわけではない。きちんと準備を進めておいたのだ。

 まだ、この世界の知識が乏しいため安全策を重視しており、手間も時間もかかる見込みであるが、そのための人員はそろっている。

 そして、数日後にはマイカとアオリがタコの望んでいた情報を仕入れてきた。



「ボス、報告です。周辺地域の詳細な地図が完成しました。そして、この地点がご希望に沿うかと思います」

 タコは自室でマイカたちの報告を受けていた。

 地図を見ると、周辺には大小複数の島があるがすべてが無人島だ。恐らく、オクタヴィアがいた大陸からは結構な距離があるため、入植されていないのだろう。

 それに、海には魔獣と呼ばれる、いわゆるモンスター的な魚も生息しているようだ。


 そして、目の前の地図には大陸の沿岸部分までが表示されている。オクタヴィアやイカに探索してもらった結果だ。

 その中でマーキングされている一点、そこにあるのは廃村である。


「恐らく、何らかの理由で自発的に村民が出て行ったようです。家にはほとんど外傷がありませんが、家具などはほとんど無くなっていました」

 他の話とも統合すればマイカの予想通りだろう。タコもそれらの報告にご満悦でうんうんと頷く。


「素晴らしいわ! よく頑張ってくれたわね!」

「ボスー、頑張ったご褒美くださーい」

 なぜが報告していたマイカより先だってアオリがタコの横に近づく。タコも特に気にしないでその頭をよしよしと撫で始めた。


「とっても助かったわ、ありがとうね!」

「えへへー、ボスのお役に立てて嬉しいです!」

 実は、アオリはタコに撫でられながらも、ニヤニヤとした視線をマイカの方に送っていた。マイカがこんな時に強く出れないことを察しているのだ。

 そのうち、こらえきれなくなったマイカもおずおずとタコに近づいて頭を差し出す。


「その、ボス。わ、私もご褒美を……」

「もちろんよ! マイカちゃんもお疲れ様」

「はわわ……」

 タコはそのまま二人を抱きしめて頭を撫でる。マイカもそれに対し目を閉じてタコの触手を堪能していた。

 落ち着いたところで話の続きに戻る。


「それでは、後はホタルたちにこの村を開発させますね」

「ええ、それから、レインとアイリスからも人を借りて行ってね」

 タコの目的は、大陸への移動手段と拠点を整備することだ。悪堕ちをさせるべき女の子を見つけるために、いつも伏魔殿から出発するのは効率が悪い。

 それに、何らかの理由で人間に追われる立場となった場合、伏魔殿の場所がばれる可能性を減らしたいという考えもある。


 作業の指示はしてあるので、後はゆっくりと拠点が完成するのを待つだけ。そう思ってタコは、またしばらく伏魔殿周りの整備に精を出すのだった。



「転移門の設置はオッケーなのー。次はお手伝いさん呼ぶのー」

「うん、レイン様からマツリカちゃん、アイリス様からクロちゃんを連れてくるのー」

「じゃ、ナツメはレイン様の所ね、私はアイリス様の所に行ってくるのー」


 タコたちが見つけた廃村で、命令を受けたちびイカトリオが作業を始めようとしている。

 まず、設置した転移装置を通って、ダンゴ、ナツメの二人が伏魔殿に戻って行く。しばらく待っていれば、とんがり帽子をかぶった妖精と、黒いロングヘアーの人狼を連れて二人が戻ってきた。


「マツリカちゃん、クロちゃん、よろしくお願いしますなのー」

「はいよ。資材とゴーレムはもうすぐ来るから、力仕事はそいつらに任せてね」

「私は周辺の安全を確認してきます。何かあったらすぐに呼んでください」

 それだけ言うとクロは一瞬でその姿を消す。彼女は見た目だけではなく能力も忍者そのものであるため、気づかれずに探索や防衛をするには適任なのだ。

 そして、また転移装置が発動する。ゴーレムが届いたのかと思いきや、出てきたのはオクタヴィアだった。


「あれ? オクト様?」

「力仕事と聞きましたので、お手伝いに来ました! ……あ、ひょっとしてお邪魔でしたか?」

 気合いを入れてきたオクタヴィアだったが、周りがキョトンとしているのに気づき、空回りしてるのかと思ってしまった。しかし、すぐさま妖精のマツリカが首に抱き着いてくる。


「そんなことないよ! よろしく!」

「おっとっと。はい、こちらこそ! 何でも言ってください!」

「それじゃ、ダンゴやナツメと一緒にお片づけをお願いするのー」

 一応、この場の責任者はホタルという事になっている。

 まず、使えそうな家とそうでない家の選別、残った家の補強、タコたちの仮住居の作成などなど、やることはいくらでもある。人手は多いに越したことはない。


「でも、オクト様。なんでそんなローブ来てるの?」

「この服はちょっと露出が多いので。それに、タコ様にも着ていくように言われました」

「……ああ、なるほどね」

 なんとなくタコの意図を理解したマツリカは、それ以上は言わずに作業に戻っていった。

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