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10話 タコさん、案内する

 食堂に着くと、タコはアレサンドラたちを入り口に数台ある機械の方に案内する。機械にはディスプレイが付いており、軽く触れると画面に食堂のメニューが表示された。

 初めて見る機械に戸惑っている一同に、オクタヴィアが操作方法を教えている。


 メニューは種類も多く、馴染みが無いものも多いため選ぶのも一苦労のようだ。

 それに、材料はどうなっているのか、魔力は何処から供給しているのかといった疑問も尽きない。

 そもそも、料理といった複雑なことを、わざわざマジックアイテムに行わせるという贅沢さにアレサンドラたちも呆れてしまう。

 しかも、いつでも何でも食べ放題と言われてしまっては、開いた口がふさがらなかった。


「あのー、オクタヴィアさん?」

「シンミアさん、私のことはオクトでいいですよ」

「いや、いきなり略称ってのも」

「オクトで、いいですよ」

 機械を操作しながら恐る恐るオクタヴィアに質問したシンミアだが、その圧力と笑顔にひるんでしまう。何とか気を持ち直すと改めて聞いてみた。


「あ、はい。で、オクトさん。このホールケーキ? マジでこれも食べ放題なんすか?」

「ええ、ここに表示されるものはどれでも大丈夫ですよ」

 そういうオクタヴィアの手には、分厚いステーキの二段重ねが乗せられた皿があった。思わずシンミアがポカーンとしていると、その理由に気が付いたオクタヴィアは顔をまっ赤にして言い訳する。


「いや、これは、その、ドラゴニュートって肉好きだし、すぐにお腹が空くんですよ! それにほら、アイリス様なんて骨付き肉を何本も食べてますよ!」

 その言葉通り、すでにアイリスはテーブルで骨付き肉にかぶりついていた。さらに、その横には次の肉が何本もスタンバイされている。

 周りの者がその様子を気にしていないことからも、これだけのものを食べるのが日常であることを表していた。


「ほら、あれぐらい普通なんです! それよりも、皆さん好きなものを選んでください!」

 そう言われて一同も食事を選ぶ。結局はサンドイッチとサラダ、スープといった食べ慣れている物にすることになった。

 ちなみに、ちびイカトリオはお子様ランチ。タコは焼き鮭定食を選んでいる。


「それじゃ、いっただっきまーす」

 タコたちが声を上げている横で、アレサンドラたちは静かに祈りを捧げている。お互いに尊重する文化もあるのか、タコたちのことは特には気にしていないようだ。

 ちびイカトリオは子供らしい元気さでパクパクと口を動かしているが、口の周りにはケチャップなどが飛び散っている。それを、時々オクタヴィアが注意しながら拭いてあげていた。


 そして、シンミアたちもスープを一口飲めば「うまっ!」などの声が漏れてしまう。アレサンドラやヴァレンティーナもその美味しさに驚きを隠せていない。恐らく、素材も調理法も最上級のものと言えるだろう。

 実際のところ、この食堂には一度作ったことのある料理を自動で作成する機械を設置している。料理はコッククラスをマスターしたアイリスが作ったので、これだけ良いものがそろっているのだ。


