恋愛フラグは急に訪れるんだっけか?
その日、俺は簡単な処理を手伝うと書類をユーリちゃんの居る営業事務の席に持って行く。
「すいませーん」
「あ、黒江くん。山野さんの手伝いですか?」
「あぁ、そうなんだけど、備品関係の申請内容このまま渡せばいいのかな?」
「ちょっと霧島さんにきいてみますね!」
俺はユーリちゃんと霧島さんの席にむかう。
「あら、新人ふたり? 早速備品を任されたのね? いいわ、そこにおいておいて」
霧島さんはあっさり言う。
「あ、そうね。塔野さん折角だから備品の処理を教えておくわ。黒江くんは戻っていいわよ?」
「あ、はい。分かりました」
ユーリちゃんも、早速色々教わっているみたいだな。
その日は、雑務と空いた時間に資料を読み込む型で1日を終えた。新人だからだろう、俺とユーリちゃんは定時が来ると終了を告げられた。
店を出ると、外は日が沈み、帰る人達でそれなりにあふれている。
「あー、今日は疲れたなー」
ふと漏らした俺にユーリちゃんが反応した。
「ふふっ、黒江くんもそんな事言うんですね」
「えー? なんで?」
「なんか新人研修のイメージだと、策略家見たいでしたよ?」
ユーリちゃん、そんな事思ってたのか……。
「いやー、ただのゲーマーだよ?」
「それ、いつも言ってますよね?」
そういうと、ユーリちゃんは微笑んだ。
やっぱりこの子は可愛いな……学生時代とかやっぱりモテたりしたのだろうか?
「そういえば、黒江くんは夜ご飯どうしてるんですか?」
「適当に食べてるけど……」
「1人暮らしなんですか?」
「そうそう、学生の時から住んでるボロアパートのままだからね。来月から生活費自腹なんだよねぇ……塔野さんは?」
「私はこないだ引越しして1人暮らしになりました」
「そう……なんだ?」
これってなにかご飯とか誘っていい流れなのか? いや、でも自炊かもしれないし……。
「あのさぁ、予定無かったらでいいんだけど、飯でも行来ませんか?」
俺は流れに任せて口にした。
「いい……ですよ?」
ユーリちゃんは軽く下を向くと恥ずかしそうにそう言った。
「あ……塔野さん、何か食べたいものあります?」
俺は少し緊張して、折角気楽に話していたのに畏まってしまった。
「私はなんでも大丈夫なので、黒江くんのおススメに連れて行って下さい!」
ユーリちゃんは少し明るく微笑むと駅に向かう俺にそう言った。
とはいえ、ゲーマーの俺はお洒落なご飯屋さんなんて知らないし、ここは新宿。俺も仕事で来るまで数回来たか来てないかのレベルだ。
「おススメっすか……」
「あ、黒江くんも新宿あまり来た事ないですか?」
「あ、うん……正直職場になるまでほとんど……ね?」
「……ごめんなさい……」
変な気を使わせてしまったか?
だが、こういうときのグーグル先生だ。俺はスマホで即座に検索してみる事にした。
「ちょっと調べてみるよ!」
「あ、そうですね!」
"お洒落なご飯 新宿"でいいのか?
なかなかハードルの高そうな店ばかりがでるな……こんな時、女の子に慣れている奴はどんなチョイスをするのだろうか?
えーと、"女の子の好きな食べ物"っと、パスタ、フレンチ、パンケーキ……。
「あのー、黒江くん? 安くて適当な所でいいですよ?」
「う、うん。じゃあここにしよう!」
「はい!」
どんなレイドボスより緊張するな……。
俺はグルメサイトに出てきたイタリア料理のお店を選択し、地図を表示し歩き出した。
「黒江くんはあんまり誘ったりしなさそうなので少し驚きました」
「まぁ、ゲーム内なら良く誘っていたんだけど普段はあんまりさそわないかなぁ」
「やっぱりそうなんですね!」
「慣れてない感じでてるよね……?」
「でも、いいと思いますよ?」
「そう? まぁ、初めての勤務をした仲間だからねー。 あ、ここ右かな?」
「でも、そうやって気遣ってくれる優しい人だとイメージが変わりました」
「そう? ってどんなイメージだったのさ?」
「それはもう……」
「ここだね! ってここでいい……?」
お洒落な木造りの綺麗なお店が目の前に立ちふさがった。
「ステキなお店ですね!」
「あぁ、ちょっと入るのに勇気がいるな……」
「わたしについてきて下さい!」
その瞬間、ユーリちゃんは俺の手を引きお店にすんなりと入る。ちょ、ちょっと手……手ぇぇえ!
