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その表情が見たくて。

 その感情を説明できるだけの理由なんてなかった。

 教室で初めて貴女を見た時からお話をしてみたい、そう思っていたのに、いつも一人でいる貴女に声を掛ける機会がなくて、ずっと話しかけられないでいた。

 だから文化祭は最高の切っ掛けになると思って、意を決して話しかけたんだ。

 段ボールを持ってくるなんて私一人でもできる仕事だったけれど、この期を逃したら次はいつ声を掛けられるのかわからないから、勇気をかき集めるんだ。

 教室の隅に座っている貴女の正面に立って、震える呼吸を落ち着けて声を振り絞る。

「手が空いていたら手伝って貰えないかな?」

 上手く話しかけられていただろうか、と不安に思っていると下を向いていた彼女の顔が持ち上がり、視線が私と交わった。

「……はい」

 今まで話したこともないのに、突然声を掛けたから訝しんでいるようにも見えたけれど、初めて彼女と話をすることが出来た。

 そして、この小さな出来事が彼女に話しかける勇気と切っ掛けになって、文化祭を一緒に回る為の始まりになったんだ。


 †


 グラウンドの中央にはキャンプファイヤーの炎が躍っている。立ち上る白煙はやがて夜空と交じり消え去ってしまう。

 そんな薄暗いグラウンドの隅に座り、彼女に訊ねる。

「どう? 楽しかった?」

 彼女と仲良くなりたくて、この文化祭期間の間はずっと一緒にいたけれど、不快にさせていなかっただろうか? 私が一方的に楽しんでいただけではないだろうか?

 胸中によぎるのは自身の我儘に付き合わせただけではないのか、そんな不安だった。

「うん、楽しかったよ」

 炎の暗い照明では、彼女の表情はよく見えないけれど、口元が微かに綻んだように見えた。

「ならよかった」

 胸の奥でわだかまっていた感情が流され、自然と口元が緩んでしまう。

「でもなんで? どうしてここまでしてくれたの?」

 投げかけられた疑問は至極まっとうなものだ。そして、その答えは声を掛けようと決心したあの時から変わっていない。

「なんでって単純なことよ。貴女とお友達になりたかったの」

 言葉にしてしまえばそんな簡単なことなのに、行動にするにはとても勇気が必要だった。

「え、私と?」

 返ってきた声は想定外のことを言われて困惑しているように思えた。

「そうだよ。入学したばかりのあの頃から、貴女に声を掛けたいと思っていたのだけれど、踏ん切りがつかなかったの。だから今回の文化祭を理由に仲良くなろうって頑張ったの」

 今でもなぜそう思ったのかはよくわからないけれど、彼女と仲良くなりたいという気持ちは嘘偽りではない。

「でもなんで私なの?」

「なんでなのかは私自身もよくわからないけれど、貴女を初めて会ったあの日から、仲良くなりたい、一緒に傍に寄り添っていたいって思っていたの」

 こんなただの一方通行な感情で納得はしてもらいないだろうけれど、それでもこれが私の純粋な気持ちなんだ。

 この気持ちをしっかりと伝えよう。そう決意して立ち上がり、彼女に向き合う。

「だから、友達になってくれませんか?」

 緊張で震えてしまいそうな声を必死にこらえて、彼女に手を差し向ける。

 小刻みに震えてしまう右手、高鳴る心臓の鼓動がうるさくて、周りの喧騒がかき消されてしまう。

「こちらこそ」

 騒がしい胸の音を打ち消すように、彼女の短い言葉が私の胸を打ち、右手には温もりが伝わる。

 そして、立ち上がった彼女の顔を炎の明かりが照らし出した。

 微笑みを浮かべた彼女、その表情が見たくて友達になったんだ。

 右手で触れているこの温もりが愛おしくて、両手で包み彼女を見つめる。

 先ほど同様に胸は高鳴っているのに、うるさくはなくむしろ心地よかった。

「そうだ、今度はいつも私と一緒にいる友達も紹介するね」

 彼女と仲良くなって紹介する、そう約束をして文化祭を一緒に回るのを断ったけれど、良い報告ができそうだ。

 これから先、彼女とどんな思い出を紡いでいけるのか、そんなことを想像するだけでも楽しくて仕方がない。

 まだ見たことのない、彼女の別の表情が見たくてわくわくしてしまう。

 これから先も、一緒に居たいな。

 いつまでも、微笑むその表情が見たくて、私は貴女の傍にいます。


 どうも337(みみな)です。

 この度は『Your time,My time./その表情が見たくて。』を読んで頂きありがとうございます。

 本小説は冬童話2020に向けて書いたものとなっております。

 去年のあとがきで冬童話に参加するのが八回目と書いていたので、今年は九回目になるそうです。去年と変わらない感想ですが、自分でもよく続けているなぁ、と思います。

 去年のは暗い感じだったので、今年はほのぼのとした感じの物を書いてみました。


 最後に、過去の冬童話祭で投稿した『黄色い百合の造花を貴女に』『スノードロップに託した想いは――』『うそつき』『僕が願った勇者の夢は――』『生きたがりの僕。』『死にたがりの僕が見つけた生きる理由。』『ハルジオン』『見えるから。』もよかったらご覧ください。


 では、ありがとうございました。


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