「どう? サンドラちゃん。美味しい?」

「ええ、とても美味しいです。しかし、この食材などはどうしているのですか?」

「ああ、これはうちの妖精さんが畑で育ててるのよ。ちょうどいいわ、この後でそこも見せてあげる」

 そう言うタコは、触手の腕で器用に箸を操りご飯を食べている。だが、よく見れば触手の動きと箸の動きが連動していない。

 ゲームでも無意識の魔法で念力を発生させているという設定だったので、その通りになっているようだ。


「しかし、この肉は? 牧場もあるのですか?」

「こっちは錬金術で合成してるの。野菜が結構余っちゃってるから、それを変換してね」

 タコがそこまで言うと、ガシャンと何かを落とした音が響く。みんなの注目がそちらに向くと、ヴォルペがスプーンを皿に落としたまま口をパクパクと動かしていた。


「あら? どうしたの?」

「れ、れれれ錬金術で肉を合成……ですか!? し、しかも野菜から!? これが合成品!?」

 彼女は信じられないといった感じでスープの中のベーコンをじろじろと見つめている。その反応にレインは興味津々といった感じで身を乗り出した。


「ふむ、こっちの錬金術とは違うのかしら? 私たちは賢者の石を通して物質を同等の価値の物に変換しているんだけど」

「けけけ、賢者の石!? 実在するんですか!? ……あ! ご、ごめんなさい、食事中でした。すすす、すみません」

「ふふふ、いいのよ。こっちもあなたたちの魔法とか精霊に興味があるから。後でじっくり教えてちょうだい」

 無作法に気が付いたヴォルペが顔を真っ赤にしてうつむく。だが、レインは異世界の技術を知るにはちょうどいい機会ができたと、むしろ嬉々として食事を再開した。


「あ、クロちゃんあっちあっち、ホタルちゃんたちあそこ!」

 皆の食事が終わりそうな頃、食堂の入り口から大きな声が聞こえてくる。そちらを見れば、マツリカを肩車したクロが入ってきていた。ホタルを見つけると足早にこちらの方に向かって来る。


「ホタル、そろそろ仕事の時間です。行きますよ」

「あ、そうだった。それじゃご馳走様でした。ボス、お姉ちゃんたちまたねー!」

「はーい、みんな気を付けてねー」

 ホタルたちは改めて村の再建に向かっていった。タコがひらひらと手を振って見送っている。


 食べ終えた食器が残されてたが、そこへ宙に浮かぶ球体がふよふよと近づいてきた。金属でできたロボット型のゴーレム、『タコハチ君』である。

 このタイプは魔法と機械のハイブリット式と言う設定で、ゴーレムの中でも複雑な作業が出来るタイプだが、水に弱く屋内を専門に動かしていた。


 アレサンドラがゴーレムに驚いていると、球体から8本の触手が伸びて食器を持ち上げる。すると、別のゴーレムが近づいてきてモノアイを彼女たちの方に向けた。


「コチラ、オ下ゲシテヨロシイデスカ?」

「しゃ、しゃべった!?」

「あ、タコハチ君、下げちゃっていいわよ。よろしく」

「カシコマリマシタ。デハ、オ茶ヲドウゾ、ソレデハゴユックリ」

 ゴーレムがお茶の入った湯飲みを置いていくと、タコはそれを「ずぞぞ」と音を立てながらすする。


 アレサンドラたちも、そろそろタコと伏魔殿の異常さを身に染みて感じていた。そして、これからもまだまだ感じることに恐々としながら、お茶に口を付ける。

 初めて飲む緑茶は少し苦かったが、その不安を和らげるような爽やかな味をしていた。



 食事を終えた一行は、タコとレインを先頭に伏魔殿から出て花畑の中を歩く。ちなみに、アイリスは「興味ない」と自分だけ訓練場の方に行ってしまった。


 しばらく歩くと風景が少しずつ変わりだし、野菜や果物と言った植物が栽培されているエリアにたどり着く。

 途中にある小高い丘に登ると、栽培エリアの全体を眺めることができた。はるか先まで広がる畑は大小に区画分けさせており、リンゴやミカンと言った樹木も育てられている。


 一行が雄大な景色に見とれていると、ちょうど二人の妖精が飛んでいるのが見えた。どうやら彼女たちが畑の世話をしているようだ。同時に小型のゴーレムが不釣り合いなほど大きなかごを背負って種まきや収穫を行っている。


「素晴らしい光景ですね。あら? あの区画は夏野菜ができているのに、向こうの区画は冬野菜を収穫している……? いったいどうやって……?」

「ああ、あれは区画ごとに季節設定を変えているのよ。大抵の植物を収穫できるように区分けしたからね!」

 ヴァレンティーナの疑問へなんともなさそうにタコが答える。

 実際にどうなっているか体験してもらおうと適当な区画に入ってもらうと、確かに夏の区画はギラギラとした日光と暑さが感じられた。だが、冬の区画に入れば冷たく乾いた空気が肌に刺さる。