席に着くと見た目通りの少し暗いお洒落なパスタ屋さん。フォーク、ナイフ、スプーン。
暗殺者が居たらとりあえずフォークとナイフで二人まではなんとか……
「黒江くんなににします? って何かありました?」
「いや、暗殺者がいたらどうしようかと」
「ふふ、緊張してます?」
「あ、いや……うん」
「わたしは今日のおススメにしよっかな」
「じゃあおれも!」
はっきり言って引っ張る側の筈だったのだが、ユーリちゃんに引っ張ってもらっている。ここがインドア派の限界か……。
少し待っていると黒と白でコーディネートされたイケメンのウェイターさんが声をかけてくる。俺は勿論臨戦体勢に入る。
「本日は誠にありがとうございます」
注文はスマートに、本日のオススメ2つ。
選択項目を聞かれたら俺は肉、ユーリちゃんに自然にどうするか聞く……よし。
「お先に飲み物はいかがいたしますか?」
何!ドリンクだと!?
「えっと……コー」
「わたしはカシスオレンジでおねがいします!」
「畏まりました、カシスオレンジですね」
カシスって……酒だよな? 何? ユーリちゃん飲むの?? そ、それなら
「ビールで!」
「ビールですね、グラスでよろしいですか?」
「はい!」
「そうしましたら、カシスオレンジ1つ、ビール1つ。ご注文はおきまりですか?」
「はい! おススメ2つで!」
「本日のオススメ2つですね、メインのお料理の方が牛肉の…」
「牛肉! 肉で! ユーリちゃんは?」
「え!? わ、わたしも牛肉で!」
「はい、本日のオススメの牛肉のフィレステーキ2つで承りますね」
ふぅ……なんとか乗り切ったぜ……。
息を整えてユーリちゃんをみると少し下を向き顔を赤くしているのが見えた。
「ご、ごめん……ちょっと慣れてなくて……」
ユーリちゃんは首を振る。
「勢いで、牛肉にしちゃったかな?」
もう一度首を振るとユーリちゃんは小さな声で言った。
「ま、また名前で……」
その瞬間俺は勢いで"ユーリちゃん"と言っていた事に気付いた。
「ごめん……」
「わたしの方こそごめんなさい。まだあんまり男の人に名前で呼ばれるの慣れてなくて……黒江くんなら別にいいです……」
照れるユーリちゃんは凄く可愛いかった。
柔らかそうな髪に、ツヤのある唇。
可愛いとは思っていたけれど、俺の中でのランクがAランクからSランクに昇格するのが分かった。
こんな子が彼女だったらなぁ……。
それから俺は今日の仕事の話だったり、研修の時の話や同期が今日どうだったんだろうとかを話し少し盛り上がると、夕食を終えて店を後にした。
「黒江くん、今日はありがとうございます」
「こちらこそ、ご飯代本当にいいの?」
「はい、同期なので! 歩合沢山出たら奢って下さい!」
「了解! また行こう」
「あ……黒江くん?」
「帰る駅、同じだよね?」
「同じですけど……」
「どうしたの?」
「よかったらですけど、LINE交換しませんか?」
「えっと、LINE? する!」
まじで?
ユーリちゃん、もしかして……。
いや、この場合俺が言うべきだったのを悔やむべきか?
駅に着くとLINEを交換する。
「黒江くん……また、誘って下さいね」
「うん、誘うよ!」
こうして俺は別れを告げ帰りの電車に乗った。
"今日はありがとうございました。明日からもお店頑張ろう!!"
ユーリちゃんから届いたLINEは、少し砕けた普段とは違った雰囲気でなんとなく仲良くなれた様な気がして嬉しくなった。
入社早々にフラグがたっているのか?
なぁ、教えてくれよ喜一!!
今回も読んでいただきありがとうございます!
恋愛回となりましたが、果たしてどうなる事やらといった具合に書いております!
仕事も恋も楽しく波乱万丈に攻略したい!
そんなストーリーに出来ればと思いますので引き続きよろしくお願いします!




