初めては緊張するんだっけか?
山野さんが契約者の対応に入ると、少しの間物件のリストを見る時間が空いた。
リストを見ると、間取りや築年数、立地や購入金額等、詳細のデータが入っている。
なかなか情報量が多い、こうして見ているとタワーマンションの最上階を中心に解体前の一等地、意外と最上階ではないものまである。
これだとプレミアをつけるのは難しいのではないか? いくらレジェンド級と言っても弱点が有るのはゲームと同じなのか。
俺は"インペリアルブレード"でのレジェンド級武器のやりとりを思い出す。
レジェンド級は大体が交渉だ。
たまに即決してくる富豪もいるが、それを見越して値段を付ける。
そして、提案する際に考える事は2つ。
装備自体の価値をいかに伝えるか? とそれがそのプレーヤーに合うか?
要はそいつのプレースタイルを見たりヒヤリングしたりする必要がある。
ただここは現実世界。
価値を伝えるのですら現物を見ておきたいところだが、何を見るか……。
レジェンド武器なら能力、ルックス。
俺はゲームで使っている装備メモツールを開いて気になる物件と知りたい能力を書き出した。
「黒江〜? それはなんだ?」
リストを見ながらスマホをいじる俺がきになったのか桜庭マスターが声をかけてきた。
「これですか? ツールですね、物件の能力で知りたい物を書き出そうと思いまして」
「なるほど……それなら明日にでも一度見て回るか?」
「いいんですか?」
「まぁ、一度見せておきたいと思っていたからなぁ。 他に何か知りたい事はあるか?」
「ユーザーのプレースタイルの知り方ですかね? それがないと勧め難いというか……」
「プレースタイル? ニーズとは違うのか?」
「少し違います、ニーズは本人が求めているものなのですが、その人がどう活用したいと思っているか? で使いやすい特性の武器を提案出来ると思います」
「なかなかややこしい事を言うなぁ……それなら事前のアンケートなんかはどうだ? 職業や会社、家族構成なんかは解るぞ?」
なるほど、アンケートか。
実際本人と戦ってみる事や、戦いを見る事は出来ない仕様だから仕方ないのか……。
「ありがとうございます、参考にさせていただきます!」
「なんかスッキリ出来た様で良かった。まぁ、分からない事があれば何でも聞いてくれ!」
職業が知れるのは大きいな。
剣、槍、魔職、弓職、ヒーラー、バフ職。
それだけでもかなり絞り込める。
あとはこれをどれだけ掴めるか……。
俺に実践できるだろうか??
「黒江、おまえちょっと山野の接客みてみるか?」
「えっ?」
「色々考えるより、見てみた方が早いだろうと思ってな! 接客したそうじゃないか?」
ちょっとまて、まだまだ調べ足りない事は色々あるけど……見てみるだけならまぁいいのか?
桜庭マスターに連れられると、ブースの後ろがマジックミラーになっていて微かに接客の様子が見える様になっている。
なるほど、こういう形で見れるのか……。
普段とは違うヒソヒソ声でマスターは言った。
「まあ、本当は川谷の方を見せたいんだがなぁ……」
この様子だと、川谷さんはこの店舗の稼ぎ頭なのだろう。だが山野さんも1年以上先輩。
学ぶ事は多いという事なのだろう。
そうこうしているうちに川谷さんはブースにはいる。
「いらっしゃいませ粕谷様。本日担当させていただきます川谷と申します」
「よろしくおねがいします」
歳は30代後半と言ったところか、ラフな格好ではあるが高そうな時計をつけている。やはり富裕層なのだろう。
「本日は、どの様な物件をお探しですか?」
「はい、マンションの購入を考えてまして……」
「なるほどなるほど、予算や立地などご希望はございますか?」
「そうですね……駅には近い方がいいのですがあまりうるさいのも微妙で」
「なるほどなるほど、駅近で、比較的静かな……」
一見スムーズにニーズを聞き出している様には見えるがなにか違和感を感じる。
マスターの様子からしても見守るといった感じなのか?
その後山野さんは物件を紹介し、カスタマイズができるなどの説明を行う。
やはり、山野さんは普通といった感じなのだろうか? まぁ、マスターの反応的にも基本の形を教えたいのだろう。
「はい、ゴミはこのマンションでしたら各階にダスターが付いてます。外に捨てに出る必要が無いのはメリットですね!」
「ああ、なるほど……あとは大きな違いとかは?」
「タワーマンションの場合ベランダが透明なガラスで出来ているか? は重要なポイントだと思います」
「ガラスですか?」
「ガラスというより透明な素材にはなるのですが、やっぱり折角夜景が綺麗なのに、室内でそれを感じれないのはもったいないですね、その辺りを考えても良いと思います」
この人、当たり前かもしれないが、特徴や特性を掴んで質問に返している。
良物件とはそういう所がレジェンドスキルになるわけか……。
山野さんはこうして2つの物件の内覧アポをとり接客をおえた。
最初は心を開くまで話しつづけ、興味を持った所で商品を的確に説明し次に繋げる。
最初の違和感は引き出す為の布石だったのか。
「まぁ、こういうやり方が山野の接客だな。黒江も勉強になっただろう?」
「はい、少し必要なものがみえました」
「なら、良かったな」
こうしてマスターはアポの処理をする山野さんに話しかけに行くのが見えた。
読んでいただきありがとうございます!
まだまだ始まったばかりですがよろしくお願いします!