 それにより一つの疑問は解消したが、またすぐに別の疑問が発生した。


「これは……ゴーレムが植えたそばから芽が出ている? 成長も促進させているのですか?」

「そうよ、あそこにいるローリエちゃんとリコリスちゃんの能力でね。ここの野菜は収穫まで1日位かしら」

 タコが説明していると月桂樹の冠をかぶった妖精、ローリエが一行に気付いたようだ。もう一人の妖精を呼びながら飛んでくる。


「ボスー、何か御用ですかー? リコリスちゃーん、お客様がお見えですよー」

「はいはい。あ、オクト様、新しい味の飴ちゃんやお菓子を作ったの、食べてちょうだい。ボスや皆さんもどうぞ!」

「ありがとうございます。今回も美味しそうですね」

 リコリスは肩にかけたバッグから大量のお菓子を取り出す。

 このバッグは大量のアイテムが収納できるようになっており、インベントリの使えないNPCたちには便利なアイテムだ。そして、リコリスはそのお菓子をオクタヴィアの手にぽんぽん置いていく。

 バーベキューの時もそうだったが、何でも美味しそうにぱくぱく食べる彼女は普段からこんな風に食べ物をもらうことが多い。


「しかしタコ様。なぜ、これほどの食料を生産しているのですか?」

 もらったお菓子を幸せそうに食べるオクタヴィアの横で、アレサンドラがもっともな疑問を投げかける。

 実際、現在の生産量は伏魔殿にいる者たちの消費量よりはるかに多い。すでに倉庫の食料をアイテム数で言えば、億の単位に達していた。


「いや、これはタコさんの案じゃなくて、レインの発案でね」

「リソースが貯められるなら、貯めておいた方がいいでしょ。さっき言ったように、錬金術で変換する元としても使うからね」

 ゲームにおいて、リソースの確保はどのギルドにも付きまとう問題だった。最悪はギルド拠点のエネルギーからアイテムの生成も出来るが効率は良くない。

 一般的なギルドでは畑での食料生産や家畜の放牧などを行うが、過激なギルドではドラゴンを養殖して肉や皮を集めるという手法もとっていた。


「もっともらしい事言ってるけど、この子ハチミツが欲しいだけよ。最近また花畑を増やしたでしょ」

「それは言わなくていい。あ、でも、この世界の花でとれるハチミツには興味があるわね。あなたたちも変わった花を知ってたら教えてちょうだい」

 ここで行っていることの規模から考えれば、冗談とも本気ともつかない二人の言葉に苦笑いしながら一同は来た道を戻る。

 ゴーレムは相変わらず忙しそうに野菜を運び、妖精たちは畑の収穫量や状態を確かめていた。


「きゃー!?」

 突然、甲高い悲鳴が響く。その発信源はレオーネだ。今まで無表情についてきた彼女だが、今は泣きそうな顔でヴォルペの後ろに隠れようとしている。

 どうしたのか察したヴォルペが彼女の視線の先を追うと、そこには手のひらサイズの蜘蛛が畑の中を歩いていた。


「うわっ、でっかい蜘蛛っすね。……ひょっとして、この方もアウトサイダーの一員ですか?」

「あ、その子は私のペットが……」

「キー!」

 タコが言い終わる前に、どこからともなく人間並みの大きさがある蜘蛛がタコに飛びついてきた。その正体はタコのペットであるアトラだ。

 アトラは様々な大きさの蜘蛛モンスターを眷属として生む能力を持っている。ゲームでは一定時間で消滅するのだが、異世界に来たせいか生んだ蜘蛛はいつまでも残り続けていた。

