出来る男は大男なんだっけか?
「清隆〜、おまえ明日からお店入るんだっけか?」
「そうなんだよ……」
「どうした? あまり気がのらないんだっけか?」
「うーん、まぁユーリちゃんと同じ勤務先になれたのは嬉しいけど、今日の視察でな……」
「らしくないなぁ、まぁ頑張れよ」
喜一はそう励ましてくれたものの、あの環境で俺は発揮出来るとは思えなかった。
完璧なる統率の取れた店舗。
ギルドで言えばカリスママスターがいる様なもんだろう。流れに乗れればいい方なんじゃないだろうか?
♦︎
次の日、俺は"アトモス新宿東店"今日から働く職場に着いた。1階のワンフロアを作りこんだ銀座店とは違い、ビルの2階に半分くらいの広さの店舗を構えている。
ユーリちゃんは来ているだろうか?
俺は半開きのシャッターから中に入る。
濃いめの木の家具で統一された店構えは銀座店と雰囲気は変わらなかった。
店の奥から物音が聞こえ、俺は慌てて挨拶をした。
「おはようございます!」
初めての時は挨拶が肝心。その印象で今後の付き合い方が変わるのはゲーム内でももちろん同じ事だ。
すると、低くお腹からしっかりと発声された挨拶が帰って来たかと思うと大男が姿を現した。
「おはよう」
コイツはヤバい、俺は頭の中を戦闘のBGMに切り替え、戦闘体勢で返す。
「おはようございます! 今日から配属されました黒江清隆と申します!」
1m90cmはあろうかという巨体、大胸筋でスーツが弾けそうになっている。
「あぁ、君が黒江くんか、私はこの新宿東店の店長の桜庭です。まだわからない事だらけだろうが、仲良くやっていこうな!」
プロレスラーじゃ無くても強そうな桜庭マスター。このマスターは絶対ハイ火力脳筋に違いない……。
俺の中で店舗の気温が2度上がった。
「おはようございます!」
ユーリちゃん!
「おはよう!おっ? もう一人の子かな? 可愛らしい感じじゃないか!」
桜庭マスターの声が響いた。
すると、ユーリちゃんの後ろから細身のスレンダーの女性が顔を出すと
「店長、早速セクハラですか?」
と冷たい声を放った。
「霧島ちゃん、僕は可愛らしいって言っただけだよ〜? 厳しいなぁ……」
霧島さんは桜庭マスターを無視し、
「営業事務の霧島です。事務処理関連でわからない事があれば聞いて下さい」
と無機質な声で言った。
炎属性と、氷属性か……。
それから、山野と川谷という営業スタッフがおり川谷さんは
今日は公休だということを聞いた。
ただ、俺は銀座店の雰囲気からは想像もしていない様な少ない人数でのアットホームな雰囲気に驚いた。
店舗によってここまで違うのか……。
「よーしみんな! 朝礼始めるぞ!」
桜庭マスターが声を掛けると待合のスペースにならんだ。
「まぁ、まずは自己紹介からだな!」
「はい、えーっと黒江清隆です。本日より営業スタッフとして配属されました。よろしくお願いします」
パチパチパチパチ
「黒江〜、趣味とかないのか〜」
「えっと、趣味はゲームですかね……」
「ゲームかぁ、黒江はインドア派なんだなぁ! 次、塔野さん行ってみようか!」
「はい、塔野悠里です、営業事務スタッフとして配属されました。趣味は……映画と買い物です」
「なるほど、塔野さんはお出かけが好きなんだな! じゃあここからは普段の朝礼だ」
そういうと桜庭マスターは業務連絡を話してから最近のアプリの話をし始めた。
なんでまたアプリ?
そういうものなのかとなんとなく受け入れ朝礼をおえた。
朝礼の後は簡単に掃除を済ませると、俺とユーリちゃんはそれぞれの内容に別れる事となった。
「とりあえず流れは聞いていると思うから山野のヘルプからだな! 山野、教えてやってくれ!」
「はい、えーっとまずうちは不動産業になるわけだけど基本的には店舗では"販売"それもうちはちょっと特殊で富裕層向けに販売しているのはきいてますか?」
「あ、はい……」
「でね、"販売"は自社で持っている物件になるから仲介と違ってすぐ売れる物はあんまり数は無いんだ」
「なるほど……」
「ただ、新築にせよ中古にせようちの場合は競合の多い物件を抑えているから売れなくはない」
「それって、まず売れるいい場所を抑えてるって事ですか? そんなのどうやって?」
「まぁ、別の部署の交渉力なんかもあるんだけど……はっきり言うと金だね」
ここでのビジネスモデルは、いい場所を高額で買い取って売ると言う事なのか??
「でもそれじゃ……」
「そう、相場より高く売らないと利益が出ない事になるね……」
「それでは価格競争で勝てなくなるんじゃ?」
「そうだねぇ……普通は勝てないね」
山野さんと話していると、桜庭マスターが割り込む様に言った。
「面白い話しになっているじゃないか!ここからは僕が話そう!」
するとマスターは資料を見せ言った。
「そう、うちの商品は高い!」
「えっと、それって売るの相当難しくないですか?」
「普通に考えたらな? でもなぁ黒江、値段ってどうやって決まっていると思う?」
「それはもちろん類似した物件の相場じゃないんですか?」
「ならば、一番いい所を持っていたらどうなる?」
「あっ! そうか、競合がいないと言う事は一番高くても問題はない? と言う事ですか?」
「まぁ、そこまではそうだな。だがそれだけなら面積や立地である程度の相場は決まるぞ?」
「売れやすいなら、他社も普通にそれくらいお金だして買いますよね……」
桜庭マスターはニヤリと笑うと
「そう! ここからがうちの特徴なんだよ!」
俺はその話をまたゲームの世界に変換した。
うちのギルドでは、市場に出ているレジェンド級のアイテムのみ購入し転売すると言う感じで変換してっと……
要はうちに来れば欲しいレジェを持ってる可能性が高いから廃課金者はうちに声をかけて来る。それも廃課金者しか来ないから専念して接客できるメリットが一つ。
専念して接客できるから、特性やネーミングや強化などその人に合わせて調整してあげられるから無駄なコストがなくなり、それに対して対価を払うため通常より遥かに高くても廃課金者の承認欲求を満足させればジャブジャブ課金してくれて大きな利益になると言うわけか……。
「なかなかスムーズに理解してそうだね?」
「はい、なんとなくイメージは出来ました」
「そしたら今言った内容をイメージして、仕事の流れを掴んでみてくれ!」
「はい!」
このマスター、ただの脳筋ではなさそうだな……流石はマスタークラスと言ったところか……。
俺が攻略する為に必要なのは2つ!
数少ないレジェンド級アイテムの特性を理解する事と、それに付加価値を付ける方法の理解だ。
とりあえずこれを知っていれば後はこの武器を使い如何に交渉していくか……。
さて、やってみるか!
前作完結のため遅れてしまいました!
更新していきますのでブックマークなど良ければよろしくお願いします!