 そのため、今では島中に散開して見回りや害虫駆除などを行っている。


「こらこらアトラちゃん、お客さんの前なんだから。……て、あら?」

「……」

 レオーネは声を上げることも出来ず倒れてしまった。タコは魔法で覚醒させようとするが、この場にアトラがいる以上、意味がないだろうと思いとどまる。

 結局、ヴァレンティーナとシンミアが彼女を担いで先に部屋に戻ることになった。


「それでは我々はここで。お気を使わせてしまい申し訳ありません」

「こっちこそ悪かったわね。じゃぁ、サンドラちゃんとヴォルペちゃんは一緒に行きましょうか。ちょうど、錬金術や魔法の話もしたかったし」

「あ、ティ……」

 アレサンドラは思わずヴァレンティーナに「あなたは一緒にいて欲しい」と言いかける。だが、彼女に対して感じている引け目により、その言葉を飲み込んでしまった。


 そのままヴァレンティーナたちはゴーレムに案内されて部屋に戻ってしまう。タコたちはそれを見送ると、錬金術の設備がそろっている部屋へ向かって歩き出した。



 実際のところ、伏魔殿には錬金術専用の部屋は存在しない。『工作室』と言う名前の、様々な設備をごっちゃに詰め込んだ部屋があるだけだ。

 一応、レインや妖精たちは錬金術など、マジックアイテムやゴーレムを作るスキルを保有しているが、ガチの生産系キャラという訳ではないので超一級の物を作ることはできない。

 それに、タコは欲しいものを知り合いに頼んで調達することができたため、伏魔殿の施設もあまり突き詰める必要が無かった。


 しかし、この世界に来てからというものその様子は一変する。レインの指示の元、妖精たちによる大掛かりなリフォームが実行されたのだ。

 特に、消耗品を生産するだけだった錬金術関係の設備は、部屋のほとんどを埋め尽くすほど拡大された。

 その大半はあふれる野菜をほかのリソースに変換することに使われているが、一番性能の良い設備が行っているのは、もちろんハチミツの生産である。


「あ、皆さんようこそ。おっほ! あなたたちがこの世界の人間ですね。デュフフフ、どうですかこの設備は! すごいものでしょう! あ、この赤く光っているのが賢者の石ですね。フヒヒヒヒ、これで花から不要物を取り除いて純粋なハチミツを生産しているのです! いやぁ、昔はアイテムの変換だけしておりましたが、使い方を理解すればいろんなことが出来るんですねぇ! そうそう、聞いてくださいよ、ハチミツ以外を不純物として設定するのがどれだけ大変だったかと言うと……痛ー!」

 部屋に入った途端、ぐるぐる眼鏡をかけた妖精がまくし立ててきた。いきなりのことに戸惑っていたアレサンドラだが、今度はその妖精の頭にガントレットが落っこちてくる。


「落ち着きなさい、シナモン」

 勢いの乗ったガントレットがぶつかったその頭は、そのまま床にぶつかって派手な音を立てた。そして、シナモンと呼ばれた妖精はピクリとも動かなくなってしまう。

 アレサンドラが視線を上げれば、右手にだけ不釣り合いなほど大きなガントレットを付けた妖精がこちらを見ていた。


「お客様、失礼しました。改めまして私の名前はオレガノです、どうぞよろしく。ほら、シナモン。いつまでも寝てないで皆様をご案内しなさい」

「はい! それではこちらにどうぞ!」

 何事も無かったかのようにシナモンが起き上がると、オレガノと一緒にテーブルと椅子を奥から引っ張り出してくる。

 困惑しながらその様子を見守っているアレサンドラの横で、ヴォルペは目を輝かせながら周りの設備を見回していた。


 オクタヴィアも手伝いながら場所を整え全員が着席する。飲み物も用意されて、やっと本題に入ることになった。


「ま、この設備のことはシナモンが説明したからいいわよね。細かいことは後で教えてあげる。それよりも、あなたたちの魔法や精霊のことを教えてもらえないかしら」

 レインはさっそく自分の興味のことから話を始めようとする。ヴォルペはまだ色々と説明を聞きたいようだったが、彼女たちに逆らうことはできないと好奇心を抑えていた。

 まずはアレサンドラも飲み物で口を湿らせる。そして、いまだに混乱している頭を何とか整理すると、ゆっくりと説明を始めた。

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